大腸ポリープの治療にはどんなものがあるのか:内視鏡治療(ポリペクトミー・EMR・ESD)、手術の説明
大腸ポリープの治療は
内視鏡治療と手術について詳しく説明します。
目次
1. 大腸ポリープで治療が必要なのはどんな人か
大腸ポリープには
腫瘍性ポリープのうちがんが疑われるのは、次の条件のいずれかに当てはまる人です。
- 大腸ポリープの直径が6mm以上の人
- 大腸ポリープの形がクレーター型の人
- 大腸ポリープの見た目ががんと似通っている人
ほとんどの大腸ポリープは腺腫とよばれるものでがんではありません。しかし、一部の腺腫はがんに変化します。特に6mm以上の大腸ポリープはがんを含む確率が上がることが知られているので、切除をした方が望ましいと考えられています。
ポリープの多くはキノコのような形(隆起型)をしていますが、なかにはクレーターのような形をしたタイプ(平坦陥凹型腫瘍)もあります。クレーター型のポリープはがんを含んでいることが多いので、小さくても切除します。
このように、
この条件にいずれにも当てまはらない場合は、ポリープの中にがんが含まれている可能性が低いので無治療で問題がないとされています。
2. 大腸ポリープの治療にはどのようなものがあるのか
大腸ポリープの治療は大きく分けて内視鏡治療と手術の2つがあります。さらにそのなかでもいくつかの方法に分けられます。
【大腸ポリープの治療】
- 内視鏡治療
- ポリペクトミー
- EMR(内視鏡的粘膜切除術)
- ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
- 手術
- 開腹手術
腹腔鏡 手術
ほとんどの人はお腹を切らなくてよい内視鏡治療ですますことができます。「ポリープが大きい人」、「ポリープの数が多い人」など内視鏡治療が難しいと考えられる人には手術が行われます。
次にそれぞれの治療について説明をしていきます。
3. 内視鏡治療:ポリペクトミー、EMR、ESD
内視鏡治療は大腸カメラを使ってポリープを切除する方法です。内視鏡治療には3つの方法があり、ポリープの形や大きさに応じて最も適した方法が選ばれます。
内視鏡治療はどのように行われるのか
内視鏡治療には次の3つの方法があります。
- ポリペクトミー
- EMR(内視鏡的粘膜切除術)
- ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
ポリープの形や大きさに応じて、このなかから最も適した方法が選ばれます。次にそれぞれの方法についてもう少し詳しく解説します。
■ポリペクトミー
多くのポリープは大腸の壁からキノコが生えたような形をしています。このキノコの根本にあたる部分に輪っか状のワイヤー(スネア)を引っかけて切り取るのがポリペクトミーです。スネアは大腸カメラの中を通して挿入します。
■EMR(内視鏡的粘膜切除術)
EMRはポリープの裾野が広がっていて、キノコの根っこのようにくびれていない場合に行われます。
そのままの形では切除しにくいので、ポリープの下に液体(生理食塩水など)を注入して切除したい部分を盛り上がらせます。次に、ポリープの盛り上がった部分を輪っか状のワイヤー(スネア)で挟み込んで切り取ります。スネアを使う点はポリペクトミーと共通していますが、切除する前にポリープを粘膜から浮き上がらせる点が異なります。
■ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
ポリープが大きくてスネアでは切り取れない場合には、ESDと呼ばれる電気メスを使った治療をします。この電気メスも内視鏡の中を通して挿入します。「剥離」とは「はぎ取る」という意味で、電気メスでポリープをはぎ取るように切除していきます。粘膜部分に存在するポリープを切り取るために粘膜の下の層(粘膜下層)を切っていく治療です。
ESDでも、EMRと同じように液体をポリープの下に注入して盛り上がらせます。盛り上がったポリープの周りを電気メスを使って切除します。比較的大きな
内視鏡治療にともなう偶発症
治療などの診療行為が原因で起こる病気のことを偶
■出血
内視鏡治療でポリープを切り取るときに、大腸の壁の中を走っている血管が切れて出血することがあります。出血が起こった場合にはその場で止血処置を行います。医療用のクリップや、熱で血管を焼いて止血する凝固止血デバイスなどが用いられます。
退院後にも出血が起きる可能性があります。便に少量の血液が混ざる程度であれば、そのまま様子を見ても問題ないことがほとんどです。ただし、肛門から血液が流れ出てくる、または1回に出る血液は少量であっても出血の回数が多い場合にはすぐに治療を受けた医療機関を受診して調べてもらってください。入院や緊急内視鏡検査による止血治療が必要な場合があります。
■腸管穿孔(ちょうかんせんこう)
腸に穴があくことを腸管穿孔(ちょうかんせんこう)といいます。穿孔が起こると腸の中に溜まっていた便がこの穴から漏れ出てお腹の内部を汚染してしまい、腹膜炎という重症度の高い病気を引き起こします。内視鏡治療中に穿孔が分かった場合には、その場でクリップなどを用いて穴を閉じます。内視鏡で穿孔部を閉じきれない場合には、外科手術を行って穴を閉じたり、穴が開いた腸を切除して腸をつなぎ直したりします。
