成人の痛風治療のガイドライン
米国内科学会が、成人の痛風の治療方針についてのガイドラインを作成し、医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。
このガイドラインは、独自調査のほか、最近報告された文献の調査結果に基づいています。参照された調査結果のひとつが、アメリカの政府機関である医療品質研究調査機構(AHRQ)によるものです。AHRQは以下の事実を報告しています。
- コルヒチン、NSAIDs、ステロイド薬で痛風発作時の痛みを抑えることができる。
- コルヒチンの副作用による胃腸症状は23%から77%の人に現れる。
- NSAIDsの副作用による胃腸症状は10%以上の人に現れ、穿孔(穴が開く)などの深刻な事態の例もある。
- ステロイド薬によって高血糖や免疫抑制などの副作用がある。
- 痛風と診断された人が食事のプリン体、タンパク質、アルコールを減らしたり、体重を減らしたりすることで症状が改善すると言える十分な証拠はない。
- 痛風と診断された人が食事内容、節酒、減量の指導を受けることで尿酸値が下がると言える十分な証拠はない。
- 漢方薬、針治療で痛風が改善するとも、悪化するとも言える十分な証拠はない。
- 痛風と診断された人が尿酸値を下げる薬を使っても、6か月以内の痛風発作は予防できない。
- 尿酸値を下げる薬の開始から1年後以降に、痛風発作の再発が減少する。
- 尿酸値を下げる薬とともに低用量コルヒチンまたは低用量NSAIDsを使うことで、痛風発作の再発が減少する。
- アロプリノール(尿酸値を下げる薬、商品名ザイロリックなど)の副作用により、中毒性表皮壊死症、スティーブンス・ジョンソン症候群などの深刻な皮膚症状が出た例がある。
- 尿酸値を定期的に測定することが良い結果につながると言えるだけの十分な証拠はない。
米国内科学会はこれらの報告をさらに吟味して、推奨とする事項を作りました。
尿酸値を下げる薬は少し痛風発作があっても非推奨
「強く推奨」することとして、以下の4か条がまとめられました。
- 急性痛風にはステロイド薬、NSAIDs、コルヒチンを使う。
- 急性痛風でコルヒチンを使うときには低用量コルヒチンとする。
- ほとんどの場合、はじめての痛風発作または発作の頻度が少ない患者は長期間の尿酸低下薬を開始しない。
- 年に2回未満しか発作がない人に対して12か月以上の尿酸低下薬の効果を試した研究はない。
- 痛風発作を繰り返す患者に対しては、尿酸低下薬を開始する前に、効果・副作用・費用・個人の考えを医師との間で相談する。
ほかに検討した事項の一部は以下の結果でした。
- 赤肉・果糖・アルコールを控えるなど、特に痛風予防を狙った食事のアドバイスが症状を減らすという十分な証拠はない。
- 薬で尿酸値を下げる場合、どの程度まで下げるべきかははっきりした証拠がない。
- 尿酸値を下げることが急性痛風以外の健康上の問題についてどの程度重要なのかははっきりしない。
尿酸値は下げなくていい?
まだ痛風発作を起こしたことのない人が薬で尿酸値を下げる必要はないのではないかという意見は、これまでにもさまざまな主体から提示されてきました。
今回の米国内科学会のガイドラインは、痛風発作を起こした人でも再発がなければ尿酸値を下げる薬を使わないという選択肢を含めています。
また、食事や飲酒について積極的な推奨事項は示されませんでした。飲酒や肥満は痛風だけでなく多くの生活習慣病に関わっているため、一般的に気を付けるべきとされる一方で、痛風を防ぐ効果があるかどうかは過去の報告でも意見が分かれています。
尿酸は食品に含まれるプリン体から生成されるため、プリン体の少ない食事が良いのではないかという観点の研究はたくさんありますが、米国内科学会の見方では「十分な証拠はない」というのが現状です。
プリン体は肉や魚に多く含まれています。ビールにプリン体はほとんど含まれていません。厚生労働省の資料によると、肉類・魚介類の50gと、アルコール飲料50mlに含まれるプリン体の量は表のとおりです。
- ちりめんじゃこ 373mg
- 鶏レバー 160mg
- いわし干物 153mg
- 大正エビ 137mg
- サラミ 60mg
- 牛もも 55mg
- ビール 3mg
- 日本酒 1mg
こうした数値をもとに、プリン体が少ない食事を勧める考えもありますが、痛風を予防する効果があるかどうかは意見が割れています。
ただし、痛風は別としても糖尿病・高血圧などの対策として栄養管理はとても大切です。あくまで健康的な食生活は勧めるべき中で、糖尿病などのほかに「痛風も」予防できるかどうかという議論です。
対して、尿酸値を下げる薬は主に痛風予防が目的です。尿酸値を下げることは腎機能障害を防ぐことにもつながるという見方がありますが、米国内科学会はこの点について保留しています。
尿酸値を下げる薬は、目の前の症状をなくす治療ではなく、将来の症状を予防する目的で使われます。推奨にもあるように、効果・副作用・費用・個人の考えがバランスよく反映されるよう、医師と相談しながらデータをよく見比べることが大切です。
執筆者
Management of Acute and Recurrent Gout: A Clinical Practice Guideline From the American College of Physicians.
Ann Intern Med. 2016 Nov 1. [Epub ahead of print]
[PMID: 27802508]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。