顎(がく)関節症が疑われた時の検査や診断方法は?
顎関節症が心配になって医療機関を受診すると、はじめは
1. 問診
問診では身体の状況や生活背景を聞かれます。身体診察を行う前に問診を行います。病気を診断する際には問診がとても重要です。
顎の痛みなどの症状があって顎関節症が疑われる時によく聞かれる質問として以下のものがあります。
- 気になる自覚症状はなにか
- いつ、なにをした時に症状が出現したか
- 最も気になる自覚症状とともに起こる症状はなにか
- どのような時に自覚症状が悪化して、どのような時に自覚症状が改善するか
- 喫煙をどの程度するか
- 飲酒をどの程度するか
- 以前に治療した病気、けが、持病はあるか
- 常用薬はあるか
アレルギー はあるか- 妊娠しているか、授乳しているか
- 精神的や肉体的なストレスを感じているか
- 就寝中に歯ぎしりを指摘されたことがあるか
問診の結果で顎関節症がどのくらい疑わしいかを判断されます。顎関節症では顎の痛みだけではなく、全身に様々な自覚症状がでることがあります。症状を受診時にうまく伝えるために、メモなどにまとめておくと良いかもしれません。伝える時は、最もつらい症状から順位をつけて説明すると伝わりやすくなります。
持病のある人や妊娠している人は、注意しなくてはならない点や使用してはならない薬がありますので必ず医療者に伝えるようにして下さい。
これらの中で大事なことについてもう少し詳しく説明します。
自覚症状についての詳細
顎関節症の代表的な自覚症状は、顎が痛むこと、口が開かないこと、あごを動かすと音がすることの3つです。代表的な自覚症状だけでなく、頭痛や耳の痛みなどの症状も同時に起こることがあります。色々な症状の中で、最もつらいものから順位をつけて説明できると、伝わりやすくなります。診察時に症状を全て伝えられるようにメモなどしておくと、よいかもしれません。
顎関節症の
顎関節症の代表的な自覚症状がある人の多くは、ものを噛んだ時や大きく口を開けた時など、顎関節を動かす動作をする時に症状が出ます。どのような時に症状を感じて、更にどのようなことをすると症状が悪化するか、もし自覚があれば伝えてください。
症状の出た時期と進行スピード
顎関節症と同様に口があかなくなる症状が出る病気として、破傷風、扁桃周囲炎、扁桃周囲膿瘍、茎状突起過長症、筋突起過形成症、耳下腺の
一般的には、
破傷風や扁桃周囲膿瘍は悪化すると鼻や口から肺につながる空気の通り道が狭くなり、窒息の可能性があります。典型的な扁桃周囲膿瘍では口が開きにくい症状の他に、のどの痛みや発熱があるため区別は容易です。
しかし、破傷風の初期で口が開きにくい以外の症状がまだ現れていない場合には、症状のみでは顎関節症と区別が難しい場合があります。通常、破傷風はケガの後に起こることや、進行すると呂律(ろれつ)が回りにくい、筋肉がピクつくなどの症状が出ることから顎関節症と区別することができます。破傷風は傷から感染して6時間以降から口が開きにくいなどの症状がでて、比較的症状の進行スピードが速い病気です。破傷風は主にケガをした人に発症しますが、目に見えないような傷から感染することもあります。口が開きにくい症状の他に、呂律が回りにくい、四肢や胴体の大きな筋肉がぴくつくなどの症状がある場合には救急科のある病院に受診してください。
以前に治療したケガや持病
顎関節症の発症に以前のケガや持病が関連することがあります。たとえば、顎や顔の骨折やケガなどは顎関節症の原因になるため、以前にケガをしたことがある場合には伝えてください。
関節に症状が起こる関節リウマチや痛風では顎関節炎を起こすことがあります。これらの病気に起こる顎関節炎は顎関節症とは治療が異なりますので、治療中の場合には医療者に伝えてください。
顎関節症は睡眠障害やうつ病のある人には比較的多く発症します。睡眠障害やうつ病で通院中の場合や、以前に治療したことがある場合には医療者に伝えてください。顎関節症そのものの治療に加えて、睡眠障害やうつ病の治療を行うことで、顎関節症の症状を改善することができるかもしれません。
顎関節症の痛みが強い場合には
精神的なストレスや肉体的なストレスの状況
