けっかく(はいけっかく)
結核(肺結核)
結核菌を吸い込むことで発症する肺の感染症。せき、たん、血痰、喀血, 発熱、体重減少などを起こす
13人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2024.03.18

咳が長く続いたら要注意?結核は周りにうつる?毎年1万人以上がかかる結核の流行状況や症状など

戦前戦後が舞台の小説などでは結核で血を吐く場面がよく描かれます。戦後は徐々に結核患者が減っていましたが、近年の結核患者数は横ばいです。実は現在でも国内で年間2000人弱が結核で亡くなっているのです。

結核は昔の病気というイメージのある方もいるのではないでしょうか?確かに戦前戦後が舞台の小説や映画では、結核患者が血を吐くシーンをよく見かけます。当時は「国民病」と言われるほどよくある病気でした。実際、1940年代は年間に15万人前後が結核で亡くなっていました。その後は時代とともに死亡者数は減っていますが、現在でも年間2000人弱が結核で亡くなっています。

結核罹患率と罹患数の年次推移

* 結核予防会結核研究所疫学情報センターの開示データを元に作成


結核の罹患率(りかんりつ)は年々下がっています。例えば昭和26年には年間60万人ほどが結核に罹(かか)っていましたが、平成27年には結核罹患者は年間1.8万人ほどにまで減っています。しかし、この数字を見て結核は過去の病気と言えるでしょうか。年間に国内の1.8万人が結核になっている状況は決して他人事とは言えないでしょう。
 

結核死亡率の年次推移

* 結核予防会結核研究所疫学情報センターの開示データを元に作成


結核の罹患者が年間で10万人あたり10人以下になれば結核の蔓延していない状態という国際的な基準があります。世界に目を向けると多くの先進国はこの基準をクリアしていますが、日本はクリアできていません。2014年には10万人あたり15.4人が結核に罹っている状況です。
 

世界各国の全結核届け出率

* 結核予防会結核研究所疫学情報センターの開示データを参考に作成


上のグラフを見て分かるように、日本は突出して結核が多い状態からは脱却したものの、まだ先進国の中では結核が多い国です。
多くの先進国では結核が蔓延していないのに、どうして日本ではこういった状況になっているのでしょうか。

© NIAD (CC BY 2.0) Scanning electron micrograph of Mycobacterium tuberculosis bacteria, which cause tuberculosis. 

現代の医療は進歩しています。結核に対する薬も良いものが出ています。それにもかかわらず、罹患率が減らない結核とはどういった病気なのでしょうか?

結核の原因は結核菌という細菌です。結核菌が身体の中に入ってきても必ず結核を発病するわけではありません。体内に結核菌が入ってきても、その多くは体内のどこかに潜伏するのみで一生発病することなく経過すると考えられています。体内に結核菌が潜んでいるが結核を発病しない状態を潜在性結核(LTBI: Latent Mycobacterium tuberculosis Infection)と言います。その一方で、体内で活動的に感染が起こることもあります。この状態では感染の起こった組織が破壊されていきます。

結核は人間の身体の中でも特に肺に感染を起こしやすいです。しかし、肺だけでなく、リンパ節や腎臓、脳・脊髄などでも結核は感染を起こします。そのため、医師は一見肺とは関係ない臓器に症状が現れている患者さんを診るときも、結核を見逃さないようにと考えています。

昔は結核が不治の病に近かった時代もありましたが、現在は効果的な治療薬が存在することもあり、結核は治る病気になっています。そのため、結核を早く見つけて治療することが大切です。そうすることで結核が身体の組織を破壊することを防ぐことができるのです。また、結核の早期治療は結核を流行させないという重要な意味を持ちます。

詳しくは次で説明していきます。

先進国の中で日本は結核の蔓延している国です。先ほどのグラフを見ても先進国の中で数字が多いのは否定できない事実です。では、昔の日本の先輩たちは結核に対して無知で何もしてこなかったのでしょうか。

答えは「否」となります。昔から結核の隔離病棟はありますし、サナトリウムも存在します。治療も明らかに進歩しています。結核罹患者が年々減ってきているのは、衛生状態などが改善したことも大きいですが、同時に先輩たちが長年予防・治療に努めてきた成果です。決して結核の対策が何もできていなかったわけではありません。

