◆2万人の遺伝子データから
研究班は、過去の大規模研究で得られた2万人以上の遺伝子のデータをもとに、「メンデルランダム化」という考え方を使って、高血圧、喫煙などの要因とアルツハイマー病の関係を調べました。
◆メンデルランダム化とは
いくつかの遺伝子について、特定の変化があるときに収縮期血圧(最高血圧)が高くなることが知られています。この変化がある人では遺伝的に収縮期血圧が高くなります。
もし収縮期血圧が高いことによってアルツハイマー病が発症しやすくなるなら、この遺伝子の変化がある人ではアルツハイマー病が多いことが予想されます。遺伝子の変化があってもアルツハイマー病が多くなければ、収縮期血圧とアルツハイマー病の因果関係は確認できなかったことになります。
メンデルランダム化とは、以上のような考え方で病気とその要因との因果関係を調べる手法です。
収縮期血圧以外にも、ニコチンの作用に関係する遺伝子の変化があると遺伝的に喫煙量が多くなることが知られています。この研究では、喫煙量に関連する遺伝子の変化についても検討しました。喫煙がアルツハイマー病を増やすのだとすれば、この遺伝子の変化があるとアルツハイマー病が多くなるはずです。
◆血圧は高いほうが、喫煙量は多いほうがアルツハイマー病が少ない
解析から次の結果が得られました。
遺伝的に予言された高い収縮期血圧は、アルツハイマー病の低いリスクと関連することが見られた(収縮期血圧の標準偏差分15.4mmHgの差に対してオッズ比0.75、95%信頼区間0.62-0.91、P=0.0034)。
遺伝的に予言された喫煙量は、アルツハイマー病の低いリスクと関連した(1日当たり10本の喫煙に対してオッズ比0.67、95%信頼区間0.51-0.89、P=0.0065)。ただし、喫煙歴によって層別することはできなかった。遺伝的に予言された喫煙開始はアルツハイマー病のリスクと関連しなかった(オッズ比0.70、95%信頼区間0.37-1.33、P=0.28)。
遺伝子の変化によって収縮期血圧が高いことと、アルツハイマー病が少ないことに相関関係が見られ、収縮期血圧が高いことによってアルツハイマー病が減少する可能性が示唆されました。
また、遺伝子の変化によって喫煙量が多いことと、アルツハイマー病が少ないことに相関関係が見られ、喫煙量が多いことによってアルツハイマー病が減少する可能性が示唆されました。
この結果に対して研究班は、血圧が高い人が使う降圧薬が影響している可能性や、喫煙量が死亡率に影響することによってアルツハイマー病の割合が変わる可能性に言及しています。
また、掲載誌の編集者は「高血圧が心血管疾患のリスク要因であることをふまえれば、研究者はアルツハイマー病を予防する手段として血圧を上げることを推奨してはいないし、アルツハイマー病のリスクを下げるためにより多くの喫煙を推奨してもいない」と述べています。
喫煙は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を増やすだけでなく、多くの種類のがんを増やすなど、さまざまな病気の原因として知られています。高血圧も病気の原因になります。
しかし、アルツハイマー病の原因は、それほど単純には説明できないようです。アルツハイマー病の予防と治療のために、病態の詳しい解明が待ち望まれます。
執筆者
Associations between Potentially Modifiable Risk Factors and Alzheimer Disease: A Mendelian Randomization Study.
PLoS Med. 2015 Jun 16
[PMID: 26079503]
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。