顎関節症の発症には、精神的なストレスや肉体的なストレスなども関連しています。精神的なストレスがあると睡眠障害などの原因にもなり、顎関節症の症状を悪化させることがあります。最近のストレスの状態や、睡眠状態なども話せる範囲で伝えてください。
睡眠中の歯ぎしりの有無
歯ぎしりは顎関節症の原因のひとつになります。就寝中の歯ぎしりは自分ではわからないことが多いため、一緒に寝ている人がいれば、歯ぎしりがあるか予め聞いておき、受診時に伝えてください。
2. 身体診察

身体診察では医師などが見たり触れたりすることで顎関節症に特徴的な変化が現れているかを観察します。
視診
視診は医師などが患者の身体を目で見て調べる診察方法です。顎関節症では口の中の下記の部分を詳しく観察します。
- かみ合わせ
- 歯肉
- 歯
- 頬の粘膜
- 舌
顎関節症はかみ合わせと関係します。上と下の歯の中央がずれることや、噛んだ時に上の歯が下の歯の内側に入ることは、かみ合わせが悪い状態です。顎関節症ではかみ合わせが悪くなることがあり、逆にかみ合わせが悪いと顎関節症の原因にもなります。かみ合わせを診察することで、顎関節症の可能性があるかを判断するため、診察時には歯を噛んで、かみ合わせのずれがないかを調べます。
歯肉や歯を診察することで、普段の生活で常に上の歯と下の歯を接触させる癖や、上下の歯を強く噛みしめる癖があるかどうかを推測することができます。上下の歯を噛みしめる癖があると、起こりやすい口の中の状態は次の通りです。
- 歯の生え際の歯肉が腫れている
- 下の歯の内側の骨が盛り上がっている
- 歯が臼状に削れている
- 歯がギザギザに欠けている
- 頰の内側に噛み痕による線状の盛り上がりがある
- 舌の縁に歯による波型の跡がついている
上の歯と下の歯を強く噛みしめることで歯茎、周囲の骨、歯などに盛り上がりや削れが起こります。噛みしめることで口の中に常に力がかかることで、頰の内側や舌に歯型がつきます。
顎関節症に特徴的な、あごの痛み、あごを動かした時の音、口が開かないなどの症状があり、診察で歯肉や歯に強い噛みしめを行なっている様子がある場合には顎関節症の可能性が高くなります。
口の中の他にも、顎関節の周囲の腫れがないかを観察します。顎関節症と間違えやすい病気には、智歯周囲炎(ちししゅういえん)、耳下腺炎、外傷性顎関節炎などがあります。智歯は親知らずのことです。智歯周囲炎は親知らずの周りに炎症を起こして歯茎や周囲の組織が腫れる病気です。耳下腺は耳の前から下にかけてある臓器です。耳下腺のある場所は顎関節と近いため、耳下腺炎では顎関節の周りが腫れているように見えることもあります。外傷性顎関節炎はケガなどによって顎関節が炎症を起こしたものです。いずれも顎関節症と異なり、顎関節や周りの筋肉に腫れが見られます。一方、顎関節症は顎関節周囲の腫れがありません。
触診
触診では顎関節と、まわりの筋肉などの組織に痛みがないかを手で触って確認します。顎関節の触診は上下の歯を合わせない状態で、耳の前の顎関節の部分を押して、痛みがないかを確認します。
顎関節のまわりの筋肉の触診は触った時に痛みがあるかを確認します。診察する筋肉は、こめかみにある側頭筋、頬にある咬筋、首にある胸鎖乳突筋です。それぞれの筋肉を触り、痛みの有無を確認します。触られた時に痛みがある場合は医師に伝えてください。診察時に触られていない場所でも、痛みが気になる場所があれば伝えてください。
顎関節の動きの診察
視診や触診に加えて、実際に顎を動かすことで、顎関節を動かした時の音や痛みの有無、動かせる範囲の確認をします。
顎関節症の特徴的な症状である、顎を動かした時の音があるかどうかを調べます。顎を動かした時の音の種類にはクリック音とクレピタス音があります。クリック音は「カクッカクッ」という音で、クレピタス音は「ジャリジャリ」という音です。音がした時に痛みが起こるかも確認します。
顎を動かしながら主に確認することは、口を開けた時の上の歯と下の歯のずれと、痛みの有無です。その他にも下顎を左右に動かしたときや、前方に動かしたときに顎関節に痛みがあるかと、どの部分に痛みがあるかも確認します。
