喘息の人はコロナワクチンを打ってもよい? むしろ打ったほうがよい?

医療従事者へのワクチン接種に続いて、高齢者へのワクチン接種がいよいよ始まりました。自分や家族に案内が届いている人もいるかもしれません。
さて、ここで多くの人が気になるのがワクチンによる副反応(副作用)注です。
「持病やアレルギーのある人は接種前に医師に相談してください」というアナウンスがよくあります。そのたびに「自分はワクチンを打ってよいものか」と不安な気持ちになるかもしれません。前回は高血圧症とコロナワクチンについてのコラムを書きましたが、今回は喘息について触れていきたいと思います。
持病として喘息はとても多い病気です。小児喘息だった人、いま咳喘息や気管支喘息と言われている人、喘息の治療薬を使用している人などは、
「喘息だけれどもワクチンを打って大丈夫なのか? 打ったほうがよいのか?」
と心配しているかもしれません。
このコラムでは、既に集まっている多くのデータや専門学会の意見を整理し、喘息の人が新型コロナワクチンについて知っておくとよいことを解説します。
注:ワクチン接種の場合「副作用」ではなく、正確には「副反応」と呼びます。
*本コラムは2021年4月28日現在の情報に基づいています。
1. 喘息の人はワクチンの副反応(副作用)が出やすいのか
喘息の人でワクチンの副反応が極端に起こりやすい、というデータはありません[1]。
しかし、喘息はアレルギーと深い関係にある病気であり、喘息の人にアレルギー体質の人が多いのは事実です。そのため、通常はワクチン接種後15分程度の様子見が行われますが、喘息の人は念のため接種後30分程度、医療者のいるところで待機するよう推奨されます[2]。
このように喘息がない人と比べると、ワクチン接種に際して多少の注意が必要かもしれません。また、以下に当てはまる人はワクチン接種自体を見合わせてください[2]。
【ワクチン接種を見合わせたほうがよい人】
- 過去にインフルエンザウイルスなどのワクチン接種で重度の副反応が出た人(呼吸困難や全身のじんましんなど)
- ワクチンの添加物に対するアレルギーがあることが分かっている人(ファイザー社製ワクチンの場合ではポリエチレングリコールなど[3])
逆に言えば、上記に当てはまらない人は、喘息があっても過度に副反応を恐れる必要はなさそうです。
一般的な副反応(副作用)
ただし、副反応そのものが全く出ないわけではありません。接種部位の局所反応(痛み、腫れ、赤みなど)や、全身反応(だるさ、頭痛、発熱など)は喘息がない人と同じくらいの頻度で出現すると考えられます。
ファイザー社製ワクチンは基本的に3週間隔で2回の接種を行います。そのうち、特に2回目の接種翌日には何らかの副反応を自覚する人が少なくありません[4]。ほとんどの人は数日以内には回復するものの、2回目の接種翌日には大事な用事を入れないほうが無難かもしれません。
【国内におけるファイザー社コロナワクチン(コミナティ)で見られる主な副反応の頻度】
1回目の接種後 | 2回目の接種後 | |
接種部位の痛み | 92.3% | 90.8% |
倦怠感 | 23.2% | 69.4% |
頭痛 | 21.2% | 53.6% |
37.5℃以上の発熱 | 3.3% | 38.0% |
厚生労働省:新型コロナワクチンの接種後の健康状況調査より(2021.4.28閲覧)
なお、上記の副反応は、若い世代のほうが出やすい傾向にあります。
先行してワクチンを接種した医療従事者も、同じ部署の人はなるべく同日にまとめて打たないなどの工夫をしています。これは、同部署の人が接種翌日に一斉に体調不良で欠勤してしまうと困るからです。
2. 喘息の治療薬を使っていても問題ないのか
喘息の治療薬で、ワクチンとの相互作用が指摘されているものは現在ありません。
ワクチンを打って大丈夫かどうかは、予診票を確認したお医者さんが最終的に判断するものです。しかし、喘息の治療薬を使用しているという理由だけで接種を止められることは通常ありません。
注意しなくてはならないのは、喘息の治療薬として飲み薬のステロイド製剤を使用している人では、ワクチンの効果が出にくくなる可能性がある点です。しかし、飲み薬のステロイド製剤を要するような喘息は重症と言えます。そのような重症喘息の人は、むしろワクチンを優先的に受けることが推奨されています[5]。
3. 喘息の人はワクチンを打ったほうがよいのか
喘息の人は、喘息でない人と同様にワクチン接種が推奨されます。
「喘息がある人は、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいのではないか」という心配がウイルス流行当初はされていました。しかし、喘息の人でも実は感染しやすいわけではなく、重症化のリスクも健康な人と同じくらいである、ということが最近の研究で分かってきました[2]。また、吸入薬などの治療をちゃんと受けていると、重症化しにくくなるとも推測されています[6]。
そのため、喘息だからといって健康な人よりも特に優先してワクチンを接種する必要はありません。ただし、以下に当てはまるような重症喘息の人はワクチンを優先的に受けることが推奨されています[5]。
【喘息の人のワクチンを優先的に接種すべき目安】
- 飲み薬のステロイド製剤を継続的に使用している人
- 吸入薬のステロイド製剤を使っていても、発作で1年以内に入院している人
- 直近1年以内に2回以上、医療機関を発作で予定外受診している人
上記のような目安が日本呼吸器学会から示されています。
4. まとめ
喘息の人もワクチンの副反応を過度に恐れる必要はないことを解説しました。また、重症喘息の人は優先的に、そうでない喘息の人は健康な人と同様にワクチン接種が推奨されることを解説しました。
特に2回目のワクチン接種後は、接種翌日を中心に体調不良を自覚することがよくあります。医療を受けて体調が悪化するという経験は珍しいため、不安に思う人は少なくないと思います。喘息などの持病がある人ではなおさらです。
ところが、新型コロナウイルスに感染して重大な症状や後遺症が起きるリスクは、ワクチン接種で重大な副反応が起きるリスクと比べると桁違いに高いものです。
初体験のことに対する不安は誰もが感じるものです。しかし、ウイルスとの戦いの中で多くの医療者・研究者が明らかにしてきた事実を先入観や固定観念なく受け入れる姿勢は、自分自身や社会をより良い方向に導いてくれます。ワクチン接種のメリットとデメリットを多くの人が正しく天秤にかけて判断し、従来の暮らしが早く取り戻せることを心から願っています。
執筆者
1. Marco C et al. Who Is Really at Risk for Anaphylaxis Due to COVID-19 Vaccine? Vaccines (Basel) 2021; Jan 11;9(1):38.
2. 日本喘息学会「喘息患者の新型コロナワクチン接種についての注意事項」(2021.4.28閲覧)
3. 厚生労働省「ファイザー社の新型コロナワクチンについて」(2021.4.28閲覧)
4. 厚生労働省「新型コロナワクチンの接種後の健康状況調査」(2021.4.28閲覧)
5. 日本呼吸器学会「第43回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 資料1-2」(2021.4.28閲覧)
6. José LI et al. The impact of COVID-19 on patients with asthma. Eur Respir J 2021; Mar 4; 57(3): 2003142.
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。