◆原因不明の腎不全
患者は56歳の男性。2014年の5月に、疲労感などを訴えて病院を受診しました。血液検査では、腎臓の機能が悪くなっているときに上昇するクレアチニンが4.5mg/dL(健康な人の数倍)で、腎不全による尿毒症と診断されました。尿には多量のシュウ酸カルシウムの結晶が含まれていました。
シュウ酸カルシウムは、尿路結石の成分です。これが腎不全の原因かどうかが検査のポイントになりました。 ところが、結石の原因になりそうな要素は見つかりませんでした。超音波検査でもそれらしい像は見つけられませんでした。さらに問診を続けたところ、毎日16杯のアイスティーを飲み続けていたことがわかりました。
尿毒症の症状はさらに悪化し、透析が必要になりました。
◆シュウ酸が腎臓にたまっていた
腎臓の内部に原因があることが疑われ、腎生検が行われました。その結果、腎臓の組織に多量のシュウ酸結晶が見つかり、ほかの特徴とあわせて「シュウ酸腎症」という、シュウ酸結晶によって腎臓の組織がダメージを受けた状態と診断されました。
この患者は胃の手術、ビタミンC剤の飲みすぎ、エチレングリコール中毒など、血液にシュウ酸が増える要素を持っていませんでした。しかし、紅茶には100mLあたり50mgから100mgのシュウ酸が含まれているため、毎日16杯の紅茶を飲むことで、平均的なアメリカ人の3倍から10倍ほどのシュウ酸を紅茶だけから取り込んでいたことになります。
研究班は、「腎不全の原因がわからない場合は、シュウ酸の多い食事をしていないか詳しく聞き出すべきだ」と述べています。
「アイスティーを飲みすぎると腎不全になる」かどうかは、より多くの情報がなければ判断できません。シュウ酸を多く含む食事をしても人によって結果はさまざまだと思われます。何よりも、この人が尿毒症と診断されてからおよそ1年後のいままでに、アイスティーをやめて元気になったのかが気になります。
とはいえこの人はあくまで一例。健康のためには、何事も極端はよくないものです。食事のバランスに気を付けてくださいね!
執筆者
A Case of Iced-Tea Nephropathy.
N Engl J Med. 2015 Apr 2
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