がくかんせつしょう
顎関節症
口を開くときに音が鳴ったり、顎に痛みがあって口が開きにくくなる状態
11人の医師がチェック 91回の改訂 最終更新: 2023.08.21

顎(がく)関節症に対してどんな治療方法があるか?

顎関節症の治療は顎関節症の原因を取り除き、症状を和らげて噛む機能の改善をはかります。上下の歯をくいしばる動作、前屈姿勢、片側で噛む癖などは顎関節症の原因になるため是正します。また、痛みがあると筋肉がこわばりさらに痛みを増すので、この悪循環を防ぐように、痛みがひいてからは顎関節の運動を行います。マウスピース治療も合わせて行います。治らない場合には手術治療も検討します。ここでは、顎関節症の治療方法とあわせて、受診すべき科や治療期間などについても説明します。

1. 顎関節症は何科の病院を受診すればいいのか

顎関節症の診断や治療に最も適した科は歯科や口腔外科などです。歯科も口腔外科も歯科医が診療を行います。歯科と口腔外科の違いは口腔外科では手術などの治療を行う点です。

顎関節症かもしれないと思った時は、かかりつけの歯科がある場合には、まずその医院に受診してみてください。医院で検査や診断、治療が可能です。しかし、なかなか症状が改善しない場合や外科的な治療が必要と判断された場合には、総合病院や大学病院の口腔外科への紹介受診を勧められます。

顎関節症ではあごの痛みなどのあごの周囲の症状だけではなく、頭痛や肩こり、耳痛など身体のさまざまなところに症状が現れます。あご以外の症状が強い場合には顎関節症とは思いつかずに、はじめに内科や脳神経外科、整形外科、耳鼻咽喉科(耳鼻科)に受診する人もいるかもしれません。診察や検査の結果、脳や耳などに痛みの原因となるものが見つからない場合には、顎関節症の疑いがあると言われるかもしれません。その場合は、歯科への紹介もしくは、かかりつけ歯科への相談を検討してみて下さい。

歯科口腔外科(歯医者)でできる治療には何がある?

歯科や口腔外科では顎関節症の診断、検査から治療まで行うことが可能です。顎関節症にはいくつかタイプがあり、タイプによって行う治療が異なります。

歯科と口腔外科では設備が異なるため、行うことができる検査や治療が異なります。一般的には口腔外科では齲歯虫歯)などの歯科治療よりも、難しい抜歯や外科的治療などを行うことが多いです。歯科で行うことができない検査や治療が必要な場合には大きな医療機関の口腔外科に紹介されます。まずはかかりつけ歯科などの、一般の歯科医院に受診してください。

顎関節症の検査のうち、X線検査CT検査は一般の歯科でも行うことができますが、MRI検査は一般歯科ではできないことが多いです。MRI検査が必要と判断された場合には、検査のため大きな医療機関を紹介されることがあります。

顎関節症の治療はまず保存的な治療である、生活習慣の改善や理学療法を行い、改善が難しい場合にはマウスピース(スプリント)を利用する治療などを行います。詳しい治療の説明は後述してありますので、参考にしてください。歯科の設備によって行うことができる治療が異なります。歯科での保存的な治療で症状が改善しない場合は、外科的な治療である顎関節の関節内治療や手術を検討することがあります。一般的に関節内治療などが必要になった場合には、大きな医療機関の口腔外科を紹介されます。

整骨院や整体でできる治療には何がある?

