手足・意識の症状で入院した12歳の女の子
トルコの研究班が、抗うつ薬のクロミプラミンを大量に飲んだことでセロトニン症候群が現れた12歳の女の子の例を、専門誌『Clinical Psychopharmacology and Neuroscience』に報告しました。
この女の子は、手足が意思と関係なく勝手に動く症状(不随意収縮)と意識の異常(意識変容)があり、てんかんと診断されて入院しました。
診察では心拍数が1分あたり140回、体温は39.5℃で、興奮、震え、汗、目が左右に震える(水平眼振)などの症状がありました。てんかんの特徴に当てはまらないため、改めてより詳しい問診がなされました。
自殺目的で抗うつ薬大量服用
問診の結果、この女の子は入院以前に精神科クリニックで処方されたリスペリドン(抗精神病薬)を普通と違った用法で飲んでいました。
お金を盗む、嘘をつく、家や学校から逃げ出すなどの行動がありました。
さらに、自殺目的で抗うつ薬のクロミプラミン75mg錠を9錠飲んでいたことがわかりました。
クロミプラミンは、日本で成人のうつ病などに対して処方される場合は、1日あたり225mgが用量の上限とされています。その最大用量に換算すると、この女の子は3日分を一度に飲んだ計算になります。
入院治療の結果、24時間で症状は消え、2日後には血液検査値も改善傾向を示しました。
自殺を図っていたことから、小児精神科クリニックの診察も受けました。4日後には監督のもとで退院となりました。
研究班は考察の中で「抗うつ薬治療を受けている青少年に対してはセロトニン症候群を念頭に置くべきだ。なぜなら彼らは抗うつ薬で自殺を図ることがあるから」と指摘しています。
薬とセロトニン症候群
セロトニン症候群は、脳内物質のセロトニンが異常に働くことによって起こります。原因は主に薬剤です。
ここで紹介した女の子では、もし詳しく問診されていなければ、セロトニン症候群が見逃され、治療が遅れていた可能性があります。診察にあたった医師が薬の影響を想定できたことが原因の特定につながりました。確かに救急治療をする医師にとっては、似た症状を見たときにセロトニン症候群を思い出せることが大切と言える例でしょう。
一方、セロトニン症候群は抗うつ薬などを飲んでいる人にとっても知るべきものです。自殺目的で故意に大量に飲んだときだけでなく、正しい用法・用量だったとしてもセロトニン症候群はごくまれに現れます。
2016年3月には、アメリカの規制機関である食品医薬品局(FDA)から、痛みを和らげる作用がある「オピオイド鎮痛薬」と以下の薬などを同時に使った場合について、セロトニン症候群の危険性があるとして警告が出されました。
- 抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SSRI、SNRI)
- 抗精神病薬
- 片頭痛治療薬の一部(トリプタン製剤)
- パーキンソン病治療薬の一部(MAO-B阻害薬)
- 吐き気止めの一部(オンダンセトロン、グラニセトロンなど)
- 咳止めの一部(デキストロメトルファン)
- 抗菌薬の一部(リネゾリド)
- セントジョーンズワート
- トリプトファン
一般にセロトニン症候群には次のような症状があります。
- 興奮
- 幻覚
- 心拍数の増加(頻拍)
- 発熱
- 過剰な発汗
- 震え
- 筋肉のけいれん、こわばり
- 体をバランスよく動かせない
- 吐き気・嘔吐
- 下痢
薬を飲んでいるときにもしこのような症状を感じたら、早めに薬を処方した医師に相談してください。
執筆者
Serotonin Syndrome after Clomipramine Overdose in a Child.
Clin Psychopharmacol Neurosci. 2016 Nov 30.
[PMID: 27776393]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。