顎関節の動かせる範囲は口を開けられる大きさで判定します。口を開けられる大きさは、上の歯と下の歯の間の距離で表します。専門的な言い方では下記の3種類を測定します。
- 無痛開口量
- 有痛最大開口量
- 強制開口量
無痛開口量は痛みがなく開けられる口の大きさです。有痛最大開口量は痛みを我慢して手を使わないで開けられる最大の大きさ、強制開口量は医師の手で強制的に開口させた時の大きさです。無痛開口量が30mm以下の場合には開口障害と診断されます。
3. 画像検査
画像検査の目的は顎関節症と似た病気を区別することです。口が開きにくい症状は腫瘍が原因であることや、顎関節の骨が過剰に発達したため起こることもあります。問診と身体診察で顎関節症の可能性が高い場合でも、画像検査を行うことで診断をより正確に行うことができます。
X線検査(レントゲン検査)
はじめに行う検査として歯の
X線検査では放射線を使うため被曝します。しかし、被曝量は少なく健康に影響を与える恐れはほとんど無視できます。
CT検査
CT検査は身体の断面をうつし出せる画像検査です。CT検査は顎関節の骨の変形の程度を評価するために行います。

下顎骨にある出っ張りである下顎頭は、側頭骨の関節窩にはまりこんで顎関節を作っています。この下顎頭が削れたり、変形したりしていると顎関節症の一つのタイプである変形性顎関節症の診断になります。CT検査ではこの骨の状態を調べることができます。
CT検査は放射線を使うため被曝はします。しかし、短時間で行うことができ、費用が
MRI検査
MRI検査もCT検査のように身体の断面を映し出せる画像検査です。CT検査に比べてMRI検査は、顎関節の内部の構造を詳しくみることができます。顎関節症の一つのタイプである円板障害では、顎関節内にある関節円板の位置がすれることや、変形することで症状が起こります。円板障害を確定診断するためにはMRI検査が必要です。
MRI検査は磁気を利用する画像検査です。放射線を使うことはないため被曝はしません。ただし、持病によって検査を受けられない場合があります。また、大きな筒に入って検査を行いますが、画像の撮影をするために大きな音がすること、検査時間が20分-30分程度かかることから、うるさい音をずっと我慢していないといけません。費用が高いことも欠点です。
MRI検査を行うことができない可能性がある人は、体内に金属が入っている人と、閉所恐怖症の人です。MRI検査は磁気を利用するため、体内に金属が入っていると影響を受けてしまうことがあります。心臓
心臓ペースメーカーなどの製品が体内にあっても、使われている素材などによってはMRI検査を行うことができる場合もありますが、判断のためにも必ず医師に伝えて下さい。
また、MRI検査には20分程度、狭い筒の中でじっとしていなければいけません。そのため、狭いところでドキドキしたり不安を感じたりする人は事前に伝えてください。閉所恐怖症のためMRI検査を行うことができない人もいます。
4. 顎関節症の診断基準はあるのか
顎関節症の診断基準は、日本顎関節学会で決められたものがあります。診断基準では顎関節症の
顎関節症の疾患概念・診断基準
日本顎関節学会で2013年に定められた顎関節症の概念と診断基準は以下です。
<顎関節症の概念>
「顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の
<顎関節症の診断基準>
顎関節症と診断するための必要条件は
1.顎関節や咀嚼筋など(咬筋、側頭筋、内側および外側翼突筋の4筋のほかに顎二腹筋、胸鎖乳突筋を含む)の疼痛
2.関節(雑)音
3.開口障害ないし顎運動異常
のうち、少なくとも一つ以上を有すること
難しい言葉が並んでいますね。噛み砕いていうと以下のようになります。
顎関節症は3種類の主な症状を基準に診断されます。主な症状とは、「あごや周りの筋肉の痛みがある」、「あごを動かすときに音がする」、「口が開きにくい、口が大きく開かない、口を開けようとするとひっかかる、口が曲がって開く」の3種類です。顎関節症と診断されるためには、あごの痛み、顎関節雑音、開口障害もしくは顎関節の運動異常の3つのうち1つ以上の症状があることが必要条件です。
