飲酒管理政策と費用対効果
イングランド公衆衛生庁などの研究班が、飲酒による害を減らすための政策の効果・費用対効果などを調査し、イギリスの医学誌『Lancet』に報告しました。
この調査は体系的な方法による研究ではなく、総説(レビュー)とされています。
研究班は、文献の調査によって、関係する研究報告を集めて要約しました。研究から得られている結果をイングランドの状況に当てはめて解釈し、それぞれの政策が社会全体の健康、社会的負担、経済的負担を減らす効果と費用対効果を見積もりました。
教育は費用対効果が低く治療は有効
見つかった研究結果に基づいて、政策の経済的影響などが推定されました。
結果の中から政策と経済的影響の例を挙げます。
- 課税と価格規制
- 課税
- 費用対効果が高く費用を抑えられる
- 最低価格規制
- 費用対効果が高く費用を抑えられる
- 価格競争の禁止または制限
- 効果不明
- 課税
- 広告規制
- 広告禁止
- 費用対効果が高く費用を抑えられる
- 生産者の自主規制
- 効果不明
- 子供にアルコールの広告を見せないようにする施策
- 効果不明
- 広告禁止
- 入手規制
- アルコール販売店の密度規制
- 効果不明
- 販売日時の制限
- 費用対効果が高い
- アルコール販売店の密度規制
- 情報提供と教育
- マスメディアを通じた啓発キャンペーン
- 費用対効果が低い
- 教育プログラム
- 費用対効果が低い
- レーベルの記載
- 効果不明
- マスメディアを通じた啓発キャンペーン
- 飲酒環境の管理
- 販売者の訓練
- 効果不明
- 販売者に責任を負わせる
- 効果不明
- ガラス製品を安全な製品に替える
- 効果不明
- アルコール度数の高い飲料を自主的に取扱い品目から除く
- 効果不明
- 警察のパトロール
- 効果不明
- 公共の場所での飲酒禁止
- 効果不明
- 販売者の訓練
- 飲酒運転防止
- 血中アルコール濃度による運転禁止
- 効果不明
- 呼気テストによる運転禁止
- 費用対効果が高く費用を抑えられる
- 段階的運転免許
- 費用対効果が高い
- 飲酒運転による即時免許取り消し
- 効果不明
- アルコール・イグニッション・インターロック(呼気センサーを通さないとエンジンがかからないようにする装置)
- 費用対効果が高いかどうかは幅がある
- 飲酒運転防止教育プログラム
- 効果不明
- マスメディアを通じた飲酒運転防止キャンペーン
- 効果不明
- 血中アルコール濃度による運転禁止
- 短期的介入と治療
- 家庭医療における治療対象者の発見とアドバイス
- 費用対効果が高い
- 青少年を対象とした治療対象者の発見とアドバイス
- 効果不明
- 心理社会的・精神医学的介入
- 方法によっては費用対効果が高い、または費用を抑えられる
- 薬物治療
- アカンプロサート(商品名レグテクト®)、ナルトレキソン(日本では未承認)は費用対効果が高い
- ナルメフェン(国内未承認)は費用を抑えられる
- 家庭医療における治療対象者の発見とアドバイス
政策の効果をどうやって予測するのか
イングランドの飲酒管理政策についての調査を紹介しました。
ここでは過去の研究結果をイングランドの状況に当てはめていますが、日本にもすべてが当てはまるとは限りません。ただ、費用対効果に基づいて政策をあらかじめ評価するという考え方は一般的なものです。
ここでは教育や情報提供による政策で費用対効果が高いと見られるものはありませんでした。対して、薬物治療を含む治療の中には費用対効果が高いと見られるものがありました。個別の政策の効果を仮定ではなく事実に基づいて予測すること、さらにはほかの政策と比較することは重要な観点と思われます。
飲酒による害を減らすという目的のために、有限の資源を効果的に配分するうえで、こうした種類の見積もりを参考にすることができます。
執筆者
A rapid evidence review of the effectiveness and cost-effectiveness of alcohol control policies: an English perspective.
Lancet. 2017 Apr 15.
[PMID: 27919442]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。