ねっしょう
熱傷(やけど)
皮膚や粘膜が熱などの刺激により損傷を受けた状態。損傷の深さによっては皮膚移植などの手術が必要になることもある。
14人の医師がチェック 127回の改訂 最終更新: 2023.07.30

熱傷(やけど)の治療について:塗り薬、被覆材、外科治療など

ごく浅い熱傷であれば自然に治るので特別な治療は必要ありません。表皮より深いところまで及ぶ熱傷によく使われるのが、塗り薬です。炎症を抑えたり、感染を防いだりする効果があるものが使われます。また、ドレッシング材と呼ばれる傷を覆う素材による保湿が有効なことがあります。重症の熱傷では脱水症を防ぐ「点滴」や、呼吸をサポートする「人工呼吸器」などによる治療が行われます。

1. 塗り薬

皮膚は3層からなっていて、外側から「表皮」、「真皮」、「皮下組織」といいます。一番外側の「表皮」だけの熱傷では特段治療せずとも自然と良くなることが多く、塗り薬は必須ではありません。一方、「真皮」や「皮下組織」におよんだ熱傷では、塗り薬が効果的です。やけどの深さによって使われる塗り薬が異なります。さまざまな深さの熱傷が混在する人には、部位ごとに違う塗り薬が使われることがあります。

ステロイド外用薬(ベタメタゾン:リンデロン®軟膏など)

主に真皮のなかでも浅い層の熱傷に対して使われる薬です。有効成分のステロイドには抗炎症作用があります。基剤として使われているワセリンも重要です。ワセリンには保湿効果があり、熱傷の治癒をうながします。

有効成分とし、抗生物質が入っている軟膏もあり、感染を抑える効果を期待して使われることがあります。

トラフェルミン(フィブラスト®スプレー)

主に真皮熱傷において使用される薬です。早く治したり、きずあとをできにくくしたりする効果が期待できます。ただし、トラフェルミンだけでは適度な湿潤環境を保てません。次に説明するドレッシング材を併用して 保湿する必要があります。

ブロメライン軟膏

皮下組織におよぶ深い熱傷であり、比較的範囲が狭いときに効果が期待できる薬です。タンパク質を分解する効果があり、熱傷で壊死した(死んだ)組織を分解する目的で使用されます。深くて 広い熱傷では、次のゲーベンが推奨されています。

スルファジアジン銀クリーム(ゲーベン®クリームなど)

皮下組織におよぶ深い熱傷が、広範囲にあるときに使われます。深い熱傷では皮膚が壊死した部分が病原体の感染源になりがちです。そこで、除菌効果のある銀を含む本剤を使い、病原体への感染を防ぎます。たとえば、黄色ブドウ球菌緑膿菌大腸菌といった細菌への効果が期待できます。

2. ドレッシング材(被覆材)を貼る

ドレッシング材とは傷口などに直接当てるシート状の保護材のことです。主に真皮の熱傷に使うことで、早期治癒や痛みの緩和が期待できます。

ドレッシング材には水分の蒸発を抑えたり、反対に余分な水分を吸収したりする機能があり傷口に適度な湿潤環境を作り出します。さまざまな種類がありますが、ハイドロコロイドという被覆材は市販もされています。

ただし、細菌に感染している熱傷に使うと、反対に治癒が遅れる可能性があります。感染しているかどうかの自己判断は簡単ではないため、貼って良いかどうか迷ったときには医療機関に相談してからにするのが無難です。

3. 外科治療

感染予防、きずあとの軽減といった目的で、外科治療が行われることがあります。

デブリドマン

壊死した組織をメスやハサミなどで取り除くことです。

壊死した組織には病原体を排除する機能がありません。深い熱傷では熱で焼け死んだ皮膚が病原体の感染源となり、周りの健康な皮膚へと病原体をうつしてしまうので、切除することが治療になります。切られるとなると痛みが気になると思いますが、実は痛みはほとんど感じません。なぜならば、壊死物質では痛みを伝える神経も、機能しなくなっているためです。

皮膚移植

健康な皮膚を採取して、皮膚が欠損している部位に縫い付ける治療です。深く広い熱傷で、皮膚の再生が難しいと考えられたときに、皮膚移植が行われます。また、傷がふさがった後でも、きずあとがひきつれて関節の動かしづらくなるときには、皮膚移植が有用です。

4. 点滴

重症熱傷では脱水症になることがあり、点滴治療が効果的です。皮膚には水分の蒸発を防ぐ役割があるため、やけどした部位では水分が 蒸発しがちです。深い熱傷が広範囲にあれば、体内の水分が大量に失われていくので、脱水症になります。そこで、点滴治療によって水分を補う治療が重要です。熱傷の深さや広さから必要な点滴量が割り出されます。

5. 人工呼吸器

のどや気管の粘膜がやけどすると、むくんで空気の通りが悪くなるため、息が苦しくなります。そこで、気道に外径約1cmの管を通し、人工呼吸器につなぐことで酸素を送りこみます。たとえ受診時に呼吸がしっかりできていても、気道熱傷があれば人工呼吸器を装着します。なぜならば、時間の経過とともにむくみが生じることがあり、気道が狭くなってからは、この管を通すのが難しいからです。 いつ急に呼吸機能が悪くなるか予測が困難なため、気道熱傷の人はあらかじめ人工呼吸器をつけます。

参考資料
・塩原哲夫ら/編, 今日の皮膚疾患治療指針第4版, 医学書院, 2012 
・創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―6:熱傷診療ガイドライン, 日本皮膚科学会雑誌:127 (10), 2261-2292, 2017