2016.03.08 | コラム

ロシアの妖精がメルドニウムでドーピング陽性!スポーツ界を揺るがすドーピングについて

「うっかり」では済まされない…スポーツと薬物の関係
ロシアの妖精がメルドニウムでドーピング陽性!スポーツ界を揺るがすドーピングについての写真
(C) PHILETDOM- Fotolia.com

先日、スポーツ界のみならずファッション界などでも注目を集めるテニス界のスター、マリア・シャラポワ選手がドーピング検査で陽性反応が出たと自ら発表しました。今回はこの話題を元にスポーツと薬物の関係を考えてみます。

◆ シャラポワ選手がドーピング陽性となったメルドニウムとは?

メルドニウム(ミルドロネート)は代謝調整薬に分類される薬剤で、日本では馴染みがありませんがロシアなどで虚血性心疾患などの治療に使われています。心臓保護作用や体液性免疫の活性化作用などの他、心身的ストレスの軽減作用などをあらわす薬剤となっています。

シャラポワ選手が使用しドーピング陽性となったメルドニウム(ミルドロネート)は世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が規定する世界アンチ・ドーピング規定(The World Anti-doping Code:以下、Codeと表記)で2016年1月1日から「常に禁止される物質と方法(競技会(時)および競技会外)」の禁止物質における「ホルモン調節薬および代謝調節薬」の項目に追加になった物質です。メルドニウム(ミルドロネート)は、血液循環や心身的ストレスなどに対する作用から競技能力の向上につながる薬となります。実際にメルドニウム(ミルドロネート)がCodeの禁止表に追加になった経緯は、競技力向上目的で競技者によって使用された事実があったからです。

 

◆ 意図したドーピング?意図しないドーピング?

シャラポワ選手は会見で2006年からメルドニウム(ミルドロネート)を使用していたことを明かしました。また2015年12月時点でWADAから連絡(e-mail)を受け取っていて禁止薬物のリストも添付されていたが、このリストは見なかったとのことです。こうして2016年1月の全豪オープンにおけるドーピング検査における陽性反応につながったということになります。

会見でシャラポワ選手は「責任は自分にある」という趣旨のコメントを発表しました。評価の是非や賛否など様々な意見があるかとは思いますが、現役のスポーツのスター選手が自らのドーピング陽性結果を全世界に向けて発表したことは世界のスポーツ界やスポーツビジネスなどに衝撃を与えることは間違いないはずです。

ここで一つ考えておきたいのは「シャラポワ選手が意図してドーピングを行ったのか?」ということです。

ドーピング違反には禁止薬物を含む風邪薬などを飲んで競技に参加しドーピング違反となる「うっかりドーピング」と呼ばれる違反もあります。たとえば少し意外かもしれませんが、主に風邪の時に使う漢方の「葛根湯」はマオウ(興奮薬であり禁止物質に指定されているエフェドリンを成分として含む)を構成生薬として含むため、服用するとドーピング違反となる可能性があります。もちろん「うっかりドーピング」であっても違反であることは変わりなく違反者には競技への一定期間の参加禁止などの罰則が与えられることが一般的です。

さて今回の対象物質となったメルドニウムは今年の2月にも自転車競技でロシアのナショナルチャンピオンにもなったことがあるエドゥアルト・ヴォルガノフという選手が、今年の1月に採取されたサンプルにおいてこの薬剤によるドーピング陽性となっています。この選手が所属するカチューシャというチームにはレース出場停止などの処分が与えられると言われていますが、このチームがあるのもロシアです。メルドニウムは他にもロシアのフィギュアスケート選手などがドーピング違反となった原因物質となっています。

WADAが規定するCodeには禁止薬物の他に「監視プログラム」の対象となる物質が掲載されています。この監視プログラムの物質は禁止表には掲載されていないが、スポーツにおける濫用のパターンを把握するために監視することを望む物質を示します。実はメルドニウムは2015年1月1日に発表されたCodeの中で、潜在的な心臓作用を持つ薬物であるため、乱用を評価するために監視プログラムに追加された物質でした。もちろん、監視プログラムの対象となった物質の全てがメルドニウムのようにその後、禁止表に掲載される物質となるわけではありませんが、国際大会に参加するようなアスリートやアスリートをサポートする人間にとっては「特に注意しなくてはならない薬物」となるのは間違いないのです。

これらを踏まえると、2006年から健康上の理由でメルドニウム(ミルドロネート)を使用していたというシャラポワ選手には、2015年1月から注意するチャンスがあったことになり、いわゆる「うっかりドーピング」とは趣が異なると言えるのではないでしょうか。

 

WADAの下、世界の国々にはアスリートのクリーンな競技参加を支援・監督するアンチ・ドーピング機構が存在しますが、残念ながら2015年にはロシアにおいて国家ぐるみでのドーピング違反の疑惑が報道されました。「ドーピング」は単にロシアだけの問題ではなく、近年における筋肉増強目的で使われているステロイドを隠蔽するようなサプリメント(デザイナーズドラッグ)の開発、国際大会でのメダル至上主義など世界中で多くの問題が関わっています。

スポーツは「世界共通の人類の文化」であるとともに、フェアプレイの精神を軸として参加する人々が正々堂々と戦うことが必須とされています。これを守るのがアンチ・ドーピングのルールです。スポーツに関わるドーピング問題の今後について、社会全体で考えていく必要があるのではないでしょうか。

執筆者

中澤 巧

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。