せんいきんつうしょう
線維筋痛症
慢性的な全身の痛みが起こる病気。痛みを伝える神経が敏感になることで起こると考えられているが、詳しいメカニズムは分かっていない。
7人の医師がチェック 157回の改訂 最終更新: 2022.03.15

体中が痛いのは線維筋痛症?全身の痛みを起こす病気の例と特徴

全身の痛みは線維筋痛症を考える大事な症状です。しかし、全身に痛みがあらわれる病気は他にもあり、全身の痛みだけで線維筋痛症と診断されるわけではありません。ここでは線維筋痛症の診断や症状の似た病気を取り上げます。

1. 線維筋痛症の診断の基準とは?

診断を正確に行うためにさまざまな病気に対して診断の基準が設けられています。線維筋痛症の基準としては以下の2つがあります。

  1. 線維筋痛症分類基準
  2. 線維筋痛症予備診断基準

分類基準と診断基準の違いは、分類基準が臨床研究で線維筋痛症の診断を一貫させるために作成されたことに対して、診断基準は病気の診断を正確に行うことを目的にしている点です。ただし、実臨床では分類基準をもとに線維筋痛症の診断がされることもあります。

線維筋痛症分類基準

図:線維筋痛症分類基準が決めている18か所の圧痛点。

線維筋痛症分類基準は、米国リウマチ学会(ACR)が1990年に提唱した基準です。以下の基準を両方満たす時に線維筋痛症と診断します。

  1. 広範囲(※)に痛みが3ヶ月以上続いている
  2. 18箇所の圧痛点を触診すると11箇所以上に痛みを認める

※ここで広範囲とは右・左半身、上・下半身、首、胸、腰を指します。18箇所の圧痛点とは以下の場所です。

  • 後頭部(後頭下筋腱付着部)
  • 下部頸椎(C5-7頸椎間前方)
  • 僧帽筋(上縁中央部)
  • 棘上筋(起始部で肩甲骨棘部の上)
  • 第2肋骨(肋軟骨接合部)
  • 肘外側上顆(上顆2cm遠位)
  • 臀部(四半上外側部)
  • 大転子(転子突起後部)
  • 膝(上方内側脂肪堆積部)

診察ではこの基準で定められている圧痛点の痛みを確認し、診断の参考にします。

 

線維筋痛症予備診断基準

図:線維筋痛症予備診断基準で痛みの有無が問われる19か所。

線維筋痛症予備診断基準は、米国リウマチ学会(ACR)が2010年に提唱した基準です。前述の線維筋痛症分類基準は自覚症状や診察で痛みがあるかに注目するものでした。しかし、線維筋痛症の症状は痛みだけではありません。そのため、線維筋痛症予備診断基準には痛み以外の症状も組み入れられました。線維筋痛症予備診断基準は以下の通りです。

  • 痛みに関して
    • 以下の19箇所のうち過去1週間で何箇所が痛いと感じたか
      • 左顎・右顎
      • 左肩・右肩
      • 左上腕・右上腕
      • 左前腕・右前腕
      • 上背部
      • 腰背部
      • 左臀部・右臀部
      • 左大腿部・右大腿部
      • 左下腿部・右下腿部
  • 痛み以外の症状に関して
    • 以下の4つの重症度に応じて得点をつける(※)
      • 疲労感
      • 起床時の不快感
      • 認知症
      • 一般的な身体症状(※※)

※重症度に対する得点の付け方は以下の通りです。症状なし=0点、症状がたまにあらわれる=1点、症状がよくあらわれる=2点、症状がいつも続いていて、生活に支障を来している=3点。4項目の合計点は最大で3点×4=12点です。

※※一般的な身体症状とは以下を指します。筋肉痛、過敏性腸症候群、筋力低下、頭痛、腹痛、しびれ、めまい、睡眠障害、うつ、便秘嘔気、神経質、胸痛、視力障害、発熱、下痢、ドライマウス、かゆみ、喘鳴、レイノー症状、蕁麻疹、耳鳴り、胸焼け、口腔内潰瘍、味覚障害、痙攣、ドライアイ、息切れ、食欲低下、発疹、光線過敏、難聴、あざができやすい、抜け毛、頻尿、排尿時痛、膀胱痙攣

