急性膵炎の検査:CT検査・MRI検査・診断基準・重症度判定基準など
急性膵炎は、診察や検査を用いて診断をします。急性膵炎は軽症と重症では状態が大きく異なるので治療にも違いがあります。このため急性膵炎の状態を正確に捉えることはとても重要です。急性膵炎を疑ったときの診察や検査について解説します。
1. 問診:状況や背景の確認
以下では問診で使われる質問の例などを紹介します。
- 症状が起きはじめた時間
- 症状が強く出ている場所
- 症状は軽くなったりひどくなったりするか
- 症状がやわらぐ姿勢はあるか
- 食事の内容
- 飲酒の状況
- 飲酒の習慣の有無やその量
- ここ数日の飲酒量
- 喫煙歴
- 1日の喫煙本数
- 喫煙期間
- 喫煙を辞めた場合には以前の喫煙状況
- 今までにかかった病気や治療中の病気
- 定期的に飲んでいる薬の有無
問診は急性膵炎かどうかの診断をするうえで非常に重要です。急性膵炎らしい特徴に当てはまるかどうかを自分で判断する必要はないので、感じているままに、なるべく詳しく答えてください。以下では特に大切だと考えられる内容について詳しく解説します。
症状がやわらぐ姿勢はあるか
腹痛などの症状の原因が急性膵炎の場合、膝を抱え込むようにして背中を丸める姿勢をとると痛みが和らぐことが知られています。これは急性膵炎の特徴の1つです。
飲酒の状況
急性膵炎の発生には飲酒と強い関連があります。症状が現れる前に大量の飲酒をした経験があったり習慣的にたくさんのアルコールを摂取している場合は急性膵炎の疑いが強くなります。症状から急性膵炎が疑わしい時には医師からも念入りに飲酒についての質問がなされます。
今までにかかった病気や治療中の病気
今までにかかった病気や治療中の病気が急性膵炎の原因になることがあります。例えば、胆石は急性膵炎の主な原因の1つです。胆石は肝臓で作られる胆汁という液体の成分が固まってできるもので、健康診断などの
2. 身体診察:症状の客観的評価
身体にどんな症状が現れているかは問診によって医師に伝えることができます。問診で明らかになった症状について客観的な判断を行うには身体診察が必要です。急性膵炎の身体診察には以下の方法を用います。
バイタルサイン の確認- 視診
聴診 - 打診
- 触診
これらの方法にはそれぞれに特徴があり、調べられるものも異なります。これらの方法を駆使して身体の中でどんな反応が起きているのかを推測します。
バイタルサインの確認
医療者同士の会話で「バイタル」という言葉が用いられるのを聞いたことがあるかもしれません。「バイタル」はバイタルサイン(vital signs)の略で直訳すると生命徴候という意味です。身体に生命の危機が迫っていないかと素早く評価するための項目です。どんな病気の診察でもバイタルサインの測定は欠かすことができませんが、急性膵炎の場合は特に重要です。一般的にバイタルサインは以下の5つを指すことが多いです。
- 脈拍数
- 呼吸数
- 体温
- 血圧
- 意識状態
5つに加えて身体に酸素が行き渡っているかを調べる酸素飽和度もバイタルサインとして扱うことが多いです。
バイタルサインに異常がでている場合は、生命に危機が差し迫っていることも考えに入れなければなりません。例えば血圧が極端に下がっている場合は全身への血液の供給が低下していることが原因の1つとして考えられます。臓器のへの血流が低下した状態が続くと多臓器不全といって極めて重篤に陥ることも懸念されるので素早く対応をしなければいけません。
さらに血圧は急性膵炎の重症度判定の項目の1つです。80mmHg以下であれば重症度の1項目を満たします。急性膵炎の重症度判定については後述します。
またバイタルサインは血液検査の結果と組み合わせることで、全身に
【SIRSを診断する際に用いる項目】
チェックする項目 | 基準 |
体温 | 38度より高いあるいは36度未満 |
脈拍数 | 1分間に90回より多い |
呼吸数 | 1分間に20回より多い呼吸数あるいは |
12,000/mm3より多いあるいは4,000/mm3より少ない あるいは幼若 |
診断にはバイタルサインのうち体温と脈拍数、呼吸数を用い、血液検査でわかる白血球数とあわせてSIRSかどうかを決めます。SIRSは急性膵炎の重症度判定の基準項目の1つです。急性膵炎の重症度判定では、9個の基準のうち3つ以上に該当すると重症と判断します。急性膵炎の重症例は、呼吸状態が悪化したり腎臓の機能が低下したりと全身に大きな影響を及ぼすので早期に発見して治療しなければなりません。そのためにはバイタルサインに注意することも欠かせません。
