体中が痛いのは線維筋痛症?全身の痛みを起こす病気の例と特徴
全身の痛みは線維筋痛症を考える大事な症状です。しかし、全身に痛みがあらわれる病気は他にもあり、全身の痛みだけで線維筋痛症と診断されるわけではありません。ここでは線維筋痛症の診断や症状の似た病気を取り上げます。
1. 線維筋痛症の診断の基準とは?
診断を正確に行うためにさまざまな病気に対して診断の基準が設けられています。線維筋痛症の基準としては以下の2つがあります。
- 線維筋痛症分類基準
- 線維筋痛症予備診断基準
分類基準と診断基準の違いは、分類基準が臨床研究で線維筋痛症の診断を一貫させるために作成されたことに対して、診断基準は病気の診断を正確に行うことを目的にしている点です。ただし、実臨床では分類基準をもとに線維筋痛症の診断がされることもあります。
線維筋痛症分類基準
線維筋痛症分類基準は、米国リウマチ学会(ACR)が1990年に提唱した基準です。以下の基準を両方満たす時に線維筋痛症と診断します。
- 広範囲(※)に痛みが3ヶ月以上続いている
- 18箇所の圧痛点を触診すると11箇所以上に痛みを認める
※ここで広範囲とは右・左半身、上・下半身、首、胸、腰を指します。18箇所の圧痛点とは以下の場所です。
- 後頭部(後頭下筋腱付着部)
- 下部頸椎(C5-7頸椎間前方)
- 僧帽筋(上縁中央部)
- 棘上筋(起始部で肩甲
骨棘 部の上) - 第2肋骨(肋
軟骨 接合部) - 肘外側上顆(上顆2cm遠位)
- 臀部(四半上外側部)
- 大転子(転子突起後部)
- 膝(上方内側脂肪堆積部)
診察ではこの基準で定められている圧痛点の痛みを確認し、診断の参考にします。
線維筋痛症予備診断基準
線維筋痛症予備診断基準は、米国リウマチ学会(ACR)が2010年に提唱した基準です。前述の線維筋痛症分類基準は自覚症状や診察で痛みがあるかに注目するものでした。しかし、線維筋痛症の症状は痛みだけではありません。そのため、線維筋痛症予備診断基準には痛み以外の症状も組み入れられました。線維筋痛症予備診断基準は以下の通りです。
- 痛みに関して
- 以下の19箇所のうち過去1週間で何箇所が痛いと感じたか
- 首
- 左顎・右顎
- 左肩・右肩
- 左上腕・右上腕
- 左前腕・右前腕
- 胸
- 腹
- 上背部
- 腰背部
- 左臀部・右臀部
- 左大腿部・右大腿部
- 左下腿部・右下腿部
- 以下の19箇所のうち過去1週間で何箇所が痛いと感じたか
- 痛み以外の症状に関して
- 以下の4つの重症度に応じて得点をつける(※)
- 疲労感
- 起床時の不快感
- 認知症状
- 一般的な身体症状(※※)
- 以下の4つの重症度に応じて得点をつける(※)
※重症度に対する得点の付け方は以下の通りです。症状なし=0点、症状がたまにあらわれる=1点、症状がよくあらわれる=2点、症状がいつも続いていて、生活に支障を来している=3点。4項目の合計点は最大で3点×4=12点です。
※※一般的な身体症状とは以下を指します。筋肉痛、過敏性腸症候群、筋力低下、頭痛、腹痛、しびれ、めまい、睡眠障害、うつ、便秘、
下のa.からc.のすべてを満たす時、線維筋痛症と診断します。
- 次のi. またはii. のいずれか
- 痛みの箇所が7箇所以上で痛み以外の症状の得点が5点以上の場合
- 痛みの箇所が3-6箇所で痛み以外の症状の得点が9点以上の場合
- 症状が3ヶ月以上続いている
- 症状の原因となる他の病気がない
他の病気がないかについては診察や検査を用いて調べられます。全身が痛くなり線維筋痛症と見分けなければならない病気についてはこの後に説明します。
2. 全身が痛くなる病気には何がある?
