2015.06.28 | コラム

10-30代に突然発症する「ペットボトル症候群」とは

正しい知識で予防を目指すために

10-30代に突然発症する「ペットボトル症候群」とはの写真

「ペットボトル症候群」、一度聞いたら頭に残る、印象的な名前の病気です。この病気の恐ろしいところは、それまで健康だと思っていた若い人でも、ソフトドリンクの飲み過ぎで突然発症し得るところです。小学生がソフトドリンクの飲み過ぎで発症することもあり、「予防できる病気なのに、知識が十分に広まっていないために毎年患者が出続ける」として、医療界でも問題視されている病気の一つになります。

◆どんな病気?

ペットボトル症候群、正式には「清涼飲料水ケトーシス」と呼ばれるこの病気は、糖分を過剰摂取してしまうことが原因となり、吐き気、腹痛、意識がもうろうとする、といった症状が出現するものです。若年者に特に多いことも特徴の一つです。

糖尿病と深く関連がある病気で、それまで糖尿病と診断されていなくても、その傾向がある人に発症することが多い病態です。過剰摂取した糖分を体が処理しきれなくなってしまうことが原因で、様々な症状が引き起こされることになります。

 

◆ソフトドリンクから毎日1,000キロカロリー!?

一般的なソフトドリンク1本(500ml)には、50-70g程度の糖分が含まれており、これは角砂糖15個分の糖分に相当します。一杯の紅茶が150mlだとするとそこに角砂糖5個を入れた分の甘さになりますが、特に炭酸飲料の場合にはその甘さを実感しづらいために沢山飲んでしまうのです。ペットボトル症候群を発症する人の中には、習慣的にソフトドリンクを常に脇に置いて、毎日数リットルといった量を飲んでいる人がいます。

これが2リットルだと角砂糖60個相当ですから、およそ1,000キロカロリー、1日の必要カロリーの半分に及びます。食事量が1,000キロカロリー増えたら「食べ過ぎかな…」と気付きますが、飲料の場合には自分で気付きにくいという点が問題になります。そしてこれほどのカロリーを純粋に糖分だけから摂取すると、その糖分を体が処理しきれなくなり、「ケトアシドーシス」と呼ばれる状態に陥ってしまうのです。

少し専門的な話になりますが、決して理解が難しいことではありませんので、以下にペットボトル症候群のメカニズムを説明します。

 

◆ペットボトル症候群のメカニズム

人間の体は、糖質、脂質、タンパク質の3つをエネルギー源として利用しています。食事から摂取した糖質を燃やすとき、体は糖質を処理するための「インスリン」と呼ばれるホルモンを分泌するのですが、あまりにも糖質の量が多すぎる(=血糖値が高くなりすぎる)状態が続くと、以下の悪影響が生じます。

  • 必要なインスリンが十分に分泌できなくなる
  • 分泌できたインスリンについても効き目が悪くなる

そして困ったことに、これら2つの悪影響は血糖値が高くなればなるほど増大して、そのせいで更にまた血糖値が高くなるという悪循環に陥ってしまうのです。

 

さて、糖質が処理しきれなくなると、体はエネルギーを得るために、脂質とタンパク質を使うしかありません。筋肉として体に蓄えられたタンパク質を分解して利用するよりは、体内の余分な脂肪分を分解して利用しようと、体は考えます。脂肪を燃焼するだけならば良いことのようにも聞こえますが、脂肪を燃焼する際に途中で作られる「ケトン体」という物質が問題です。

通常ケトン体は体の害になる物質ではないのですが、糖質がうまく処理できずにエネルギーの大半を脂肪でまかなおうとする特殊な状況では話が変わります。酸性物質であるこの「ケトン体」が極端に体内に溜まり過ぎることで血液が酸性になって、吐き気、腹痛、意識もうろうといった症状を引き起こしてしまうのが、この「ケトアシドーシス」と呼ばれる状態であり、ペットボトル症候群の人に起きていることなのです。

 

ペットボトル症候群は、糖分の摂り過ぎが原因の病気です。しかしこの病気の怖い点は、

  • ソフトドリンクを飲む → 血糖値が上がる → のどが渇く → 余計にドリンクを飲む
  • 血糖値が上がる → インスリンホルモンが働かなくなる → 余計に血糖値が上がる

という、2つの悪循環が隠れているところにあります。

ドリンクを水やお茶に変えたり、カロリーゼロ飲料を選ぶなどの工夫で血糖値の上昇を防いでペットボトル症候群を予防することができます。2リットルなど大きなサイズのペットボトルを机に置いての作業が習慣化してしまっている方、周囲にいませんか?

執筆者

沖山 翔

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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