2017.05.10 | ニュース

遺伝子「変異」がある人は乳がん予防のために両側乳房切除をするか?

アメリカ666人の調査から

from Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology

遺伝子「変異」がある人は乳がん予防のために両側乳房切除をするか?の写真

乳がんが発生しやすくなる遺伝子変異が知られています。予防目的で両側の乳房を切除する方法があります。しかし、遺伝子検査で危険性が高くないという結果が出た人も両側乳房切除を行っていたことが報告されました。

アメリカの研究班が、遺伝子検査の結果ごとに両側乳房切除術を行う人の割合を調べ、専門誌『Journal of Clinical Oncology』に報告しました。

この研究は乳がん患者を調査対象としています。早期の乳がん(ステージIII・IVを除く)を診断され、かつ遺伝子検査を受けた666人からの聞き取り調査が行われました。

 

早期の乳がんが見つかった人では普通、乳がんが発生した片方の乳房を治療します。反対側の乳房を治療することは全員には勧められていません。ただし、遺伝子検査の結果によっては、反対側の乳房も一緒に切除すること(両側乳房切除術)が選択肢とされます(日本では保険適用となっていません)。

ここで言う遺伝子検査は、BRCA1などの変異により乳がんが発生しやすいかどうかを調べる検査を指します。特定の遺伝子変異がある人では乳がんが発生する確率が平均より高いことがわかっています。

乳がんが発生しやすいとわかった場合、がんが見つかった乳房とは反対側の乳房に新しく乳がんが発生することを予防する目的で、両側乳房切除術が検討されることがあります。

 

遺伝子検査は乳がん患者全員が受ける検査ではありません。遺伝子検査を勧める基準も考案されています。たとえば、遺伝子変異が疑わしい人に限って遺伝子検査を行うべきという考え方があります。

遺伝的に乳がんが発生しやすい家系では、比較的若い年齢から、近い血縁者に乳がんが発生する傾向があります。こうした特徴から、乳がんと関係する遺伝子変異がある確率を「高リスク」「平均的リスク」に分類することができます。

 

遺伝子の変異は1種類ではありません。病気と関係する変異も、関係しない変異もあります

遺伝子検査では乳がんとの関係がはっきりしない変異も見つかります。「意義の明らかでない遺伝子変異」と呼ばれます。意義の明らかでない遺伝子変異が見つかっても、乳がんが発生しやすいとは言えません。

 

666人の調査結果が集計されました。乳がんと関係する変異について「高リスク」と見られた人は59%、実際に見つかった人は全体の7%でした。

次の結果がありました。

おおよそ半分の患者(検査前高リスクの人で57%、平均的リスクの人で42%)が遺伝カウンセラーと結果について話し合っていた。

遺伝子検査の結果を遺伝カウンセラーと相談した人はおよそ半分だけでした。

全体の29%の人が両側乳房切除術を受けていました。検査結果と手術の関係について次の結果がありました。

BRCA1/2またはほかの遺伝子に病原性変異があった患者は両側乳房切除術を行う率が最も高かった(高リスク群80%、平均的リスク群85%)。しかし、両側乳房切除術は意義の明らかでない遺伝子変異がある患者の間でもしばしば行われていた(高リスク群43%、平均的リスク群51%)。

乳がんと関係する変異が見つかった人のうち80%以上が両側乳房切除術を受けていました。意義の明らかでない遺伝子変異が見つかった人のうち43%(高リスク)から51%(平均的リスク)が両側乳房切除術を受けていました。

 

遺伝子検査の結果の受け止め方についての調査を紹介しました。

この調査結果は何を意味するのでしょうか。

 

「意義の明らかでない遺伝子変異」は、がんとの関係がはっきりしません。すなわち、乳がんが再発しやすいとは言えません。意義の明らかでない変異が見つかっただけなら、数字の上では再発予防策を強化するべき理由がないことになります。

にもかかわらず、意義の明らかでない変異があった人は半数近くが両側乳房切除術を行っていました。

両側乳房切除術は大きな決断です。両側乳房切除術を選ぶときには患者と医療従事者が十分に理解を共有するべきです。検査結果を正しく理解せずに選んでしまうようなことは避けるべきです。必要以上に不安に駆られて選んでしまうことも避けるべきです。理解を助け、不安を和らげるために、専門家の知識に基づいた配慮とアドバイスは大切です。しかし半数近くの患者が遺伝カウンセラーと話し合っていませんでした。

 

治療上の大きな決断には、患者と医療従事者がよく相談することがとても大切です。統計的な合理性だけでなく患者個人の価値観も尊重されるべきです。

遺伝子についての研究が進んだ結果、患者自身が自分の遺伝子について理解したうえで判断しなければならない場面も出てくるようになりました。医療従事者が十分に説明することはもちろん、患者からも積極的に質問するなど、互いに対話しようと努力することがますます大切になってきているのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Gaps in Incorporating Germline Genetic Testing Into Treatment Decision-Making for Early-Stage Breast Cancer.

J Clin Oncol. 2017 Apr 12. [Epub ahead of print]

[PMID: 28402748]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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