急性膵炎の重症化した場合の治療は「このページ」を参考にして下さい。
視診
視診はお腹など症状が現れている場所を観察することです。膵臓で激しい炎症が起きたためにお腹の中で出血した場合、皮膚に内出血が現れます。臍の周囲に内出血が現れるものをCullen徴候(カレン徴候)といい、左側腹部に現れるものをGrey-Turner徴候(グレイ・ターナー徴候)と言います。必ず現れる徴候ではありませんが、重症な状態を示唆するので注意深く観察します。また急性膵炎の影響で腸の動きが悪くなると腸にガスなどが溜まり、お腹が膨らんだ様子なども視診で観察することができます。
聴診
聴診は、聴診器を用いてお腹の中の音を聞く診察です。聴診では主に腸の動きを聴取します。腸の動きが活発化していると腸の音は大きくなり、逆に腸の動きが弱くなっていると腸の音は小さくなります。聴診による音の大きさなどから腸の動きを推定することができ、その後の検査法を選ぶ参考になります。
打診
打診は、お腹を軽く指で叩くことでお腹の中で異常なことが起きているかを調べます。例えばお腹にガスが溜まっている場合にはお腹を叩くとまるで太鼓を叩いているかのような感触を得られます。お腹の中にガスが溜まる原因は様々です。このため触診や他の検査も用いて原因を調べます。
触診
触診は体の一部分を押したり念入りに触ったりする診察の方法です。お腹を少し強く押さえたりすることによって痛みに変化がおきるかなどを観察します。また問題が起きている場所を推定するのにも触診は有効です。
触診で注意が必要なのは腹膜刺激症状という状態です。お腹を押さえたときより離したときに痛みが強くなると腹膜刺激症状が現れていると考えます。腹膜刺激症状は腹膜炎という状態になっている可能性を示唆する
3. 血液検査
血液検査は急性膵炎と診断する場面と診断後に重症度を判断する場面に用います。
急性膵炎の診断基準の1つに膵臓で作られる
急性膵炎では重症度が非常に重要です。重症の場合には治療が難しくなることもあり、早期に重症化する可能性を判別しなければなりません。急性膵炎は重症であっても最初は症状が軽いこともあり、症状が重症度のあてにはならないこともあるので血液検査は重症度を把握するのに役に立ちます。急性膵炎には、重症度を調べる重症度判定基準があり、血液検査項目が基準に用いられます。
以下では診断や重症度判定で用いる血液検査の各項目を中心に解説します。急性膵炎の診断基準と重症度判定基準についてはこのページの急性膵炎の診断基準・重症度判定の章で解説しているので参考にして下さい。
急性膵炎の診断に用いる血液検査項目
急性膵炎の診断基準には膵酵素の上昇があることが条件の1つです。ここでは血液検査で調べることができる膵酵素について解説します。
■リパーゼ
リパーゼは
リパーゼは膵臓が破壊されて膵液が細胞の外にもれ出ることによって血液中の濃度が上昇します。リパーゼは、急性膵炎のほとんどの場合で上昇する血液検査項目なので、後述するアミラーゼと並んで急性膵炎の診断に用いられます。
■アミラーゼ
アミラーゼは急性膵炎を診断する際に用いられる検査項目の1つです。アミラーゼは、でんぷんなどを
アミラーゼは主に唾液に含まれているタイプと膵臓から出るタイプの2つに別れます。血液検査によって唾液に含まれるタイプのものなのか膵臓に含まれるものなのかを調べる事ができます。
■エラスターゼ
エラスターゼはタンパク質を分解する酵素の1つです。他の消化酵素と同様に膵臓の細胞が傷害されると血液中の濃度が上昇します。
急性膵炎の重症度判定基準も用いる血液検査項目
急性膵炎の重症度判定基準にはいくつかの血液検査項目が用いられます。重症度判定はこのページの最後に解説しているのでまず先に重症度判定基準を読んでもらっても確認のために読み返してもらっても良いです。以下では重症度判定基準で用いる血液検査項目について解説します。検査項目の並びは重症度判定基準の並びに準じています。
■PaO2
PaO2は動脈から採った血液中の酸素濃度のことです。PaO2が低いほど身体への酸素の取り込みが低いことを表しています。PaO2が60mmHg未満の状態を
■BUN
BUNは、尿素窒素(Blood Urea Nitrogen)の略です。BUNは身体の中のタンパク質の老廃物で、肝臓で二酸化炭素とアンモニアから作られて、尿として排泄されます。BUNは以下の原因で血液中の濃度が上昇します。
- 脱水:身体の水分が不足した状態
