にゅうとうふたいしょう
乳糖不耐症
乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が不足することで、乳糖を十分に消化や吸収することができず、下痢などの症状が出る病気
6人の医師がチェック 110回の改訂 最終更新: 2021.11.30

乳糖不耐症の検査にはどんなものがあるか

乳糖不耐症の診断には問診が大切です。また、乳糖を除去すると症状がなくなり、再び摂取すると症状が出ることも手がかりになります。そのほか使われることがある検査とあわせて説明します。

1. 乳糖不耐症の検査にはどんなものがあるか

乳糖不耐症は、乳製品などに含まれている乳糖という物質を体がうまく分解・吸収できないことにより、腹痛などの症状が現れる病気です。

乳糖不耐症の診断のために次のような検査が使われます。

  • 問診
  • 身体診察
  • 乳糖の除去
  • 便検査
  • 乳糖負荷試験
  • 呼気水素ガス濃度検査
  • 経口ブドウ糖負荷試験

腹痛などの症状があって診察を受ける時、原因を推測するにはまず問診が大切です。乳糖によって症状が引き起こされている様子があれば乳糖不耐症の疑いが強くなります。

子供が乳糖不耐症と診断される場合の多くは、乳糖の除去が手がかりになります。乳糖を除去してみると症状が改善し、再び乳糖を食べたり飲んだりすると症状が出るなら乳糖不耐症が疑われます。乳糖を除去しても改善しなければ乳糖不耐症以外の病気を疑うことになります。

ほかの検査はいつも使われるわけではありません。乳糖不耐症の中でも非常にまれなタイプにだけ関係する検査も挙げています。

以下でそれぞれの検査の目的や方法を説明します。

2. 問診

問診では質問に答えることで体の状態などを医師に伝えます。例として以下のようなことを聞かれます。

  • どんな症状があるか
  • 症状はいつからあるか
  • 腹痛などがあれば、症状が一番強い場所はどこか
  • 症状は一定か、よくなったり悪くなったりするか
  • 食事などで症状が変化するか
  • 以前にかかった病気や治療中の病気はあるか
  • 飲んでいる薬はあるか

乳糖不耐症らしいかどうかを探る上では、症状が出た時の状況がとても大切です。乳糖不耐症による症状は普通、乳製品などを食べたり飲んだりしてから数時間以内に現れます。乳糖を含むものを避け続けていると5-7日程度で症状がなくなることも特徴です。

また、子供の乳糖不耐症のほとんどが、急性胃腸炎などの病気のあとで始まります。腸の病気により腸がダメージを受けると、一時的に乳糖を分解する能力が下がり、乳糖不耐症となることがあります。この状態を二次性乳糖不耐症と言います。

乳糖不耐症によって出やすい症状には次のものがあります。

  • 腹部膨満感(お腹が張った感じ)
  • 腹痛
  • 下痢
  • 嘔吐

ただし、どの症状についても、原因は乳糖不耐症だけではなくほかにいろいろなものが考えられます。そのため、似た症状を現す原因がほかにないかについても、問診を手がかりに調べていきます。

3. 身体診察

身体診察は、医師などが患者の体を見たり触ったりして調べる診察方法です。身体診察から得られる情報は、問診などとあわせて、乳糖不耐症を診断する助けになります。

乳糖不耐症を疑った場合の診察には次のものがあります。

  • バイタルサインのチェック
  • 聴診
  • 打診
  • 触診

それぞれの診察方法で調べることを説明します。

バイタルサインのチェック

バイタルサインとは主に次のことを指します。

  • 意識の状態
  • 体温
  • 血圧
  • 脈拍
  • 呼吸数
  • 酸素飽和度(血液中に含むことのできる酸素の最大量に対して実際に含まれている酸素の割合)

バイタルサインは全身の元気さを把握するために役立ちます。乳糖不耐症でバイタルサインに異常が起こるような状態になることは多くありません。

しかし、乳糖不耐症と似た症状が出ている場合でも、たとえば下痢を起こす病気では、意識がもうろうとしたり、血圧が下がったり、脈が早くなったりする変化が、脱水になっているかどうかを推測する役に立ちます。

