診察ミスが瞬時に発覚!心電図でわからなかった「胸の痛み」の原因

病院で冷たく扱われて嫌な思いをしたことはありませんか?診察を丁寧にしなければ、診断や治療の遅れにもつながります。アメリカの医学部准教授が、診察の大切さを訴える文章を著しました。
医学部准教授の苦言
アメリカのノースウェスタン大学医学部准教授のロバート・E・ハーシュティック氏が、医学誌『JAMA』に寄稿したエッセイで、「手短な診察」に苦言を呈しました。
心電図で原因がわからない「胸の痛み」の正体は?
エッセイの冒頭で、胸の痛みを訴える高齢女性の例が語られています。ハーシュティック氏は研修医からの説明で、この女性が心筋梗塞や狭心症の診断に必要な心電図・トロポニン(血液検査の一項目)を受け、まだ診断がはっきりしていないことを聞きました。診察のために患者衣の一部を脱がせたところ、帯状疱疹(たいじょうほうしん)の水ぶくれが出ていることが一目でわかりました。実は、研修医は診察のときに服の上から聴診器を当てていました。
帯状疱疹は皮膚に痛みと水ぶくれが出る病気です。水ぶくれは帯のように細長い範囲で集まって出る特徴があります。特徴的な水ぶくれがはっきり出ている人なら、服を脱がせて目で見れば一目でわかります。
「脈拍を測る」とは?
ほかの人の例も挙げられています。心臓の病気(心房細動)がある人で、ハーシュティック氏が研修医に脈拍を測るように頼んだところ、研修医は迷わずパルスオキシメーター(指を挟んで脈拍や血中の酸素を測るクリップ型の装置)を取りつけました。手で脈を取れば患者に安心感を与えられるかもしれないのに、研修医が選んだのは機械でした。ハーシュティック氏が理由を尋ねると、研修医は「なぜいけないのですか?」と答えました。
「太ももが痛い」とは?
ハーシュティック氏は、自分自身でも太ももの痛みを訴えた患者の精巣上体炎を見逃した経験を挙げています。精巣上体炎で「太ももが痛い」と感じられることは多くはありませんが、感染が広がると広い範囲が痛むことはありえます。精巣上体炎には睾丸を押すと痛むなどの特徴がありますが、このときハーシュティック氏は睾丸の診察をしていませんでした。
医師は診察が第一!
エッセイの中では、診察の不足が悪い結果に結び付くこと、「手短な診察」(quick physical exam)をするべきでないこと、「手短な」という言葉は患者に「いい加減な」という印象を与えることが述べられています。
さまざまな観点から、ハーシュティック氏は診察の大切さを訴えています。
診察不足は世界的な問題?
『JAMA』はトップレベルの研究論文が毎号掲載される、世界でも代表的な医学専門誌です。『JAMA』に掲載されたこのエッセイは、患者の体を丁寧に見て触って調べることが最先端の研究と同じぐらい大切だということ、一方でその初歩的な心がけが忘れられがちであるという現実の一端を表しているのではないでしょうか。
診察ミスを防ぐため、患者ができること
医師が大切な診察を漏らさないために、患者自身が症状を詳しく知らせることも助けになります。
エッセイでも挙げられている帯状疱疹では、痛みが出始めの時期には水ぶくれがない場合があります。このような場合には医師が帯状疱疹をあらかじめ念頭に置いて診察しなければ、狭心症などの検査を一生懸命続けることになってしまいます。痛みに次のような特徴があればヒントになります。
似た例として「喉の痛み」も意外な見落としに注意が必要です。かぜやインフルエンザで喉が痛くなりますが、亜急性甲状腺炎という病気では首の前側が痛くなります。首の前側にある甲状腺という臓器が痛んでいます。
診察のときに、首の前側のことをつい「喉」と言ってしまうと、口の奥ではなく体の表面が痛いということが伝わりにくいかもしれません。
どちらの場合も、患者自身が症状の特徴を詳しく説明することで、医師の判断を助けられます。
もし診察を受けることになったら、症状がいつ・どの場所に・どのように現れたかをなるべく詳しく説明することがとても大事です。
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。