せっぱくりゅうざん
切迫流産
妊娠22週未満で、胎児心拍は確認できるが流産となる可能性の高い状態のこと
1人の医師がチェック 5回の改訂 最終更新: 2021.12.16

切迫流産の治療には何がある?

切迫流産の治療は考えられる原因に合わせて行います。ここでは、感染や子宮収縮の増加など母体側の原因が切迫流産を引き起こしている場合の治療方法について解説します。

1. 切迫流産は治療できる?

切迫流産と診断されてから切迫流産を治すことができるような根本的な治療は現時点では残念ながらありません。

特に妊娠11週6日以前の妊娠初期については染色体異常による流産の可能性が高く、出血がみられた時点ですでに胎児の心拍が止まっているなど切迫流産と診断される段階がなく治療が困難である場合もあります。そのため妊娠11週6日以前の切迫流産については、妊婦健診での診察を定期的にして自然に経過をみる場合が多いです。

妊娠12週0日以降の切迫流産については、子宮内の炎症(感染)や絨毛膜下血腫(じゅうもうまくかけっしゅ)など妊婦さんの体の変化が原因となることがあります。流産を予防するような薬物療法については根拠がはっきりとしているものはありませんが、妊婦さんにお腹の張りの自覚がある場合は子宮収縮を抑制させる薬が処方される場合や感染が疑われる時には抗菌薬抗生物質)を使用する場合があります。

また薬物療法以外には、絨毛膜下血腫がある場合にはベッド上で安静にすることが流産予防に効果があるとされています。妊娠12週0日以降でお腹の張りや感染がないのにもかかわらず子宮頸管の短縮がみられる場合(子宮頸管無力症が疑われる場合)には、子宮頸管縫縮術が検討されることがあります。

参考文献
・産婦人科学会, 産婦人科診療ガイドライン産科編2017

2. 切迫流産で使用される薬は?

妊娠初期の切迫流産に対しての流産予防に効果の根拠がはっきりとしている薬物療法はありません。しかし妊婦さんの症状によっては、以下のような薬が処方されることがあります。

  • 子宮収縮を抑制させる薬
    • ピペリドレート塩酸塩
    • イソクスプリン塩酸塩
    • リトドリン塩酸塩
  • ホルモン製剤
    • 黄体ホルモン製剤
    • hCG製剤
  • 抗菌薬(抗生物質)

いずれも保険適応で処方が可能です。

ピペリドレート塩酸塩(ダクチルなど)

ピペリドレート塩酸塩は、抗コリン薬といわれる平滑筋の収縮を抑制する効果のある薬です。妊娠12週0日未満の妊婦に対して処方されることが一般的ですが、ほかの時期に使われることも考えられます。

子宮の収縮に関わるアセチルコリンの働きを阻害することで子宮収縮の抑制や下腹部の緊満感などを改善できると言われています。1日150mgから200mgを3回から4回に分けて飲むのが通常です。

副作用として口渇や便秘などの症状が出現する可能性があります。また瞳孔(ひとみ)が拡大してまぶしく感じたり、めまいも副作用として出現する可能性があるため、内服している場合は車の運転などは避けることが望ましいです。

イソクスプリン塩酸塩(ズファジラン®)

イソクスプリン塩酸塩は、β1受容体刺激薬で子宮収縮の抑制の効能・効果があります。一般的には妊娠12週0日以降妊娠16週0日未満の人に処方されます。

1日量30mgから60mgを1日3回から4回に分けて飲むのが通常です。ズファジランには、筋肉注射製剤もあり、筋肉注射製剤は1回5mgから10mgを1から2時間毎に筋肉注射する必要があります。筋肉注射の場合には、子宮収縮の症状が収まったら経口投与(飲み薬)へ切り替える必要があります。

副作用として頭痛や動悸、めまいなどの症状があることがあります。

リトドリン塩酸塩(ウテメリン®)

リトドリン塩酸塩は一般的に妊娠16週以降の妊婦に処方されるβ2受容体刺激薬で、子宮の収縮(お腹の張り)を抑制する効果があります。切迫早産の症状によって、経口投与(飲み薬)か点滴を24時間続ける持続点滴の2つの方法があります。飲み薬は、外来で処方をされ自宅での内服が可能ですが、点滴の場合には24時間の持続投与になるため入院して管理が必要になります。

経口投与の場合には、1日15mgから20mg(3から4錠)を朝昼晩の食後、就寝前などに分けて飲みます。点滴による持続投与の場合には入院して管理が必要になり、1分間に50μgから投与し始めます(μgはマイクログラムと読みます。1,000μg=1mgです)。症状に合わせて最大200μg/分まで投与量を増やすことでお腹の張りを抑える効果があります。

塩酸リトドリンは交感神経を刺激することによって副交感神経を抑制する薬なので、副作用として動悸や手先の震え、顔が赤くなる、気持ちが悪くなるなどの症状があらわれることがあります。しかしこれらの副作用は2日から3日で軽快することが多く、軽度の副作用が出ても経過を見ることがほとんどです。体に影響の大きい副作用としては、肺水腫顆粒球減少症横紋筋融解症などがあげられます。それらの副作用が出ていないかどうかを症状や血液検査などで確認しながら塩酸リトドリンの投与をしていきます。

