2020.03.02 | コラム

新型コロナウイルスの検査に期待が高まる?検査はどこまで万能なのか

検査の有用性はどうやって決まるのかを説明します
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は中国や日本だけではなく、韓国やイラン、イタリアでも流行が確認されており、もはや世界的な流行が始まっているといっても過言ではないでしょう。国内でも新型コロナウイルスの検査を希望する人も各地で殺到している状況で、検査のキャパシティの拡大が求められています。

しかし、ここで一呼吸おいて考えて欲しいと筆者は考えています。検査は確かに必要なものですが、誰しもに必要なものではないのです。えっ?と驚く人も少なくないと思いますが、その理由については既出のコラムで説明しているので参考にしてください。「そもそも検査ってどのくらい有用なのか?」という疑問は医学生が授業で習うレベルなので、簡単な内容ではありませんが、このコラムでは検査の有用性についてできるだけわかりやすく説明していきます。

 

1. 新型コロナウイルスの検査とは?

ニュースでご存知の人も多いと思いますが、新型コロナウイルスの検査はPCR法(RT-PCR)というやり方で行われます。PCR法はPolymerase Chain Reactionの略で、遺伝子を増幅することで病原微生物を特定します。検査に使われる患者さん由来の物質(検体)は鼻咽頭のぬぐい液や痰などになります。

 

2. 新型コロナウイルスの検査はどの程度正確なのか?

検査の精度を考えるときには、「罹患している人を検査で陽性とできる割合」と「罹患していない人を検査で陰性とできる割合」の両側面から見ていく必要があります。専門的には前者を「感度」といい、後者を「特異度」いいます。この2つの数字のどちらもが高いと精度の高い検査ということになります。実はこの2つの数字を両方高くさせることはとても難しいので、検査方法を確立させる人や基準値を決める人は知恵を振り絞っているという背景があります。

一方で、「感度というのは検査が陽性であった場面での信頼度を見ているわけではない」ということは間違いやすいので気をつけてください。これは同じく「特異度は検査が陰性であった場面での信頼度を見ているわけではない」ともいえます。なんだかややこしくなってきましたので、一旦用語を整理します。

 

【感度と特異度】

  • 感度:罹患している人を検査で陽性とできる割合
  • 特異度:罹患していない人を検査で陰性とできる割合

 

陰性と陽性、感度と特異度の関係

 

検査結果の信頼度は陽性適中率と陰性適中率で決まる

自分が検査を受けた場面を想像してみてください。当たり前のこととは思いますが、検査の結果を信用できるほうが嬉しいですよね。つまり、検査が陽性と出たのであれば実際に罹患しているということであり、検査が陰性と出たのであれば実際に罹患していないということであって欲しいわけです。この当たり前のように思われている検査への信頼感ですが、実はしばしばエラー(不正確な状況)が起こっているのが実態なのです。

医学的には、「検査が陽性の人が実際に罹患している割合」のことを陽性適中率といい、「検査が陰性の人が罹患していない割合」のことを陰性適中率といいます。要は自分に返ってきた検査結果をどのくらい信じて良いのかの割合のことを指しています。

 

【陽性適中率と陰性適中率】

  • 陽性適中率:検査が陽性の人が実際に罹患している割合
  • 陰性適中率:検査が陰性の人が罹患していない割合

 

陽性と陰性、陽性適中率と陰性適中率

 

これは先ほど出てきた感度と特異度とは、ちょうど縦横が異なる関係になります。そして、どんなに感度と特異度が優れた検査であっても、言い換えるとどんなに優れた検査であっても、正しくない結果が出てきてしまうことがあります。どうやっても検査には間違いが起こる限界があるということなのです。

 

検査の正確度には検査前確率が大きく関わっている

検査の限界(陽性適中率や陰性適中率が100%にならない理由)はどこから来るのでしょうか。考えられるのは主に次の2点です。

 

