◆膠芽腫の治療はどうして難しいのか
膠芽腫(こうがしゅ、グリオブラストーマ)は、脳にできる腫瘍の中では一番悪性度の高い、世界保健機関分類のグレード4に分類されています。すなわち、体の他の部位にできるがんと同様、正常な組織(脳の神経細胞)に染み渡るように大きくなっていく為、腫瘍との明瞭な境界線を引くのが難しくなります。手術でこれを治療するには、正常な組織も含めてたくさん腫瘍を取れば治る確率が上がりますが、脳腫瘍の場合、たくさん取れば取るほど正常な脳の機能が障害されてしまいます。これが膠芽腫の治療を難しくしている理由で、手術、化学療法、放射線療法、免疫療法など様々な治療法やその組み合わせが試みられていますが、未だに劇的に効く治療は見つかっていません。
また、脳腫瘍の影響により、周囲の脳はむくんでしまうことが知られていて、そのむくみの影響を緩和するために、ステロイドという薬を化学放射線療法と並行して使用します。このステロイドというのは、血糖値を上げる効果もある為、膠芽腫の患者さんの中には血糖値が高くなる方もいます。今回の研究では、血糖値やステロイド薬と患者さんの予後の関係を調べています。
◆膠芽腫に対する化学放射線治療後の393人を解析
今回の研究では、テモゾロミドという抗がん剤による化学療法と、放射線療法を行った393人の膠芽腫の患者さんのデータを以下のように解析しています。
この後方視解析では、2004年から2011年まで化学放射線療法を行った膠芽腫の患者を集め、ランダムに誘導データセットと確認データセットに振り分けた。時間重量付き血糖値、時間重量付きデキサメサゾンの量を放射線治療の開始から4週間後まで集計した。時間重量付き血糖値やその他の予後因子と全生存期間の関係を単変量解析と多変量解析した。
以上のように、患者さんの血糖値、デキサメサゾン(ステロイド薬)の投与量、年齢、手術治療の程度、術前の活動度などの様々な要素を集めて、全生存期間との関係を比較しています。
◆より血糖値の高いグループでは寿命が短かった
結果は以下の通りでした。
誘導データセット(196人)の患者においては、全生存期間の中央値は15か月であり、時間重量付き血糖値の中央値は6.3mmol/L(114mg/dL)であった。時間重量付き血糖値が6.3mmol/L(114mg/dL)以下の患者の全生存期間は16か月、時間重量付き血糖値が6.3mmol/L(114mg/dL)より大きい患者の全生存期間は13か月であった。(P =0.03)[...]確認データセット(197人)の患者において、時間重量付き血糖値が6.3mmol/L(114mg/dL)以下であることは、全生存期間と有意に関連があった。(P =0.005)
以上のように、時間重量付き血糖値が114mg/dLより大きい患者さんでは、寿命が短いという結果が得られました。
実は、膠芽腫の腫瘍細胞は糖分を分解して栄養を得ており、膠芽腫の腫瘍細胞の周囲を低血糖にすると腫瘍細胞が死んでいく、というのは実験室での研究では既に知られていました。しかし、実際の患者さんでその傾向を示したことにこの論文の価値があります。
血糖値をうまくコントロールすることは、他にも様々なメリットがあり、代表的なものとしては、細菌感染などに強くなる、手術をした傷が治りやすくなるなどが挙げられます。それに加えて、最終的な寿命まで伸ばすとなれば、膠芽腫治療中の患者さんの血糖値をより厳密にコントロールする日がもしかしたら来るかもしれません。
しかし、腫瘍自体の遺伝子の特徴(タイプによって治りやすい腫瘍がある)についての解析がされていないこと、脳腫瘍の治療に必須であるステロイドが血糖値に与える影響を完全に除くのは難しいこと、などはこの論文に対する批判として挙がるでしょう。今後のさらなる研究に期待がかかります。
執筆者
Impact of glycemia on survival of glioblastoma patients treated with radiation and temozolomide.
J Neurooncol. 2015 May 27. [Epub ahead of print]
[PMID: 26015297] http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26015297※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。