頭頸部がんにニボルマブは効くか?
医学誌『New England Journal of Medicine』に報告された研究を紹介します。
この研究では、以下すべてに当てはまる患者が対象とされました。
- 頭頸部がん(頭や首の部分にできるがん)がある
- がんが扁平上皮癌というタイプ
- がんが治療後再発した
- プラチナ製剤を使った化学療法(抗がん剤治療)のあと6か月以内にがんが進行した
361人の対象者が集まりました。対象者のがんは、口腔がん(口の中のがん)、咽頭がん(鼻の奥から喉にかけてのがん)、喉頭がん(気管の入り口に当たる、声帯などがある場所のがん)などでした。対象者はランダムに2グループに分けられました。
- ニボルマブを使って治療する
- 標準的な抗がん剤(メトトレキサート、ドセタキセル、またはセツキシマブのいずれか単独)を使って治療する
2グループで、治療後の生存率が比較されました。
ニボルマブとは?
体の中に異物が入ってきたとき、免疫のしくみが異物を攻撃することで、感染症などが防がれます。
免疫にはがん細胞を攻撃する力もあるのですが、ある種のがん細胞は、免疫の攻撃をかわす能力を持っています。
ニボルマブは、がん細胞が免疫から逃れるしくみをブロックして、免疫から攻撃されるようにします。理論上、多くの種類のがんに対して有効と期待されています。
ニボルマブは日本では皮膚がんの一部、肺がんの一部、腎臓がんの一部に対してすでに承認されています。
既存薬よりも余命が長くなる効果
治療から次の結果が得られました。
全生存期間の中央値は、ニボルマブ群で7.5か月(95%信頼区間5.5-9.1)、標準治療を受けた群で5.1か月(95%信頼区間4.0-6.0)だった。全生存期間はニボルマブ群で標準治療よりも有意に長く(死亡のハザード比0.70、97.73%信頼区間0.51-0.96、P=0.01)、1年生存率の推定値は標準治療よりもニボルマブでおよそ19ポイント高かった(36.0% vs 16.6%)。
ニボルマブを使ったグループでは、半数の対象者が7.5か月以上生存しました。対して、既存の薬を使ったグループでは半数の対象者が5.1か月以上生存しました。治療開始から1年後の生存率を計算すると、既存薬のグループでは16.6%、ニボルマブのグループでは36.0%となりました。
副作用について次の結果がありました。
グレード3または4の治療関連有害事象はニボルマブ群の患者の13.1%に起こり、対して標準治療群では35.1%に起こった。
入院が必要な程度以上の、副作用の可能性がある症状の悪化などの出来事は、既存薬のグループでは35.1%に起こりましたが、ニボルマブを使ったグループでは13.1%の人に起こりました。
ニボルマブはがん治療を変えるのか?
頭頸部がんの一部に対してニボルマブの効果が示されました。ニボルマブが使われる範囲は、今後さらに広がるかもしれません。
ニボルマブが働くしくみは多くの種類のがんに関係するため、ニボルマブは画期的な治療になるのではないかと期待されています。
ニボルマブはさまざまな状況に対して試され、効果があったとする数多くの報告が出てきていますが、すべてが有効という結果ではありません。対して、ニボルマブと同様のしくみで働く薬もほかに開発されています。日本でもペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)がすでに承認されています。ニボルマブとペムブロリズマブなどの使い分けが次の課題になる可能性もあります。
一方、ニボルマブはきわめて高価な薬価でも話題になっています。もし現在の薬価のまま使われる場面が広がれば、日本の保険制度が危うくなるのではないかと懸念する声があります。10月14日に開かれた政府の経済財政諮問会議では、塩崎恭久厚生労働相が例外的な薬価の引き下げに言及しています。
新しい治療を必要とする人に適切に届けるために、費用と効果の議論は避けて通れません。一部の報道ではニボルマブに対して「夢の新薬」といった表現がなされていますが、冷静に実際のデータをふまえて理解することが、ニュースを読み解く上でも大切です。
執筆者
Nivolumab for Recurrent Squamous-Cell Carcinoma of the Head and Neck.
N Engl J Med. 2016 Oct 8. [Epub ahead of print]
[PMID: 27718784]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。