線維筋痛症は全身に痛みがあらわれる病気です。しかし、体のあちこちが痛くなる病気は線維筋痛症だけではありません。線維筋痛症と症状が似ていて、間違えやすい病気は以下の通りです。
- 関節リウマチ
- シェーグレン症候群
脊椎 関節炎- 多発性筋炎・皮膚筋炎
- リウマチ性多発筋痛症
- 全身性エリテマトーデス
- 変形性関節症
- 更年期障害
- 甲状腺機能低下症
- 慢性
炎症 性脱髄 性多発神経炎(CIDP) - 多発性硬化症
馴染みのない病気がほとんどだと思いますので、それぞれの病気について説明していきます。
関節リウマチ
関節リウマチは関節に腫れや痛みが起こる病気です。関節の腫れや痛みは主に手の指、手首などの小さい関節を中心に複数箇所にあらわれます。関節リウマチは
それに対し、線維筋痛症では関節の変形は起こりません。
関節リウマチは血液検査で
関節リウマチについてさらに詳しく知りたい人は「関節リウマチの詳細情報ページ」を参考にして下さい。
脊椎関節炎
脊椎関節炎は
多発性筋炎・皮膚筋炎
多発性筋炎・皮膚筋炎は免疫の異常により筋肉や皮膚が攻撃される病気です。その結果、だるい、全身の筋肉の痛み、筋肉に力が入らない、などの線維筋痛症と似た症状があらわれます。ただし、多発性筋炎・皮膚筋炎では筋肉が壊されるため、筋肉に含まれる物質(筋逸脱
多発性筋炎・皮膚筋炎についてさらに詳しく知りたい人は「多発性筋炎・皮膚筋炎の基礎情報ページ」を参考にして下さい。
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は免疫の異常により涙腺や唾液腺が攻撃され、ドライアイやドライマウスが起こる病気です。
シェーグレン症候群についてさらに詳しく知りたい人は「シェーグレン症候群の詳細情報ページ」を参考にして下さい。
全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデスは免疫の異常により自分の体が攻撃されて起こる全身疾患です。全身の関節の腫れや痛み、疲れやすいといった線維筋痛症と似た症状があらわれることがあります。全身性エリテマトーデスの症状は他にも以下のものがあります。
- 熱が続く
- 頬にできる赤い発疹
- けいれん
- 息切れ
血尿 - 尿の泡立ち(
蛋白尿 ) - 手足の
むくみ
全身性エリテマトーデスは20-40代の女性に多い病気です。全身性エリテマトーデスの場合、ほぼ全例で
全身性エリテマトーデスについてさらに詳しく知りたい人は「全身性エリテマトーデスの詳細情報ページ」を参考にして下さい。
変形性関節症
関節は曲げた時に骨と骨がぶつからないように軟骨がクッションの役割を果たしています。しかし、高齢などが原因で軟骨がすり減ると関節を曲げた時に骨同士がぶつかり痛みが起こります。これが変形性関節症です。変形性関節症はしばしば複数の関節で同時に起こることがあります。この場合、体の節々に痛みが誘発されるため、線維筋痛症と症状が類似することがあります。変形性関節症はX線検査やMRI検査をすることで調べることができます。
変形性関節症についてさらに詳しく知りたい人は「変形性関節症の基礎情報ページ」を参考にして下さい。
更年期障害
更年期障害とは閉経前後にみられる体調の不調を指します。例としてはだるい、
更年期障害についてさらに詳しく知りたい人は「更年期障害の詳細情報ページ」を参考にして下さい。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症についてさらに詳しく知りたい人は「甲状腺機能低下症の基礎情報ページ」を参考にして下さい。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
慢性炎症性脱髄性多発神経炎は免疫の異常により、神経が攻撃される病気です。手足のしびれや筋力低下などがあらわれます。慢性炎症性脱髄性多発神経炎では神経伝導速度検査や
多発性硬化症
多発性硬化症は免疫の異常により、脳や
多発性硬化症についてさらに詳しく知りたい人は「多発性硬化症の基礎情報ページ」を参考にしてくださいい。
3. 線維筋痛症とリウマチは同時に起こることがある?
線維筋痛症はもともと関節リウマチがある人に現れることがあります。実は、線維筋痛症の4人に1人は他の病気が土台となって発症するとも言われています。線維筋痛症の
他の病気に線維筋痛症が