2016.01.17 | コラム

鍼で起こりうる医療事故

鍼治療を受けるうえで知っておくべき合併症

鍼で起こりうる医療事故の写真

鍼治療は、鍼を体に刺すものの、その鍼は髪の毛ほどの細さであることから比較的体への侵襲は少ないと言われています。しかし鍼が原因で起こる医療事故も現に存在します。治療を受けるにあたって知っておくべき情報として、鍼で起こりうる医療事故について解説します。

◆鍼治療におけるインフォームドコンセント

医療を受けるにあたって、インフォームドコンセントは患者として受けて当然の権利です。インフォームドコンセントとは、「十分な説明を受けたうえでの同意」という意味で、医療者は提供する内容について十分な説明をし、患者の同意を得たうえで医療行為を行うという考え方です。

鍼治療においても、このインフォームドコンセントが行われるべきで、メリットだけでなく、起こりうるデメリットも説明されなくてはなりません。では、鍼治療で起こりうるデメリットとはどのようなものがあるのでしょうか。起こり得る医療事故とその予防策について、いくつか解説します。

 

◆気胸

鍼は基本的に経穴(けいけつ:いわゆるツボのこと)に刺しますが、経穴は全身に多数あります。その一部は背中にあり、肩こりや腰背部の痛みなどの治療に用いられます。特に、前胸部、側胸部、肩背部、鎖骨のくぼみの部分などは、その皮膚の奥には肺があり、深く鍼を刺せば肺に届く可能性があります。もし肺に刺した場合、肺に穴が開いて空気が漏れ、気胸になる危険性があります。

  • 起こりうる症状:胸痛、チアノーゼ(呼吸がうまくできず、顔色が悪くなる事)、呼吸困難などの症状
  • 予防方法:施術者が体の構造を十分に理解し、深く刺さない、刺入角度を変える(肺に向かって刺さない)、患者の体格を考慮して刺す深さを調節する、などの予防策が必要不可欠である

 

◆折鍼(せっしん)

何らかの原因で、刺した鍼が途中で折れて体内に残る事があり、これを折鍼といいます。考えられる原因は、鍼の劣化、質の低い鍼の使用、患者が不意に身動きすることなどが挙げられます。

  • 起こりうる症状:折れた鍼が移動して、痛みが発生したり、臓器に迷入したり、神経を傷つけて神経障害を起こすなどの報告もある
  • 予防策:同じ鍼を繰り返し使用しないよう使い捨ての鍼を使用する、患者は鍼を刺しているとき身動きしないなど

 

◆出血・内出血

皮膚表面や皮下の浅い部分にも血管ははびこっており、血管を鍼で傷つける事で出血したり、その出血が体内に溜まって内出血を起こしたりする可能性があります。出血は基本的に圧迫する事で止血が可能で、内出血は一週間程度で消えますが、「血が出た」という事実は患者にとって精神的負担となり、治療自体に恐怖心や懐疑心を生むきっかけにもなりかねません。特に顔面の刺鍼では、美容上の問題にもなるため、より慎重な施術が必要となります。

  • 予防策:細い鍼を用いる、太い血管が走行している部位は深く刺さないなど

 

◆抜鍼困難(渋鍼:しぶりばり)

刺した後、何らかの原因で抜くのが困難になる事をいい、専門用語で渋鍼といいます。患者の身動きなどによる筋肉の収縮で鍼が固定されてしまったり、鍼が体内で曲がったりして起こります。

  • 予防策:患者にリラックスを促す、筋肉の収縮が緩むまで時間をおいてから抜く、周囲に新たな鍼を刺入して筋肉をゆるめてから抜く(迎え鍼という)など

 

◆自律神経反射

鍼による刺激で反射的に細い血管が収縮し(自律神経反射)、気分が悪いなどの症状が出る事があります。

  • 起こりうる症状:顔面が白くなる、冷や汗、気分不快、嘔吐、血圧低下など
  • 予防策:立ったり座ったりした状態での施術は自律神経反射が起こりやすいため注意する、患者の反応に応じて刺激の量(鍼の太さ、深さ、刺している時間など)を調節する、できるだけリラックスして施術を受けられる環境を作るなど

 

今回解説した内容を読んで、「鍼って怖い」という感想を持った方も少なからず居るかもしれません。その可能性を予測しても敢えて解説したのは、鍼も医療行為の一端であり、侵襲の少ない治療とはいえメリットだけではない事があまり知られていないのが現実ではないかと考えたからです。医療行為として、起こりうるデメリットも理解した上で治療を選択して貰いたい、また、治療する側からもこれらの説明があらかじめされ、双方納得した上で治療が行われる事を願って解説を終わります。

執筆者

名原 史織

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る