大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折とは:原因、症状、治療など

この記事のポイント
2. 大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折の症状
3. 大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折の分類と手術方法
4. 大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折のリハビリ
5. 大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折の治療後の経過
大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折は、転んで尻もちをついた時などに起こる骨折です。高齢者や骨粗鬆症で特に頻発するもので、寝たきりの原因になることもあります。その原因、症状、治療などについて解説します。
◆大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折の原因
骨が弱っているなどの背景を持つ人が転んで尻もちをついた時に、大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折はよく起こります。「頸部」や「転子部」というのは大腿骨(太ももの骨)の一部分を指す言葉で、いずれも股関節に近い部分です。大腿骨の股関節に近い部分を大腿骨近位部とも言い、大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折などをまとめて大腿骨近位部骨折と言う呼びかたもあります。
転んだり、ひねったりすることで股関節に力が加わることが、大腿骨近位部骨折の主な原因です。特に女性の高齢者で骨粗鬆症もある人に大腿骨近位部骨折が多いと言われています。
発症率について、日本での全国調査に基づいた推計値があります。2007年の1年間に人口1万人あたりで発生した大腿骨近位部骨折の件数は、性別・年齢別で表のように推定されました。
女性 | 男性 | |
60歳代 | 8.11 | 4.81 |
70歳代 | 39.71 | 18.12 |
80歳代 | 157.14 | 61.03 |
大腿骨近位部骨折は男性より女性に多く、年齢が高くなるほどその発症率は急激に高くなっていることがわかります。
大腿骨近位部骨折の主な原因は骨粗鬆症と転倒ですが、これらの背景には様々な要因があります。例えば、以下のような要素が骨粗鬆症につながる場合があります。
- 加齢
- 閉経に伴うホルモンバランスの変化
- 栄養不足
- 薬剤(ステロイド薬など)
転倒の背景にも、認知症など認知機能の低下、運動不足などによる筋力・バランス能力の低下などが関連する場合があります。
これらの要因が重なり合って、大腿骨近位部骨折を起こします。
参照:Arch Osteoporos. 2009 Dec; 4(1-2): 71-77.
◆大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折の症状
大腿骨近位部骨折に共通した症状として、受傷直後の強い痛みがあります。受傷(じゅしょう)とはけがをすることで、ここでは骨が折れることを指します。
多くの人が転んで骨折したあと立ち上がれなくなります。「足に力を入れようにも、股関節が痛くて起き上がれない」、そのような状況です。座っていても(または寝ていても)、足のつま先が外側を向き、脱力したような形で、さらに受傷した足の方が短く見えます。
ただし、痛みがあまり強くないなど、症状がはっきりしない場合もあります。
大腿骨転子部骨折に比べて、大腿骨頸部骨折のほうが骨がくっつきにくいとされます。理由として以下のことが考えられます。
折れた部分の周りは関節液に満たされていて、折れてできた隙間に関節液が流入する
折れた部分の骨に血液が届きにくくなる
折れた部分が離れやすい
もともと骨粗鬆症があって骨の再生能力が低下している人に多い骨折である
このように、大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折ではくっつきやすさが違うことも、治療法の違いに関係します。
次に、骨折した際に行われる手術について説明します。
◆大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折の分類と手術方法
大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折のそれぞれをさらに細かく分ける分類があります。大腿骨頸部骨折ではGardenの分類(ステージIからステージIVに分ける方法)、大腿骨転子部骨折ではEvansの分類(タイプIとタイプII、タイプIはさらにグループIからグループIVに分ける方法)と呼ばれるものがあります。これらの分類は、主に骨折部位の状態、骨折の重症度、完全骨折(骨折部位が完全に離れている)か不全骨折(骨折部位が少し繋がっている)か、などを基準とします。
それぞれの分類を参考にし、年齢やその他様々な状況を考慮し、手術方法を検討します。手術の目的は、「骨を治すこと」だけではありません。特に高齢の方では、脳卒中、認知症、心臓の病気などの持病がある方も多く、大腿骨近位部骨折により運動能力が下がって寝たきりになることや、持病の症状を悪化させてしまうことすらあります。そのため、手術の目的として、「受傷前の生活レベルに戻す」ということが挙げられます。
手術方法は大きく分けると、折れた骨を人工物で置き換える手術と、骨を接合する骨接合術に分けられます。