整骨院や整体でできる治療は、顎関節症の原因と考えられる悪い姿勢の矯正や、顎関節症の症状を和らげるために、顎から首、肩にかけての筋肉をほぐす治療です。顎関節症に効果があるというツボはありませんが、顎関節症でかたくなった筋肉をほぐす効果があるかもしれません。

整骨院(接骨院)と整体は同じに思えるかもしれませんが異なります。整骨院は国家資格である柔道整復師が骨折、脱臼、打撲捻挫などに対して処置や施術を行います。一方、整体を行うには国家資格は必要ありません。整体ではアメリカで発祥したカイロプラクティックなどの技術や、日本の指圧の技術などが使われています。

整骨院でも整体でも技術的には姿勢の矯正や筋肉をほぐすことはできます。整骨院と整体で異なる点は、整骨院では国家資格を持った柔道整復師が施術することと、主に保険での施術を行うことです。整骨院での顎関節症に対する施術は、病状によって保険での施術ができる場合とできない場合があります。整体ではもともと保険での施術はできないので、実費での施術になります。

2. 日常生活の改善

顎関節症では日常生活の改善が重要な治療です。痛みが強い時期には顎関節に負担をかけないように顎関節を安静にする治療を行います。痛みが落ち着いてきたら日常生活において、顎関節症の原因になることを改善します。顎関節症の発症や症状の持続に日常生活の習慣が大きな要因になります。症状の原因となる日常生活を改善しないと、いったん症状が落ち着いても再燃したり、悪化する可能性があります。後述する理学療法やスプリント治療などとあわせて、日常生活の改善を行うことが重要です。

顎関節の安静

顎関節症で痛みが強い場合には、まずは顎関節を安静にして痛みを取ることが重要です。顎関節に負担をかけないように、少しの咀嚼ですむ柔らかい食事にします。大きく口を開けると症状が悪化することがあるので注意してください。

生活習慣の改善

顎関節症の原因にはさまざまな生活習慣が関係します。例えば、パソコンの使用中の悪い姿勢や、携帯電話やスマートフォンの長時間操作、頬杖、うつ伏せ寝などが顎関節症の原因になります。原因について詳しくは「顎関節症の原因にはどんなものがあるか?」を見てください。

原因となる生活習慣の中で心当たりのあるものがあれば、改善するような生活に変えることで顎関節症の緩和につながります。主なものを下にあげます。

  • 日常習慣の改善
    • 上下歯列接触癖の改善
    • 姿勢の改善
    • 仕事量の調整
  • 食事習慣の改善
    • 片側の歯で咀嚼すること(偏咀嚼)の改善
  • 睡眠習慣の改善
    • うつ伏せ寝の改善
    • 十分な睡眠をとること

顎関節症で顎関節痛がある患者に最も多い日常生活の要因は偏咀嚼です。そのほか、姿勢の悪さ、多忙な仕事、上下歯列接触癖、睡眠不足、歯ぎしりも要因となります。この中で歯ぎしり以外は改善が望める項目です。改善方法について説明します。

◎日常習慣の改善

1.上下歯列接触癖の改善

上下歯列接触癖とは自然に唇を閉じた時に上下の歯のどこかが接触していることです。正常では自然に唇を閉じた時には、上下の歯の間には隙間ができます。正常の人では歯を接触させる時間は1日あたり17分しかありません。

上下の歯が常に接触していると口を閉じるための咀嚼筋が常に活動している状態なので、咀嚼筋の疲労が起こりやすく顎関節症の原因になると考えられています。

改善するためには、はじめに上下歯列接触癖が顎関節症の原因になっていることを、意識するようにしてください。そして日常生活の中で上下の歯が接触しているかを、意識して気がつくようにします。上下の歯が接触しやすいのは下記のような場面です。

  • 緊張する場面
  • うつむく姿勢をとる場面
    •  勉強
    •  読書
    •  携帯電話やスマートフォンの操作時
  • 集中する場面
    •  パソコンを使用するとき
    •  何かを製作するとき
    •  精密作業をするとき
    •  家事をするとき
    •  車を運転するとき
    •  ゲームをしているとき

上下の歯が接触しやすいのは、緊張する場面、うつむく姿勢をとる場面、集中する場面です。集中する場面は、一人でもくもくと操作をする場面が多いです。

上下の歯の接触は多くの場合、気づかずに行なっているため、まずはその癖に気がつくことが治療のはじめの一歩です。上下の歯の接触を行なっていることに意識を向けるために、上下の歯の接触が起こりやすい場所に、付箋などに「歯の接触に注意」などと書いてリマインダーとして貼っておくのもよい方法です。例えば机の前や、パソコンの画面、台所などです。