  • 感度と特異度が100%とはならない
  • 結果が検査前確率(検査する前に疾患が疑われている確率)に影響される

 

感度と特異度が100%となる検査は存在しません。罹患していても検査が陰性と出てきてしまうことや罹患していなくても検査が陽性と出てきてしまうことは、どうしても起こってしまいます。

また、陽性的中率と陰性適中率は、検査を受ける前に疾患が存在する確率(検査前確率)の影響を受けてしまうことはとても重要なポイントです。ただ、ここがこのコラムで最も難しい部分なので、次の章で具体的な数字を交えて説明します。

 

3. 誰しもが検査を受けるべきではないのはなぜか?

一部の医療関係者を含み、「希望する人は全員検査を受けるような体制を作るべきだ」という意見をいろいろな方面から耳にします。不安の強い状況で、おっしゃっている気持ちは分かります。検査を受けたいのに受けられない人が多いとなると、こうした思いが増幅していくのも理解できます。しかし、結論から言うとこの意見には正しくない部分が含まれています。

それは検査の精度には検査前確率が大きく関わっているからです。深く考えるとどんどん難しくなっていく内容なので極力シンプルに考えていきます。新型コロナウイルスに対する現状のPCR法の感度について暫定的な報告が出されており、30-50%とも70%ともいわれています。まだ情報の集積フェーズなので確定的な数字は出ていないと判断できるので、ここでは感度を70%で特異度を90%と仮定して議論していきます。

 

風邪症状が出た人がいたとします。本来コロナウイルスは風邪の原因の10-15%ほどと考えられており、今はコロナウイルスが大半が新型であると仮定することで、検査前確率を10%としてみます。すると検査と罹患者の関係は次の表のようになります。

 

◎パターン1【感度70%、特異度90%、検査前確率10%の場合】

  検査陽性 検査陰性 合計
罹患者 70,000 30,000 100,000
非罹患者 90,000 810,000 900,000
合計 160,000 840,000 1,000,000

 

この表が出来上がると、陽性適中率と陰性適中率の計算は単純な割り算で出すことができます。この場合だと、陽性適中率は44%(=70,000/160,000)で陰性適中率は96%(=810,000/840,000)となります。もちろんこれに加えて検体採取の適切性やウイルスの体内での偏在など他にも検査結果に作用してくる要素はありますが、一般論としてはこういった具合になります。検査陽性といわれた人の半分弱しか実際に感染していないのであれば、検査が陽性となっても多くの人は結果をなかなか信頼しにくいと感じるでしょう。

 

コロナウイルスは流行期になると風邪の35%ほどの原因となるともいわれており、検査前確率が30%の状態でもシミュレーションしてみましょう。

 

◎パターン2【感度70%、特異度90%、検査前確率30%の場合】

  検査陽性 検査陰性 合計
罹患者 210,000 90,000 300,000
非罹患者 70,000 630,000 700,000
合計 280,000 720,000 1,000,000

 

同様に計算すると陽性適中率は75%で陰性適中率は88%となります。先ほどよりはだいぶ陽性適中率が上がっているのが分かりますが、それでも検査陽性者の4人に1人は本当は感染していない人が含まれてしまっています。

 

この流行状況で国民全員に検査したらどうなるのか

このコラムを書いている時点で日本国内(クルーズ船以外)で確定している患者さんは234人です。仮に隠れ感染者(潜伏期間や無症状罹患など)が100倍ほどいて、実際の患者数は2.4万人いるとします。国民全員に検査するということになれば、検査前確率は0.02%(国民を1.2億人として計算)として表を作成することになります。

 

◎パターン3【感度70%、特異度90%、検査前確率0.02%の場合】

  検査陽性 検査陰性 合計
罹患者 140 60 200
非罹患者 99,980 899,820 999,800
合計 100,120 899,880 1,000,000

 

計算すると陽性適中率は0.14%となっており、陽性と結果が出た人のほとんどが実際には感染していないという結果が得られてしまいます。この結果を見ると検査の信頼度はとてもじゃないけれど高いとは言えないと思われることでしょう。

