◆骨パジェット病によって聴神経が萎縮
ここで紹介する論文は、ベートーベンに骨パジェット病があったとする説を支持しています。骨パジェット病は頭や手足などさまざまな場所で骨が変形することを特徴とします。
ベートーベンの解剖の記録によると、頭蓋骨の厚さは正常の2倍ほどであり、耳から音の信号を脳に伝える聴神経は、変形した骨に圧迫されて萎縮していました。また、腎臓にカルシウムがたまってできる石灰化が見られました。この論文の著者らは、骨パジェット病により骨が変形し、また骨からカルシウムが血液に流出することにより腎臓の石灰化が起こったとする考えを示しています。
◆晩年のベートーベンを苦しめた多くの問題
著者らはさらに、ベートーベンに見られた精神症状や腹痛、関節痛、不整脈などの症状を、骨パジェット病とそれによる高カルシウム血症、また骨パジェット病にともなって起こりうるとされる痛風によって説明しようとしています。
加えて、直接の死因は多量の飲酒による肝硬変と慢性膵炎とされていますが、著者らは慢性膵炎で消化機能が低下した結果ビタミンAが不足して目の痛みの症状が現れた可能性を挙げるとともに、以上をまとめて次のように結論しています。
したがって、副甲状腺機能亢進症を合併した骨パジェット病、痛風、加えてそれらの症状を和らげようとしてアルコール、キニーネ、可能性としてはサリチル酸をも使用したことが、ベートーベンの医学的問題の実質的にすべてを説明しうる。これらの一部は彼の作曲にも影響していたように見える。
骨パジェット病は日本ではまれと言われていますが、病態などについて現在でもわかっていない部分が多く残る難病です。今後の研究により、実態の把握が進むことが望まれています。
執筆者
Beethoven's autopsy revisited: A pathologist sounds a final note.
J Med Biogr. 2015 Oct 27 [Epub ahead of print]
[PMID: 26508624]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。