2020.02.18 | コラム

新型コロナウイルスの流行に際し、感染症内科医から伝えたいこと(2020年2月18日更新)

現状でわかっていることのまとめ
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連日、中国武漢市で発生した新型コロナウイルスの報道が加熱しています。新型コロナウイルス感染症の患者数は日々増加し、関連する情報も目まぐるしくアップデートされています。そのため、感染症の専門家であっても情報のキャッチアップに苦労しています。一方で、巷にはデマやフェイクニュース、なかには情報の受取手に対して必要以上に不安や恐怖を煽るようなものもあり、医療者として少々辟易としています。ただ、情報が大量に飛び交い合っている中で"正しい情報”を取捨選択することは非専門家にとっては判断が難しいと感じています。

そこで、今回は感染症内科医として新型コロナウイルスの流行に際し皆さんに知っておいて欲しいことを中心にまとめました。
 


*2020年2月18日更新情報
検査対象の拡大に伴い「6. 新型コロナウイルスの検査は?」の内容を更新
厚生労働省からの「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」公表に伴い「7. 受診のポイントは?」の内容を更新
 

1. 新型コロナウイルスはどうやって感染するのか?

新型コロナウイルス感染症の主な感染経路は風邪インフルエンザウイルス感染症と同じく、主に飛沫感染接触感染と考えられています[1-3]。

 

【現状で考えられる感染経路】

  • 飛沫感染:咳やくしゃみをしたときに、口や鼻から飛び出す細かい水滴を介して感染するもの
  • 接触感染:皮膚や粘膜、病原体に汚染された環境を介して感染が成立するもの

 

1人の感染者が周囲に感染させる数を基本再生産数(R0:アールノート)といいますが、新型コロナウイルスでは2.2と報告されており[4]、おおむね季節性のインフルエンザウイルス感染症と同じレベルです。

 

2. 新型コロナウイルス感染症の予防は?

適切な手洗い(指の間や手首など石鹸を使ってしっかり洗う、水やせっけんがない場合はアルコール消毒)と咳エチケット(せきやくしゃみが出る人はマスクを着ける。マスクがない場合は、ハンカチやティッシュペーパーか、二の腕で押さえる)が大切です[2,5]。洗っていない手で自分の目、鼻、口を触るのは避けてください。

マスクが非常にクローズアップされているので「マスクで予防できるのでは?」と、思われた人もいるかと思います。マスクは「咳やくしゃみが出る人が周囲に広げない」という意味では大事ですが、マスクの「風邪インフルエンザに対する予防効果」は限定的で科学的根拠に乏しいのです[6]。そのため、マスクはあくまでもオプション扱いです。マスクを買いあさるなどパニックにならないようにして欲しいと思いますし、仮に使う場合でも正しく使用すべきです。鼻が出ていたら意味がないですし、汚れたマスクの表面を触ってしまったら手を洗うかアルコールで消毒すべきです。

 

3. 新型コロナウイルスだけに注目するのでなく、さらされている足元のリスクを冷静に評価する

冬場のシーズンにおいて日本国内で多いのは、インフルエンザウイルス感染症です[7]。今年の流行状況も、話題の新型コロナウイルスではなく圧倒的にインフルエンザ感染症が多いです。新型コロナウイルスへの感染対策は基本的にはインフルエンザウイルス感染症と同じです。しかし、新型コロナウイルスと違ってインフルエンザウイルスにはワクチンがありますので、未接種のかたは今からでもインフルエンザのワクチンの接種を検討すべきでしょう(詳しくは「感染症内科医が伝えたいインフルエンザワクチンのメリット」を一読ください)。

新型コロナウイルスのように特定の地域で発生した感染症であっても、飛行機などの交通網の発達でヒトの移動が瞬時に起こる現代社会では、短期間で世界に感染が拡大する可能性があります。今年度の夏に東京でオリンピック・パラリンピックが予定されていますが、多くの人が訪日することから海外からの感染症の流入といったリスクがあります。麻疹風疹おたふく風邪水痘百日咳といった感染症が流行する可能性を指摘されており[8]、これらワクチンで防げる疾患についてはきちんとワクチン接種を行って平時から準備しておく必要があります。

 

4. 新型コロナウイルス感染症の症状は?

