2018.08.31 | コラム

ダニが運んでくる病気?日本紅斑熱とツツガムシ病とは

症状、治療、予防法など
ダニが運んでくる病気?日本紅斑熱とツツガムシ病とはの写真
(c)kinpouge05-iStock.com

山間部にお住まいの方が近所で農作業をしたり、都市部から山間にレジャーをしに行ったりして、帰宅して数日後から体調が悪くなることがあります。 こうした病気の中にダニが原因となるものがあります。日本紅斑熱やツツガムシ病がその代表例です。これらの病気の特徴や、どういった点に注意すれば良いのか説明します。

どんな病気なのか?

日本紅斑熱ツツガムシ病はどちらも、ダニの体内にいる病原体(リケッチア)が人間の体内に入り、感染症を引き起こします。そのためリケッチア感染症とも呼ばれます。ともに感染症法で4類感染症に指定されているため、診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出を行うことになっています。2017年は日本紅斑熱337例、ツツガムシ病439例が報告されていますが、届け出数よりも実際の発生数はもっと多いと考えられます。(2018年8月時点)

数日間、人間の体内で病原体が増殖して(=潜伏期)、発熱やだるさ、頭痛などの症状が出ます。診断が難しいため、見逃しやすいですが、適切に治療しないと死亡することのある病気です。感染症に対して使用されることの多いセフェム系やペニシリン系の抗生剤(抗菌薬)が効かないため、これらの病気を医師が思いつかないと、適切な治療が行われません。

どんな病気かを知ることは、予防の観点だけでなく、感染した場合でも適切な治療につながることが期待されます。

 

感染が起こりやすい時期や場所

草むらや雑木林など、ダニが生息している場所に人が立ち入ることが、感染の機会となります。あるいは、飼育している動物がダニを付けて家に持ち帰ることもあるかもしれません。そのため、ダニの活動する時期や場所などの情報が重要です。

日本紅斑熱は主にチマダニ類のマダニ(幼虫、若虫、成虫)が問題になります。また、ツツガムシ病はツツガムシ(これもダニの仲間です)の幼虫のみが感染を起こすとされます。

マダニとツツガムシは、どちらもダニですが全く異なる種類です。それぞれの種類が異なれば生息地域も異なるために、日本紅斑熱ツツガムシ病が発生しやすい地域は異なると考えられます。ただし、日本紅斑熱が西日本で発生が多い理由ははっきりしていません。

また発生時期は、それぞれのダニの活動時期とおよそ一致し、日本紅斑熱は春から冬にかけて多く発生します。一方、ツツガムシ病はツツガムシが保有する病原体の種類(=血清型)によって、発生時期や病原性も異なるのが特徴です。 以下の図を参考にして下さい。

 

日本紅斑熱ツツガムシ病の県別別発生状況(感染症発生動向調査事業年報をもとに作成)】

日本紅斑熱とツツガムシ病の県別別発生状況

 

よくある症状

日本紅斑熱ツツガムシ病は、自覚症状が似ています。発熱、頭痛、だるさ、筋肉痛、関節痛、咽頭痛といった、風邪インフルエンザでもありそうな症状です。そのため、一見ダニの感染とは気づきにくいです。どちらも「3徴」=「発熱・発疹・刺し口」が特徴とされます。しかし、患者自身が主に自覚するのは発熱で、発疹や刺し口は、診断した医師の診察によって認識されることが多いです。

どちらの病気も、発疹はほぼ全患者で認められ、刺し口も90%近くの患者で認められます(注:日本紅斑熱の刺し口のほうが小さく見つけにくい)。しかし、発疹を患者が自覚していたのは、日本紅斑熱で60%、ツツガムシ病で44%しかなく、「臨床診断の鍵」とも言われる刺し口は、日本紅斑熱で4%、ツツガムシ病で12%のみしか自覚されませんでした。また発熱を自覚しても、必ずしも病院受診時の検温で高熱がでているとは限りません。

発疹や刺し口は、多くの場合、痛くも痒くないために気づきにくいかもしれません。そのため、次のことに当てはまる場合は、医療者に伝えるようにして下さい。

 

  • どの時期に(症状がでる数日から2週間程度前に)
  • どの地域で(草むら、雑木林などが多く、野生動物が良く出る地域で)
  • どんな活動をしたか(草むしりなどの農作業、キャンプなど)

 

これらの情報は、病気が診断されるきっかけとなります。

 

どうやって診断するのか?

日本紅斑熱ツツガムシ病は、医療機関で一般的に行う検査では診断できません。どちらの病気も、抗体検査や遺伝子検査などの特別な検査が必要です。保健所へ依頼し、地方衛生研究所で遺伝子検査ができる地域もありますが、血清を使う抗体検査は原則として急性期と回復期の2回採血して診断を行います。そのため治療終了後、もう一度診断のために採血検査をします(急性期の検査だけでは診断できないことが多い)。

 

どういった治療をされるのか?

