血液透析に必要なシャントとはどんなものなのか?
現在国内では約30万人が透析治療を受けています。また、毎年3万人以上が新たに透析をはじめています。
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血液透析について
「シャント」の話をする前に血液透析について簡単に説明しておきます(詳しくは前回のコラム参照)。血液透析とは血液中の老廃物や余分な水分を腎臓の代わりに人工的的処置で取り除く治療のことです。具体的には、血管に太い針を刺して、血液を抜き出し、機械できれいになった血液を再び血管に戻します。採血(血液検査のために血液を抜き出す行為)や、点滴と似たようなものなのですが、血液透析を受けるには特別な準備が必要です。その準備が今回のコラムで説明する「シャント」です。
シャントとは?
血液透析を行うには大量の血液を身体から抜き出す必要があります。そのために必要となるのがシャントと呼ばれるものです。一般的に、シャントは静脈と動脈をつなぎ合わせた血管のことを指します。
シャントはなぜ必要か?
血液を大量に抜き出すには、かなり太い針を血管に挿入しなければなりません。そして、針を刺す血管もそれ相応に太い必要があります。血液透析を行うのに十分な太さの血管は、身体の奥深くにはありますが、針を刺すのが難しいうえ、止血も困難です。血液透析は週に2回から3回行わなければならないので、毎回難しくて危険を伴う作業をするとなると患者さんの負担は大きくなります。
そこで、患者さんの身体の負担を減らすために、身体の表面近くにある細い血管を手術によって人工的に太くし、血液透析で使う針を刺しやすいようにします。具体的には動脈と静脈をつなぎ合わせることで、血管が拡張します。この動脈を静脈をつなぎ合わせた状態の血管がシャント血管です。単に「シャント」と呼ばれることも多いです。
シャントはどのようにして作るのか?
シャントは手術によって作られるのですが、その作り方はシンプルです。身体の奥にある動脈と身体の表面にある静脈をつなぎ合わせるだけです。動脈を流れる血液の勢いは、静脈に比べるとかなり強いので、静脈と動脈をつなぎ合わせると、静脈に勢いよく血液が流れ込み、静脈が太くなるのです。手術が上手くいくと、シャントの近くでスリルという独特なザーザーという振動を触れることができます。手術後、包帯越しに確認してみてください。 シャントの作成は身体への負担が小さく、局所麻酔で手術を受けることができます。手術時間は1時間程度で、日帰りで済みます。つまり入院する必要はありません。
シャントはどこに作るのか?
シャントは手首に作ることが多く、利き手ではないほうの手が選ばれます。手首で動脈と静脈をつなぎ合わせると、手首と肘の間の血管が少しずつ拡張し、血液透析に必要な太い針を簡単に刺せるようになります。
シャントはいつ作るのか?
シャントを作成後、血管が徐々に太くなっていきます。とはいえ、1日や2日で十分な太さになるわけではありません。血液透析が始まる1ヶ月以上前にはシャントを作成し、時間をかけて血液透析の開始に備えます。
シャントがある患者さんに注意して欲しいこと
血液透析に欠かせないシャントですが、患者さんが自身で適切にケアをしなければ、シャントが詰まってしまったり、細くなったりして再手術が必要になります。そこで、シャントを長持ちさせるために、日常生活での注意点をいくつか説明します。具体的には次のものです。
【シャントがある腕で避けて欲しいこと】
- 肘を長時間曲げたままにする
- 血圧を測る
- 腕枕にする
- 腕時計をする
- 重い荷物を肘にかける
上記の行為はシャントが閉塞する原因になりうるので、なるべく避けてください。また、閉塞が発生した場合にはなるべく早い対応が望ましいです。そのため、シャントのスリル(シャント側の腕に感じるザーザーという独特な振動)を一日に数回は確認することを習慣づけるとよいです。スリルが触れなくなった場合には、シャントが閉塞している可能性があるので、すみやかに血液透析を受けている医療機関に連絡してください。
今回は血液透析に必要なシャントの概要とシャントがある人に知ってほしい注意点について説明しました。血液透析を検討している人やそのご家族の参考になれば幸いです。
執筆者
・日本腎臓学会, 日本透析医学会, 日本腹膜透析医学会, 日本臨床腎移植学会, 日本小児腎臓病学会/編集「腎代替療法選択ガイド2020」, ライフサイエンス出版, 2020
・赤座英之/監修「標準泌尿器科学」, 医学書院, 2014
・門川俊明,「CKDと血液透析」,南江堂,2015
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。