大腸ポリープの人が知っておきたいこと:腺腫とがんの違いや治療について
大腸ポリープがある人は、大腸がんとの関係や治療についてさまざまな悩みをもつとよく耳にします。ここでは大腸ポリープと大腸がんとの違いや治療を受ける際に知っておくとよいことをまとめました。
1. 大腸ポリープの疑問
大腸ポリープにはいくつか種類があります。そのうちのほとんどを占めるのが腺腫です。腺腫の一部は大腸がんに変化していくと考えられています。大腸がんになると聞くと不安になると思いますが、正しい知識を身につけるとその不安を和らげることができます。
大腸ポリープがあると言われた人は次のような内容を知っておくとよいでしょう。
- 大腸ポリープは生命を脅かす病気なのか?
がん (癌 )化することはある? - 大腸ポリープの大きさと
悪性度 は関係があるのか - 大腸ポリープは再発するのか
- 大腸ポリープは予防できるのか
以下ではそれぞれの疑問について説明していきます。
大腸ポリープは生命を脅かす病気なのか?がん(癌)化することはある?
大腸ポリープはがんではないのでそれ自体が生命を脅かすことはありません。しかし大腸ポリープの2/3を占める腺腫というタイプでは、将来的に大腸がんに変化する可能性があるため注意が必要です。
大腸腺腫が見つかった場合、その内部にがんを含んでいることがあります。がんを含む可能性がある大腸腺腫には次のような特徴があります。
- 大腸ポリープの直径が6mm以上の人
- 大腸ポリープの形がクレーター型の人
- 大腸ポリープの見た目ががんと似通っている人
この条件に当てはまる人はポリープががん化している可能性があるため、
内視鏡治療については「大腸ポリープの治療」、病理検査については「大腸ポリープの検査」で詳しく説明しているので参考にしてください。
大腸ポリープの大きさと悪性度は関係があるのか
大腸ポリープを切除して調べてみると、一部にがんが含まれていることがあります。ポリープが6mm以上の大きさになるとがんが含まれる確率が上がります。また、ポリープが大きくなればなるほどがんを含む確率が上がることもわかっています。一方で、小さなポリープはがんを含む確率がかなり低いと報告されているので、治療せずに
大腸ポリープは再発するのか
大腸ポリープは再発することがあります。ですので、大腸ポリープを切除した人は治療後も定期的に検査をすることが望ましいと考えられています。大腸ポリープ
ただし、一人ひとりのポリープの状態に合わせて検査の間隔や方法が決められるので、お医者さんとよく相談して定期検査を受けるようにしてください。
大腸ポリープは予防できるのか
大腸ポリープの原因の1つに肥満があります。
肥満を示す指数である
- 体重[kg]÷身長[m]÷身長[m]
BMIの正常値は18.5から24.9です。日本人の場合、25を超えると肥満と診断されます。BMIが25を超えると大腸ポリープができる人の割合が増加する、という研究報告があります。このため、減量は大腸ポリープの予防に有利に働く可能性があります。
セレコキシブ(セレコックス®)やアスピリンという薬は、大腸ポリープの発生を抑制するという研究報告があります。ただし薬を使って大腸ポリープを抑制することは推奨されてはいません。なぜなら薬の副作用を上回るメリット(大腸がんの抑制など)がないと考えられているからです。
2. 内視鏡治療(ポリペクトミー、EMR、ESD)で知っておきたいこと
大腸ポリープは主に内視鏡を使った方法で治療されます。内視鏡治療を受ける前に知っておくとよいことを以下で説明します。
治療には入院が必要か
施設によっては日帰りで治療を行う場合もありますが、多くの場合は入院したうえで治療が行われます。入院期間も治療法やその後の経過によって変わってきます。短い場合で1泊2日、長い場合では7泊8日程度になると思ってください。
内視鏡治療の費用はどのくらいか
内視鏡治療にかかる費用は、治療方法や入院期間などによって変わります。下の表はあくまでも目安です。
【内視鏡治療の費用(3割負担の場合)】
治療方法 | ポリペクトミー | EMR | ESD |
費用 | 約3万円 | 約5万円 | 約10万円 |
また、入院して個室を利用した場合、個室の利用料がかかります。利用料は施設によって異なります。より正確に費用を知りたい場合には、治療を受ける医療機関に問い合わせると確実です。
治療後の食事で気をつけること
治療後の食事は「食べすぎず、消化のよいものを選ぶ」ことを意識してください。
内視鏡治療の前には大腸の中を空っぽにするために食事を一時中止します。食事を再開したばかりの頃は、胃腸の動きが本調子にもどっていないこともあるので、食べ過ぎや消化の悪い食品は避けるようにしてください。
治療後の生活で気をつけること
治療後は、ポリープを切除した部分から出血しないように気を配る必要があります。長時間の入浴やお腹に力の入る動作、飲酒などは血圧が急に上がったりして出血の原因になりうるので避けるようにしてください。
治療後に運動はしていいのか
治療後数日は激しい運動は控えた方が無難です。
ポリープを切り取った後は医療用クリップなどを使って止血をしていますが、激しい運動を行うと血圧が上がり、再び出血することが考えられるからです。ウォーキングなど、息が上がらない程度の軽い運動は治療直後から行っても問題ありません。