それでもまだ、結核がまれな病気になるには至っていません。年間1.8万人ほどが結核に罹患して2000人ほどが亡くなっていることは事実です。結核が日本で蔓延しないように、これからも努力を続けなくてはなりません。

結核は周囲に感染をうつす病気です。結核患者はうつさないように気を配ることが大事ですし、かかっていない人は結核患者からうつされないようにしなければなりません。結核をうつし・うつされる関係を防ぐことができれば、結核の流行を防ぐことができます。
結核の流行を防ぐためにまずは敵を知っておくことが大事です。次の章で結核について詳しく説明していきます。

結核菌が体内に入ってきて感染が起こると結核になります。しかし、結核菌が体内に入った人がみな結核になるわけではありません。なにやらわけのわからないことを言っていますが、そのからくりがどういったことなのかお話ししていきます。
 

結核についてお話しする前に少し難しいことを説明します。誰もが勘違いしやすいポイントなのですが、感染症を考える上で大切なことなので是非読んで下さい。

感染することと発病することは違います。
細菌が体に入ると感染が起こります。しかし、細菌は人体に入り込んだだけで必ず感染を起こすわけではありません。常在菌という言葉を聞いたことはあるでしょうか。例えば腸の中には数百兆の腸内細菌がいると言われています。それでも感染は起こりません。一方で、お腹に細菌が入った時に、体調が悪かったり、細菌の量が多かったり、細菌の種類が人体への有毒性が高いものだったりすると感染が起こります。つまり、細菌の種類や体の調子などの多くの要因が重なって、感染が起こるかどうかが決まります。

感染が起こった部位では炎症が起こります。しかし、この時点ではまだ発病(症状のある病気になること)するかどうかはわかりません。感染から身体を守るための免疫という働きがあります。この免疫が感染を押さえ込めば発病することはありません。

感染と発病を区別することで、結核対策も理解しやすくなります。結核菌の感染と発病に当てはめて見ていきましょう。
 

結核感染は体内に結核菌が入ってくることで始まります。結核菌が吸い込まれて肺の奥(肺胞)に至ると、結核菌はそこで増殖します。その後、結核菌はリンパ液や血液に侵入し全身に広がっていきます。
しかし、身体も結核菌にやられるがままになっているわけではありません。結核菌が体内に入ってくるとこれを排除しようとする力が働くため、多くの場合結核菌が入ってきても感染が起こる前に体内からいなくなります。また、結核菌による感染が起こっても、結核菌を記憶した免疫が力を発揮して、結核菌が増えないように働きます。そのため、結核菌の感染が成立しても、大半の場合では結核を発病しません。実際に、結核菌に感染した人のうちおよそ5-10%程度が結核を発病すると言われています。結核菌に感染したけれど発病しなかった人は、体内に結核菌が潜んだ状態(潜在性結核)になります。

結核菌に感染した状態から治療しなくても発病しないでいることはよくあります。しかし、治療しなければ体から完全に結核菌がいなくなることは少なく、多くの場合は体内に結核菌が潜んでいる状態が続きます。この状態は免疫が結核菌を抑え込んでいる状態と言えます。言葉だけを見ると「菌が入っても自然治癒した」と思えるかもしれませんが、結核菌はまだ体内に残っています。結核菌が身体内に存在しているために、免疫の力が弱ってきた時に発病することがあります。特に年齢を重ねてから結核を発病することが多いので注意が必要です。これを二次性結核(再燃)と言います。
ここで感染と発病を区別することが大事になってきます。つまり、発病していなくても感染しているかもしれないのです。結核対策は発病だけでなく感染も考えに入れなければなりません。

結核は人にうつる病気ですので、周囲にうつらないようにしなければなりません。そのために、結核患者を隔離することがあります。しかし、結核にかかった人はみんながみんな周囲にうつすわけではありません。周囲にうつす恐れがほとんどない人を隔離する必要はありません。
周囲にうつす結核なのかどうかは、結核菌が身体の外に排出されているのかどうかがポイントになります。
 