まれに退院後に腸管穿孔が起こることがあります。腸管穿孔が起こると突然の強い腹痛が起きます。疑わしい症状が現れた場合には、治療を受けた医療機関にすぐ連絡をして詳しく調べてもらってください。
治療後はどんなことが行われるのか
内視鏡治療で摘出されたポリープは病理検査に提出されます。病理検査では顕微鏡を使ってポリープの性質を詳しく調べます。
この病理検査でポリープが良性と診断された場合には、その後追加の治療は必要ありません。悪性(がん)と診断された場合でも、内視鏡治療でがんをすべて取り切れていれば治療は終了となります。一方で、がんが「取り切れていない場合」や「進行していた場合」には追加の治療(内視鏡治療もしくは手術)を行います。
病理検査の結果がどうだったのかは治療後の外来で説明されることが多いです。その際には、切除したポリープの性質やその後の治療の必要性について注意して聞いてください。
4. 手術:開腹手術・腹腔鏡手術
大腸ポリープの治療は内視鏡治療が中心ですが、手術が必要な場合もあります。手術の内容や、手術後の偶発症について説明します。
手術が必要なのはどんな人か
大腸ポリープのほとんどは内視鏡治療で治ります。しかし、次のような条件にあてはまる人は手術が必要です。
- ポリープが大きかったり多すぎたりして内視鏡での治療が難しい人
- 内視鏡治療後にがんと診断され、さらにがんが取り切れていなかった人
- 家族性大腸腺腫症の人
ほとんどのポリープは内視鏡で治療ができますが、ポリープが大きすぎる場合や数が多い場合には内視鏡で取りきれないことがあります。このような場合には、ポリープを含む大腸の一部を手術で切除する必要があります。
また、内視鏡治療で切除したポリープががんだった場合、病気の部分がすべて取り切れていないことがあります。がんが身体のなかに残っている可能性がある人には追加の治療として手術が検討されます。
家族性大腸腺腫症という大腸にポリープを多発するまれな病気があります。家族性大腸腺腫症の人のポリープは放置すると大腸がんになることが知られているので、大腸がんになる前に手術で大腸をすべて摘出します。
手術が必要だと言われると不安な気持ちになることでしょう。お医者さんから手術が必要な理由をよく聞いて納得することが、気持ちを整理するうえで最も大切なことです。心配なことがあれば、ちょっとしたことでも質問して解決してください。
手術はどのように行われるのか:開腹手術・腹腔鏡手術
手術にはお腹を大きく開ける「開腹手術」とお腹に数箇所の穴を開けて行う「腹腔鏡手術」の2つの方法があります。それぞれの特徴について説明します。
■開腹手術
開腹手術はお腹を十数センチ切り開いて行う方法です。ポリープがある部分の腸を切り取って、残った腸をつなぎ合わせます。
「過去にお腹の手術をしたことがある人」や「腹膜炎になったことがある人」など、お腹の中の臓器が
■腹腔鏡手術
腹腔鏡手術はお腹に数箇所の穴を開けて、そこから鉗子(かんし)という長い手術用の器具と内視鏡を挿入して行います。内視鏡によってお腹の中をテレビモニターに映しながら手術が行われます。手術の内容は開腹手術と同じで、ポリープができている部分の腸を切り取り残りの腸をつなぎ直します。
腹腔鏡手術は開腹手術に比べると傷が小さいので、術後の痛みも小さくて済むといったメリットがあります。一方で、腹腔鏡手術は高い技術が必要なためどの医療機関でも受けられる治療ではない点や、手術時間が長い点がデメリットです。
手術にともなう偶発症
診療行為によって起こる病気のことを偶発症といいます。手術による主な偶発症は次のものです。
それぞれについて説明します。
■腸管の縫合不全:腸と腸のつなぎ目のくっつきが悪い
手術では、ポリープがある部分の腸を切り取ってつなぎ直します。この腸と腸のつなぎ目のくっつきが悪いことがあり、これを縫合不全といいます。縫合不全が起きた場合は、つなぎ目に負担をかけないように食事を中止したり再手術を行ったりします。縫合不全の程度によって治療法が選ばれます。
腸閉塞(イレウス)は腸の流れがわるくなる病気です。腸閉塞(イレウス)が起きた場合には、「食事を中止して腸を休めること」や「鼻から腸まで管を通して腸の内容物を出すこと」が治療として有効です。腸閉塞やイレウスについては「腸閉塞(イレウス)の詳細情報ページ」で詳しく解説しているので参考にしてください。
■創部感染
創部感染は手術で切った傷口に
5. 大腸ポリープの治療ガイドラインはあるのか
お医者さんはガイドラインを中心に治療を組み立てていますが、ガイドライン通りに治療することが正しいこととは限りません。ガイドラインの改訂前に新しい治療が浸透したり、不明だった治療の成績が明らかになって治療法が変わることもありえます。また、ガイドラインは患者さんの細かな身体の状態を反映しているわけではありません。一人ひとりに最適な治療を行えるようにガイドラインはアレンジして使われています。
参考文献
・日本消化器病学会/編, 大腸ポリープ診療ガイドライン, 南江堂, 2020
・FA Macrae, Overview of Colon polyps, UpToDate