ただ、いつまでも運動制限があるわけではなく、お医者さんから許可が出た後は治療の前と同じように運動しても問題はありません。
3. 大腸ポリープの手術で知っておきたいこと
大腸ポリープの手術後にはいくつか注意してほしい点があります。「食事」や「運動」、「腸閉塞に早く気づくためのポイント」について説明します。
手術の詳細は「大腸ポリープの手術」を参考にしてください。
大腸ポリープの手術の入院期間と治療費
■入院期間
入院期間は2週間から3週間を目安にしてください。
ただし、身体の回復具合は個人差があるので、短くなったり長くなったりすることもあります。
■治療費
治療費は30万円から60万円を目安にしてください(3割負担の場合)。
入院期間や手術の方法(開腹手術もしくは
手術後の食事で気をつけること
手術後すぐに以前と同じような食事をとると、腸閉塞につながる可能性があります。
腸閉塞は腸の中の流れが悪くなって起こる病気で、腹部の手術の後に起こりやすいです。
腸閉塞にならないために、手術後の食事は次の2つを守ってください。
- 消化のよいものを食べる
- 食事の量は少しずつ増やす
腸の動きが手術前と同じような状態に戻るにはしばらく時間がかかります。このため、手術後にはできるだけ腸に負担がかからないように消化のよいものを食べてください。
また、食事量にも注意が必要です。腸の動きが回復しきっていないうちにたくさん食べると、胃や腸に負担がかかり腸閉塞が起きてしまいます。手術後は食事の量を少し物足りない程度にとどめてください。時間をかけて元の食生活に戻していけばよいので、あせることはありません。
なお、消化のよい食べ物については「腸閉塞の詳細情報ページ」で詳しく解説しているので参考にしてください。
手術後は運動していいのか
手術後は軽い運動はしても問題はありません。ただし、入院生活の影響で思ったより筋力が落ちていることもあります。無理のない範囲で少しずつ運動をはじめるようにしてください。手術前と同じように運動をしてもよいと許可が出るのは手術から1ヵ月後くらいです。許可が出てもあせりは禁物です。ウォーキングやラジオ体操などの軽い運動からはじめて、少しずつ手術の前の状態に近づけていくようなイメージで運動をするのがよいでしょう。
腸閉塞に気づくためのポイントとその後の対応
腹部の手術を経験した人はその後、腸閉塞になりやすいことが知られています。
腸閉塞は早く気づいて治療をすることが重要なので、注意をした方がよいポイントについて説明します。
■腸閉塞の症状はどんなものか
腸閉塞の症状は次のようなものになります。
腹部膨満 感:お腹の張り- 腹痛
- 吐き気・嘔吐
- 排便・排ガスの停止
腸閉塞になって最初に出る症状は、腹痛やお腹の張りです。その後、腸閉塞の状態が進むと吐き気や嘔吐が起こります。腸閉塞が起こると腸の流れが止まるので、排便や排ガスがなくなります。
他の病気が原因でも似た症状が現れることはありますが、腸閉塞の場合は上記の症状が長く続いたり強くなったりすることがあります。
■受診をした方がよいのはどんなときか
腸閉塞が疑われる症状がある場合は、医療機関を受診して調べてもらってください。なるべく早いタイミングで受診した方が回復も早いです。受診する医療機関は手術を受けた医療機関が望ましいのですが、遠くて受診できない場合などは近くの医療機関を受診してもよいです。
■腸閉塞を予防するにはどうすればいいのか
腸閉塞を予防するには以下の点に注意してください。
- 食生活
- 1回の食事の量が多すぎないか
- 食べものをよく噛んでから飲み込んでいるか
- 消化のよいものを摂っているか
- 運動
- 適度な運動をしているか
腸閉塞を予防するには適切な食生活をすることが大切です。
まずは食事の量と内容を見直すことをおすすめします。食事の量が増えると胃や腸に負担がかかり、腸閉塞を起こす原因になります。一回の食事量は少なめにしてください。具体的には腹8分程度です。とはいえ、体力を維持するためにある程度食べることが必要です。
1回の食事量を減らす代わりに食事の回数を増やすようにしてください。そうすれば、胃や腸に負担をかけることなく、1日に必要な栄養を摂ることができます。
早食いの人は食事を噛み砕かずに飲み込みがちです。食べ物が大きいまま胃や腸に流れ込むと、負担がかかり腸閉塞を起こすことがあります。食事はよく噛んで、ゆっくりと時間をかけて食べるようにしてください。つい早食いになってしまう人は、「食事の時間を長く設ける」や「噛む回数を決める」などの工夫をしてみてください。
手術後は胃や腸が本調子ではありません。負担をなるべくかけないために、消化のよいものを食べるようにしてください。なお、消化のよい食べ物については「腸閉塞の詳細情報ページ」で詳しく解説しているので参考にしてください。
適度な運動は腸の動きを活発にします。許可された範囲内で生活に運動を取り入れるようにしてください。「運動」というと身構えてしまう人がいますが、ウォーキングや体操など簡単なものでも十分です。
参考文献
・日本消化器病学会/編, 大腸ポリープ診療ガイドライン, 南江堂, 2020
・FA Macrae, Overview of Colon polyps, UpToDate