下のa.からc.のすべてを満たす時、線維筋痛症と診断します。

  1. 次のi. またはii. のいずれか
    1. 痛みの箇所が7箇所以上で痛み以外の症状の得点が5点以上の場合
    2. 痛みの箇所が3-6箇所で痛み以外の症状の得点が9点以上の場合
  2. 症状が3ヶ月以上続いている
  3. 症状の原因となる他の病気がない

他の病気がないかについては診察や検査を用いて調べられます。全身が痛くなり線維筋痛症と見分けなければならない病気についてはこの後に説明します。

2. 全身が痛くなる病気には何がある?

線維筋痛症は全身に痛みがあらわれる病気です。しかし、体のあちこちが痛くなる病気は線維筋痛症だけではありません。線維筋痛症と症状が似ていて、間違えやすい病気は以下の通りです。

馴染みのない病気がほとんどだと思いますので、それぞれの病気について説明していきます。

関節リウマチ

関節リウマチは関節に腫れや痛みが起こる病気です。関節の腫れや痛みは主に手の指、手首などの小さい関節を中心に複数箇所にあらわれます。関節リウマチ免疫の異常により、関節に炎症が起こることで腫れや痛みを起こします。30-50代の女性に多い病気です。関節の腫れや痛みは持続すると関節の変形を起こします。

それに対し、線維筋痛症では関節の変形は起こりません。

関節リウマチは血液検査でCRP(シーアルピー)と呼ばれる炎症反応物質が上昇したり、リウマチ因子、抗CCP抗体などの項目で異常値が出ることが多いです。これらの血液検査の異常は線維筋痛症ではあらわれません。

関節リウマチについてさらに詳しく知りたい人は「関節リウマチの詳細情報ページ」を参考にして下さい。

脊椎関節炎

脊椎関節炎は背骨や骨盤を中心に関節や靭帯に炎症が起こる病気です。その結果、背骨や腰に痛みがあらわれ、背骨を曲げたり伸ばしたりできなくなります。脊椎関節炎が疑わしいかはX線検査MRI検査で確認することができます。また、背骨や骨盤の炎症がある時は血液検査で炎症反応物質が上昇しますが、線維筋痛症では炎症反応物質の上昇はみられません。

多発性筋炎・皮膚筋炎

多発性筋炎皮膚筋炎は免疫の異常により筋肉や皮膚が攻撃される病気です。その結果、だるい、全身の筋肉の痛み、筋肉に力が入らない、などの線維筋痛症と似た症状があらわれます。ただし、多発性筋炎皮膚筋炎では筋肉が壊されるため、筋肉に含まれる物質(筋逸脱酵素)が血液中に漏れ出します。これは血液検査で確認できます。また筋肉で炎症が起こる結果、血液検査で炎症反応物質の値が上がります。これらの血液検査異常は線維筋痛症ではみられません。

多発性筋炎皮膚筋炎についてさらに詳しく知りたい人は「多発性筋炎・皮膚筋炎の基礎情報ページ」を参考にして下さい。

シェーグレン症候群

シェーグレン症候群は免疫の異常により涙腺や唾液腺が攻撃され、ドライアイドライマウスが起こる病気です。倦怠感や関節痛、疲労感など、線維筋痛症と似た症状があらわれることがあります。シェーグレン症候群では涙や唾液が十分分泌できるかを検査します。また血液検査で抗SS-A抗体や抗SS-B抗体が陽性になることが多いです。口唇生検といって唇の一部を切り取ってきて顕微鏡でみる検査も有用です。