黄体ホルモン製剤

黄体ホルモンは妊娠の成立および維持に重要な役割があり、この黄体ホルモンの分泌不全があると妊娠の継続が難しくなると言われています。ヒスロン®、プロベラ®などの黄体ホルモン製剤が切迫流産に対して使用される可能性があります。

しかし黄体ホルモン製剤の投与による流産予防効果については未だ十分に効果が確認できていません。切迫流産に対して経口による内服や筋肉注射の黄体ホルモン製剤が処方される場合もありますが、どちらも現時点ではその有用性は確認できていません。ただし、流産を連続して3回以上経験しているような習慣流産の既往がある患者に対しては、黄体ホルモン製剤の使用が流産を予防する効果があると言われています。

また、プロゲステロン膣錠の投与が早産防止に効果的ではないかという観点からも研究が行われていますが、日本ではその効果は十分確認されておらず、黄体ホルモンの流産・早産の予防を目的とした治療には今後の検討が必要と考えられます。

hCG製剤(HCGモチダ筋注用)

hCGは黄体機能促進の作用があり、妊娠の維持に重要なプロゲステロンの合成を促進させる作用があるとされています。しかし、切迫流産の治療としては現在は使用されることは少なくなっています。またhCG製剤が繰り返す流産を予防するかどうかを検討した研究では、効果ははっきり確認できませんでした。

参考文献
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jan 31.

抗菌薬

血液検査や帯下(おりもの)の検査で感染の兆候がある場合には抗菌薬による治療を行う場合があります。感染を疑う場合には、母体発熱(38℃以上)や母体の頻脈(100回/分)、下腹部痛、膣分泌物や羊水の悪臭・混濁、母体白血球数の増加など絨毛膜羊膜炎の兆候が見られないかとともに、胎児心拍の有無など胎児の元気さを確認しながら抗菌薬を投与し治療を行います。

3. 子宮頸管縫縮術とは?

出血や子宮収縮などの切迫流産の自覚症状がないにもかかわらず子宮口の開大、子宮頸管の短縮などの出産前の変化(子宮頸管の熟化)が現れる状態を子宮頸管無力症といいます。妊娠中に胎児異常や感染などを疑わせる様子がないのにもかかわらず子宮頸管の熟化が進行する場合がその例です。過去に流産や早産になったことがあるがその原因がはっきりしていない場合にも、子宮頸管無力症が原因であった可能性があります。

子宮頸管無力症と診断された場合には、切迫流産の予防として子宮の頸部を糸で縫うことで物理的に子宮口の開大や子宮頸管の短縮を防ぐ子宮頸管縫縮術(しきゅうけいかんほうしゅくじゅつ)が有効な場合があります。

子宮頸管縫縮術には、子宮膣部を4箇所縫縮するMcDonald法(マクドナルド法)と子宮頸部に切開をいれて、子宮頸部の筋層を直接縫縮するShirodkar法(シロッカー法)があります。理論的には、Shirodkar法(シロッカー法)の方が、子宮頸管の開大を予防する効果が高いと考えられていますが、実際にはMcDonald法(マクドナルド法)でも同等の治療効果が得られるとされています。また、子宮頸管が短い場合には、子宮頸部に切開を入れるのが困難になるため、Shirodkar法(シロッカー法)よりもMcDonald(マクドナルド法)が優先される場合があります。

子宮頸管縫縮術をいつ行うとよいかは明確にわかっておらず、病院によっても違います。過去の妊娠歴から頸管無力症と診断されていて予防的に子宮頸管縫縮術を行う場合には、妊娠12週以降でなるべく早い時期に行うことが勧められています。

しかし、手術を検討した時点で発熱や血液検査上の白血球数・CRPの上昇などがあり感染が疑われる場合には、手術を行うことで感染を悪化させてしまう可能性があるため、原則として感染の治療を優先することが勧められています。

4. 切迫流産と言われたら日常生活で気をつけることは?

切迫流産と診断された場合、無理な運動は避けたほうがいいと考えられますが、どの程度安静にすれば流産を防げるかははっきりわかっていません。

絨毛膜下血腫が見つかった人ではベッド上安静にしたほうが流産が少なかったという報告もあります。

大切なのはかかりつけの医師と相談して、自分の状態に合った行動を考えることです。

また、仕事との関わり方も人それぞれで大切です。母性健康管理指導事項連絡カードを使うと主治医からの指導などを的確に職場に伝える助けになります。

詳しくは「切迫流産と言われたら日常生活で気を付けることは?」のページで説明します。

5. 流産の確率はどのくらい?

流産は全妊娠の約8%から15%に起こる可能性があり一般的に考えられているよりも高い頻度で起こる可能性があります。流産のうち80%から90%ほどは妊娠12週0日までに起こり、この時期の流産は早期流産と呼ばれます。早期流産のほとんどは胎児の染色体異常が原因であり、お母さんの生活が原因となっているわけではありません。また、流産率は年齢と比例して上昇し、25歳から29歳の女性の流産率が11.9%であるのに対して35歳から39歳の女性の流産率は24.6%です。これは年齢とともに胎児の染色体異常の確率が上昇することが原因といわれています。

切迫流産と診断された人のうち、どのくらいの確率で流産をするかという事は分かっていません。しかし切迫流産は出血や腹痛といった症状がみられてはいても、妊娠が子宮内で継続している状態で正常な妊娠経過への回復が期待できる場合をいいます。そのため、症状の程度にもよりますが、すべての人が流産に至ってしまうわけではありません。