置き換える手術には人工骨頭置換術や人工股関節全置換術があります。人工骨頭置換術は、大腿骨の股関節に面する部分(大腿骨頭)だけを人工のものに置き換える手術です。大腿骨に向かい合う骨盤のほうは元のままなので、手術後長年のうちに、骨盤側の軟骨がすり減ってしまうことが弱点です。人工股関節全置換術は、股関節を構成する骨盤と大腿骨頭を人工関節に置き換える手術です。どちらが向いているかは専門的な判断が必要です。
骨接合術は、様々な方法がありますが、ピンやネイル(釘)、プレートを用いたものがあります。
置き換える手術を行うか、骨接合術を行うかの判断は複雑です。大腿骨頸部骨折に対しては、Gardenの分類も判断材料になりますが、年齢や全身状態によっても変わります。大腿骨転子部骨折では骨接合術が好まれますが、人工骨頭置換術が検討される場合もあります。
◆大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折のリハビリ
大腿骨近位部骨折では、運動量が減ることなどから様々な機能が低下することが考えられ、リハビリテーションが重要な役割を果たします。どのようなリハビリが必要なのでしょうか。
手術前のリハビリ
手術前に受傷していない方の脚や受傷している脚でも股関節以外の部分を動かすことは大事です。骨折で寝ている時間が長くなるなどして、筋力やバランス能力が低下しやすいためです。
手術後すぐのリハビリ
手術の合併症のひとつとして、深部静脈血栓症があります。深部静脈血栓症は命に関わる場合もあり、どの手術でも共通して防がなければいけないものです。深部静脈血栓症を予防する目的で、足首の運動をしたり、弾性ストッキングを着用したりします。
退院後のリハビリ
退院後もリハビリを続けることが有効であり、また術後6か月程度はリハビリによって機能回復が期待できるとされます。そのため家庭でもリハビリを続けることに意味があります。
いずれも専門家の指導を受けて行う必要があります。
■関節可動域練習
足を動かしていないと、固まってしまうため、関節を広く動かす練習をします。この時、間違った方法で行うと脱臼する怖れがあるため注意が必要です。脱臼については以下で述べます。
■筋力増強練習
筋力を改善するための練習です。下肢だけではなく、お腹周りの筋肉も股関節の動きに関わっています。特に、股関節の手術を行った後は、股関節を曲げるための筋肉で、かつ股関節や背骨を安定させる働きを持つ「腸腰筋」という筋肉が非常に重要な役割を持ちます。ついつい下肢のトレーニングだけを行いそうですが、体の中心に近い部分の筋肉も忘れずに鍛えましょう。
■日常生活動作練習
歩く、階段の上り下り、入浴、洗濯カゴを持ちながらベランダに降りる、買い物、公共交通機関の利用といった、これまでの日常生活で必要だった動作能力が低下している可能性があります。その人に必要な動作を練習します。加えて、杖の使用や手すりの設置などの自宅の改修といった環境を整えることも併せて考える必要があります。
■脱臼姿勢の確認
人工関節の手術を行った場合は、脱臼について配慮しなければいけません。脱臼する可能性が増す姿勢は、手術方法によっても異なりますが、おおむね「股関節を曲げて、内股にする」「股関節を深く曲げる」といった場合です。これは、手術時に人工関節をどのように入れたかによっても変わるため、医師の説明をよく聞いてください。
内股の姿勢や股関節を深く曲げるといった姿勢をとることはあまりないように感じられるかもしれませんが、片方ずつの足に注目すると、日常生活でも意外に似た姿勢になっています。例を言うと、トイレ(特に和式)、入浴などです。手術をしてから3か月程度までは、特に注意した方が良いと言われています。
受傷前からすでに寝ている時間が長かった人が手術をした場合、家に帰ってからはさらに寝ている時間が長くなることがあります。家族などの協力を得ながらできるだけ動いた方が良いのですが、難しい場合に注意するべきなのが、床ずれです。床ずれは、ずっと同じ姿勢をとっていると、同じ部分が圧迫されてそこが壊死していくものです。感染症の原因にもなったり、重症化すると皮膚が侵されて肉が見えるほどになるため、寝ていても姿勢を時々変えるなどの注意が必要です。
■協力してくれる人への説明
リハビリは家に帰った後でも継続して行う必要があります。特に介護が必要な状態で家に戻る場合には、本人だけでなく介護にあたる人がリハビリ方法や介護方法を知っておくことが大事です。
近年では、大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折などの手術やリハビリに関して、地域や病院でクリニカルパスと呼ばれる方法で連携が図られています。
◆大腿骨頸部骨折・大腿骨転子部骨折の治療後の経過
大腿骨頸部骨折や大腿骨転子部骨折の手術後にどのような身体の状態になるか、専門用語で言うと「予後」(どのくらいの期間でどのくらい治るのかといった部分)について、様々な研究がなされています。
基本的には受傷前の状態に戻ることを目指して手術とリハビリを行うわけですが、なかにはそこまで戻ることができない人もいますし、受傷前よりも良くなって退院される方もいます。その違いに影響する要素としては、認知機能の問題がある場合、家族の協力を得られない場合なども考えられます。介護保険で利用できるサービスなどが、手術後のリハビリや日常生活の助けになるかもしれません。
再発予防として、転びにくい体や環境を作ることと、骨粗鬆症の改善が考えられます。医師や理学療法士、作業療法士など専門家に相談して、自分に合った対策があるかを一緒に考えてみてください。
参考:大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン(改訂第2版)
注:この記事は2016年3月4日に公開されましたが、2018年2月14日に編集部(大脇)が更新しました。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。