2020.04.28 | コラム

新型コロナが治ったはずなのにPCR検査が再陽性?原因は何が考えられるのか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査(PCR法)で再陽性が起こる原因について考えます
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昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)騒動で一躍有名になったのがPCR検査(RT-PCR)という検査です。現在は、他にも抗体(IgMやIgGなど)を用いた検査が現れましたが、基本的に確定診断で用いられているのはPCR法です。

あらゆる検査は万能ではありませんが(詳細はこちらのコラムを参考にしてください。)、ご多分に漏れず新型コロナウイルス感染症においてもPCR検査に限界があることは注意しなければなりません。また、別の既出コラムで詳述していますが、検査を受けるべき人は本当に必要な人に限ったほうが良いと考えられています。

さて、ここ最近ちらほら話題となっているのが、「新型コロナになってなんとか回復した人が、時間を経て再度検査陽性になった」という報告です。筆者は実際に再陽性となった人を診たわけではない立場ではありますが、この事実から浮き彫りになる大事なことがありますので、このコラムを書いてみました。

 

1. PCR検査について

「PCR検査」や「PCR法」という言葉が巷に飛び交っていますが、この検査は何をする検査なのかご存知でしょうか。ざっくり言うと、PCR検査は、微量なものの中から探したいものの有無を判断する検査です。医療の現場では、痰や鼻腔の拭い液などの人体由来の物質中(検体)に含まれている微生物の存在を探すことができます。

 

少し専門的な内容になりますが、PCR検査とはポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)を用いた検査のことで、ほんの僅かな遺伝子から増幅を繰り返すことで大量の遺伝子のコピーを作ることができます。また、複製されるものはDNA全体というよりは、調べるべき対象のDNAの一部にある特徴的な塩基配列を複製します。こうして所要時間を短縮しつつ対象となるものを特定する精度を保っています。

また、今話題のコロナウイルスはRNAウイルスという分類になります。詳しくは書きませんが、実はこのコロナウイルスに対して行われているPCR法はRT-PCRという少し特殊なものになります。これはRNAに逆転写酵素というものを用いて相補的なDNA(cDNA)を作成して、これを複製することでRNAを複製するもので、通常のPCR法よりも一手間が必要になっています。

 

PCR検査の注意点

どの検査についても言えることですが、PCR検査も完璧ではありません。感度(調べたい微生物がいるときに検査陽性となる割合)も特異度(調べたい微生物がいないときに検査陰性となる割合)も100%とはなりません。つまり、これは検査の結果にどうしてもエラーが入り込んでしまうことを指します。検査はこうした弱点を踏まえつつ用いていくのが鉄則です。

また、PCR法は手間と時間がかかるため、検査技師さんが頑張って処理しても数時間はかかってしまいます。何件もの多い数の検査をこなすことは簡単ではありません。

 

2. PCR検査と新型コロナウイルス感染症について

PCR法を用いることで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出も可能です。また、現状では診断に用いられる唯一に近い検査ですので、とても重要な立ち位置となります。ですが問題がないわけではありません。

詳しくは「新型コロナウイルスの検査に期待が高まる?検査はどこまで万能なのか」で説明しているのでそちらに譲りますが、次のことがあるため慎重に考えなければなりません。

 

新型コロナウイルス感染症におけるPCR検査の問題点】

  • 検査で陽性となっても一部では感染していなかったり、検査で陰性となっても一部では感染していたりといったエラーが起こる(陽性適中率・陰性的中率の問題)
  • 国内で行える検査の数に限りがある(キャパシティの問題)
  • 検査結果が出るまでにある程度時間がかかる(リソースの問題)

 

日本はこの問題点を踏まえてより有効に検査を行っているので、現状なんとか持ちこたえられているという意見があります。この意見が正しいかはパラレルワールドを作って比較してみないとわからないので確定的なことは言えないですが、少なくとも言えるのは、PCR検査を絞って行っている背景には深い考えがあるのは間違いないです。現状の国のやり方が無策であるとは言えないと思います。

 

3. 新型コロナウイルス感染症の入院患者とPCR検査

2020年4月27日現在では、日本国内新型コロナウイルス感染者は一部の軽症者を除いて原則入院となっています。当然、入院した人は治療を受けるわけですが、その先には「いつになったら退院できるのか」という判断も必要になってきます。

 

新型コロナウイルス感染者の退院の基準にPCR検査が使われている

新型コロナウイルス感染症で入院した場合には、症状が消失してから2回PCR検査が行われます。その2回の検査の両方で陰性となった場合に退院が許可されるというわけです。

 

【退院までの流れ(厚生労働省ホームページより)】

 

新型コロナウイルス感染者の退院基準

 

この判断はかなり慎重を期しています。新しい感染症においては、わからないことも多い中でのルール設定や線引きは難しいのですが、今後データが集積されれば基準がさらに変わっていくことが予想されます。

 

一方で、「感染者に行った検査で一度陰性となったのに、その後の検査で再度陽性となった」という事例が報告されています。この報道を聞いて、もしかしたら新型コロナウイルス感染症はなかなか治らない病気なのではないかと不安になる人もいるかもしれません。いったいどう考えたら良いのかもう少し深く考えてみます。

 

4. PCR再陽性の原因には何が考えられるか?

報告を見る限り、退院基準を満たすために行った2回の検査の1回目で陰性となったのに2回目で陽性となってしまった人もいれば、一旦退院したけれどまた症状が出てきて検査をしたら陽性だったという人もいるようです。何が原因でこうしたことが起こるのでしょう。

