らんそうがん
卵巣がん
卵巣にできた悪性腫瘍のこと。大きく3種類に分けられるが、上皮性卵巣がんというタイプが多い
10人の医師がチェック 124回の改訂 最終更新: 2024.05.29

卵巣がんの治療について

卵巣がんの治療では主に手術と抗がん剤が組み合わせられます。その他では放射線治療や緩和治療があります。がんの進行度に応じて、最も効果の高い治療法が選ばれます。ここではそれぞれの治療の内容について詳しく説明します。

1. 卵巣がんの治療について

卵巣がんの治療には次のものがあります。

【卵巣がんの治療法】

  • 手術
  • 抗がん剤治療
  • 放射線治療
  • 緩和治療

治療法は進行度(ステージ)に応じて、適したものが選ばれます。

早期の人は手術だけで治療が可能です。一方で、進行している人には手術後に再発予防のための抗がん剤治療が必要になります。また、卵巣がんが転移して、痛みやしびれなどがある人には症状の緩和を目的として放射線治療が行われます。加えて、身体的・精神的な苦痛に対してはステージを問わず緩和治療が有効です。

ステージと治療法の関係については「こちらのページ」を参考にしてください。

2. 手術

手術には「治療方針を決めるための手術」と「がんを取り除くための手術」があります。ここでは「手術の詳しい内容」と「手術の合併症」、「手術後の身体の変化」に分けて説明します。

手術の詳しい内容

一口に手術と言っても、内容はさまざまです。卵巣がんの手術では次のように方法がいくつかあります。

  • 試験開腹
  • 卵巣・卵管(付属器)・子宮・大網の摘出
  • リンパ節郭清
  • 他の臓器の摘出

これらの方法は組み合わせられることがあります。一度の手術で複数の方法を組み込むこともあれば、手術を数回に分けて行うこともあります。例えば、「試験開腹(治療方針を決めるための手術)」とともに「卵巣の摘出」を行うこともあれば、「試験開腹」だけを行い、数週間の抗がん剤治療後に「卵巣の摘出」を行うこともあります。卵巣がんの広がりに合わせて、手術の内容はアレンジされます。

■試験開腹

試験開腹の目的は卵巣がんの広がりを確認することです。

卵巣がんが広範囲に存在する場合は、抗がん剤治療でがんを小さくした後に手術をする方が、がんを取り除ける可能性が高くなります。画像検査(CT検査やMRI検査)でもがんの広がりは調べることができますが、それでも広がりがはっきりとわからない場合があります。がんの広がりをより詳しく調べるために、手術を行い肉眼でお腹の中が観察されます。このがんの広がりを確認するための手術を試験開腹と言います。

試験開腹では、卵巣の一部が摘出されます。取り出された卵巣を病理検査(詳しくは「こちらのページ」を参考)で詳しく調べ、抗がん剤を選ぶ際の判断材料とされます。抗がん剤治療によってがんが十分小さくなったところで、臓器の摘出を目的とした手術が行われます。 なお、施設によっては腹腔鏡を用いて試験開腹を行うことがあります。腹腔鏡手術に関しては「こちらのページ」を参考にしてください。

■卵巣・卵管(付属器)・子宮・大網の摘出

がんの手術ではがんを取りきれるかどうかが、その後の経過に影響を及ぼします。そのため、がんが広がっている可能性の高い周囲の臓器も卵巣と一緒に摘出されます。具体的には、子宮、大網(胃の外側に付着している膜)が卵巣・卵管とともに摘出されます。 子宮を膣から切り離して取り除いた後には、膣が縫い閉じられます。なお、妊娠を希望する人にはがんではない方の卵巣と子宮を残すことがありますが、「早期のがん」や「悪性度が低い」などいくつかの条件が揃っている場合に限られます。詳しくは「こちらのページ」を参考にしてください。

■リンパ節郭清(りんぱせつかくせい)

卵巣がんはリンパ節に転移をしやすいです。身体にはリンパ管という管が張り巡らされており、中にはリンパ液が流れています。リンパ節は複数のリンパ管が合流している場所で、リンパ液に入り込んだ細菌ウイルスを一時的に食い止める働きがあります。リンパ節にはがんを食い止める役割もありますが、防ぎきれないとリンパ管に乗って全身にがんが広がる可能性があります。そのため、リンパ節郭清ではがんの転移が予想されるリンパ節を可能な限り取り除きます。リンパ節郭清を行うことで、がんの取り残しがない可能性が高まります。

■他の臓器の摘出

卵巣がんが他の臓器に広がっている場合は、臓器ごとまたはその一部を摘出します。卵巣がんが広がりやすいのは直腸や膀胱、肝臓などです。複数の臓器を摘出するのは身体にとって大きな負担になります。「治療の効果」と「身体の負担」のバランスを鑑みて、臓器を摘出する範囲が決められます。

