がんを治療する「CAR T細胞療法」の未来に何が待っているのか

がん治療として2017年にアメリカで承認された「CAR T細胞療法」について、最近も新しい研究報告が出ています。アメリカの研究者らによる、将来の展望の解説を紹介します。
研究者がCAR T細胞療法を解説
医学誌『The New England Journal of Medicine』が、アール・A・チャイルズ研究所の研究者2人と編集者の連名で、CAR T細胞療法の展望について解説した社説を掲載しました。
CAR T細胞療法は、血液の細胞由来の
2017年にはアメリカで、前駆
この社説は、同じ号の『The New England Journal of Medicine』に掲載された2本の論文がそれぞれCAR T細胞療法の成果を知らせていることを受けたものです。以前にCAR T細胞療法が置かれていた状況を、社説は次のように説明しています。
この期待できる治療法には厳しい毒性作用と複雑さがあるため、このアプローチが高度に専門化した学術施設以外の臨床の状況で多くの患者を治療するために使用できるかどうかは不明瞭だった。
「厳しい毒性作用」とされたもののひとつが、
そうした状況を背景として、新しい2本の論文の一方は、アキシセルの臨床試験の結果を報告しています。難治性の大細胞型B細胞性リンパ腫に対してアキシセルを使用した101人の患者のうち、48人が完全奏効(がん細胞が見つからなくなった状態)となりました。ただし研究中に死亡した患者のうち3人は治療が関連していると見られました。
もう一方の論文は、難治性B細胞性リンパ腫を持つ28人の患者がCAR T細胞療法を使用し、うち16人が完全奏功となったことを伝えています。対象者のうち1人が、治療に関連する可能性のある脳症で死亡しました。
社説はこうした結果を「印象的」と表現しています。
CAR T細胞療法の未来はどうなる?
社説は進行中の課題として、「リンパ腫に対するCAR T細胞の治療有効性を強化する戦略が研究されつつある」としたうえ、「しかし、この治療法に関連する毒性のメカニズムが完全に理解されていないため、これらの製品の性能を強化する戦略は、意図せずすでに気力をくじくほどの毒性作用を悪化させるリスクを伴っている」と説明しています。
また「残念ながら、がん関連死の多くを占める
CAR T細胞療法が固形がんに対して効果がないことに対しては、大きな要因のひとつとして固形がんの細胞の表面には標的とすることのできる物質が少ないことを挙げ、それを乗り越えるために細胞内の物質に由来する標的を認識できる細胞を作り出すという構想を示しています。
CAR T細胞療法をどう考える?
CAR T細胞療法について、最近報告された研究と、それに対する研究者の解説を紹介しました。
CAR T細胞療法は日本では未承認です(2017年12月時点)。すでに承認されているアメリカでも、今後標準的な治療の一部として定着したり、さらに応用範囲が広がったりするかどうかは未知数です。研究者が指摘している課題は多くの医師や患者からも注目される点となるでしょう。
これまでにも、効果があったとする報告がある一方で、CAR T細胞療法に分類される新薬の臨床試験が、参加者の死亡により実施保留命令を受けた例もあります(この命令はのちに解除されました)。
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CAR T細胞療法が新しい時代を拓く希望となるかどうかはまだわかりません。それを知るには今後の新しい情報をできる限り正確に把握し、妥当な方法で評価し続けていくことが必要です。
執筆者
A Milestone for CAR T Cells.
N Engl J Med. 2017 Dec 28.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMe1714680※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。