- 腎臓機能低下:腎臓の機能が低下している状態
- 心不全:心臓の機能が低下している状態
消化管出血 :胃や腸からの出血
BUNが増加する理由は主に脱水や腎臓の機能低下などです。急性膵炎では脱水や腎臓の機能低下が起こり得るのでBUNは増加していることが多いです。腎臓の機能や身体が脱水に陥っていないかを推測するのに用います。
■クレアチニン
クレアチニンは血液中の老廃物質の1つです。クレアチニンは筋肉に含まれるクレアチンという物質が
■
LDHは、肝臓や腎臓、心臓の筋肉、身体の筋肉(骨格筋)などに多く含まれている物質で、膵臓にもあります。膵臓がダメージを受けるとLDHが血液中に放出されて血液中の濃度が上昇します。
■
血小板は血液を固める役割を果たしています。
急性膵炎が激しい炎症を起こすと全身に影響を及ぼし、血を固める作用と血の固まりを溶かす作用のバランスが崩れる状態を引き起こします。この状態をDIC(播種性血管内凝固)といいます。DICは重篤な状態で速やかに治療を開始しなければなりません。DICが起きていないかを判断する際に用いる血液検査項目の1つが血小板です。他の血液検査と組み合わせて診断を行います。
■カルシウム
カルシウムは骨などに含まれている物質で血液中にも存在します。カルシウムは筋肉を収縮させたり神経の情報を伝達するなど重要な役割を果たしています。
急性膵炎が起きると、消化酵素が活性化することによって膵臓自身と周りの脂肪組織などが溶けます。脂肪組織は溶けると一部は遊離脂肪酸に分解されます。遊離脂肪酸は血液中のカルシウムと結合します。血液中の遊離脂肪酸が多くなるとカルシウムと次々に結合していき、カルシウム濃度が低下します。
このためカルシウムの低下は周りの脂肪組織を溶けた程度を反映していると考えられているので急性膵炎の重症度を決める指標に用いられます。
■
CRPはC Reactive Proteinの略で身体の中に炎症が起きたり組織の一部が壊れたりした場合に血液中に現れる物質です。急性膵炎は強い炎症を起こすのでCRPが上昇します。CRPの値は重症度を判定する基準にも用いられます。
■白血球
白血球は主に身体に炎症が起きると増加する細胞です。身体の中にどの程度炎症が起きているかの目安になります。白血球はSIRS(サーズ、全身性炎症反応症候群)という状態に陥っていないかの判断にも用います。SIRSは炎症の影響が全身に広がった状態で、重症のことが多いので注意が必要です。SIRSについてはこのページの身体診察の章で解説しているので合わせて参考にして下さい。
4. 画像検査
急性膵炎の診断において画像検査は重要な役割を果たします。急性膵炎の重症度を測るのには画像診断の結果が反映されます。
よく用いられる画像検査は
腹部超音波検査(エコー検査)
超音波検査は、超音波という人には聞こえない音波を利用して身体の中を観察する検査です。腹部超音波検査は、お腹の中を画像にして観察することができます。実際には観察をする場所にジェルを塗って、プローブという超音波がでる機械をあてます。プローブの先にある部分が画面に写し出されます。
超音波検査は、CT検査やMRI検査に比べると簡便に行うことができるので、治療中にも身体の中の状態を確認するために何回か行われます。また超音波検査は、放射線を用いないので放射線被曝の影響がないことも良い点です。
腹部CT検査(造影CT検査)
CT検査は放射線を利用して身体の断面を映し出す検査です。急性膵炎の診断や重症度の判定、急性膵炎の原因の特定(胆石の有無など)で重要な役割を果たします。
CT検査は、
臨床の現場で用いられている急性膵炎のCTグレードという評価の方法を紹介します。造影CT検査の2つのポイントに注目して評価を行います。
- 炎症が膵臓の外のどこまで及んでいるか
- 膵臓が造影されていない領域はどの程度か
以下ではそれぞれについて詳しく解説します。
【1. 炎症が膵臓の外のどこまで及んでいるか】
膵臓の周りには腎臓と結腸(大腸)があります。造影CT検査の画像を見て、膵臓の炎症がどの程度かを評価するために、周りにある腎臓と結腸を目安として用います。より詳しく言うと、腎臓と結腸を目印にした3つの基準が用いられます。
- 前腎傍腔
- 結腸間膜根部
- 腎下極以遠
専門的な用語なので解説します。
前腎傍腔(ぜんじんぼうくう)は腎臓の前にあるスペースのことです。膵臓は前腎傍腔の中に納まっています。前腎傍腔に炎症が留まっている場合、つまり膵臓の周りにしか炎症がない場合は、炎症の広がりは最も少ない部類と考えられます。
