にゅうとうふたいしょう
乳糖不耐症
乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が不足することで、乳糖を十分に消化や吸収することができず、下痢などの症状が出る病気
6人の医師がチェック 110回の改訂 最終更新: 2021.11.30

乳糖不耐症と言われたら知っておくべき注意点

 乳児が乳糖不耐症になると栄養を補う治療が要ることもありますが、多くは自然治癒し、症状を起こさずミルクや母乳を飲めるようになります。成長による乳糖不耐症は治癒しませんが、乳製品に気を付ければ症状なく生活できます。

1. 乳糖不耐症は自然治癒するのか

乳糖不耐症は自然治癒するのでしょうか。

乳糖不耐症は乳糖を含む食品を摂ると下痢や腹痛などの症状が現れる病気です。自然治癒は「乳糖をとっても下痢や腹痛などが現れなくなること」と言い換えることができます。乳糖不耐症が自然治癒するかどうかは病気の種類や程度によっても違いがあります。自然治癒の話の前に乳糖不耐症の種類について説明します。

乳糖不耐症は次のように分類できます。

  • 一次性乳糖不耐症
  • 二次性乳糖不耐症
  • 成長にともなう乳糖不耐症

乳糖不耐症は上の3つの種類に分けることができます。それぞれの原因について説明したうえで、自然治癒が可能かどうかを説明していきます。

一次性乳糖不耐症は自然治癒するか?

一次性乳糖不耐症は遺伝的な原因により起こるまれな病気で、生まれついて乳糖を分解・吸収する力がありません。一次性乳糖不耐症を持つ子供は、普通のミルクなどから栄養をとれないので、生まれてすぐから乳糖を含まない無乳糖ミルクなどで栄養を得なければなりません。無乳糖ミルクなどによって栄養を得ることができるので成長には支障を来さないことが多いです。しかし、成長しても乳糖を吸収できるようにはなりません。つまり、乳糖を吸収できるようになるという意味においては自然治癒することはありません。

一次性乳糖不耐症は、自然治癒しないので、日常生活で乳糖を避ける工夫が必要です。具体的には乳児期は乳糖を取り除いた無乳糖ミルクや乳糖を分解するβ-ガラクトシダーゼという薬を上手に用いることで栄養を得ることができます。また成長に伴って色々なものを食べられるようになれば乳糖以外の食品から栄養をとれるようになります。

このように一次性乳糖不耐症を持つ子供は食生活を工夫することで順調に成長することができます。

二次性乳糖不耐症は自然治癒するか?

子供の乳糖不耐症のほとんどは二次性乳糖不耐症です。二次性乳糖不耐症とはどんな状態なのでしょうか。二次性乳糖不耐症は、主に急性胃腸炎など腸にダメージを与える病気のあとで引き続いて起こります。病気により腸がダメージを受けると、乳糖を分解する力が低下してしまいます。乳糖が分解できないと乳糖を栄養として得られないばかりか下痢や腹痛などの症状が現れます。この状態が二次性乳糖不耐症です。

二次性乳糖不耐症になっても、原因が一時的なものであれば時間が経って腸の状態が回復するので以前のように乳糖を摂取できるようになります。その意味で二次性乳糖不耐症は自然治癒すると言えます。

二次性乳糖不耐症は原因となった病気が治ったあとにもしばらく続きます。腸が受けたダメージの程度によって乳糖不耐症の状態がどれくらい続くかが決まります。長い場合で数ヶ月ほどです。この間は少しずつ乳糖をとらせて症状が現れるかなどを治癒したかどうかの判断材料にします。

では二次性乳糖不耐症が治癒するまでの間にはどのようにして栄養を得ればいいのでしょうか。乳糖を栄養にすることができないので、乳糖を含まない無乳糖ミルクや、乳糖の分解を助けるβ-ガラクトシダーゼを利用して栄養をとります。離乳食が十分にとれているのであれば乳糖を含む食品をメニューから外すことも対応策の1つです。

成長にともなう乳糖不耐症は自然治癒するか?

日本人では、成長とともに乳糖を分解する力が弱くなっていき、乳糖不耐症の状態になるのが普通です。これは加齢にともなう変化とも言え、元に戻ることはありません。元に戻らないので成長にともなう乳糖不耐症は自然治癒しないとも言えます。

では乳糖不耐症が自然治癒しないことは問題なのでしょうか。また治療は必要なのでしょうか。先に答えを出すと、成長に伴う乳糖不耐症は治らなくても大きな問題にはなりません。実はアジア系の人種では成人の90%から100%が乳糖不耐症であると言われています。つまりほとんどの人は年齢を重ねると乳糖不耐症になります。しかし、多くの大人が乳製品などを飲んだり食べたりしていますが、乳糖不耐症の治療が必要な人はほとんどいません。なぜなら、乳糖を分解する力が低下していても、少量の摂取であれば症状を起こすほどの影響を身体に与えることはないからです。

成長にともなう乳糖不耐症は、摂取する乳糖の量が多くなれば症状が現れることもありますが、摂取する乳糖が少量であれば無症状のことがほとんどです。個人差はありますが症状が出やすい人であっても摂取する乳製品を少なくするなどの対応で十分です。