手術の合併症

手術や検査にともなって起こる身体への悪影響のことを合併症と言います。必ず起こるものではないものの、手術や検査に問題がなくても一定の確率で起こります。卵巣がんの手術では次の3つが主な合併症です。

ぞれぞれについて説明します。

■創部感染:傷の感染

手術はお腹を切って行います。お腹の傷は1週間ほどで閉じますが、その間に傷に細菌がついてしまい感染が起こる(創部感染)ことがあります。創部感染が起こると、傷が赤くなったり、痛みが出たり、が出たりします。程度にもよりますが、傷を少し開いて中に溜まった膿を出すと、よくなることが多いです。必要に応じて抗菌薬(細菌感染に効果のある薬)が使われます。

■縫合不全:臓器を縫った部位のくっつきが悪いこと

卵巣がんの手術では卵巣とともに子宮が摘出されます。子宮は膣と切り離されて、膣が縫い閉じられます。この縫い閉じた部位のくっつきが悪く穴があくことがあり、この状態を縫合不全といいます。穴が小さいと自然によくなりますが、穴が大きいと腸が穴にはまりこんで腸閉塞などの深刻な状態が起こります。穴が大きい場合は自然と閉じることは期待しにくいので、再手術が行われます。 縫合不全が起こってないかを確認するために、入院中、内診(女性器の診察)が何回か行われ、縫った膣の状態が確認されます。

腸閉塞イレウス:腸がつまる・腸の動きが悪くなる

お腹の中の手術を受けた後には、腸の動きが悪くなったり、腸がねじれてものがつまってしまうことがあります。腸の動きが悪くなることを「イレウス」と言い、腸が詰まることを「腸閉塞」と言います。腸閉塞が起きた場合は、状態に応じて、食事を止めて腸を休ませるか、再手術をします。ほとんどの人は、数日間、腸を休ませることで回復します。 腸閉塞イレウスは退院後も起こる可能性があります。消化の悪いものを食べすぎたりすると起こりやすくなるので、退院前に担当のお医者さんや管理栄養士さんと食事について相談しておくとよいです。腸閉塞イレウスについては「こちらのページ」も参考にしてください。

手術による身体の影響や注意点について

卵巣がんの手術では子宮や卵巣、リンパ節が摘出されます。その影響が手術後の身体に現れることがあります。ここでは対策も含めて説明します。

■更年期障害に似た症状が現れる

卵巣は女性ホルモンを分泌する役割があります。卵巣を摘出すると女性ホルモンが急激に減少して、更年期障害に似た症状が現れることがあります。具体的な症状は、ほてりや発汗、不眠などです。時間の経過とともによくなることが多いですが、症状が重い場合にはホルモン治療(薬でホルモンを補うこと)などが検討されます。辛い症状がある人はお医者さんに相談してください(更年期障害の詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください)。

■性行為はお医者さんに相談する

子宮と膣はつながっているので、子宮を摘出する際に膣の一部を切除することがあります。膣が性行為を行うのに十分に残っている人もいれば、十分に残っていない人もいます。膣が十分に残っていな人が性行為をすると、膣が裂けることもあるので、必ずお医者さんに相談してから性行為をするようにしてください。また、卵巣を摘出すると、膣の分泌液が減少しやすく、性交痛が起きることがあります。性交痛がある場合には性行為の回数を減らすなどの対応や工夫をパートナーと相談してください。

■足が浮腫み(むくみ)やすくなる

卵巣がんはリンパ節に転移をしやすいので、進行度に応じて、リンパ節が取り除かれます(リンパ節郭清)。リンパ節郭清の影響で足が浮腫みやすくなります。

浮腫みを和らげるには「弾性ストッキングの着用」や「足のマッサージ」が有効です。浮腫みが気になる人は担当のお医者さんに相談してください。また、浮腫がある人は、蜂窩織炎などの皮膚の病気を起こしやすくなっています。皮膚を清潔に保ったり、異常に早く気づいて対処することも大切です。(蜂窩織炎の予防については「こちらのページ」を参考にしてください。)

3. 卵巣がんの抗がん剤治療(化学療法)について

卵巣がんでは、抗がん剤治療は手術と組み合わせてよく行われます。抗がん剤治療が行われるのは次の3つの場面です。

  • 手術前
  • 手術後
  • 再発・転移した場合

それぞれで目的が異なるので、個別に説明します。なお、抗がん剤治療中に気をつけて欲しいことは「こちらのページ」にまとめてあるので、参考にしてください。

手術前の抗がん剤治療

がんの広がりが大きく、手術で取り除けないと考えられる場合は、がんを小さくする目的で抗がん剤治療が行われます。パクリタキセルカルボプラチンという2つの抗がん剤を組み合わせたTC療法が主に行われます。3週間毎に治療を行い、数回繰り返されます。治療の効果を調べるために、定期的な画像検査(CT検査やMRI検査)でがんの大きさが調べられ、がんが十分小さくなったところで、手術が検討されます。