結腸間膜根部(けっちょうかんまくこんぶ)は大腸の一部である結腸を栄養する血管の根本のことです。結腸根部に炎症が及んでいる場合には炎症の広がりは中程度と判断されます。
腎下極(じんかきょく)は、腎臓の最も足側の部分のことです。膵臓は腎臓の前側にある臓器で、上下方向で言うと腎臓の最も頭側の部分に近い位置にあります。腎下極、つまり腎臓の最も足側の場所にまで炎症が広がっている場合は、炎症の広がりが最も広い種類に分類します。
【2. 膵臓が造影されていない領域はどの程度か】
膵臓のダメージの程度については膵臓の機能が低下している部分の大きさをもとにして判断します。膵臓の機能が低下した部分は血流が少なくなって造影CT検査において造影剤の色が付きにくくなります。造影CT検査で色付かなくなることを「造影効果が乏しい」とも言います。
膵臓は、膵頭部、膵体部、膵尾部の3つに分けることができます。この3つの区域のうちどこに造影効果が乏しい部分があるかをみて膵臓のダメージを評価します。評価は以下の3段階で行います。
- 各区域に限局あるいは膵臓の周囲のみ
- 2つの区域にかかる
- 2つの区域全体、あるいはそれ以上
具体例を挙げてみます。例えば膵頭部という区域に炎症が留まる場合には一番上の「各区域に限局あるいは膵臓の周囲のみ」という評価になり、膵臓のダメージは最も軽いと判断されます。一方で炎症が激しく膵臓全てが影響を受けていると判断された場合には一番下の「2つの区域全体、あるいはそれ以上」という評価になり膵臓のダメージは最も重いという判断になります。
【急性膵炎の造影CTグレード】
急性膵炎の炎症の広がり(膵外進展度)と膵臓の機能が低下している範囲(造影不良域)の2つを基準にして、急性膵炎の造影CTグレードが定まります。
造影不良域\炎症の膵外進展度 | 前腎傍腔 | 結腸間膜根部 | 腎下極以遠 |
各区域に限局あるいは膵周囲のみ | グレード1 | グレード1 | グレード2 |
2つの区域にかかる | グレード1 | グレード2 | グレード3 |
2つの区域全体、あるいはそれ以上 | グレード2 | グレード3 | グレード3 |
急性膵炎のグレードを調べることはその後の経過の見通しをたてることなどに役立てることができます。例えば急性膵炎は重症例になると高度な設備が整った医療機関での治療が望まれるので、検査をした病院では対応できないこともあります。急性膵炎のCTグレードは、重症化する可能性について推測することの役に立つので、他の病院に移るべきかどうかの判断材料の1つにすることができます。
腹部MRI検査
MRIは磁気を利用して体の中を画像化する検査です。CT検査とはちがって放射線は使いません。MRI検査は磁気を利用するので体のなかに金属製品(
急性膵炎の診断にはCT検査の方がよく用いられるので、MRI検査が必要なケースは限られています。CT検査、特に造影剤を用いた造影CT検査の方がMRI検査より急性膵炎を診断する能力が高いと考えられているからです。腹部MRI検査が用いられるのは、胆石が原因で急性膵炎が起きる胆石性急性膵炎
が疑われた場合です。その場合、MRI検査の中でもMRCPという方法を使って
5. 急性膵炎の診断基準・重症度判定基準
急性膵炎が疑われる時に用いられる検査について解説してきました。では実際に急性膵炎が起きているという診断はどうくだすのでしょうか。
急性膵炎の診断には基準が設けられており、基準を満たすことで診断に至ります。少し難しいのですが、臨床現場で使われている診断基準を紹介します。基準を覚える必要はありませんが、基準に出てくる検査項目などを説明で聞いたときの理解に役立ててください。
急性膵炎の診断基準
急性膵炎の臨床診断基準は、厚生労働省によって定められたものを用いることが多いです。まずは実際の基準を紹介します。
【急性膵炎の臨床診断基準(厚生労働省. 2008 一部改変)】
- 上腹部に急性腹痛
発作 と圧痛がある - 血中または尿中に膵酵素の上昇がある
- 超音波検査、CT、MRIで急性膵炎を示す異常所見がある
上記3項目中2項目を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎として診断する
難しい内容なので解説します。
臨床診断基準は、上で説明してきたことのまとめになります。各検査については上の検査の説明を読んで下さい。