つまり、これらの症状が1つもない時は顎関節症と診断されないということです。例えば、画像検査で顎関節の骨に異常があった場合でも症状がない場合には、顎関節症とは言いません。健康な人の約3-5割に関節円板の位置異常がありますが、症状がない場合には顎関節症とは診断されません。
顎関節症のタイプは4種類に分けられます。2014年にはその個々のタイプに対して診断基準が設けられました。タイプによる違いについて次に説明します。
5. 顎関節症の分類とは
日本顎関節学会の顎関節症の病態分類によると、顎関節症の原因となる異常は、場所によって4つのタイプに分けられます。
- 咀嚼筋痛障害(そしゃくきんつうしょうがい)
- 顎関節痛障害(がくかんせつつうしょうがい)
- 顎関節円板障害(がくかんせつえんばんしょうがい)
- 復位性
- 非復位性
- 変形性顎関節症(へんけいせいがくかんせつしょう)
顎関節症の原因は1つだけではなく、2つ以上の原因が組み合わさって症状を起こしていることもあります。例えば、咀嚼筋などの筋肉に異常があるのみではなく、関節円板にも異常があり、2つの原因が合わさって口が開かなくなっている場合があります。この場合、「咀嚼筋痛障害と顎関節円板障害のある顎関節症」のように、2つ以上のタイプに当てはまるとされます。
それぞれの病気のタイプについて説明します。少し専門的になるので、難しいと感じた場合には読み飛ばしてください。理解するためには顎関節の構造について知っている必要があります。顎関節の構造については「顎関節の場所と働き」に詳しく記載してありますので、参考にしてみてください。
1. 咀嚼筋痛障害
咀嚼筋(そしゃくきん)の痛みと、痛みに伴って口の開けにくさなどの症状がでるタイプです。咀嚼筋は食べ物を噛む時に使う筋肉です。このタイプでは下顎を動かしたときに咀嚼筋の痛みがあり、動かしにくくなります。
主に痛む咀嚼筋は咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)です。咬筋は歯を噛みしめると頬で硬く触れる筋肉です。顎関節症が悪化すると顎関節の前方にある咬筋にも痛みが広がります。側頭筋は歯を噛みしめるとこめかみのあたりで硬く触れる筋肉です。顎関節症が悪化すると痛みが広がり、緊張型頭痛というタイプの頭痛になることがあります。
2. 顎関節痛障害
顎関節の痛みがあるものの、関節円板の障害や変形性顎関節症によるものを除くタイプです。痛みがあり、口を大きくあけることができませんが、関節の異常はありません。
3. 顎関節円板障害
関節円板の位置や形に異常がある場合です。顎関節症のうち最も多いタイプです。
顎関節は頭蓋骨の一部である側頭骨(そくとうこつ)と下顎骨(かがくこつ)の間にある関節です。側頭骨には関節窩(かんせつか)というくぼみがあり、関節窩の中に下顎骨の端の下顎頭(かがくとう)が収まっています。下顎頭と側頭骨の間には関節円板が乗っていて、顎関節の動きが滑らかになるように働いています。口を開ける時は、下顎頭は関節円板をクッションとして関節窩の中を回転しながら動きます。
顎関節円板障害では関節円板の位置がずれているか変形していることで症状が起こります。顎関節円板障害はさらに細かく分類でき、口を開け閉めした時に下顎頭が本来の位置に戻るかどうかで、復位性と非復位性に分けられます。
◎復位性顎関節円板障害
復位性顎関節円板障害では、口を開けた時にクリック音とともに関節円板が動いて、口を開けることができます。関節窩に位置がずれて変形した関節円板があり、それを下顎頭が越える時にクリック音がします。口を閉める時には再度クリック音とともに関節円板が動いて、もとの位置に戻ります。
◎非復位性顎関節円板障害
非復位性顎関節円板障害は、ずれた関節円板により顎関節の運動が制限され、口が一定以上開かない状態です。本来、大きく口を開けるには下顎頭が関節窩から前方に出ることが必要です。しかし、関節窩に変形してずれた関節円板があることで、下顎頭がその関節円板に邪魔されて前にでることができないため、大きく口を開けることができません。
4. 変形性顎関節症
関節を作っている骨や