手術後の抗がん剤治療

手術後の抗がん剤治療の目的は、再発の可能性をできるだけ小さくすることです。具体的には、TC療法(パクリタキセルとカルボプラチンによる治療)を6回程度行います。治療期間は4ヶ月から6ヶ月程度です。寛解(がんが検査で見つからなくなった状態)した後は維持療法といって、再発の可能性をできる限り下げるための抗がん剤治療が行われます。ベバシズマブ(アバスチン®)やニラパリブ(ゼジューラ®)、オラパリブ(リムパーザ®)などが用いられます。オラパリブはBRCA遺伝子変異がある人だけに使えるといった条件があります。再発の有無は画像検査で定期的に調べられます。
また、手術で卵巣がんを完全に取り除けない場合も珍しいことではありません。卵巣がんが残った場合には、進行を抑えるために抗がん剤治療が行われます。この場合の抗がん剤治療も維持療法と呼ばれ、前述と同様の治療が行われます。

再発・転移した場合の抗がん剤治療

再発や転移をしている人の抗がん剤治療の目的は、がんの進行をなるべく抑えることです。進行を防ぐとともに、がんの再発や転移による症状も和らぐことがあります。 抗がん剤の種類は主にそれ以前の治療の効果を判断材料にして決められます。カルボプラチンという薬を使った治療が終わった後、6ヶ月以上経過して再発した人には再びカルボプラチンを中心にした治療が行われます。一方、6ヶ月以内に再発した人はカルボプラチンの効果が小さいと考えられて、カルボプラチン以外の抗がん剤を中心にした治療が行われます。また、維持療法(現状を維持する治療)としてベバシズマブ(アバスチン®)やニラパリブ(ゼジューラ®)、オラパリブ(リムパーザ®)などを使う場合があります。オラパリブはBRCA遺伝子変異がある人だけに使えるといった条件があり、維持療法での適した薬は一人ひとりで異なります。

4. 卵巣がんの放射線治療について

放射線には細胞にダメージを与える力があるので、その力ががん治療に応用されています。卵巣がんでは放射線治療はがんが転移をした場合に用いられます。がんの転移によって痛みやしびれが起こっている場合、放射線を照射してがんを小さくすることで症状を和らげるのが目的です。放射線治療中にはいくつか副作用がでます。「こちらのページ」で詳しく説明しているので参考にしてください。

5. 卵巣がんの緩和治療について

「生命を脅かす病気によって生じる肉体的・心理的な苦痛を和らげる治療」のことを緩和治療と言います。かつては、終末期の治療と捉えられていましたが、今はそうではありません。緩和治療は、手術や抗がん剤治療、放射線治療と並行して、がんの進行度に関わらず行われます。例えば、「手術の痛みを和らげる治療」や「抗がん剤による吐き気を抑える治療」は緩和治療に含まれます。また、肉体的な辛さだけでなく、「がんによって起こる精神面の負担を和らげること」も緩和治療の1つです。緩和治療を上手に組み合わせることで、さまざまな苦痛が軽減され、患者さんが治療に対して前向きになれる効果も期待できます。

緩和治療についての詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。

6. 卵巣がんの治療ガイドラインについて

ガイドラインという言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれません。医療におけるガイドラインは治療の成績や安全性の向上を目的として作成されています。卵巣がんには「卵巣がん治療ガイドライン 2020 」があります。ガイドラインは過去の治療の結果や報告などを根拠にして、場面ごとの最適な治療法が記載されています。ガイドラインの内容を踏まえることで、お医者さんは効果の高い治療法を選びやすくなります。

ガイドラインには優れた面がある一方で、ガイドラインに記されている内容が実際の現場では最適ではないことがあります。例えば、検査や治療は日進月歩であり、従来よりも有効なものが見つかることがあります。進歩を反映するためにガイドラインは数年ごとに改定を重ねていますが、それでも追いつかないことがあります。その場合は、ガイドラインに記載がなくても、新しく見つかった治療が最適だと考えられます。 また、ガイドラインは患者さん一人ひとりの身体の違いを鑑みて作られている訳ではありません。身体の状態を加味すると、ガイドライン通りに治療できないことはよくあることです。ガイドラインを踏まえつつ、一人ひとりにとって最適な治療法が選択されます。

【参考文献】
・「卵巣がん治療ガイドライン2020年版」(日本婦人科腫瘍学会/編)、金原出版
・「がん診療レジデントマニュアル(第7版)」(国立がん研究センター内科レジデント/編)、医学書院、2016年
・「産婦人科研修の必修知識2016-2018」、日本産科婦人科学会、2016年
NCCN ガイドライン 卵巣がん