日常生活で上下の歯列が接触していると気がついた場合には、身体の力を抜くようにします。意識的に歯を離すように生活することはおすすめできません。歯を離すことに注力して今度は口を開ける筋肉の疲労につながるからです。

身体の力を抜く方法は各自工夫をしてみてください。腹式呼吸など、自分に合った方法を見つけてストレスを減らすことができれば、上下の歯列接触癖の頻度を減らすことができますので、よければ試してみてください。

2.姿勢の改善

猫背や前屈姿勢は顎関節周囲の筋肉の負担になり、上下の歯を接触させ続ける反射にもつながります。前屈して歯を舌側から押すような動作を取ると、歯を噛みしめる咬筋が反射的に収縮することが知られています。この反射は緊張性歯根膜咬筋反射(きんちょうせいしこんまくこうきんはんしゃ)と呼ばれます。悪い姿勢はこの反射を起こします。

パソコンや携帯電話の操作中は前屈姿勢になりやすいので、姿勢を正すようにこころがけてみてください。

3.仕事量の調整

仕事が忙しくなると、緊張し集中して仕事をすることが多くなります。すると口の周りに力が入り、上下歯列を接触させる頻度が多くなります。できる範囲で仕事量を調整し、適宜、休養をとることなども身体には重要です。

◎食事習慣の改善

顎関節症の原因になる食事習慣で多いのは偏咀嚼(へんそしゃく)です。片側の歯で咀嚼している場合には、噛んでいる方の口周りのシワが強い場合や、咬筋が発達してエラが張っている場合があります。片側のみで噛んでいると片側の顎関節のみに負担がかかって、顎関節症の原因になります。偏咀嚼をやめて、両側の歯で噛んで食べるように心がけて下さい。

◎睡眠習慣の改善

1.うつぶせ寝の改善

うつぶせで寝るとどちらかの顎が下になります。下になった側の顎が一方向に押されるため、顎関節や筋肉に負担がかかります。特にどちらかの側を向いて寝る癖がある場合には、負担が大きくなりますので、注意してください。

2.十分な睡眠をとる

睡眠不足はストレスの増加につながります。ストレスが多くなると、日中の食いしばりや上下歯列接触癖にもつながります。ストレスを減らすには、仕事量の調整や、精神的要因も関連しますが、睡眠時間を十分量確保することも重要です。

精神的要因(ストレス)の管理

精神的なストレス、緊張、不安なども顎関節症の原因になります。精神的な要因があると、日中の上下歯列接触癖の回数が増えます。ストレスをなくすることは難しい時代ではありますが、短時間でできるリラックス方法や、短時間でできる好きなことを増やして息抜きにしてみてください。

3. 薬物治療

薬物治療では主に痛み止めを使います。日常生活での顎関節症の痛みを緩和する目的と、運動療法を行うときに痛みを軽減する目的で使います。顎関節症の保険適応がある薬は痛み止めのみです。顎関節症に加えて症状がある場合には、筋肉のこわばりに対して筋弛緩薬が使われる場合や、顎関節症の原因として抑うつ状態がある時や顎関節症が長引いて不安などが強い場合には、抗うつ薬や抗不安薬を使う場合があります。精神的な不安などが体の緊張を引き起こし、顎関節症の症状を長引かせる原因になるからです。

顎関節症に対する薬物で大規模な研究ではっきりと顎関節症への効果がわかっているものはありませんが、いずれも症状に応じて使用しています。

痛み止め:消炎鎮痛薬

顎関節症の痛みが強い場合には痛み止めを使用します。その他にも運動療法を行う時の痛みを軽減する目的で使います。運動療法には痛みが伴うため、痛みが強いと動かせる範囲が狭く、効果的な運動療法が行うことができないことがあります。痛み止めを使用することで十分に顎関節を動かすことができます。