どちらもテトラサイクリン系の抗菌薬(ミノサイクリンやドキシサイクリン)が有効です。治療が遅れると重症化や死亡に関連することもあるため、日本紅斑熱ツツガムシ病を疑い次第、検査で診断が確定するのを待たず、直ちに治療を開始することが重要です。治療開始後、通常2-3日以内に解熱しますが、日本紅斑熱ではもう少し解熱に時間がかかる場合があります。合計7-14日ほど治療をします。

内服薬の場合、ミノサイクリンかドキシサイクリンを使います。注射薬はドキシサイクリンが日本にないため、ミノサイクリンのみ使用可能です。薬剤アレルギー以外には、ミノサイクリンではめまいやふらつき、ドキシサイクリンでは吐き気などが起こることがありますが、通常は治療後に改善します。なお、これらの薬は一部の便秘薬や鉄剤などと一緒に内服すると効果が落ちるため、内服している薬を(市販薬も含めて)必ず医師に伝えてください。

 

どうやったら予防できるのか?

今のところ有効なワクチンは存在せず、予防法は確立していません。しかし、「草むらや雑木林などのダニの生息環境に入らない」、「野外活動時に肌の露出を避ける」、「ダニの忌避剤(イカリジンやディートを含有した薬剤)を使用する」などが有効な予防法と考えられます。忌避剤は有効成分の濃度に応じて数時間毎に使用する必要があります。

病原体を持つダニが身体についても、蚊と違ってすぐに病原体が人間の体内に入るわけではありません。数日かけて吸血しますし、その前に衣服や身体にとりついてから皮膚を刺すまでには数時間が経過することもありますので、野外活動後はすぐに入浴して身体をよく洗ってください。ダニが皮膚にたどりついていても刺す前であれば洗い流すことができます。また、衣服についたダニを屋内に持ち込む可能性があるので、衣服は洗濯し、乾燥機を使用してください。 なお、すでに刺されている場合は、湯船につかっても離れませんので、以下を参照してください。

 

もしダニに刺されたことに気づいたら?

ツツガムシ病を引き起こすツツガムシの幼虫は肉眼でみつけるのは困難なほど小さいです(体長0.2-0.3mmほど)。

 

【写真:ツツガムシの幼虫】

ツツガムシの幼虫

 

刺し口の多くは無症状で、場所は湿った柔らかい皮膚、例えば脇の下や下着の当たるところに多いです(症状については例外的に、東北地方で夏に発生する、アカツツガムシの幼虫の刺し口は、衣服に触れた時などに特有のチクチクした痛みを感じます)。

一方、日本紅斑熱を引き起こすマダニは、幼虫は小さいですが(体長1mm弱)、若虫や成虫は吸着に気付くことがあります。とくに入浴時は皮膚面をよく見ることができるため、ダニを見つけやすくなります。

 

【マダニの幼虫・若虫写真】

マダニの幼虫・若虫

 

日本紅斑熱では、刺し口は無症状のことが多いです。また、そもそもマダニの病原体保有率はとても低いため、「マダニに刺された」と受診しても、その後発症することは極めてまれと考えられます。しかし、マダニに刺された場合、他の病原体も含めて感染リスクがないとは言えず、気づいた時点で速やかな除去をお勧めします。除去のための医療機関受診が困難な場合は、マダニの吸着部(=刺し口の根元部分のこと。胴体部分を挟むと病原体が自分の体内に注入される危険あり)をピンセットでつかんでゆっくり真上に引き抜くことができれば、多くの場合で問題になりません。市販のマダニ除去器具(Tick Twister®など)を用いてもよいでしょう。

もし吸着部の一部(口下片)を取り残して放置しても、感染自体が増えるという報告はありません。ただ、まれにしこり(異物肉芽腫)を形成することがあり、緊急性はありませんが医療機関での外科的切除が必要なことがあります。

マダニを火で炙る(あぶる)、ワセリンで覆うなどは確実ではなく、基本的には推奨されません。ただし、マダニに刺されたときの対応は、専門家の間でも意見が一致していない部分があります。また、(ボレリア感染症のライム病の流行地域を除き)リケッチア感染症に対する予防的な抗菌薬投与は基本的には推奨されませんが、状況に応じた判断が必要なため医師の指示に従ってください。マダニの除去時に無症状でも、数日-10日程度は熱などの症状が出ないか気を付けましょう。そして熱など何らかの症状がでている人や後日症状が出現した人は、直ちに医療機関を受診してダニとの関わりがあったことを医師に告げてください。

 

以上、ダニが原因となる日本紅斑熱ツツガムシ病について説明しました。

農作業や自然環境でのレジャーの際には、感染症を心配しすぎずに、楽しい時間を過ごせるように心がけてください。

執筆者

山藤栄一郎

参考文献

1. Emerging Infectious Diseases 2018 ; 24 : 1633-1641. (https://wwwnc.cdc.gov/eid/article/24/9/17-1436_article#)

2. 国立感染症研究所(日本):病原微生物検出情報 IASR 2017, 38 : 109-112

3. Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) 2016 ; 65 : 1-44

4. Hospitalist 2017 ; 5 : 519-528

5. Visual Dermatology 2018 ; 17(11) : in press

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。