2017.12.26 | ニュース

2017年の医学10大ニュースにコレラの流行など、ランセット誌

政治、技術の側面も

from Lancet

2017年の医学10大ニュースにコレラの流行など、ランセット誌の写真

イギリスの有名医学誌『Lancet』が、医学に関係する範囲を中心に2017年の出来事を振り返り、大きな10の話題を選びました。

WHO事務局長にエチオピア出身のテドロス氏が就任

世界保健機関(WHO)の前事務局長のマーガレット・チャン氏を継いで、エチオピア出身のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス氏が新事務局長に選ばれ、7月に就任しました。

 

イエメンでコレラの流行

アフリカ東部の国イエメンでコレラの流行が発生し、WHO東地中海地域事務局の公表によれば、4月から10月末にかけて2,200人近くの人がコレラに関連して死亡しました。

 

イエメン内戦で食料・医療の状況が悪化

イエメンで続いている内戦にともない、食料難や医療体制の悪化により、2,000万人を超える人が人道的支援を必要とする状況に陥っています。

 

中国の健康政策

中国の習近平総書記が10月に、高齢者に対する医療の提供、健康的な生活習慣の普及などを含む医療政策についてのプランを提示しました。

 

セクハラに抗議する声

女優のアリッサ・ミラノ氏のTwitterの投稿などをきっかけに、「#MeToo」のハッシュタグを使うなどしてセクシュアルハラスメントや性暴力に抗議する声が世界各国で高まりました。

 

トランプ政権誕生

1月にドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国の大統領に就任しました。『Lancet』の記事は、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)から脱退する意志の表明や「オバマケア」を見直す動きを指して、「彼の政策はこれまで科学、医学、世界保健にとって勇気づけられるものではなかった」と記しています。

 

免疫療法「CAR-T」がアメリカで承認

8月に、前駆B細胞急性リンパ性白血病のある患者から取り出した細胞に遺伝子操作を加えて体に戻す「CAR-T」という治療法が、新薬(チサゲンレクロイセル、商品名キムリア)として米国食品医薬品局(FDA)に承認されました。きわめて高額な費用や、効果の現れなかった場合は対価を求めないという方法の提案などでも話題になりました。

 

ロヒンギャ危機

ミャンマーのバングラデシュに隣接した地域に住む、「ロヒンギャ」と呼ばれる人々に対して攻撃がなされ、多くの人が殺害されました。一部の人は難民としてバングラデシュに逃れました。

 

ベネズエラ危機

ベネズエラの経済危機により医療システムが打撃を受け、病院に必要な薬剤や設備の不足といった問題が発生しています。

 

核兵器禁止とノーベル平和賞

100か国を超える国の非政府組織が連合した、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)がノーベル平和賞を受賞しました。受賞理由は「核兵器のいかなる使用によっても引き起こされる破滅的な人道上の結果に対して注意を引き、条約によってそうした兵器を禁止することを達成するに至った草分けの努力に対して」とされました。
ICANも関与して、2017年には核兵器禁止条約が国連で採択されました。

 

2017年はどんな年だったか?

イギリスの医学誌『Lancet』が選んだ2017年の大きな話題を紹介しました。日本でも大きく報道された話題も含め、世界各地の出来事が取り上げられています。『Lancet』はイギリスだけでなく全世界で読まれ、高い信頼を集めています。この10の話題も、世界の医師や医学に関心を持つ人に向けたメッセージと言えます。

その中にはアメリカの政権に対して批判的なコメントなど、暗い話題もある一方、CAR-T承認という新治療も選ばれました。CAR-Tはアメリカでも市販後調査を求められるなど、まだ位置付けが模索される時期にあり、日本では未承認です。CAR-Tが医療の新しい可能性を切り開いていくかどうかはまだわかりません。しかしほかにも無数の試みが医療の進歩を目指して今もなされています。その中にはいつか「大きな進歩があった」というニュースとなって人を勇気づけるものもあるでしょう。

専門誌など各種のメディアが新しい情報を伝え、話題の当事者やその周りにいる人々の活動に力を添える役割は、これからも変わり続ける現実とともに続いていきます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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