聴診

聴診は聴診器で音を聞く診察方法です。聴診器をお腹に当てると、正常な状態でも腸が動く音が聞こえます。腸が動く音が強くなっている時には腸の動きは活発になっており、反対に腸が動く音が小さい時には腸の動きは弱くなっているなど判断ができます。乳糖不耐症では腸が動く音が強くなっていることがあります。

打診

打診は身体を指で軽く叩く診察方法です。お腹を打診して、太鼓のようにポンポンという音がすれば、ガスがたまっていることが疑われます。ガスがたまることを鼓腸(こちょう)とも言います。乳糖不耐症でも鼓腸が現れることがあります。

打診で鼓腸が見つかった場合には乳糖不耐症以外の原因も考えられます。そのうち最も注意しなくてはいけないのは、腸に穴が開いていることです。鼓腸があれば触診などを使ってさらに調べます。

触診

触診とは体を触ったり押したりする診察方法です。お腹のいろいろなところを押してみて痛みが出るかどうかを確認します。

押すと痛みが出るのは乳糖不耐症の典型的な症状ではありません。もし押すと痛む症状があれば、ほかの原因を探します。

特に押した状態から離したタイミングに痛みが出る場合は要注意です。これを腹膜刺激症状といいお腹全体に炎症が広まっている可能性があります。触診の結果さらに詳しく調べる必要があると判断された場合には超音波検査CT検査などを用います。

4. 乳糖の除去:診断と治療を兼ねた方法

乳糖不耐症を疑った時点で、診断に役立てるために乳糖の除去を始めることがあります。乳糖不耐症は乳糖によって症状を現すので、乳糖を食べたり飲んだりしなければ症状がなくなります。母乳を飲んでいる時期の子供でも乳糖の除去ができるように、乳糖を含まない無乳糖ミルクが作られています。無乳糖ミルクは市販されているので、医師の指示があれば購入して使ってください。

通常、乳糖を除去して5-7日程度で症状が治まります。そして再び乳糖を摂取すると数時間程度で症状が現れます。乳糖を避けていても症状が長引く場合はほかの原因がないかを考える必要があります。

5. 便検査

便検査では便の中に含まれている物質の量を測定できます。

便検査で糖が検出されたら、乳糖が分解されず便に出てきている可能性があります。また乳糖不耐症では腸の細菌が乳糖を分解して酸性の物質を作り出すので、便は酸性になります。

6. 乳糖負荷試験

乳糖負荷試験は、乳糖を飲んで体の反応を見る検査です。以下の3点を観察します。

  • 腹部症状が現れるか
  • 血糖値が上がるか
  • 呼気水素ガス濃度が上がるか

乳糖不耐症でなければ、症状はなく、乳糖を吸収することで血糖値が上がります。また腸に住んでいる細菌が乳糖を分解して水素が発生し、呼気水素ガス濃度が上がります。

7. 呼気水素ガス濃度検査

呼気(こき)とは吐く息のことです。吐く息には、腸内で発生している微量の水素が混ざっています。水素を発生させているのは腸内の細菌です。細菌が乳糖を分解する時に水素が発生します。

乳糖不耐症のある人が乳糖を飲むと、分解されない乳糖が腸に残るため、水素が多く発生します。このため呼気に混じる水素ガスの濃度(量)は高くなります。

乳糖を飲む前と飲んだあとで呼気水素ガス濃度を測定し、水素が増えていれば乳糖の分解が不良である疑いが強くなります。

呼気水素ガス濃度検査の精度についてはいくつかの研究報告があり、乳糖の分解が不良な人のうち78%程度を呼気水素ガス濃度検査で指摘でき、乳糖を十分分解できる人のうち98%程度で呼気水素ガス濃度検査は正常になるとされています。

乳糖分解の不良があるのに呼気水素ガス濃度が高くならない場合の例として、腸内に水素を消費してメタンガスを作る細菌がいる場合や、抗菌薬使用後で水素を作る細菌が減っている場合があります。

反対に、腸内細菌が異常に増殖している状態では、身体が乳糖を分解する能力はあるのに呼気水素ガス濃度が高くなることがあります。

呼気水素ガス濃度検査の結果は、症状やほかの検査結果と組み合わせて乳糖不耐症の診断に使われます。

参考文献
Aliment Pharmacol Ther. 2009 Mar 30;29 Suppl 1:1-49.

