にゅうとうふたいしょう
乳糖不耐症
乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が不足することで、乳糖を十分に消化や吸収することができず、下痢などの症状が出る病気
6人の医師がチェック 110回の改訂 最終更新: 2021.11.30

乳糖不耐症の症状:腹痛・下痢など

乳糖不耐症の症状は腹痛や下痢などです。ほかの病気にも似た症状がありますが、乳製品などを食べたり飲んだりすると症状が現れることが、見分ける手がかりになります。その他の乳糖不耐症の症状とともに説明します。

1. 乳糖不耐症の症状が出るしくみ

少し詳しく、乳糖不耐症で症状が出るしくみを説明します。乳糖不耐症の症状が現れるしくみを理解するには乳糖が分解・吸収されるしくみの理解が欠かせません。そこで乳糖が分解・吸収されるしくみも合わせて解説します。

乳糖が分解・吸収されるしくみ

乳糖不耐症は、乳糖(ラクトース)を分解する酵素の働きが不足している状態です。体内で乳糖を分解している酵素はラクターゼと呼ばれる物質です。ラクターゼは主に小腸の細胞の表面にあります。乳糖はそのままでは細胞の中に入りにくいのですが、細胞表面のラクターゼの作用を受けることで分解され、吸収しやすい物質(グルコースとガラクトース)に変わります。

乳糖が分解されない場合に症状が出るしくみ

本来なら乳糖はラクターゼに分解されることで吸収されるのですが、分解されないとうまく吸収されず、腸の中に残って大腸まで送られていきます。大腸に乳糖が入ってくると、大腸にいる細菌が乳糖を分解します。それでも残る乳糖や、細菌が乳糖を分解してできた物質(短鎖脂肪酸)が多いと、それらの物質が大腸の壁から水分を引き寄せる働きをして、便の水分が多くなり、下痢になります。

こうして現れる症状は、乳糖不耐症以外の病気でも起こるものです。このため、乳糖不耐症をほかの病気と区別して診断するためには、症状そのものだけでなく、症状が出た時の状況も大切な情報になります。つまり乳糖が含まれる食品を摂取した後に症状が現れれば乳糖不耐症を強く疑うことになります。

子供の乳糖不耐症はどんな状態か

子供の乳糖不耐症でよくある原因が、急性胃腸炎などにより腸がダメージを受けることです。この場合、腸にあったラクターゼが少なくなってしまい、乳糖を分解する機能が弱くなります。

大人の乳糖不耐症はどんな状態か

乳糖不耐症は子供だけでなく大人にもあります。実は、日本人などのアジア人では90%から100%とも言われる割合で、成長とともに乳糖を分解する能力は失われていきます。このため大人の乳糖不耐症は非常に多いのですが、乳製品がなくても栄養を摂れる大人では治療が必要ない場合がほとんどです。

2. 乳糖不耐症の症状にはどんなものがあるか

乳糖不耐症によって出ることがある症状の例として、以下のものがあります。

  • 腹痛
  • 腹部膨満
  • 下痢
  • 嘔吐

乳糖を含むものを食べたり飲んだりしたあと数時間以内にこうした症状が現れることが乳糖不耐症の特徴です。

乳糖は乳製品のほか母乳にも含まれているので、授乳の時期にある赤ちゃんにとっては問題になります。つまり、乳糖不耐症がある赤ちゃんは、母乳やミルクを飲んだ時の吸収が悪くなり、栄養状態に影響が出ることがあります。そのため治療が必要になる場合もあるので、乳糖不耐症を正しく診断することが改善につながります。

ただし、言葉を覚える前の子供は症状を言い表せないので、手がかりが少なくなります。

腹痛

腹痛は乳糖不耐症では出やすい症状です。乳糖不耐症による腹痛は、乳糖を摂取してから数時間以内に現れます。腹痛の場所など、症状の様子には個人差があります。

乳糖不耐症以外にも腹痛が出る病気はとてもたくさんあります。たとえば以下の病気も子供に腹痛を起こします。

症状だけでこれらの原因を確実に見分けることはできません。ヒントとしては、たとえば腸重積では腹痛が強くなったり弱くなったりすることや血便が出ることが参考になる場合もありますが、区別しやすい症状がいつも見つかるとは限りません。腹痛の原因としては便秘など危険性の低いものが多いのですが、腹痛の持続時間が長かったりいつもと違う特徴がみられたりする場合には医療機関で診察を受けてください。

医療機関では問診、身体診察、検査などにより、さらに詳しい情報を加えて原因を探します。

腹部膨満

乳糖不耐症では腸の中で発生するガスが増えるとともに、腸の中に水分が出ていくため、お腹が膨らんで張ること(腹部膨満)も多いです。

乳糖不耐症以外の病気でも、過敏性腸症候群などで腹部膨満が現れることがあります。また腹痛・腹部膨満・嘔吐などの症状が重なっている場合、割合としては少ないですが、腸閉塞などの可能性も考えられます。症状が出たときの状況などを総合して、乳糖不耐症らしいかどうかを考えます。

下痢

乳糖不耐症では下痢が出ることも多いです。分解されなかった乳糖が腸に残っていると、身体から水分を便の中に引き寄せるように働くため、水のような下痢が出ます。

下痢を起こす病気はいろいろあります。子供の下痢の原因で多いのはウイルス性胃腸炎などです。ほかにもとてもたくさんの可能性が考えられ、原因によって治療も違います。問診や身体診察から原因を探ります。

子供が下痢になった時、脱水には特に気を付ける必要があります。以下は脱水になったときに現れやすい症状です。

  • 口の中が渇く
  • 汗が出ない
  • 体重が減る
  • ふらつく

これらの症状が出た場合には脱水になっていることも考えられます。口から水分が摂れない場合の脱水は点滴などで水分を補う必要があるので医療機関にかかる方が良いでしょう。