日本顎関節学会のガイドラインでの痛み止めの使用方法は、痛みがある時に飲むのではなく、決まった時間に消炎鎮痛薬を使うことを勧めています。7日以上連続して使用することは避け、副作用に注意するようにも記載されています。

顎関節症に対して使用可能な消炎鎮痛薬は下記の通りです(一部は顎関節症の効能・効果を添付文書上では承認されていませんが、厚生労働省の通達により保険で使うことを認められています)。

  • インドメタシン(インテバン®️SP)
  • アンフェナクナトリウム(フェナゾックス®️)
  • ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン®️)
  • ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®️)
  • ナプロキセン(ナイキサン®️)

これらの消炎鎮痛薬は胃もたれや胃潰瘍の副作用があるため、長期間の使用には注意が必要です。また、気管支喘息発作を誘発することがありますので、気管支喘息がある方は医師に必ず伝えてください。

4. 理学療法

理学療法には物理療法と運動療法があります。物理療法は温熱や電気などの物理的手段を用いて症状の緩和を行う治療方法です。運動療法は筋肉や関節を良く使うことで運動の機能を維持、改善する治療方法です。

顎関節症では物理療法と運動療法を組み合わせて行います。それぞれの目的は物理療法はこわばった顎関節周囲の筋肉をほぐすことで、運動療法は関節を動かす機能を改善することです。物理療法を運動療法の前に行うことで、筋肉がほぐれて効果的な運動療法を行うことができます。

物理療法

物理療法は熱や電気刺激などの物理的なエネルギーを利用して身体の痛みや、筋肉や関節の症状をとる治療方法です。物理療法で顎関節症を完治させることは難しいですが、痛みを緩和すとともに、筋肉をほぐして運動療法を行いやすくします。

◎寒冷療法

寒冷療法は顎関節症になったばかりで痛みが強い場合に行います。痛みのある部分やその周囲を冷湿布などで冷やすことで痛みの軽減をしたり、炎症を抑えたりします。

◎温熱療法

温熱療法では痛みのある部分の筋肉を温めることで、筋肉の血流を改善して、筋肉の緊張をほぐすことができます。温めることで精神的なリラックス効果もあります。温湿布、蒸しタオル、ホットパックなどで痛みのある部分や筋肉を温めます。入浴をしながら筋肉をほぐすことも効果的です。

◎電気刺激

電気刺激はマイオモニターや低周波治療器と呼ばれる電気がでる機械を用いて筋肉をほぐす方法です。運動療法の前に行うことで、筋肉がほぐれて痛みを軽減することができ、運動療法を効果的に行うことができます。

運動療法

顎関節症に対しての運動療法は筋肉や関節を良く使うことで、運動の機能を維持し改善する治療方法です。数日前からの顎関節痛などの急性期の場合は、まずは顎関節を使用しないように安静にし、2週間程度たって強い痛みの症状が落ち着いてきてから運動療法を行います。

顎関節症の痛みで顎関節を動かさなくなると、筋肉のこわばりが悪化して更に痛みが悪化するという悪循環になります。

運動療法ではこわばっている筋肉を動かすため痛みが伴います。しかし、痛みがあるからと言って動かさないと症状が悪化します。痛みを和らげて効果的に治療を行うために、事前に物理療法で筋肉をほぐす治療や、運動療法の前に痛み止めを使う薬物治療をあわせて行うことがあります。

日本顎関節学会による「顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン」では、顎関節円板のズレによる顎関節症で開口障害がある場合には、患者さん本人が自分の手を使ってストレッチのような開口訓練を行うことは、弱いながらも推奨されています。運動療法を行うことで日常生活の顎関節の痛みが悪化する場合には運動療法は中止します。

自分で行うことのできる割り箸を用いた治療方法などがインターネットには紹介されていますが、開口訓練は正しい方法で行うことが必要ですので、はじめから自分で行うのではなく歯科で方法を聞いてみてください。

