がくかんせつしょう
顎関節症
口を開くときに音が鳴ったり、顎に痛みがあって口が開きにくくなる状態
11人の医師がチェック 91回の改訂 最終更新: 2023.08.21

顎(がく)関節症の原因はどんなものがあるか?

顎関節症はいろいろな原因が合わさって起こると考えられています。以前はかみ合わせのみが原因だと考えられていましたが、歯を強く食いしばることや、歯ぎしり、悪い姿勢、片方の歯で食事を噛むこと、精神的なストレスなども原因になると考えられています。一人ひとりの顎関節や筋肉の耐久性が異なるため、同じ原因があっても症状が出るかは個人差があります。顎関節症の原因を知ることで、生活の注意点がわかるので、顎関節症の予防方法や、症状を和らげる方法に役立てることができます。

1. 顎関節や筋肉の弱さの問題:解剖要因

顎関節や周囲の筋肉にさまざまな負担が積み重なり、顎関節や周囲の筋肉がその負担に耐えきれなくなると顎関節症が発症すると考えられています。もともとの構造上、顎関節や筋肉が弱い人がいます。顎関節や筋肉が弱い場合には、ほかの多くの人では症状が現れない程度の負担で、顎関節症が発症することがあります。

もともとの顎関節の構造などへの治療は難しいですが、顎関節や周囲の筋肉へかかっている負担の治療を行うことで、症状を緩和することができます。顎関節への負担になることは生活習慣の問題が多く、具体的には、上下の歯を接触させる癖や、猫背の姿勢や、片側でのみ咀嚼することなどがあります。これらの生活習慣を改善し、顎関節や周囲の筋肉への負担を軽減することで顎関節症の症状を軽くすることができます。治療については「顎関節症に対してどんな治療方法があるか」に詳しく説明していますので参考にしてください。

2. 歯並び・かみ合わせの問題:咬合要因

従来、顎関節症の主な原因は、歯並びやかみ合わせが悪いことだと考えられていました。現在では歯並び・かみ合わせは顎関節症の原因の一部と考えられています。また、かみ合わせが悪いことが原因で顎関節症が起こると考えられていますが、最近では顎関節症によってかみ合わせが悪化するという意見もあり、どちらが原因で、どちらが結果かの判断はついていません。

歯並びが悪いとかみ合わせは悪くなります。正常のかみ合わせでは、上の歯が下の歯より外側に位置し、前歯は上の歯と下の歯の真ん中が揃います。かみ合わせが悪くなると、上の歯が下の歯より内側にずれることや、前歯の真ん中が左右にずれることがあります。

かみ合わせが悪くなると、顎関節や顎関節周囲の咀嚼筋に負担がかかります。咀嚼筋とは食べ物を噛む時に使う筋肉です。かみ合わせが悪くなると下顎骨が正常の位置から横にずれます。下顎骨が横にずれると、顎関節内の構造がずれて余計な力がかかり、顎関節内にある関節円板や下顎頭に変化がおきます。また、かみ合わせが悪くなると噛む力がうまく伝わらなくなり、咀嚼筋に余計な力がかかることで、咀嚼筋の痛みや、下顎骨の位置のずれが更に悪化します。

かみ合わせは顎関節症の原因の1つなので、かみ合わせの調整や歯列矯正が顎関節症の治療に使われることもあります。ただし、治療の初めからかみ合わせの調整や歯列矯正を行うことは通常ありません。なぜなら、かみ合わせは一度調整すると戻すことが難しい不可逆的治療だからです。まずは主な原因となる生活習慣の改善や、理学療法、マウスピースによる治療などを行い、改善がなければ、かみ合わせの治療を行います。治療については「顎関節症に対してどんな治療方法があるか」に詳しく説明していますので参考にしてください。

3. 精神的ストレスの問題:精神的要因

精神的なストレス、緊張、不安なども顎関節症の原因になります。抑うつ状態や睡眠障害も顎関節症と関連があるとされています。

精神的な要因によって、無意識に歯を食いしばってしまうこと、肩、首、顔の筋肉が緊張すること、さらには睡眠中の食いしばりや歯ぎしりが出てしまうことが、顎関節症を引き起こす原因や顎関節症の症状が長引く原因になります。

4. ケガなどの問題:外傷要因

ケガで顎関節を傷つけてしまうこともあります。たとえば、顎を横か下からぶつけることも顎関節症の原因になります。下顎を横からぶつけたり殴られたりした場合には、顎関節が左右に大きくずれることで顎関節症の原因になります。下顎を下からぶつけると強く口を閉じる動作になります。強く口を閉じる動作では顎関節が強く接触するため、顎関節症の原因になります。