シェーグレン症候群についてさらに詳しく知りたい人は「シェーグレン症候群の詳細情報ページ」を参考にして下さい。

全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデスは免疫の異常により自分の体が攻撃されて起こる全身疾患です。全身の関節の腫れや痛み、疲れやすいといった線維筋痛症と似た症状があらわれることがあります。全身性エリテマトーデスの症状は他にも以下のものがあります。

  • 熱が続く
  • 頬にできる赤い発疹
  • けいれん
  • 息切れ
  • 血尿
  • 尿の泡立ち(蛋白尿
  • 手足のむくみ

全身性エリテマトーデスは20-40代の女性に多い病気です。全身性エリテマトーデスの場合、ほぼ全例で抗核抗体という血液検査が陽性になります。

全身性エリテマトーデスについてさらに詳しく知りたい人は「全身性エリテマトーデスの詳細情報ページ」を参考にして下さい。

変形性関節症

関節は曲げた時に骨と骨がぶつからないように軟骨がクッションの役割を果たしています。しかし、高齢などが原因で軟骨がすり減ると関節を曲げた時に骨同士がぶつかり痛みが起こります。これが変形性関節症です。変形性関節症はしばしば複数の関節で同時に起こることがあります。この場合、体の節々に痛みが誘発されるため、線維筋痛症と症状が類似することがあります。変形性関節症はX線検査やMRI検査をすることで調べることができます。

変形性関節症についてさらに詳しく知りたい人は「変形性関節症の基礎情報ページ」を参考にして下さい。

更年期障害

更年期障害とは閉経前後にみられる体調の不調を指します。例としてはだるい、動悸がする、頭が痛い、など線維筋痛症と似た症状が見られます。また更年期障害は女性ホルモンの産生低下により起こるため、発症年齢や性別も40-50歳代の女性と線維筋痛症と類似します。更年期障害は閉経前後の女性ホルモンの産生低下により起こるので、生理の周期の変化などが見られることが多いです。

更年期障害についてさらに詳しく知りたい人は「更年期障害の詳細情報ページ」を参考にして下さい。

甲状腺機能低下症

甲状腺は首の前にある小さな臓器で体を活発にする甲状腺ホルモンというホルモンを作っています。甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの産生が低下することで、だるい、体の節々が痛い、動悸がするといった線維筋痛症に類似した症状があらわれます。甲状腺機能低下症は血液検査で甲状腺ホルモンの値を計測することで、診断することができます。

甲状腺機能低下症についてさらに詳しく知りたい人は「甲状腺機能低下症の基礎情報ページ」を参考にして下さい。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)

慢性炎症性脱髄性多発神経炎は免疫の異常により、神経が攻撃される病気です。手足のしびれや筋力低下などがあらわれます。慢性炎症性脱髄性多発神経炎では神経伝導速度検査や髄液検査で異常があらわれます。線維筋痛症のように全身に痛みを感じることは通常ありません。

多発性硬化症

多発性硬化症は免疫の異常により、脳や脊髄が攻撃される病気です。手足の動かしにくさやしびれ、視力低下などがあらわれます。30歳前後の女性に多い病気です。MRI検査や髄液検査で異常があらわれます。線維筋痛症のように全身に痛みを感じることは通常ありません。

多発性硬化症についてさらに詳しく知りたい人は「多発性硬化症の基礎情報ページ」を参考にしてくださいい。

3. 線維筋痛症とリウマチは同時に起こることがある?

線維筋痛症はもともと関節リウマチがある人に現れることがあります。実は、線維筋痛症の4人に1人は他の病気が土台となって発症するとも言われています。線維筋痛症の誘因となる病気は、関節リウマチ以外にもシェーグレン症候群全身性エリテマトーデスSLE)があります。

他の病気に線維筋痛症が合併していることを疑う場面は、もともとの病気がよくなっているにも関わらず、全身の疼痛(痛み)だけが残っているといった時です。例えば、関節リウマチに線維筋痛症が合併するケースに関しては、関節リウマチの治療により関節の痛みや腫れ、血液検査の結果は改善しているにもかかわらず、全身の痛みが残存している場合です。