感染症が周囲にうつるときの様式を大きく分けると以下の3つになります。

  • 空気感染(別名は飛沫核感染、ひまつかくかんせん):5μm(マイクロメートル、1μmは1mmの1000分の1)未満の大きさの感染源が空気中を1m以上移動できる。
  • 飛沫感染:5μm以上の感染源が、咳やくしゃみや会話の際に唾液などの飛沫(しぶき)に含まれて飛び散ることでうつる。空気中を短距離であれば移動できる。
  • 接触感染:患者やその周囲に触れることでうつる。

結核は空気感染することがわかっています。結核以外に空気感染する病気は、はしか水ぼうそう、広範囲の帯状疱疹などが挙げられます。

咳などで肺にいた結核菌が体外に飛び出します。すると空気に乗って結核菌が周囲に飛び散っていきます。結核菌を周りの人が吸い込むことで感染が広まっていくことになります。空気感染する病気は、病原体が周囲に飛散することに関して非常に注意が必要です。咳などで菌を身体から出している(排菌している)人は要注意ということになります。

咳などで結核菌が排菌されることは、結核がうつる経路の一つとして重要です。結核患者の咳には気を付けなければいけません。
ただし、正確には咳のほかにも排菌する場合があります。咳をしていなければ排菌していないとは限りません。
実際には検査で一定基準を満たした場合に「排菌がない」と判定します。検査をしても見逃しが絶対にないとは言い切れませんが、現在の基準が9割方信頼できることは経験からわかっています。基準は非常に複雑なのでここでは省きます。排菌の有無は検査をしなければ判定できない点を覚えておいてください。
では、排菌しているかどうかの判定によって、どのような違いがあるのでしょうか。次に説明します。

結核の治療は、排菌しているかどうかで大きく変わります。入院などに大きな影響があります。

■結核菌を排菌している場合
結核菌を排菌している場合は、周囲に結核をうつす可能性があります。そのため、隔離が必要になります。特殊な例外を除いて入院が必要です。例外の一つとして、感染している人が入院することを家族全員が希望しない場合が挙げられます。
また、結核の治療薬は副作用が出やすいです。そのため、副作用が出るリスクの高い人も入院治療が必要です。
結核の治療を行っていくと、体内の結核菌が排菌されなくなることがあります。その場合は退院が可能になります。退院してからは外来で治療を続けることになります。

■結核菌を排菌していない場合
排菌していない場合は周囲に結核をうつす心配がありません。そのため「うつさないため」という点からは入院する必要がありません。しかし、上でも述べた通り、結核の治療薬は副作用が出やすいので、高齢の人や持病がある人は入院して治療を行うことが多いです。

結核は症状の分かりにくい病気として有名です。結核だけに特有の症状はありませんし、実は症状がない結核も少なくないのです。
 

結核の初期症状は風邪に似ていると言われています。初期の結核では、主に咳(せき)や痰(たん)、発熱が出ます。風邪だと思ってしばらく見逃す人もいます。
一つの参考材料として、通常の風邪であれば数日から1週間ほどで良くなることがほとんどですが、結核では症状がなかなか治まりません。そのため、風邪のような症状が2週間以上続く場合は、結核も考えなければなりません。とはいえ、2週間以上風邪症状が続く病気は結核以外にもありえますので、医療機関で診察を受けて、まずは原因を探ることが望ましいです。

結核の初期症状は、咳や痰といった風邪症状の場合が多いです。しかし、結核が進行すると症状は少しずつ変わってきます。以下が結核の代表的な症状です。

  • 咳(せき)
  • 痰(たん)
  • 血痰
  • 発熱(特に微熱)
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 大量の寝汗をかく(盗汗)
  • 血を吐く(喀血

これらの症状が長く続いたり、上記の複数が出現している場合は医療機関で検査して下さい。特に結核患者と接触した自覚のある人は要注意です。
 

結核菌が体内に入ってきてもすぐに結核になるわけではありません。結核菌が身体から排除されることなく感染を起こし、免疫の作用を乗り越えて結核発病に至るまでには、平均で半年から2年くらいかかると考えられています。しかし、潜在性結核が二次性結核を起こすことを考えれば、数十年潜伏期間があってもおかしくありません。
潜伏期間でも周囲にうつす可能性があります。そこで、結核を診断しようとするときは、感染しているが発病していない状態(症状のない状態)を見つけ出す手段が必要です。

次章では結核の診断の付け方について説明していきます。