一方で、検査が陰性であった人の99.99%が罹患していないと言えるから意味があるではないかという意見が浮かぶかも知れません。ですが、ちょっとだけ冷静に考えてみてください。検査を受ける前から99.98%の人が罹患していない(つまり罹患率0.02%)という状態であることを思い出してみると、検査が陰性であっても罹患していない確率はほとんど変わっていないのです。また、検査の偽陰性(検査が陰性だけど実は感染している人の割合:1−陰性適中率)も問題となっていますが、陰性適中率が高い場合に理論上あまり問題とならないはずなので、あまりウイルスが存在していない部位での検体採取や検体保存中の取り扱いの影響などのイレギュラーがどうしても見られてしまうためと考えられます。

 

これらは仮定の話であるとはいえ、同じ検査であっても検査前確率によって検査の精度は大きく変わってくるということは浮き彫りになってきました。この状況を鑑みると、より疑わしい人に絞らずに全員にPCR法を行うのはおすすめできないのです。

 

4. 限りある資源を最大限に活用していく社会に

検査の限界について説明してきました。全員に検査をするべきではない理由はとても複雑な話でしたが、是非こういった話があるんだくらいに頭の片隅に置いておいてください。

現在、日本では検査を受ける人を「流行地域からの帰国者」、「感染者との濃厚接触者」、「コロナが疑わしいと判断される人」、「コロナが否定できない重症者」に絞っています。なんだか世知辛いように感じる人もいるかも知れませんが、これはとても妥当な方針である2つの理由について説明します。

まず1点目は、検査のキャパシティが限られているので、上に挙げたような優先するべき人たちを優先的に検査するべきということです。特に重症の人や重症になりかかっている人が検査をできない状況は避けるべきと思います。

2点目は、上に挙げた条件に該当する人たちは検査前確率が高くなっているということです。つまり、検査が陽性となった時の信頼度(陽性適中率)が高い人たちなのです。実は日頃の臨床現場でも同じようなことが行われており、検査を受けてもらう前に医師は適切な問診や身体診察を行い、疑わしい病気の検査前確率を高めているのです。

 

医療経済の点にさえ目をつぶれば、資源がふんだんにある検査をどんどんやっても良いというのは分かりますが、今の新型コロナウイルス検査の状況は明らかに資源が限られています。検査結果がどの程度信用できるのかという問題もありますし、不安だからという理由でみんなが検査に殺到するのはかなり迷走してしまっている状況です。検査の精度も高いとは言い切れない状況である上に、そもそも有効な治療薬はない病気ですので、軽症の人は咳エチケットを守りながら自宅で安静に過ごすというのがとても大事ということになります。

 

5. 僕たちに何ができるのか

報道も加熱しており、連日多くの専門家たちが皆さんにやってもらいたいことをお伝えしています。やっていただきたいことは実はシンプルで、「手洗い」と「咳エチケット(咳やくしゃみなどの症状がある人はマスクをつける)」がメインになります。手洗いは感染をもらわないことに主眼をおいており、咳エチケットは感染を広めないことに主眼をおいています。

また、加えて体調が悪い人は自宅で安静にするように努めてください。これは自分のためであり他人のためでもあります。日本では体調が悪くても働くことを美徳として考える風潮がありがちですが、体調不良があればちゃんと休むようにしてください。もしかしたらコロナウイルスがきっかけとなり、オンとオフの切替を大事にして、仕事の効率を重視していく働き方へと変わっていくタイミングなのかも知れません。

 

国としての臨機応変の対応・医療者の現場での努力・一般市民の皆さんの感染予防が三位一体となって協力し合えば、流行を少しでも早く終息させることができるはずです。自分の身体を労り、他人にも優しい行動をとれるような社会へとみなさんと一緒に向かっていきたいです。

執筆者

園田 唯

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。