具体的な運動療法の一例を説明します。これ以外にもさまざまな方法がありますので、歯科で指導してもらって自分に合う運動療法を行ってください。

◎咀嚼筋をほぐす運動

痛みを伴わない程度で顎関節を動かす運動を行います。痛みがない程度に口を開けたり閉じたりの運動を10回程度行います。

◎開口範囲を広げる運動

この運動は顎関節の動く範囲を広げ、咀嚼筋を引き伸ばすことで、顎関節を動きやすくする効果があります。関節雑音を伴う場合も伴わない場合も行って良い運動です。

実際の方法は、痛みに耐えられる程度でできるだけ大きく口を開けます。全く痛くない範囲で行っても訓練の効果が上がらないため、痛みを我慢できる範囲で行います。

手の指3本を下顎の前歯に当てて、痛みを感じるまでゆっくりと下方に押し下げます。押し下げた状態を30秒から1分程度維持します。

3-4回を1セットとし、1日3-4セットずつ行います。

◎咀嚼筋を鍛える運動

顎関節症で開口障害が長期間つづいた場合に勧められる運動です。開口障害が長期間になると、咀嚼筋の筋力が低下するため、咀嚼時にすぐ顎が疲れることがあります。この運動は咀嚼筋に負荷をかけて鍛え、疲れにくくするために行います。

手の指3本を下顎の前歯に当てて、ゆっくりと下方に押し下げます。その力に拮抗するように口を閉じるようにします。その状態を30秒から1分程度維持します。これを3-4回行います。

5. マウスピース治療(スプリント治療)

顎関節症に対して広く歯科で行われている治療がマウスピースを用いた治療方法です。顎関節症治療用マウスピースはスプリントと呼びます。

スプリントは上の歯を覆うようにはめ込む透明の器具です。スプリントは大きく分けて2種類あり、適切なかみ合わせを行う目的のものと、下顎頭や関節円板を正しい位置に戻す目的のものがあります。顎関節症の症状や歯の状態に応じて適切な種類のもので治療を行います。

スプリントの装着期間は長くても6ヶ月以内にしたほうがいいと言われています。なぜなら、長期間の使用によって歯並びに変化がでてかみ合わせがむしろ悪化することがあるからです。スプリント治療を2ヶ月程度試して、症状に全く変化がない場合はその時点で使用を中止します。いつまでスプリントを続けてみるかという期間については意見が統一されていません。

顎関節症の治療でスプリント治療は広く行われていますが、スプリント治療のみではなく日常生活の改善や運動療法を合わせて行うことが勧められます。

顎関節症のスプリントは保険診療で作成することができ、3割負担の場合には5,000円程度です。

歯並びの悪さが顎関節症に影響していると考える場合には矯正治療も検討します。歯列矯正はかみ合わせに影響する治療方法ですので、まずはスプリント治療などの保存的な治療を行い、改善しない場合には矯正治療を検討します。

6. 外科的治療(手術など)

顎関節症の治療は以上の保存治療を中心としますが、さまざまな保存治療を行った後にも症状が軽快しない場合には外科的治療を行います。保存治療だけで改善する場合が多く、外科的治療を必要とする割合は少ないです。外科的治療は一般の歯科で行うことが難しく口腔外科で行います。外科的治療には関節内治療、内視鏡治療、外切開での治療があります。

関節内治療は局所麻酔で行います。内視鏡治療や外切開での治療は全身麻酔で行うため、入院が必要です。

以下では外科的治療の方法とどのような時に行う治療なのかを説明します。

関節内治療

◎徒手的円板整復術

顎関節症のうち顎関節内の関節円板がずれて開口できなくなった、非復位性円板障害に対して主に行う治療です。このタイプの顎関節症は関節円板が関節内で前方に動き、その関節円板に引っかかって、一定以上は開口できなくなります。徒手的円板整復術は開口ができなくなってから2週間以内の場合に行います。

開口障害の原因は関節円板が顎関節の前方に動いたことです。徒手的円板整復術は手を用いてずれた関節円板を正しい位置に整える治療方法です。全身麻酔を必要とせず、外来で行うことができます。