8. 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)

経口ブドウ糖負荷試験は、乳糖不耐症を診断するためというよりも、別の病気ではないことを確認する目的で行われます。

乳糖不耐症と似た点のある病気に、先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症(グルコース・ガラクトース吸収不全症)があります。先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症は、乳糖をうまく吸収できない点が乳糖不耐症と共通しています。先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症では砂糖やデンプンなどもうまく吸収できません。

経口ブドウ糖負荷試験はブドウ糖(グルコース)を飲んで体の反応を見る検査です。先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症ではグルコースもうまく吸収できないのですが、乳糖不耐症ならばグルコースは吸収され、血糖値が上がります。

9. 乳糖不耐症の診断基準はあるのか

ほとんどの子供では、乳糖不耐症を診断するために厳密な方法を使う必要はありません。乳糖不耐症によって栄養状態が悪化していると思われた場合に、乳糖の除去を行って症状が治まることや、再び乳糖を摂取すると症状が出ることから乳糖不耐症と診断できます。

ただしごくまれに、生まれつきの乳糖不耐症で、治療の必要性が高い子供がいます。この場合を一次性乳糖不耐症(先天性乳糖不耐症)と言います。一次性乳糖不耐症は、小児慢性特定疾病の対象疾病とされ、「診断の手引き」に以下の診断方法が記載されています。専門用語が出てくるので続けて説明します。

A. 主要症状

  1. 新生児期あるいは乳児期において、哺乳後数時間ないし数日で著しい下痢を呈する
  2. 乳児期を過ぎても、少量の乳糖(を含む食品)の摂取により著しい下痢を呈する
  3. 下痢出現時の腹部膨満、腹鳴
  4. 反復性の痙性腹痛

B. 他の重要な臨床所見および検査所見

  1. 乳糖除去によって便性が正常化し、再摂取により腹部症状が再現する
  2. 下痢便のpH<5.5、または便Na+<70mEq/L
  3. 便中の還元糖の検出
  4. 経口乳糖負荷試験において腹部症状を呈し、血糖値の上昇が20mg/dL未満
  5. 経口乳糖負荷試験において呼気中水素濃度が20ppm以上上昇
  6. 経口ブドウ糖負荷試験では下痢を呈さず、血糖値の上昇が20mg/dL以上

※A.の1または2に該当し、3、4のいずれか、または両方を伴う。さらに、B.の1があり、2-5のうち1項目以上に該当する場合を本症とする。また、グルコース・ガラクトース吸収不全症を否定するために6の確認が望ましい。

Aは主な症状についての基準です。腹鳴(ふくめい)とはお腹がゴロゴロ鳴ること、痙性(けいせい)腹痛は差し込むような痛みのことです。

Bは検査結果についての基準です。便性が正常化するとは下痢ではない普通の便が出ることです。ほか便検査、乳糖負荷試験、呼気水素ガス濃度検査、経口ブドウ糖負荷試験の結果について基準値が決められています。

AとBを総合して一次性乳糖不耐症を診断します。

一次性乳糖不耐症は非常にまれな生まれつきの病気です。一次性乳糖不耐症を持って生まれた子供は、栄養を摂るために乳糖除去ミルクを飲み、離乳後は乳糖を含む食品を避ける必要があります。

乳糖を避けないといけないのが負担になりますが、ほかの食品から必要な栄養をとって成長することができます。

参考文献
・日本小児科学会/監, 小児慢性特定疾病-診断の手引き-, 診断と治療社, 2016