1点目について、膵臓は腹部の臓器ですが、その中でも上腹部の臓器に分類されます。みぞおちの周囲の痛みや急に起きる腹痛は急性膵炎の特徴的な症状です。お腹を手で押すと痛みが現れるのも急性膵炎の特徴の1つです。
2点目について、急性膵炎は激しい炎症が起きて膵臓が破壊される病気です。膵臓は食べ物を溶かす役割を担う消化酵素を分泌するのですが、膵臓が壊れると膵臓で作られた酵素が血管の中に入り、血液中で膵臓の酵素の濃度が上昇します。膵臓の酵素の濃度が基準値を超えて上昇することは急性膵炎が起きていることの有力な証拠の1つです。
3点目について、膵臓の画像に異常があることは、炎症が起きていることの最も確実な証拠になります。膵臓の画像検査としては超音波検査やCT検査、MRI検査などを用います。
この3つの中で2つを満たして他に原因がないことを確認してはじめて急性膵炎の診断にいたります。2つでよい理由は、稀ですが痛みの無いケースや極めて初期に発見されて膵酵素の上昇が確認できないケースなどがあるからです。
急性膵炎の重症度判定基準
次に急性膵炎の重症度判定基準について説明します。実際に用いられる重症度基準を紹介します。難しい内容なのですべての項目を理解しようとする必要はありません。ここまでの説明をもとに全体のイメージをつかめれば十分です。重症度判定で用いられている検査の意味については上の血液検査の項目を参考にして下さい。まずは基準そのものを記します。
【急性膵炎の重症度判定基準(厚生労働省. 2008 一部改変)】
予後 因子:以下の項目を各1点とする- Base Excess(BE)≦-3mEqまたは
ショック (収縮期血圧 ≦80mmHg) - PaO2≦60mmHg(room air)または呼吸不全(人工呼吸管理が必要)
- BUN≧40mg/dl(またはクレアチニンが2.0mg/dL以上)または乏尿(
輸液 後も1日尿量が400ml以下) - LDHが基準値上限の2倍以上
- 血小板10万/mm3以下
- 総カルシウム値7.5mg/dl以下
- CRPが15mg/dl以上
- 年齢が70歳以上
- SIRS(全身性炎症反応症候群)の診断基準項目が3個以上
- 体温が38℃を超える、または36℃に満たない
- 脈拍が1分間に90回を上回る
- 呼吸数が1分間に20回を上回るまたはPaCO2が32mmHgを下回る
- 白血球数が12,000/mm3を上回るまたは4,000/mm3未満または10%を超える幼若球の出現
- Base Excess(BE)≦-3mEqまたは
- 造影CT Grade:炎症の膵外進展度と造影不良域から重症度を判定する
*造影不良域:膵臓を膵頭部、膵体部、膵尾部の3つの区域に分けて判定する
造影不良域\炎症の膵外進展度 | 前腎傍腔 | 結腸間膜根部 | 腎下極以遠 |
各区域に限局あるいは膵周囲のみ | グレード1 | グレード1 | グレード2 |
2つの区域にかかる | グレード1 | グレード2 | グレード3 |
2つの区域全体、あるいはそれ以上 | グレード2 | グレード3 | グレード3 |
重症度の判定:予後因子が3点以上、または造影CT Gradeが2以上の場合を重症とする
*原則として48時間以内に判定する
解説します。
重症度判定基準は血液検査や身体所見の項目からなる予後因子と造影CTグレードの2つからなります。重症と判断されるのは、予後因子が3点以上または造影CTグレードが2以上の場合です。予後因子はいくつもありますが、これは過去の治療成績から重症化に関係がある項目が抽出されたものです。また造影CT検査の結果だけでも重症と判断します。
急性膵炎は重症化すると集中的な治療が必要になるので早めに重症化する予測を立てなければなりません。このため重症度判定は重要で、最初だけではなく治療中は何回も重症度判定を行い状態に悪化の兆しがないかを確認します。重症度に応じた治療の使い分けについては「急性膵炎の治療」のページで説明しています。
参考文献
・日本臨床検査学会, 付録:参考基準値表
・国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院臨床検査部「検査のしおり」2016 年 6 月版
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
・急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015
・・日本救急医学会/著, 標準救急医学 第5版, 医学書院, 2013