2016.03.30 | コラム

家族に乳癌の方がいる人は知っておきたい乳癌と遺伝の正しい知識

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1. 乳癌は遺伝するの?
2. 家族に乳癌の方がいる人は何か特別な検査が必要?
3. 遺伝性の乳癌だった場合どのような治療があるの?

乳癌は女性の中で最も多いがんで、その原因のひとつとして「遺伝」があります。家族に乳癌の方がいる場合は、乳癌を発症する危険性が高いと言われています。今回は、その乳癌と遺伝の関係性について解説していきます。

◆乳癌は遺伝するの?

乳癌発症症状や病気が発生する、または発生し始めることした人の実に5%から10%の割合が、遺伝性の乳癌であることが知られています(その他の多くは、生活習慣などの環境要因が関連していると考えられています)。遺伝性であるか、そうではないかといった情報は、定期的な乳がん検診や早期発見につながることがあるため、非常に重要になります。家族に乳癌の方がいるかどうか、把握することがまず大切な一歩となります。もちろん、家族に乳癌の方がいるかどうかという情報は決して良い情報ではないかもしれません。また精神的に負担になることもあります。一方で、「知る」ということは、自分の健康管理だけにとどまらず、その他の家族も健康管理を行ううえで非常に大事です。

それでは、家族に乳癌の方がいる場合、乳癌を発症する危険性がどのくらい増加するかご存知でしょうか?過去に報告された研究では、以下のように報告されました(科学的根拠に基づく乳がん診療ガイドライン治療や検査の場面において、医療従事者や患者が、適切な判断や決断を下せるように支援する目的で体系的に作られた文章のこと2013年版、日本乳癌学会より引用)。

  • 親族 (特に「母親」あるいは「娘」などに特定しない)に乳癌罹患者がある場合
    • 26件の報告があり、1件を除いてすべて有意データを分析して導かれた結果が、偶然として説明できる確率は低いとみなされること相関2つのことの間に何かしらの関係性があること。ただし、因果関係や前後関係などの意味をもった関係性があるかは不明を認めている。またプール解析による相対リスクは1.9(95%CI:1.7-2.0)であった。

これはつまり、特定しない親族の中に乳癌を発症した方がいる場合、いない人と比較して乳癌を発症する危険性が1.9倍高かったということを示しています。同様の検証においては、以下のような結果が報告されています。

  • 親、姉妹、子供といった第一度近親者で乳癌を発症した方がいる場合は、その人が乳癌を発症する危険性は2.1倍高い。
  • 母親が乳癌を発症した方では、2.0倍危険性が高い。
  • 姉妹が乳癌を発症した方では、2.3倍危険性が高い。
  • 娘が乳癌を発症した方では、1.8倍危険性が高い。
  • 母親と姉妹が乳癌を発症した方では、3.6倍危険性が高い。
  • 祖母、孫、叔母などの第2度近親者に乳癌を発症した方がいる場合は、1.5倍危険性が高い。
  • 第一度近親者で乳癌を発症した方が1人の場合は1.8倍、2人いる場合は2.93倍、3人いる場合は3.90倍危険性が高い。

このような結果に加えて、海外で行われた研究では、親が乳癌であった場合に、その子供が乳癌を発症する危険性は、10倍以上高くなるということも知られています。

このように乳癌と遺伝は確実に関係していることが明らかとなっていますので、自身の健康管理を行う上でも近親者に乳癌を発症した方がいるかどうか知っておくことは非常に重要です。

 

◆家族に乳癌の方がいる人は何か特別な検査が必要?

家族に乳癌を発症した方がいる場合、特別な検査としては、遺伝学的検査が挙げられます。もちろん、定期的な検診を受けることが大事であることは言うまでもありませんが、遺伝学的検査を受けることも選択肢のひとつになります。検診で行われるような検査や精密検査に関しては別の機会に譲りたいと思います。ここでは、遺伝学的検査と遺伝カウンセリングについて解説します。

乳癌の遺伝学的検査では、1990年代中頃に同定された原因となる遺伝子(BRCA1、BRCA2)の検査を行うことになります。この遺伝子が変異している乳癌患者さんが多いということから、注目されるようになりました。一方、日本ではがん無制限に増殖して周囲へ広がる、異常な細胞(がん細胞)による病気。塊となって腫瘍を作る固形がんと、白血病のように血液中にがん細胞が存在する血液がんがあるの遺伝学的検査や遺伝カウンセリングに関する保険制度が整備されていないという限界もあり、普及にはまだ時間がかかっているのが現状です。もし、遺伝学的検査を受けることになった場合は以下の項目を含む複数の情報を知っておくことが大事になります。