新型コロナウイルスによる肺炎患者の症状は、発熱、せき、呼吸困難、筋肉痛/倦怠感が多かったと報告されており[9]、新型コロナウイルスに特徴的な症状というのはありません。そのため、症状だけでは他の呼吸器感染症との鑑別は困難です。潜伏期は2日から最大14日間で[2]、無症候性感染(感染は起こっているが症状がない状態)も報告されています[10]。重症の人だけでなく軽症・無症候の人も多くいることが推察されています。

 

5. 新型コロナウイルスの死亡率は?

死亡した人は、65歳以上の高齢者、糖尿病、高血圧、脳梗塞など基礎疾患がある患者が中心です[9]。死亡率は現時点では約2%と報告されていますが[11]、軽症で済んでいる人が相当数いることや、まだ回復していない人を考慮すると、今後この値は変わってくると推測されます。とはいえ、中国国外の死亡者はまだ報告がありませんし、エボラ出血熱のような高い致死率をもつウイルスではなさそうです。

 

6. 新型コロナウイルスの検査は?

2020年2月17日に検査対象基準が拡大されました。以下の感染が疑われる人に加えて"以下のいずれかに該当する人”にも検査が行えるようになりました[15]。定義や検査対象は今後も変更される可能性があります[13,14]。

 

【「感染が疑われる人」の定義(2020.2.17時点)】

1. 発熱または呼吸器症状(軽症でもよい、体温の値を問わない) + 新型コロナウイルス感染者と濃厚接触歴あり

2. 37.5℃以上の発熱 + 呼吸器症状 + 発症前14日以内に湖北省または浙江省への渡航歴あり

3. 37.5℃以上の発熱 + 呼吸器症状 + 発症前14日以内に湖北省または浙江省に滞在歴がある人との濃厚接触歴※1あり

4. 感染症の症状(発熱や呼吸器症状) + 集中治療が必要 + 直ちに原因を診断できず、新型コロナウイルス感染症との鑑別を要する

 

※1濃厚接触歴とは

  • 新型コロナウイルス感染症が疑われる人と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった人
  • 適切な感染防護なしに新型コロナウイルス感染症が疑われる患者を診察、看護もしくは介護していた人
  • 新型コロナウイルス感染症が疑われる人の気道分泌液または体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い人

 

【新しく検査対象となる人(2020.2.17時点)】

1. 37.5℃以上の発熱 + 呼吸器症状 + 入院の必要性のある肺炎が疑われる人(特に高齢者または基礎疾患がある人)

2. 症状や新型コロナウイルス感染症患者の接触歴の有無など医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う人

3. 新型コロナウイルス感染症以外の一般的な呼吸器感染症の病原体検査で陽性となった人で、治療への反応が乏しく症状が増悪した場合に、医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う人

 

最終的に、医師がインフルエンザなどの一般的な感染症の診断を行いつつ、保健所と相談して検査を行うこととなります。検査の結果はすぐにはわかりませんし、上記から外れる患者さんには基本的に検査は行いません。なお、仮に早期発見ができたとしても現時点では特異的な抗ウイルス薬がないため、治療は対症療法が中心になります。

 

7. 受診のポイントは?

