せんいきんつうしょう
線維筋痛症
慢性的な全身の痛みが起こる病気。痛みを伝える神経が敏感になることで起こると考えられているが、詳しいメカニズムは分かっていない。
7人の医師がチェック 157回の改訂 最終更新: 2022.03.15

線維筋痛症の原因は?

線維筋痛症の原因には諸説あり、研究者の間でも意見は統一されていません。原因に関わっているかもしれないものとして、外傷、ストレス、感染症、タバコなどが報告されています。

1. 線維筋痛症の原因は不明?

線維筋痛症と診断された人の全員に当てはまる原因は見つかっていません。体の中のどのような組織や物質が発症のしくみ(機序)に関わっているかについてはさまざまな説があります。しかし、どの説でも線維筋痛症の特徴とされることのすべてを統一的に説明することはできていません。

現在ある説の中から、いつか線維筋痛症の原因をうまく説明できるものが見つかってくるかもしれません。しかし現時点では特定の原因を基準として診断や治療に結び付けるには至っていません。このため、薬剤治療により線維筋痛症の症状が改善する人もいますが、大多数の患者さんに有効と示された薬剤はまだありません。

ここでは個別の説の是非を議論することはせず、結果として現実の患者さんについて観察されていることをいくつか紹介します。

2. 線維筋痛症の人に多い特徴は?

病気の原因がわからない場合、統計によって病気の人に多い特徴を探る方法があります。すべての人の平均に比べて病気がある人のほうが特定の特徴を持つ割合が高くなっている場合があります。こうしたものを「統計的に関連がある」などと言います。

関連があるものが病気の原因とは限りません。逆に病気が原因となって関連する特徴をあらわしていることも考えられます。しかし関連は原因を探るうえで何かのヒントとなる場合があります。

線維筋痛症と統計的に関連するものとして、過去の研究では以下のものが報告されています。

  • 外傷
  • 心理・社会的ストレス
  • タバコ
  • 感染症
  • 遺伝的要因

これらは線維筋痛症の原因と断定できるほどのものではないですが、線維筋痛症の原因に関与している可能性があります。

注意すべきこととして、関連する要素を持たない線維筋痛症の患者さんは大勢いますし、関連する要素を複数持っていても線維筋痛症にならない人も大勢います。「特徴」「割合が高い」といった言葉からは大半の人が当てはまるような印象を受けるかもしれませんが、それぞれの集団の中で何パーセントの人が当てはまるかを計算して若干の差があれば「統計的に関連がある」と言われることになります。「ストレスがないのに線維筋痛症になった」といったことは不思議ではありません。同じように、「親が線維筋痛症だから自分もなるのではないか」とは心配しすぎることはありません。親族に線維筋痛症の人がいても線維筋痛症にならない人が大多数です。

以下で関連する要因から推測されることを説明します。この説明もあくまで仮説にとどまるものです。

外傷(けが)

交通事故などで首の神経を損傷(頸髄損傷)することが線維筋痛症につながる可能性があります。首をけがしたあとの人のうち21.6%に線維筋痛症が現れ、対して足を骨折した人では1.7%に線維筋痛症が現れたという報告があります。

手足などで痛みの刺激を受け取る神経は、体の中心部で束(脊髄)となって集まります。束となって集まった神経は首を通って脳へとつながります。そのため、首の神経が傷つくと、手足の痛みの刺激を正しく受け取れなくなり、脳が常に手足から痛みの刺激が送られてきていると錯覚してしまうと考えられます。

図:頚髄損傷により線維筋痛症の症状が現れるしくみの仮説的説明。

参考文献
Buskila D, et al. Increased rates of fibromyalgia following cervical spine injury. A controlled study of 161 cases of traumatic injury. Arthritis Rheum. 1997 Mar;40(3):446-52.

心理・社会的ストレス

心理・社会的ストレスは線維筋痛症と関連しているのではないかとされています。もともと抑うつがある人では、抑うつがない人よりも線維筋痛症の発症が多かったとする報告があります。

そのため、現在行われている線維筋痛症の治療には心理面に着目したアプローチもあります。中にはある程度の効果を示しているものもあります。

参考文献
Chang MH, et al. Bidirectional Association Between Depression and Fibromyalgia Syndrome: A Nationwide Longitudinal Study. J Pain. 2015 Sep;16(9):895-902.
Häuser W, et al. Emotional, physical, and sexual abuse in fibromyalgia syndrome: a systematic review with meta-analysis. Arthritis Care Res (Hoboken). 2011 Jun;63(6):808-20.

タバコ

タバコは線維筋痛症との関連が指摘されている因子の1つです。タバコを吸ったことがない人に比べて、タバコを毎日吸う人の中では線維筋痛症などの慢性の痛みを持つ人が多いという報告があります。

参考文献
Mitchell MD, et al. Association of smoking and chronic pain syndromes in Kentucky women. J Pain. 2011 Aug;12(8):892-9.

感染症

感染症も線維筋痛症の原因の1つとして疑われています。

感染症と全身の痛みのわかりやすい例としてはインフルエンザがあります。インフルエンザにかかると全身の筋肉痛が出ることはよくあります。これは、インフルエンザウイルスを退治するために体の中で作られる炎症物質が痛みも引き起こすためと考えられています。

同様に線維筋痛症でも感染症などの何らかの原因により産生される炎症物質が痛みの原因になっているのではないか、という説があります。

参考文献
Thompson ME, Barkhuizen A. Fibromyalgia, hepatitis C infection, and the cytokine connection. Curr Pain Headache Rep. 2003 Oct;7(5):342-7.

遺伝的要因

特定の遺伝子が線維筋痛症へのなりやすさを左右しているのではないかとする報告があります。ただし、線維筋痛症の発症するかしないかを決めてしまうほど、強い関連を持った遺伝子は突き止められていません。

遺伝子と聞くと「運命」のように思えてしまうかもしれませんが、今のところ特定の遺伝子を持っていたからといって必ず線維筋痛症になるわけではないと考えられています。

参考文献
Smith SB, et al. Large candidate gene association study reveals genetic risk factors and therapeutic targets for fibromyalgia. Arthritis Rheum. 2012 Feb;64(2):584-93.