徒手的円板整復術の方法を大まかに説明します。

顎関節は下顎骨が頭蓋骨の一部の側頭骨にはまり込んでできています。顎関節は大きく顎関節包で包まれ、内部の顎関節腔には関節液が入っています。

徒手的円板整復術では、まず耳の前あたりから顎関節腔内に注射針を刺して顎関節腔内に麻酔を行ないます。使用する麻酔薬は歯科で歯を削る時に使用するものと同じです。麻酔薬を注入することで痛みが軽減するとともに、注入した液体分だけ顎関節のスペースが広くなることで動きやすくなり、手での整復がしやすくなります。整復には下顎の奥の部分を手で持ちながら、前下方に引っ張ります。うまく整復されると口が開く様になります。

◎関節腔洗浄療法

開口時に一定のところまで開口すると、それ以上口が開かない場合や、顎関節の骨の変形などがある場合に行う治療です。全身麻酔を必要とせず、外来で行うことができます。

顎関節症で関節内に炎症が起こると、顎関節の中に炎症を持続させる物質がたまります。その物質を洗い流して炎症をとる方法です。

まず耳の前あたりから顎関節腔内に注射針を刺して顎関節腔内に麻酔を行ないます。その後に顎の関節の表面から2本の針を刺して、片方から生理食塩水を流して、もう一方から液体を排出させます。

内視鏡手術

内視鏡手術は全身麻酔で皮膚に小さな穴をあけて、顎関節内を顎関節鏡で観察しながら、関節円板や関節の周囲を整復する手術です。さまざまな保存治療や関節内治療を行なっても症状が改善しない場合にはじめて手術を検討します。顎関節内の状態によって行う手術が異なります。

◎顎関節鏡下授動術(じゅどうじゅつ)

顎関節鏡を見ながら顎関節内で動かなくなってしまっている関節円板を剥がして正常な位置に戻す方法です。

◎顎関節鏡下円板固定術(えんばんこていじゅつ)

顎関節鏡を見ながら顎関節内で正常の位置より、前方の位置で動かなくなってしまっている関節円板を正常な位置に戻します。戻した後に、正常の位置から動かないように縫って固定する方法です。

◎顎関節鏡下形成術

顎関節鏡を見ながら、顎関節を作っている骨の変形を整える方法です。顎関節は頭蓋骨の一部である側頭骨(そくとうこつ)と下顎骨(かがくこつ)が隣り合っている部分にあります。側頭骨の関節窩(かんせつか)という凹みに、下顎骨にある出っ張りである下顎頭(かがくとう)がはまりこんで顎関節を作っています。顎関節鏡下形成術は側頭骨の関節窩をきれいに整える手術です。

◎顎関節鏡下円板整位術(えんばんせいいじゅつ)

顎関節鏡を見ながら顎関節内で変形してしまった関節円板を取り除いてしまう方法です。

関節開放手術

関節開放手術は全身麻酔で皮膚を切開して、顎関節を切り開けて関節を操作する治療方法です。今までの治療の中で、最も顎関節の負担や全身の負担が大きい治療であるため、さまざまな治療方法を行っても改善しない場合に検討します。

手術は変形や癒着を起こした関節円板をはがして、もともとの位置に移動させたり、関節円板を取り除いたりします。顎関節を構成する骨をきれいに整えることもあります。

関節開放手術は他の治療方法よりも顎関節への負担が大きく、適切に術後治療を行わなければ、顎関節の癒着を起こして口が開きにくい状態になってしまいます。術後3−4ヶ月は軟らかい食事の摂取、運動療法、マウスピースでの治療が必要です。

7. 顎関節症の治療費はどれくらい?:マウスピースの値段や、手術の費用など

顎関節症の診療は基本的には保険適用になります。治療費用は行う治療によって大きく異なります。

3割負担の場合にはマウスピースを作ると5,000円程度を支払うことになります。手術は行う方法により3万円程度から12万円程度まで幅があります。

治療にかかる費用が高額になった場合には「高額療養費制度」が利用できることがあります。高額療養費制度は、1ヶ月に支払った医療費が一定額を超えた場合に、超えた分の費用を返還してくれる制度です。自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なります。

支給までには通常数か月程度かかります。ただし、治療前に健保組合などの加入している公的保険の窓口で「限度額適用認定証」をもらっておくと、医療機関での治療費の支払いは、初めから自己負担額の上限額までになります。
高額療養費制度について詳しくは厚生労働省のウェブサイトやこちらの「コラム」による説明を参考にしてください。

8. 顎関節症が悪化した時の治療はどうすればいい?

