進化を遂げた鍼

「鍼」というと、どんな手技を想像するでしょうか?よくある「鍼」の表現方法に、左手で鍼をつまんで右手の人差し指で”トントン”と叩くものがあります。実は、この”トントン”と叩く鍼の刺し方は手技の一つで、これ以外にも鍼の刺し方は様々あります。鍼のルーツや、発展によって生まれた様々な鍼の刺し方を紹介します。
◆鍼のルーツ、撚鍼法(ねんしんほう)
中国で起こった鍼は、長きにわたりこの撚鍼法という刺し方で行われていました。撚鍼法で使用される鍼は、中国鍼というもので、現在日本で使用されているものよりも長くて太いものが多く、痛みや出血を伴う場合が多くあります。中国鍼は直径0.28〜0.38mmのもの(現在日本で使用されている鍼の約2倍ほどの太さ)が多く使われています。現在も中国では、中国鍼を用いた撚鍼法が多く用いられており、中国鍼を用いた刺鍼ではメジャーな手法です。
【撚鍼法のやり方】
- 左手の人差し指と親指の指先を合わせて丸をつくる(押手(おしで)という。OKのサインと同じ形。)
- 押手を皮膚にあてる
- 右手に鍼を持ち、押手の指先に沿わせて鍼先を皮膚に当てる
- 皮膚に圧をかけながら鍼をひねって刺入する
◆小槌で叩く、打鍼法(だしんほう)
中国から日本に鍼が伝わったのち、日本人によって撚鍼法以外の手技が開発されました。打鍼法は、安土桃山時代に御園意斉(みその・いさい)という日本人があみ出したと言われている刺し方で、主に腹部の治療に使用されていました。現在の日本ではあまり用いられていません。
【打鍼法のやり方】
- 押手の人差し指の爪に中指の腹を重ね、その間に鍼を挟む
- 鍼の頭を特殊な小槌で数回たたいて刺入する
◆痛くない鍼、菅鍼法(かんしんほう)
江戸時代、杉山和一(すぎやま・わいち)という日本人があみ出したと言われる方法で、現在の日本ではこの菅鍼法が主に用いられています。鍼より数ミリ短い、ストロー状の筒(鍼菅(しんかん)という)の中に鍼を入れ、鍼菅から飛び出た部分を指で叩いて押し込むことによって皮膚に刺さる、という方法です。鍼菅を使うことによって、鍼の刺さる部分の皮膚が鍼菅で伸ばされて刺入がスムーズになり、痛みが軽減されます。
【菅鍼法のやり方】
- 押手を皮膚に当てる
- 右手で鍼菅に入った鍼を持ち、押手の人差し指と親指の間に鍼菅を挟み、鍼菅を皮膚に押し当てる
- 鍼菅から飛び出た鍼の頭を指でトントンと叩き、皮膚に刺す
- 押手はそのままの状態で鍼菅だけ取り除き、右手で鍼の頭を持って垂直に鍼を刺入する
*全ての方法において、左利きの場合、押手と鍼を持つ手が逆になる場合もあります。
このように、一言で「鍼」と言っても様々な手技があります。現在の日本では菅鍼法が主流で、世界に広がっている鍼の技術も、日本人によって考案された菅鍼法が主流となっています。より痛くなく、より侵襲が少なく、より受け入れやすい治療へと発展を遂げた結果、日本にとどまらず世界で受け入れられる治療となったのです。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。