嘔吐

下痢や腹痛に比べると一般的ではありませんが、乳糖不耐症で吐いてしまうこともあります。ほかの症状と同様、嘔吐の原因もさまざまです。

子供は特に異常がなくても胃の中身が逆流しやすい状態(胃食道逆流症)になっている場合があるので嘔吐が病気によるものではないこともあります。一方、肥厚性幽門狭窄症という病気では生後3週間から6週間ごろの子供に噴水のような嘔吐の症状が現れます。

ほかにも考えられる原因は多く、中には治療を急ぐものもあります。

  • 元気がなくぐったりしている
  • 吐いたものに血や胆汁(緑色など色の違うもの)が混ざっている
  • お腹を押すと痛む

このような場合は特に危険な状態に陥っていることも考えられるため、医療機関で診察を受けてください。

3. 乳糖不耐症と似た症状のある病気は?

乳糖不耐症と似た症状を引き起こす原因はいくつもあります。例として以下のものについて説明します。

  • 急性胃腸炎
  • 過敏性腸症候群
  • 牛乳アレルギー
  • 食品の中の吸収されにくい物質(ソルビトールなど)
  • 薬剤
  • 先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症

こうした原因によっても乳糖不耐症と似たような症状が現れるのですが、診察や検査などを用いて見分けます。

急性胃腸炎

急性胃腸炎でも腹痛や下痢はよくある症状です。急性胃腸炎の原因となるものの種類はとても多いので、見分けるには複雑な判断が必要です。症状と食事の関係や、周りに似た症状の人がいるかなども手がかりになるので、腹痛や下痢で診察を受ける時に心当たりがあれば医師に伝えてください。

また、急性胃腸炎による下痢などに続いて一時的な乳糖不耐症が現れることもあります。このタイプの乳糖不耐症を二次性乳糖不耐症といます。二次性乳糖不耐症については、「このページ」を参考にして下さい。

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は腹痛などの症状が繰り返す病気で、下痢が目立つタイプ、便秘が目立つタイプなどに分けられます。ストレスなどが原因と考えられていて、大腸内視鏡などの検査をしても目に見える異常はありません。

過敏性腸症候群は下痢、腹痛、腹部の不快感が出やすい点で乳糖不耐症と似ています。また、消化吸収されにくい糖類を食べたり飲んだりすると症状が悪化する場合があり、乳糖によって症状が悪化する人もいます。

過敏性腸症候群と診断された場合、腹痛などの症状を楽にすることを目的に、必要に応じて食事療法や下痢止めの薬などを使います。

過敏性腸症候群についてさらに詳しく知りたい人は「このページ」も参考にして下さい。

牛乳アレルギー

牛乳アレルギーは、子供に多い食物アレルギーの中でも代表的なもののひとつです。牛乳に対して症状を現す点が乳糖不耐症と似ていますが、別の病気です。乳糖不耐症と牛乳アレルギーの違いを表に示します。

  乳糖不耐症 牛乳アレルギー
原因 乳糖 牛乳のアレルゲン
出ることのある症状 腹痛、下痢など かゆみ、蕁麻疹、嘔吐、下痢、息苦しさなど
治療 乳糖を避ける 牛乳のアレルゲンを避ける

牛乳アレルギーで下痢などが出て乳糖不耐症と紛らわしく見えることも考えられます。アレルギーを疑わせる症状としては蕁麻疹じんましん)などがあります。

牛乳アレルギーの対策として、アレルギーの原因物質(アレルゲン)を除いたミルクがあります。これは牛乳アレルギーがある乳幼児にも与えられるよう、アレルゲンを分解した製品です。

中には無乳糖食品としての許可とアレルゲン除去食品としての許可を両方得ている製品もあります。また無乳糖食品であってもアレルゲン除去食品ではないものもあります。乳糖を除くことは牛乳アレルギーの対策にはなりませんので、牛乳のアレルゲンが除かれていないものを間違って牛乳アレルギーの子供に与えないよう注意が必要です。

牛乳アレルギーがあれば、牛乳のアレルゲンを含む食品はすべて避けることが治療になります。食物アレルギーは成長とともに治る場合もありますので、医師の診察を受け、治療の計画などを相談してください。

食品の中の吸収されにくい物質(ソルビトールなど)

乳糖不耐症では分解されず腸に残っている乳糖が下痢などを引き起こします。それと似たしくみで、ソルビトールなどの吸収されにくい物質が大量に腸に入ってきても、下痢などの原因になります。ソルビトールは自然界にも存在する物質で、甘みがあり飴やガムにも使われるほか、加工食品を作る過程でも使われている身近な物質です。

問診では症状が出る前に食べたり飲んだりしたものを聞かれることがあるので、できるだけ漏らさず思い出して伝えてください。

薬剤

薬剤が副作用として腹痛や下痢を現す場合もあります。以前の持病がない子供に使われる薬の中にも、抗菌薬などで腹痛や下痢の副作用を持つものがあります。薬剤が下痢などの症状の原因になっている場合は、薬剤を中止することで症状の改善が望めます。乳糖不耐症に限らずどんな場合にも、診察を受ける時には飲んでいる薬があれば忘れず伝えてください。

先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症

乳糖不耐症と似た点のあるまれな病気に、先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症(グルコース・ガラクトース吸収不全症)があります。先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症は乳糖をうまく吸収できない点が乳糖不耐症と共通しています。先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症では砂糖やデンプンなどもうまく吸収できないことから検査で区別できます。

参考文献
・福井次矢・黒川清/監修, 「ハリソン内科学 第2版」, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2006
・UpToDate: Lactose intolerance: Clinical manifestations, diagnosis, and management.