数日前から顎関節の痛みが急激に悪化した場合は、まずは顎関節の安静を行います。具体的には硬いものを食べることをやめて、たくさんの咀嚼が必要ない柔らかいものを食べます。痛みがある場合には歯科に受診して痛み止めを処方してもらえます。痛みのある部分を冷やす寒冷療法も効果的です。湿布やアイスパックなどを使って冷やしてください。

口が指1本分しか開かないなどの開口障害の時は歯科を受診してください。痛みが強い場合には上記と同様にまずは顎関節の安静を行います。口が開かなくなってから2週間以内の場合には、顎関節の関節円板を正しい位置に戻すように徒手的円板整復術などを行う場合もあります。その後は、日常生活の改善や運動療法などで徐々に症状を和らげます。

9. 顎関節症を放置するとどうなる?

顎関節症を放置した場合でも多くの場合は、強い症状が長期間続くことはなく、徐々に軽快します。時間とともに症状は改善して自然に治る病気と考えられています。

ただし、なかには2年以上治らない場合もあります。2年以上症状が続く場合には、病気に対しての不安から抑うつ状態となり、精神的な要因が重なることで更に治りにくくなると考えられています。

顎関節症の症状として、開口障害が長く続いた場合には咀嚼筋を使わなくなるため、顎関節症が治った後に咀嚼するとすぐ顎が疲れるようになることもあります。運動療法で咀嚼筋を使うことで徐々に改善しますが、開口障害を長引かせないように、早めに治療を行うことも意味があります。

顎関節症を放置しても治ることが多いですが、症状を長引かせないように、原因となる日常生活の改善などを少しだけでも、心がけると良いかもしれません。

10. 顎関節症は治るのか?

顎関節症は症状がどんどん悪化することはなく自然に治る病気と考えられています。たとえば顎関節症の患者数と年齢の推移を見た研究では、20歳代が最も多いのですが、年齢が上がるにつれて患者数が減ります。つまり時間とともに多くの人の症状は改善しているということです。

顎関節症になってから、2年未満では、ほぼ治ることが多いですが、2年以上顎関節症の症状がある場合には治りにくいと言われています。顎関節症にかかっている期間が長くなると、不安や神経症、うつ傾向を伴うため、治りにくくなることがあります。

参考文献
・中村 康典, 他, 当科における過去10年間の顎関節症患者の後ろ向き調査による臨床統計的検討, 日顎誌2012;24:22-27

顎関節症の治療期間

顎関節症の治療期間は病状によって異なります。病悩期間は半年から1年の人が最多です。2年以上にわたって治療が必要な場合もあります。

運動療法などの治療だけではなく原因の除去も重要です。顎関節症の発症の原因や、症状を長引かせている原因には日常生活が関係していることもあります。原因に気がついて、改善するようにすることで治療期間の短縮につながるかもしれません。

11. 顎関節症の名医はいるのか?

名医の基準はそれぞれ異なると思います。歯科や口腔外科の中には、顎関節症の患者さんを多くみている医師もいます。経験が多いという点では名医なのかもしれません。しかし、その医師が自分と相性がいいかは、人それぞれではないでしょうか。

通いやすい場所であること、話しやすい雰囲気であること、わかりやすい説明をしてくれること、最先端の知識や技術があることなどの条件の中から、自分が重要だと思う要素を備えている医師を選んでください。そして自分と相性のいい医師をみつけたならば、なんでも相談して信頼関係を築いていくことが治療をすすめるうえで重要だと思います。