5. 生活習慣の問題:行動要因

何気なく行なっている生活習慣で、顎関節や周囲の筋肉に過度の負担がかかり、顎関節症につながる場合があります。一部の楽器の演奏やスポーツなども原因になります。生活習慣が原因となって、顎関節症が発症し、症状が続いている場合には、生活を見直すことなどで顎関節症を改善することができます。原因の中で心当たりのあるものがあれば、改善するような生活に変えてみてください。

ただし、原因になる習慣を完全にやめなくてはいけないというわけではありません。顎関節症の辛い時には少し休むなどの工夫を検討してみてください。

日常習慣に関連した原因

日常何気なく行なっている動作が顎関節症の原因になります。原因になる動作は下記のようなことです。

  • 上下の歯を常に接触させていること:上下歯列接触癖
  • 不良姿勢
    • 頬杖
    • 下顎を前方に突き出す姿勢
    • うつ伏せでの読書
  • 筆記用具や爪を噛むこと
  • 電話を肩に挟むこと

日常生活の中でこのような動作を行なっていないか、少し気をつけて生活をしてみてください。気づかないうちに行なっていることもあります。習慣を変えていく最初の一歩は、その動作を行なっていることに気がつくことです。動作に気をつけて生活をしてみると、意外と頻繁に行なっていることはありますので、まずはくせを意識することからはじめてみてください。

◎上下の歯を常に接触させていること:上下歯列接触癖

上下歯列接触癖は馴染みのない言葉だと思います。今この文章を読んでいるときに上下の歯は接触していますか? また、自然に唇を閉じた時に上下の歯のどこかが接触しているでしょうか? 上下のどこかの歯が接触している場合には上下歯列接触癖があります。

正常では自然に口を閉じた時には、唇が閉じていても上下の歯の間には隙間ができます。しかし、上下歯列接触癖のある場合にはどこかの歯が接触しています。この癖は顎関節症の原因の一つです。

試しに歯をぐっと食いしばってみてください。顎関節に力が入ることや、頰や側頭部の筋肉がかたくなることを感じるでしょうか。日常的にその力で食いしばり続けることはないと思います。しかし意外なことに、食いしばらなくても、上下の歯を接触させているだけで、顎関節や周囲の咀嚼筋などの筋肉に負担がかかります。顎関節症患者の半数に上下歯列接触癖があるとの報告もあります。

顎関節症は顎関節や周囲の咀嚼筋(そしゃくきん)に過度の力がかかって、顎関節内の関節円板のずれや、下顎骨の下顎頭に付着した軟骨の減少、咀嚼筋の過度の緊張などが起こることで発症します。

咀嚼筋は顎関節周囲にある筋肉で、ものを噛む時に収縮します。咀嚼筋が収縮すると下顎が上にあがり、ものを噛むことができます。咀嚼筋が緩むと下顎が下に動きます。口を閉じている時に上下の歯を接触させているだけでも、下顎を上にあげる咀嚼筋が使われています。長時間この状態が続くと筋肉に疲労が蓄積します。

さらに、顎関節の骨や関節円板も、上下の歯が接触するような位置では圧迫され負荷がかかっています。

上下歯列接触癖があると、咀嚼筋と顎関節の両方に負荷がかかるため、顎関節周囲の痛みが起きます。

上下の歯を接触させていることが多い状況は、一人で集中して作業を行う時や心理的な緊張をする時です。具体的には、パソコン操作、何かを作るなどの作業、家事、運転、テレビゲーム、携帯電話・スマホでのゲームなどの操作、勉強、読書、人との交渉、苦手な人との会話、考え事をしているときなどです。まずは日常生活の中で、上下の歯が接触していることを自覚して、気がついた時にリラックスして上の歯と下の歯を離すように心がけることで、顎関節や筋肉への負担を軽くできます。具体的な治療方法は「顎関節症に対してどんな治療方法があるか?」の「日常生活の改善」の部分を参考にしてください。

参考文献
・Sato F, et al. Teeth contacting habit as a contributing factor to chronic pain in patients with temporomandibular disorders. J Med Dent Sci. 2006 Jun;53(2):103-9.

◎不良姿勢

いつも何気なくとっている姿勢も顎関節症の原因になります。原因になりやすい姿勢は以下の通りです。

  • 前屈姿勢(猫背など)
  • 頬杖

猫背で頭が前方に出ている前屈姿勢や、ややうつむくような姿勢は、咀嚼筋や首の筋肉に負荷がかかり筋肉がこわばります。具体的にはデスクワークや、パソコン、携帯電話の操作などです。

前屈姿勢では、舌の位置が前のほうに動いて上の前歯に触れるようになります。前歯が舌側から押されると、緊張性歯根膜咬筋反射(きんちょうせいしこんまくこうきんはんしゃ)と呼ばれる反射が起き、頰の筋肉である咬筋の持続的な収縮が起こることが知られています。咬筋の持続的な収縮が起こると上下の歯の接触が持続する上下歯列接触癖にもつながります。