  • 遺伝子の状態は変わらないこと
  • 病的な変異があったとしても、100%がんを発症するわけではないこと
  • 検査の方法や意義、費用
  • 遺伝学的検査を受けない場合の他の選択肢

  など

さらに施設によっては、遺伝カウンセラーという職業のもと、遺伝カウンセリングが行われることもあります。遺伝カウンセリングとは「疾患の遺伝学的関与について、その医学的影響、心理学的影響及び家族への影響を人々が理解して、それを助けていくプロセスである」(科学的根拠に基づく乳がん診療ガイドライン2013年版、日本乳癌学会より引用)と定義されています。遺伝カウンセラーは、乳癌(もちろん遺伝カウンセラーは他の病気に関しても知っていますが)と遺伝についての情報を伝達し、患者さんが納得した医療を受けるためのガイドをしてくれる存在です。

また、遺伝子変異がある女性に対してMRI磁力(電磁波)を用いて、脳や内臓、筋肉、骨などの組織を詳しく調べる検査を用いて検査を行うことも検討されますが、その有用性としては「BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつハイリスクグループに対する乳房MRIスクリーニング病気の原因や程度ではなく、病気が有るか無いかをまず調べるための検査の有用性はほぼ確実である」とされています。

それでは最後に、治療法について解説していきます。

 

◆もし遺伝子変異があった場合どのような治療があるの?

BRCA1、BRCA2の遺伝子変異を持っている女性に対する予防法については、大きく外科的治療、内分泌療法に分けられます。また、外科的治療にはリスク低減乳房切除術、リスク低減卵巣子宮の両側にある器官で、女性ホルモンを分泌したり、卵子を作り出したりする働きを持つもの卵管切除術があります。それぞれについて、前述の診療ガイドラインをもとに説明します(「」内の太字は引用部分です)。

  • リスク低減乳房切除術
    • リスク低減乳房切除術は、臨床的には乳癌が認められていない段階で予防的に乳房を切除することを言います。
    • その効果としては、「リスク低減乳房切除術により乳癌発症リスクが減少することは確実である。」「リスク低減乳房切除術が総死亡リスク、乳癌死亡リスクに及ぼす影響は不明であるが、発症リスク減少率は高く、生命予後病気の長期的な経過や、回復の見込みを改善する可能性が示唆されている。」と言われています。
    • ただし、2016年3月現在、日本では自費診療であり、一般には実施されていません。
  • 予防的内分泌療法
    • 予防的内分泌療法は、乳房内の細胞が無制限に増殖して周囲へ広がる、異常な細胞(がん細胞)による病気。塊となって腫瘍を作る固形がんと、白血病のように血液中にがん細胞が存在する血液がんがある化する際に強い影響を与える女性ホルモン体内で作られて、血流にのって体の特定の部位を刺激する物質。内分泌物質とも呼ばれるに対して、内分泌療法剤と呼ばれる薬を使い予防することです。
    • その効果としては、「予防的タモキシフェン投与によりBRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性における乳癌発症リスクが減少する可能性がある。」と言われており、確実ではないことが示されています。※タモキシフェンは抗がん剤悪性腫瘍(がん)に効果を発揮する薬剤。ただし、がん以外の良性疾患に用いられることもあるの一種です。
  • リスク低減卵巣卵管切除術
    • リスク低減卵巣卵管切除術は、予防的に卵巣、卵管を切除することで卵巣がんや卵管がんを発症する危険性を減らし、さらに女性ホルモンの分泌が抑えられた結果、乳癌を発症する危険性も減らすことを期待して行われる手術です。
    • その効果としては、「リスク低減卵巣卵管切除術により卵巣癌卵管癌の発症リスクを減少できるだけではなく、乳癌発症リスクが減少することは確実である。」「リスク低減卵巣卵管切除術により総死亡数を減少させることはほぼ確実である。」と言われています。
    • ただし、2016年3月現在、保険適用にはなっておらず、実施する場合は各医療施設の倫理委員会の承認を受ける必要があります。

予防的外科治療は前述のように保険適応ある病気に対して、日本の健康保険で認められている治療法のことを「その病気に保険適応がある」と呼ぶ。保険適応がない治療法は、保険が使えず医療費が全額自己負担になるではありませんし、薬を使った予防的治療も強い根拠があるわけではないので、患者さん自身がしっかり納得して治療を受けることが大事になります。

 

今回は、乳癌と遺伝の関係について解説してきました。繰り返しますが、家族に乳癌を発症された方がいるかどうかは、その後の健康管理でも非常に大事な情報です。その上で、定期的な検診などまずできることから始め、検査など詳しいことを聞きたい場合はお近くの医療機関に相談しましょう。

執筆者

Shuhei Fujimoto

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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