2. 乳糖不耐症の赤ちゃんに母乳は飲ませていいのか

乳糖不耐症がある赤ちゃんは、母乳でも症状が現れます。この場合は母乳をストップして無乳糖ミルクを飲ませるか、母乳と一緒にβ-ガラクトシダーゼ製剤を飲ませます。

そして多くの場合、赤ちゃんは数か月以内に乳糖不耐症の状態から回復し、再びβ-ガラクトシダーゼを使わずとも母乳を飲めるようになります。

母乳は栄養だけでなく免疫も赤ちゃんに与えることができるなどの利点があり、できる範囲で授乳を続けるのは良いことです。乳糖不耐症と診断されても、工夫をすることで母乳を継続できる可能性があります。とはいえβ-ガラクトシダーゼを使っても母乳による症状が強く出てしまうような場合もありえます。そのときには、母乳ではなく無乳糖ミルクを選ぶほうにメリットがあるとも考えられます。どちらの方法を選ぶかは症状や赤ちゃんの体重が増えているかなども判断材料として重要です。

無乳糖ミルクとβガラクトシダーゼについては「乳糖不耐症の治療」のページで詳しく説明しています。

3. 乳糖不耐症の人の食事はどうすればいいか

授乳の時期の赤ちゃんについては、上に説明したように乳糖不耐症の治療法があります。ほかにも離乳後の子供や成人に乳糖不耐症が見つかることもあります。

赤ちゃんと同じように大人の乳糖不耐症でも、食事に含まれる乳糖が症状を引き起こします。そのため乳製品を避けてほかの食品から栄養をとることで、乳糖不耐症の症状が出ないようにすることができます。

ただし、乳糖不耐症があっても乳製品を全然食べたり飲んだりできないわけではありません。乳糖不耐症の症状は乳糖の量によって変わり、少量の乳製品なら症状が出ない人は多いです。このため、「自分にとって症状のもとになる量」を把握し、食べすぎ・飲みすぎを避ければ乳糖不耐症への対応は十分と言えます。

乳製品の中でも種類によって乳糖の量の違いなどがあり、症状の出やすさにも関係します。個人差があるので実際に食べたり飲んだりしてみるのが確かですが、以下にいくつかの例を紹介します。あわせて、食事全体の栄養バランスの観点から、カルシウムの摂取方法についても説明します。

カルシウムの摂取方法

牛乳にも乳糖が含まれています。「牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする」と自覚していて、そのため牛乳を避けている人もいるかもしれません。それと同時に、牛乳から摂取しやすいカルシウムなどが不足しないようにすることも大切です。

人によっては、牛乳とほかの乳製品で症状の出やすさが違います。

厚生労働省と農林水産省による「食事バランスガイド」は、カルシウムの量を基準に牛乳とほかの乳製品を置き換える目安を示しています。それによれば、牛乳瓶1本はチーズ2かけ、スライスチーズなら2枚、ヨーグルトなら2パックと置き換えられます。

乳製品はカルシウムだけでなくタンパク質も比較的多く含むなど、カルシウム以外にもいろいろな面が考えられますが、牛乳だと特に症状が出やすいという実感がある人では、置き換えを考えてみるのもいいでしょう。

参考文献
・UpToDate: Lactose intolerance: Clinical manifestations, diagnosis, and management.

ヨーグルトを摂取する際の注意点

ヨーグルトは牛乳の成分を乳酸菌が分解することで作られます。ヨーグルトの中では乳糖の一部が分解されています。このため「ヨーグルトは乳糖不耐症の人に優しい」という説明を聞いたことがある人もいるかもしれません。

ただし、ヨーグルトの中にも分解されていない乳糖は含まれています。牛乳と同じように、少量のヨーグルトなら症状が出ないとしても、たくさん食べれば症状が出ることはありえます。

とはいえ、「牛乳はほとんど飲めないが、ヨーグルトなら一食分は大丈夫」という場合も考えられます。牛乳を減らしてヨーグルトを増やすことで、症状が出ることなく満足できる人もいるかもしれません。

乳糖を分解した製品なら大丈夫なのか?

育児用の無乳糖ミルク以外にも、乳糖を分解して少なくした製品が市販されています。たとえばアカディ®は200ml中に含まれる乳糖が1.9gと少なくなっています(一般的には牛乳200mlに、乳糖を中心とする炭水化物が10g程度含まれます)。

乳糖を少なくした製品では普通の牛乳よりも症状が出にくいと感じる人もいるかもしれません。好みによっては日常の食事に取り入れるのも良い考えです。

ただし、「乳糖を少なくしている」と言っても、育児用の無乳糖ミルクのように乳糖を含まないよう配慮されたものではありません。ほかの乳製品と同様に、飲む量によっては、乳糖を少なくした製品から症状が出ることも考えられます。

乳製品の代わりとなる食品を利用する

乳糖不耐症で乳製品を減らしている場合、栄養バランスにも注意が必要です。乳製品はカルシウムなどを手軽に摂取できることから、「食事バランスガイド」でも1日あたり牛乳瓶2本相当以上が適量とされています(年齢などによってその2倍程度までが適量の範囲とされます)。乳糖不耐症を気にして極端に乳製品を避けてしまうと、栄養が偏ってしまう心配があります。

カルシウムなどの摂取量や食品ごとに含まれる量については、厚生労働省による「日本人の食事摂取基準」や文部科学省による「日本食品標準成分表」に細かい数字が載っています。あまり正確に記憶しようとする必要はありませんが、たとえば乳製品を減らすなら、カルシウムを多く含む魚・豆製品・野菜などでバランスを取るといった考え方ができます。

4. 乳糖不耐症で食事以外に注意するべきことはあるか

乳糖不耐症では、乳糖を含む食品を避けていれば、症状は起こりません。ただし、乳製品から摂取しやすいカルシウムが不足しないよう注意は必要です。特に必要があれば、サプリメントを利用することも考えられます。

乳糖不耐症があっても、食生活以外には特別な注意をせずに過ごすことができます。

参考文献
・福井次矢・黒川清/監修, 「ハリソン内科学 第2版」, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2006