風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、まず「帰国者・接触者相談センター(地域の保健所)」へ電話で連絡してください[5,14]。

また、高齢者、糖尿病/心不全/呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)の基礎疾患がある人、透析を受けている人、妊婦、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている人は、これらの状態が2日程度続く場合に、帰国者・接触者相談センターに相談してください。

帰国者・接触者相談センター」はすべての都道府県で設置されています[16]。帰国者・接触者相談センターにて受診が必要と判断されれば、「帰国者・接触者外来」のある医療機関の連絡先と、受診の手順を教えてもらえます[5]。そして、マスクを着用するなどの咳エチケットをしたうえで、指定された医療機関を受診することになります[5]。

定義に当てはまらない人は、近くの医療機関を受診することとなります。ただし、すでに 湖北省や浙江省から中国全土に感染が広がっているため、2週間以内に中国を出国して症状がある人は、少なくとも受診予定の施設に連絡してから受診するようにすべきでしょう。急な受診だと医療機関側も十分な感染対策が講じられない可能性があるからです。

日本国内での感染者が出たとはいえ、まだ蔓延している状況とは言えません(2020.2.17現在)。発熱と呼吸器症状があったとしても、渡航歴や曝露歴がなければ風邪インフルエンザなど、その他の原因である可能性のほうが高いと思います。新型コロナウイルス感染症に限ったことではありませんが、①38℃以上の発熱が数日続く、②水分・食事がとれない、などの症状は受診の一つの目安です。また、他に重い症状がある人も医療機関を受診してください。

 

なお、上記の受診が勧められる人以外で、軽症であれば家で安静にして様子をみるのも一つの手段です。冬場の医療機関はただでさえ多くの患者さんでごった返しますから、受診することでかえって他の感染症をもらってしまうリスクがあります。今回の新型コロナウイルス騒動で医療機関の負担は確実に大きくなっていますから、必要時に受診する心構えで、症状がいつもの風邪と同じ程度の人は各医療機関に対して配慮してもよいのではないかと思います。

 

8. 信じられる情報源は?

厚生労働省や国立感染症研究所など公的機関からの医療情報(アドレスにgo.jpがあるサイト。go.jpは、日本政府機関のためのドメインです)が信頼性が高いため優先して閲覧すると良いです。また、複数の専門家が内容を精査している情報も頼りになります。SNSや一部のウェブサイトでは残念ながら、デマ、フェイクニュースが溢れています。そのため、なるべく信頼性の高いサイトから情報を入手して、騙されないように注意が必要です。

 

参考文献

1. WHO.Infection prevention and control during health care when novel coronavirus (nCoV) infection is suspected Interim guidance January 2020.

2. CDC. 2019 Novel Coronavirus.

3. 日本環境感染学会.新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症への対応について

4. Li Q, Guan X, et al. Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus-Infected Pneumonia. N Engl J Med. 2020 Jan 29.

5. 厚生労働省.新型コロナウイルスに関するQ&A.

6. MacIntyre CR, Chughtai AA. Facemasks for the prevention of infection in healthcare and community settings. BMJ. 2015 Apr 9;350:h694.

7. 国立感染症研究所.インフルエンザ流行レベルマップ 第4週(1/31更新).

8. Nakamura S, Wada K, et al. Health risks and precautions for visitors to the Tokyo 2020 Olympic and Paralympic Games.Travel Med Infect Dis. 2018 Mar - Apr;22:3-7.

9. Huang C, Wang Y, Li X3, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. 2020 Jan 24. pii: S0140-6736(20)30183-5.

10. WHO.Novel Coronavirus(2019-nCoV)Situation Report-10.

11. Camilla R, et al. Transmission of 2019-nCoV Infection from an Asymptomatic Contact in Germany. N Engl J Med. 2020 Jan 30.

12. 国立感染症研究所.新型コロナウイルス感染症に対する対応と院内感染対策.

13. 厚生労働省. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 12 条第1項及び第14 条第2項に基づく届出の基準 等 について(一部改正)

14. 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に対応した医療体制について.

15. 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について.

16. 厚生労働省. 新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター.

 

(上記1-12:2020.2.3閲覧、13,14:2020.2.5閲覧、15,16:2020.2.18閲覧)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。