2017.09.14 | ニュース

免疫療法「CAR-T」で患者死亡、臨床試験に実施保留命令

AMLとBPDCNの試験について

免疫療法「CAR-T」で患者死亡、臨床試験に実施保留命令の写真

免疫を利用してがんを攻撃する治療の臨床試験で死亡者が出たことなどにより、アメリカの規制当局により試験の実施保留命令が出されました。開発にあたっていた企業は試験の再開を目指しています。

CAR-Tとは?

8月30日に、ノバルティス社による「キムリア(商品名)」が、急性リンパ性白血病(ALL)患者の一部に対する治療として、米国食品医薬品局(FDA)から承認されました。

キムリアは、細胞に遺伝子操作を加えて体に入れる「CAR-T」による治療です。CAR-Tは体の免疫病原体に対する体の防御システム。何かのきっかけで、免疫が過剰反応している状態がアレルギーで、免疫が自分自身の体を攻撃してしまうのが自己免疫疾患のしくみを利用して、がん無制限に増殖して周囲へ広がる、異常な細胞(がん細胞)による病気。塊となって腫瘍を作る固形がんと、白血病のように血液中にがん細胞が存在する血液がんがあるを攻撃する作用を現します。CAR-Tは「免疫療法」のひとつとされ、他社でも開発が進められています。

セレクティス(Cellectis)社の「UCART123」もCAR-Tを使った治療です。

 

UCART123の試験が患者死亡により実施保留命令

セレクティス社が9月4日に出したプレスリリースによると、UCART123を試していた2件の臨床試験に対して、FDAが実施保留命令(クリニカル・ホールド)を下しました。

セレクティス社はUCART123の用量を減らすなどして研究計画を修正し、臨床試験を再開することを目指しています。

 

何が起こったのか?

2件の試験は、急性骨髄性白血病(AML)に対する研究と、芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍細胞が増殖してできるこぶのようなもの。あまり悪さをしない良性腫瘍と、体に強い害を与えることの多い悪性腫瘍に分類される(BPDCN)に対する研究です。

BPDCNの試験で最初に治療を受けた参加者である78歳男性が、UCART123を投与されたあと5日目にサイトカイン免疫にかかわる細胞間で、情報を伝える役割をもつタンパク質放出症候群と重症の肺感染症何らかの病原体が引き起こす病気。細菌、ウイルス、真菌などが原因となることが多い。人から人へ直接うつらないものも含めた総称を経験しました。治療として免疫抑制作用のあるトシリズマブと抗菌薬細菌感染症に対して用いられ、細菌の増殖を防ぐ、もしくは殺菌する薬。ウイルスや真菌(かび)には効果がないが使われ改善しました。

8日目に重症の毛細血管全身に張り巡らされている細い血管。毛細血管において、周囲の細胞との酸素や二酸化炭素のやり取りが行われている漏出症候群とサイトカイン放出症候群が発生し、サイトカイン放出症候群により男性は9日目に死亡しました。

 サイトカイン放出症候群とは、免疫などに関わる細胞の間で情報伝達を担う物質(サイトカイン)が放出され、発熱や呼吸困難など多様な症状を現す状態です。

毛細血管漏出症候群とは、血液の液体成分(血漿)が毛細血管から周りの組織に漏れ出し、血液量の減少などを起こす状態です。

 

AMLの試験で最初に治療を受けた58歳女性は、UCART123の投与を受けたあと8日目にサイトカイン放出症候群が発生し、翌日には悪化して入院が必要なほどになりました。

9日目に生命を脅かすほどの毛細血管漏出症候群が発生しました。

集中治療室(ICUICU = intensive care unit 「集中治療室」のこと。重症度の高い患者さんが入院する病棟)での治療により、11日目にサイトカイン放出症候群は解消し、12日目に毛細血管漏出症候群も解消しました

 

免疫療法の未来は開けたのか?

UCART123の試験の状況を紹介しました。

がん免疫療法の考えは古くからあり、さまざまな方法が試されています。免疫チェックポイント阻害薬に分類されるニボルマブ(商品名オプジーボ®)やペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ®)などの薬剤が「免疫療法」と呼ばれることもあります。しかし、ニボルマブやペムブロリズマブが使われる場面だけを見て「免疫療法ががん治療の主流に加わった」と言うにはまだ早いと言うべきでしょう。

がん免疫療法の研究に注目する立場からは、CAR-TがFDAに承認されたことは重みのある話題かもしれません。しかし、ある状況で有益な治療でも、ほかの状況ではきわめて有害になることが十分想定できます。またUCART123はキムリアと原理が違う部分などもあり、「CAR-Tが有効」「免疫療法が有効」という広い括りで語ることができるかどうかは未知です。

UCART123の試験は近い将来再開され、効果を示して有益な治療として認められるようになるかもしれません。しかし、そうではない可能性もあります。

がん免疫療法はまだ不明な部分の大きい分野です。将来にどの程度期待を持てるか、確かなことは世界中の誰も知りません。自分や近しい人が関わろうとすることがあるなら、現時点でわかる情報をなるべく正確に把握し、考えられる良い結果と悪い結果をできる限り理解しておくことが欠かせないでしょう。

執筆者

大脇 幸志郎


参考文献

Cellectis Reports Clinical Hold of UCART123 Studies.

Cellectis Press Release. 2017 Sept 4.

http://www.cellectis.com/en/press/cellectis-reports-clinical-hold-of-ucart123-studies/

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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