実はこの現象は新型コロナウイルス感染症に限ったものではありません。有名なのは結核の検査で、全く同じようなことが起こります。原因には次のようなことが考えられます。

 

【PCR検査が再陽性となる場合に考えられる原因の仮説】

  • 検査の精度に限界がある
    • 偽陽性(もうウイルスはいないのに陽性と出た検査が間違っていた)
    • 偽陰性(まだ罹患しているので陰性と出た検査が間違っていた)
  • 再び感染が活発化している
    • わずかに体内に残っていたウイルスが何らかの理由で増殖し始めた
  • ウイルスが死んでいても、その残骸を拾うことで陽性となった

 

もちろんここに挙げた以外の原因も考えられますが、上の3つの可能性は知っておくと良いと思いますのでも少し詳しく説明します。

 

検査の精度に限界がある

どんな検査も完璧とはいきません。どうしても検査の精度に問題が出てきます。その原因についてはこちらのコラムで説明しているので詳述しませんが、検査が陽性となっても実は感染していない場合(偽陽性)や検査が陰性となっても実は感染している場合(偽陰性)は、必ず生じてしまいます。新型コロナウイルス感染症においては、極力検査前確率の高い人に絞って検査結果の信頼度を高めていますが、どうしてもこのエラーは生じてしまいます。

 

再び感染が活発化している

実は治ったつもりの感染が再び出てくるということがあります。これは新型コロナウイルス感染症に限った話ではなく多くの感染症で起こることです。

「感染症が成立するかどうか」は微生物と免疫システムのバランスによって決まります。そして、感染症が治るかどうかについてもこのバランスによって決まります。つまり、微生物の侵入を免疫システムが抑え込めなければ感染症が成立してしまいますが、逆に感染を起こしたウイルスを免疫システムが抑え込む状態になれば感染症は治っていくというわけです。(この流れに関してもう少し詳しく知りたい方は感染症の成り立ちのコラムを参考にしてください。)

免疫システムがウイルスを抑え込んだことによって、まだ完治はしていないが検査で陰性となる場合がありえます。その後に、何らかの原因で免疫のバランスが乱れたことによって、抑え込んでいたウイルスが再び勢いを取り戻して感染が再燃することがあります。この場合には1度検査で陰性となっても再び陽性となることがありえます。

 

ウイルスが死んでいても、その残骸を拾うことで陽性となった

PCR法ではターゲットとなる微生物の遺伝子を見ています。感染症の検査では培養検査というものが行われることも多いですが、これはPCR検査とは異なります。培養検査では微生物が増殖しやすい環境を作って、それらを増やして検査を進めます。この2つの検査をまとめると次のようになります。

 

【2つの検査の特徴】

  PCR検査 培養検査
やっていること 遺伝子を増幅させる 微生物そのものを増殖させる
特徴の違い 微生物が生きていようが死んでいようが検出できる 微生物が生きていないと検出できない

 

つまり、PCR検査で陽性であっても生きたウイルスがいるとは限らないわけです。自分の免疫が頑張ったことでウイルスを倒した残骸を拾っている可能性があります。本来は培養検査まで行って感染性がどの程度あるのか(生きたウイルスがどの程度居るのか)を調べると良いのですが、現段階で培養検査は簡単に行えないのが現状です。最近では、世界的な学会誌における報告や韓国保健局から「PCR再陽性となっても培養で生えるようなウイルスは存在しない」という話も出てきているようですが、培養自体が難しいという背景も考えられるため、今後のさらなる追求が待たれるところです。

 

5. PCR再陽性を深く考えることで分かるもの

PCR再陽性について考察してきましたが、この事実は私たちの現状にヒントをくれているかもしれません。

 

医療リソースの割き方について

そもそも確認の再検査は要るのかという問題もあります。PCR検査が揺らぎによって再陽性になるのであれば、確認作業としてのPCR検査をを行わないという考え方も合理的になってきます。実際のところ、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)では「薬を使用せずに解熱して、咳や息切れなどの呼吸器症状が消失してから3日以上経った場合、かつ症状が現れてから7日以上経った場合には退院できる」としています。つまり、入院治療が必要なくなった人は、一定期間が経過すれば自宅安静とする判断もできるわけです。もちろん我が国の退院基準においてもPCR検査ができない場合についても考慮されていますが、多くの場合で退院前検査が行われているのが現状ではないでしょうか。もちろん国によって流行や医療のあり方は異なるため、議論なく海外データを鵜呑みにしてはいけませんが、この考え方を一つの選択肢とすることで、稼働できる病床数や医療関係者のリソースを他の重症患者さんへ割くことができるようになります。

 

検査のあり方について

非医療者の方はもちろん一部の医療者においても「検査は絶対である」という認識が形成されているように感じます。しかし、そもそも検査にはエラーがつきものですので、この神話を一旦頭から外して考える必要があります。

本来「検査は疑わしさをより高めたりより低めたりするための道具」です。そのため、背景や身体の状況とあわせながら総合的に判断していくほうが間違いが起こりにくいのです。これは感染症に限らず医療における鉄則ですが、検査は診断のための手段であって、決して目的ではないことに一度立ち返る必要があると筆者は考えています。日本におけるPCR検査にはとても複雑な背景があるのは多くの人の共通認識となっていると思いますので、必要な人がきちんと受けられる世の中にするために、状況状況に応じた最適解を見据えていく姿勢が正しそうです。

 

検査前確率と検査後確率

検査のあり方とは?身体状況や背景と合わせて総合的に判断することが大事

 

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※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。