2016.06.11 | ニュース

大人の風邪に抗生物質はほんとに効くの?

アメリカ内科学会と疾病管理センターの解析と声明を解説

from Annals of internal medicine

大人の風邪に抗生物質はほんとに効くの?の写真

風邪になったときに近くの医院や病院にかかることが多いと思います。今回紹介するアメリカ内科学会と疾病管理センターによる声明は、風邪に抗菌薬(抗生物質)は本当に効いているのかという疑問に対する答えになりそうです。

◆よくある風邪に対する抗菌薬の処方

風邪を引いたときに抗菌薬を処方された経験はないでしょうか?自分の過去を振り返っても、風邪に対する治療として抗菌薬を飲んだことは一度や二度ではなかった気がします。

日本だけでなくアメリカでも同じようなことが起こっています。大人の風邪に対して抗菌薬がよく出されており、それによって多くの問題が生じているようです。

 

◆抗菌薬使用の功罪

抗菌薬は感染を起こす細菌を退治するのに大きな役割を果たしています。第二次世界大戦中に使用されだしたペニシリンは人類を感染症という重荷からかなりの部分で解放しました。

しかしその反面、抗菌薬を使うことにより、ある確率で抗菌薬の効かない細菌(耐性菌)が生まれてしまうこともわかりました。つまり、不用意に抗菌薬を使うと、耐性菌を作ってしまうのです。現在は数多の抗菌薬が存在し、抗菌薬の使用量も増えています。そのため、耐性菌もどんどん増えてしまっています。

 

◆抗菌薬を使う=感染が治るという錯覚

これは医者を含めた多くの人が錯覚している事実なのですが、抗菌薬を使うことは感染が治るために必須ではなく、使えば必ず治るわけでもないのです。梅毒などのように、抗菌薬の登場によって劇的に治療成果が変わった感染症もありますが、これらはごく一部です。

抗菌薬はどんなに優れたものでも100%の人に効果を発揮できるわけではありませんし、感染は自分の免疫の力だけで治るものがほとんどなのです。薬を使ったあとに症状が軽くなれば効いたように感じてしまいますが、風邪などは薬を使わなくても自然に治ります。実は抗菌薬は身体が感染を治すのをサポートし、治るのを早くしたり、悪化を防いだりしているだけなのです。

また、どんな薬にも副作用があるのですが、抗菌薬は薬の中でも比較的副作用が出やすいことにも注意が必要です。

そのために、無駄な抗菌薬を減らしていく必要があります。

 

◆必要ない抗菌薬の使用をなくすことのメリット

この報告では、風邪(急性上気道炎)で外来にかかった患者に処方された抗菌薬の50%は不必要であったり不適切であるとされています。こういった無駄をいかになくしていくかがこれからの時代の課題になってくると思われます。

風邪に対する抗菌薬を極力使わないように心がけると以下のメリットが有ると述べられています。

  • 最も効果が多く副作用の少ない治療ができる
  • 医療費が削減できる(もちろんお会計の時の支払額も)
  • 体内で耐性菌が生じるのを防げる

さて、実際にどうやれば風邪に対して抗菌薬が必要ない場面を嗅ぎ分けていけるのでしょうか。

 

◆風邪に抗菌薬を使用するための4つのアドバイス

アメリカ内科学会と疾病管理センターが提案しているアドバイスを解説します。

  1. 肺炎が疑われる状態でなければ、気管支炎といった上気道炎に対して検査の施行や抗菌薬の使用は控える
  2. A群溶連菌感染を疑う症状(持続する発熱、扁桃炎、のどの奥に白い付着物があるなど)がある場合には、迅速検査キットや培養検査を用いる。溶連菌感染と分かった場合に限って抗菌薬を使う
  3. 急性副鼻腔炎に対する抗菌薬の使用は、
    • 症状が10日以上続く場合
    • ひどい症状が始まった場合
    • 39度以上の発熱が続く場合
    • 3日間以上持続的に鼻から膿が出たり顔が痛んだりする場合
    • 症状が一旦良くなったのにまた悪くなってきた場合にのみ考慮して良い。
  4. 症状や経過からいわゆる風邪を疑う時には、抗菌薬を処方しない。

結局のところ、風邪で抗菌薬が必要となる場合は、肺炎・A群溶連菌感染・治らない急性副鼻腔炎くらいになるということになります。

これに対して、風邪の症状を緩和する抗菌薬以外の薬、たとえば咳止め、痰を出しやすくする薬、鼻詰まりを解消する薬、息を吸いやすくする薬などは価値が高いとされています。

 

◆抗菌薬を使用すると引き起こされうるデメリット

もちろん風邪の症状があるときに抗菌薬が必要な場合もあります。しかし、必要でないことも多いのです。
使う必要がない場面で抗菌薬を使うことは多くのデメリットが存在します。主なデメリットを以下に列挙します。

  • 身体にいる善玉菌も殺してしまう可能性がある
  • 細菌同士のバランスを乱すことで、今まで悪さをしなかった菌が悪さをする可能性がある
  • 抗菌薬の効かない耐性菌を作ってしまう可能性がある
  • 抗菌薬による副作用で身体にダメージが生じうる

耐性菌が生まれてしまうと、その細菌が感染を起こしたときに治療が非常に難しくなります。ひどい場合は治療薬が全く無いという状況もありえます。

また、耐性菌が生まれてしまうとほかの人に感染して広がっていきます。この結果、たとえばメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)という耐性菌が蔓延し、以前から使用していた抗菌薬ではMRSAの危険から身を守れなくなってしまいました。人類全体に取り返しのつかない重荷を課してしまう耐性菌が生まれないよう、できるだけ抗菌薬は必要なときに限って使うべきです。

 

風邪に限らず、「使っている抗菌薬は本当に必要なのか」について、今こそ見直すことが必要なタイミングなのではないでしょうか?

医者だけでなく、患者さんも共通した認識として考えていくことができれば、医療がより良いものになっていくことが期待できると思います。

参考文献

Appropriate Antibiotic Use for Acute Respiratory Tract Infection in Adults: Advice for High-Value Care From the American College of Physicians and the Centers for Disease Control and Prevention.

Ann Intern Med. 2016 Mar 15.

[PMID: 26785402] http://annals.org/article.aspx?articleid=2481815

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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