2017.09.18 | ニュース

乳がんでセンチネルリンパ節に転移があったら、周りも取るべき?

891人で長期追跡
乳がんでセンチネルリンパ節に転移があったら、周りも取るべき?の写真
(c) Nerthuz - iStock

乳がんの手術では、再発防止のためリンパ節をまとめて取り除く方法がありますが、リンパ浮腫などの原因にもなります。センチネルリンパ節の検査を利用して手術を縮小する方法の長期経過が報告されました。

センチネルリンパ節に1個か2個の転移がある乳がん患者の治療後追跡

アメリカの研究班が、乳がんの手術方法による違いの研究で患者を長期追跡した結果を、医学誌『JAMA』に報告しました。

この研究は、乳がん患者のリンパ節郭清(かくせい)を縮小することを試したものです。

 

リンパ節郭清とは?

乳がんは脇の下(腋窩)のリンパ節に転移しやすい特徴があります。リンパ節転移があっても離れた臓器に転移がなければ、リンパ節転移を元の場所の乳がんとともに取り除くことで、再発なく長期生存することも期待できるとされます。

リンパ節は全身に無数にあります。乳がんが転移しやすいリンパ節は場所が決まっています。ただし、リンパ節転移はがんが成長して大きくなれば見分けやすくなりますが、微量のがん細胞があるだけのリンパ節転移を画像検査で正常なリンパ節と区別することはできません。そこで、手術で一定範囲のリンパ節をまとめて取り除くことで、その中に小さいリンパ節転移が隠れていても取り残さないようにする方法があります。これをリンパ節の郭清と言います。

腋窩リンパ節郭清は有効な治療ですが、腕のむくみなどを症状とするリンパ浮腫(ふしゅ)などを引き起こすこともあります。

 

リンパ節郭清を縮小する方法とは?

見た目に明らかなリンパ節転移がない状況で、腋窩リンパ節郭清が必要かどうかを見分けるために、センチネルリンパ節生検という方法があります。

センチネルリンパ節とは、リンパ節の中でもがん細胞が一番初めに入ってくると思われる数個のリンパ節のことです。センチネルリンパ節は検査で見分けることができ、センチネルリンパ節だけを取り除いて顕微鏡で調べること(生検)によって、転移を見分けることができます。

センチネルリンパ節に転移がないか、あってもわずかなら、ほかのリンパ節に転移がある確率は低いことがわかっています。

 

センチネルリンパ節生検で手術は縮小できたのか?

ここで紹介する研究は、センチネルリンパ節生検で1個か2個のセンチネルリンパ節に転移が見つかった人に対して、さらに腋窩リンパ節郭清をするかしないかによる違いを調べています。

手術前の検査で進行度が早期(T1またはT2)であり、触診でリンパ節転移が見つからなかった人が対象とされ、1999年から2004年にかけて参加しました。どちらのグループでも手術後に再発防止のための放射線治療抗がん剤治療を行いました。

手術後1年で腋窩リンパ節郭清をしたグループではリンパ浮腫を自覚していた人が13%いたのに対して、しなかったグループでは2%でした。

さらに2011年には、手術後6年ほど追跡した結果として、どちらのグループでも生存率や再発に統計的な差が見つからなかったことが報告されています

ここでは前回の報告からさらに追跡を続け、対象者の半数で手術後9.3年以上が経過した時点での解析が報告されています。

 

9.3年経っても生存・再発の差はない

解析から次の結果が得られました。

フォローアップの中央値が9.3年(四分位間範囲6.93-10.34年)となった時点で、10年全生存率はセンチネルリンパ節切除群で86.3%、腋窩リンパ節郭清群で83.6%となった(ハザード比0.85、片側95%信頼区間0-1.16、非劣性P=0.02)。10年無病生存率はセンチネルリンパ節切除群で80.2%、腋窩リンパ節郭清群で78.2%だった(ハザード比0.85、95%信頼区間0.62-1.17、P=0.32)。5年から10年の間に、局所再発はセンチネルリンパ節切除群で1件見られ、腋窩リンパ節郭清群では見られなかった。

10年生存率は郭清をしなかったグループで86.3%、郭清したグループで83.6%であり、郭清しないほうが劣ることはないと判定されました。再発がないまま生存した人の数で比べても統計的な差は確かめられませんでした。5年時点から10年時点の間で局所再発した人は郭清しなかったグループに1人だけいました。

 

乳がんの手術はどこまで縮小できるのか?

センチネルリンパ節の転移が2個までなら腋窩リンパ節郭清をしなくても長期的な結果が悪くなることはなかったとする報告を紹介しました。

がんの手術は一般に、広い範囲を取り除くほどがんを残さず取り切れる見込みがある一方で、手術による害も出やすくなります。同程度の効果を得つつ手術を縮小するためには慎重な検討が必要ですが、こうした長期的な報告が集まることにより、より先を見通した判断の役に立てることができます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Effect of Axillary Dissection vs No Axillary Dissection on 10-Year Overall Survival Among WomenWith Invasive Breast Cancer and Sentinel Node Metastasis: The ACOSOG Z0011 (Alliance) Randomized Clinical Trial.

JAMA. 2017 Sep 12.

[PMID: 28898379]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。