集中や緊張した状態などから上下の歯列が接触するようになりますが、前屈姿勢などの悪い姿勢によっても上下の歯列が接触し続けるようになります。

逆に過度に後ろに反った後屈姿勢も咬筋や胸鎖乳突筋がこわばります。

頬杖は下顎が片側に押されて顎関節と筋肉に負担がかかります。

◎筆記用具や爪を噛むこと

爪噛みや筆記用具を噛んだりする癖があり、常に噛む動作をしている場合も顎関節と咀嚼筋に過度の負担がかかります。咀嚼筋の収縮が繰り返し起きることで、筋肉の痛みの原因になります。

◎電話を肩に挟むこと

電話をしながらメモを取る時やパソコンの操作をする時に肩に電話を挟んでいることがあると思います。この姿勢は片側の顎関節や咀嚼筋に負担がかかります。

食事に関連した原因

食事に関係した生活習慣のうち、顎関節症の原因になるものは以下の通りです。

  • 片側で噛むこと(偏咀嚼:へんそしゃく)
  • 横を向いた姿勢で噛むこと
  • ガムを常に噛むこと
  • 極端に柔らかいもの、硬いものを好んで食べること

いつも同じ側で食事を噛むことや、横を向いて噛むことで、片方の顎関節や咀嚼筋に負担がかかります。横を向いて噛む例としては、テレビのある方を向いての食事などがあります。ずっと同じ側で噛んだり、同じ方向を向いて噛んだりしていると、顎関節や周囲の筋肉の発達に左右差が出て、エラの張りに左右差がでることや顔が歪むことがあります。

ガムを常に噛んでいる場合や、硬い食べ物を好んで食べる場合には顎関節や咀嚼筋をよく使います。咀嚼筋の収縮が繰り返し起きることで、筋肉の痛みの原因になります。

逆に極端に柔らかいものばかり食べている場合にも顎関節の筋肉が発達しないため、顎関節周りの脆弱性につながり顎関節症になりやすくなります。

睡眠に関連した原因

睡眠に関連した原因では歯ぎしりを思いつく人が多いかもしれません。歯ぎしりとともに睡眠に関連した原因として下記のものがあります。

  • 睡眠時の歯ぎしり、食いしばり
  • うつ伏せ寝
  • 高い枕や硬い枕の使用
  • 腕枕
  • 睡眠不足

歯ぎしりでは咀嚼筋の収縮が繰り返し起きます。正常でも寝ている時には口をモグモグ動かすような咀嚼筋の収縮活動が起きます。しかし、咀嚼筋の収縮が過剰になると歯ぎしりの音をともない顎関節症の原因になります。歯ぎしりが過剰になる原因はまだ明らかではありませんが、睡眠時無呼吸や、胃食道逆流、抗うつ薬の内服、アルコールやカフェインの摂取などが関連するのではないかと言われています。夜間に歯ぎしりや食いしばりがある場合は、朝に顎関節や耳の痛みが出ることがあります。

うつ伏せで寝る場合はどちらかの顎が下になっています。下顎が一方向に押されるため、顎関節や筋肉に負担がかかります。特に決まってどちらかの側を向いて寝る癖がある場合には、負担が大きくなります。

高い枕や硬い枕では下顎が前に押し出されるような姿勢になることが多く、顎関節のズレが起こることや、咀嚼筋の収縮が過度に起こることがあります。腕枕も顎関節周りの筋肉に負担がかかり、顎関節症の原因になることがあります。

睡眠不足はストレスや疲れなどで、食いしばりの原因になることがあります。

スポーツに関連した原因

ラクビーや、ボクシングなどの頭部の接触が多いスポーツでは顎関節がずれることがあります。球技全般や、ウインタースポーツなども顎関節症の原因になります。なぜなら、スポーツを行う時にはつい集中して、歯を噛み締めてしまうからです。スキューバダイビングは常に酸素ボンベをくわえておく必要があり顎関節や咀嚼筋に負担がかかります。

楽器演奏に関連した原因

吹奏楽器では演奏する時に口周りの筋肉を使うことで顎関節症の原因になることがあります。声楽やカラオケなどの歌唱や、演劇などの発声練習でも口の開閉をよく行うことから、顎関節症の原因になることがあります。

社会生活に関連した原因

仕事などに関連した動作や状況が原因になることもあります。

  • 緊張が続く作業
  • パソコンでの作業
  • 精密なことを扱う作業
  • 重いものの運搬
  • 人間関係での緊張

緊張した時や集中して作業する時は、上下歯列接触癖が出てしまうことが多く顎関節症の原因となります。重いものの運搬時にはくいしばることがあるため顎関節症の原因になります。