2018.01.11 | ニュース

遺伝による目の病気に対して初の遺伝子治療、アメリカで承認

両目で85万ドルの費用も課題に

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失明に至る恐れもある、遺伝子変異によるまれな病気に対して、細胞に正常遺伝子を運ぶ治療がアメリカで承認されました。ほかの治療薬がない中で効果を示した一方、両目で85万ドルという高額な費用も注目されています。

FDAが遺伝子治療薬「ラクスターナ」を承認

2017年12月19日に、米国食品医薬品局(FDA)が、RPE65遺伝子の両側対立遺伝子異常による網膜ジストロフィの治療薬として、voretigene neparvovec-rzyl(商品名ラクスターナ)を承認しました。

RPE65遺伝子は、遺伝する網膜の病気に関連する遺伝子のひとつです。RPE65遺伝子の両側対立遺伝子異常による網膜ジストロフィは非常にまれな病気で、FDAの発表によれば患者数は米国で1,000人から2,000人ほどです。子供や若い成人のうちに夜盲(暗い場所で見えにくくなる)などの症状が現れ、完全に見えなくなる場合もあります。以前には有効性を示した治療薬がありませんでした。

ラクスターナは1回の注入によりRPE65の正常遺伝子を網膜の細胞に届ける治療薬です。特定の遺伝子の変異による病気に対して直接注入する遺伝子治療としてはアメリカではじめての承認となりました。

FDA長官のスコット・ゴットリーブ氏は、「遺伝子治療は我々にとって最も破壊的で手に負えない病気の多くに対する、もしかしたらそれらを克服する、治療の頼みの綱となるだろうと私は信じている」と述べています。

 

障害物をよけて歩けるように

臨床試験では、対象となった患者31人がランダムに分けられ、21人がラクスターナを使用するグループ、10人はラクスターナを使用しないグループとされました。どちらのグループでも1人ずつが治療開始前に離脱しました。

治療効果の判定のため、視力・視野・光を感じる力を総合的に調べるMLMT(multi-luminance mobility test)という検査が使われました。MLMTは暗い部屋の中で目印に従って障害物をかわしながら歩くテストです。

治療後1年時点で、ラクスターナを使用したグループではMLMTのスコアが治療前から平均1.8点改善していましたが、使用しなかったグループでは平均0.2点の改善で、ラクスターナを使用したグループのほうが改善が大きくなりました

 

安全性については、治療後に白内障、眼内圧上昇、血球増多症、吐き気、嘔吐、発熱、鼻咽頭炎、頭痛、咳、喉の痛みなどが現れた人がいましたが、治療と関連して深刻な出来事があった人はいませんでした。

 

両目で85万ドル

ラクスターナの表示価格は片目で425,000ドル、両目で850,000ドル(およそ9,600万円)ときわめて高額です。

製薬企業は、治療対象となりうる患者がラクスターナを選択可能になるための助けとして、治療結果が望ましいものでなければ払い戻しをするなど3種類のプログラムを提示しています

 

遺伝子治療の未来は?

アメリカで新しく承認された、まれな病気に対する遺伝子治療を紹介しました。ほかにアメリカで承認されている遺伝子治療としては、血液細胞由来のがんを治療する「CAR T細胞療法」として2種類の薬剤があります。いずれも日本では未承認です。

ゴットリーブ氏のように遺伝子治療に対して期待を寄せる見解もありますが、高額な費用などの懸念を乗り越えて標準的な治療となっていくかどうかは今後にかかっています。さらに、ほかの病気に対する遺伝子治療の応用が広がっていくかどうかも未知です。

遺伝子治療に対して現時点で合理的に期待できることを知るには、新しい情報をできる限り正確に把握し、妥当な方法で評価し続けていくことが必要です。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

FDA approves novel gene therapy to treat patients with a rare form of inherited vision loss.

FDA Press Release. 2017 Dec 19.

https://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm589467.htm

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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