ダニが運んでくる病気?日本紅斑熱とツツガムシ病とは

山間部にお住まいの方が近所で農作業をしたり、都市部から山間にレジャーをしに行ったりして、帰宅して数日後から体調が悪くなることがあります。 こうした病気の中にダニが原因となるものがあります。日本紅斑熱やツツガムシ病がその代表例です。これらの病気の特徴や、どういった点に注意すれば良いのか説明します。
どんな病気なのか?
日本紅斑熱やツツガムシ病はどちらも、ダニの体内にいる病原体(リケッチア)が人間の体内に入り、
数日間、人間の体内で病原体が増殖して(=潜伏期)、発熱やだるさ、頭痛などの
どんな病気かを知ることは、予防の観点だけでなく、感染した場合でも適切な治療につながることが期待されます。
感染が起こりやすい時期や場所
草むらや雑木林など、ダニが生息している場所に人が立ち入ることが、感染の機会となります。あるいは、飼育している動物がダニを付けて家に持ち帰ることもあるかもしれません。そのため、ダニの活動する時期や場所などの情報が重要です。
日本紅斑熱は主にチマダニ類のマダニ(幼虫、若虫、成虫)が問題になります。また、ツツガムシ病はツツガムシ(これもダニの仲間です)の幼虫のみが感染を起こすとされます。
マダニとツツガムシは、どちらもダニですが全く異なる種類です。それぞれの種類が異なれば生息地域も異なるために、日本紅斑熱とツツガムシ病が発生しやすい地域は異なると考えられます。ただし、日本紅斑熱が西日本で発生が多い理由ははっきりしていません。
また発生時期は、それぞれのダニの活動時期とおよそ一致し、日本紅斑熱は春から冬にかけて多く発生します。一方、ツツガムシ病はツツガムシが保有する病原体の種類(=血清型)によって、発生時期や病原性も異なるのが特徴です。 以下の図を参考にして下さい。
【日本紅斑熱とツツガムシ病の県別別発生状況(感染症発生動向調査事業年報をもとに作成)】
よくある症状
日本紅斑熱やツツガムシ病は、自覚症状が似ています。発熱、頭痛、だるさ、筋肉痛、関節痛、咽頭痛といった、風邪やインフルエンザでもありそうな症状です。そのため、一見ダニの感染とは気づきにくいです。どちらも「3徴」=「発熱・
どちらの病気も、発疹はほぼ全患者で認められ、刺し口も90%近くの患者で認められます(注:日本紅斑熱の刺し口のほうが小さく見つけにくい)。しかし、発疹を患者が自覚していたのは、日本紅斑熱で60%、ツツガムシ病で44%しかなく、「臨床診断の鍵」とも言われる刺し口は、日本紅斑熱で4%、ツツガムシ病で12%のみしか自覚されませんでした。また発熱を自覚しても、必ずしも病院受診時の検温で高熱がでているとは限りません。
発疹や刺し口は、多くの場合、痛くも痒くないために気づきにくいかもしれません。そのため、次のことに当てはまる場合は、医療者に伝えるようにして下さい。
- どの時期に(症状がでる数日から2週間程度前に)
- どの地域で(草むら、雑木林などが多く、野生動物が良く出る地域で)
- どんな活動をしたか(草むしりなどの農作業、キャンプなど)
これらの情報は、病気が診断されるきっかけとなります。
どうやって診断するのか?
日本紅斑熱とツツガムシ病は、医療機関で一般的に行う検査では診断できません。どちらの病気も、
どういった治療をされるのか?
どちらもテトラサイクリン系の抗菌薬(ミノサイクリンやドキシサイクリン)が有効です。治療が遅れると重症化や死亡に関連することもあるため、日本紅斑熱やツツガムシ病を疑い次第、検査で診断が確定するのを待たず、直ちに治療を開始することが重要です。治療開始後、通常2-3日以内に解熱しますが、日本紅斑熱ではもう少し解熱に時間がかかる場合があります。合計7-14日ほど治療をします。
どうやったら予防できるのか?
今のところ有効なワクチンは存在せず、予防法は確立していません。しかし、「草むらや雑木林などのダニの生息環境に入らない」、「野外活動時に肌の露出を避ける」、「ダニの忌避剤(イカリジンやディートを含有した薬剤)を使用する」などが有効な予防法と考えられます。忌避剤は有効成分の濃度に応じて数時間毎に使用する必要があります。
病原体を持つダニが身体についても、蚊と違ってすぐに病原体が人間の体内に入るわけではありません。数日かけて吸血しますし、その前に衣服や身体にとりついてから皮膚を刺すまでには数時間が経過することもありますので、野外活動後はすぐに入浴して身体をよく洗ってください。ダニが皮膚にたどりついていても刺す前であれば洗い流すことができます。また、衣服についたダニを屋内に持ち込む可能性があるので、衣服は洗濯し、乾燥機を使用してください。 なお、すでに刺されている場合は、湯船につかっても離れませんので、以下を参照してください。
もしダニに刺されたことに気づいたら?
ツツガムシ病を引き起こすツツガムシの幼虫は肉眼でみつけるのは困難なほど小さいです(体長0.2-0.3mmほど)。
【写真:ツツガムシの幼虫】
刺し口の多くは無症状で、場所は湿った柔らかい皮膚、例えば脇の下や下着の当たるところに多いです(症状については例外的に、東北地方で夏に発生する、アカツツガムシの幼虫の刺し口は、衣服に触れた時などに特有のチクチクした痛みを感じます)。
一方、日本紅斑熱を引き起こすマダニは、幼虫は小さいですが(体長1mm弱)、若虫や成虫は吸着に気付くことがあります。とくに入浴時は皮膚面をよく見ることができるため、ダニを見つけやすくなります。
【マダニの幼虫・若虫写真】
日本紅斑熱では、刺し口は無症状のことが多いです。また、そもそもマダニの病原体保有率はとても低いため、「マダニに刺された」と受診しても、その後
もし吸着部の一部(口下片)を取り残して放置しても、感染自体が増えるという報告はありません。ただ、まれにしこり(異物
マダニを火で炙る(あぶる)、ワセリンで覆うなどは確実ではなく、基本的には推奨されません。ただし、マダニに刺されたときの対応は、専門家の間でも意見が一致していない部分があります。また、(ボレリア感染症のライム病の流行地域を除き)リケッチア感染症に対する予防的な抗菌薬投与は基本的には推奨されませんが、状況に応じた判断が必要なため医師の指示に従ってください。マダニの除去時に無症状でも、数日-10日程度は熱などの症状が出ないか気を付けましょう。そして熱など何らかの症状がでている人や後日症状が出現した人は、直ちに医療機関を受診してダニとの関わりがあったことを医師に告げてください。
以上、ダニが原因となる日本紅斑熱とツツガムシ病について説明しました。
農作業や自然環境でのレジャーの際には、感染症を心配しすぎずに、楽しい時間を過ごせるように心がけてください。
執筆者
1. Emerging Infectious Diseases 2018 ; 24 : 1633-1641. (https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/24/9/17-1436_article#)
2. 国立感染症研究所(日本):病原微生物検出情報 IASR 2017, 38 : 109-112
3. Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) 2016 ; 65 : 1-44
4. Hospitalist 2017 ; 5 : 519-528
5. Visual Dermatology 2018 ; 17(11) : in press
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。