らんそうがん
卵巣がん
卵巣にできた悪性腫瘍のこと。大きく3種類に分けられるが、上皮性卵巣がんというタイプが多い
10人の医師がチェック 124回の改訂 最終更新: 2024.05.29

卵巣がんの検査について

卵巣がんの人に行われる診察や検査には2つの主な目的があります。目的の1つは「卵巣がんがどうかを診断すること」、もう1つは「卵巣がんのステージを調べること」です。ここでは卵巣がんの診察や検査について説明します。

1. 問診

お医者さんと患者さんが主に対話形式で行う診察を問診と言います。問診には患者さんの「身体の状況」や「背景」を把握する目的があります。具体的には、患者さんは困っている症状を伝えて、お医者さんからは症状や持病、服用している薬などについて詳しい質問を受けます。

【卵巣がんが疑われる人に行われる問診の例】

  • 症状について
    • どんな自覚症状があるのか
    • 自覚症状はいつからあるのか
    • 症状が軽くなったり重くなったりすることはあるか
  • 月経(生理)について
    • 初経(生理を初めて経験した年齢)はいつか
    • 月経の間隔はどれくらいか
  • 妊娠・出産について
    • 妊娠や出産はそれぞれ何回経験したか
  • 持病や過去にかかった病気について
  • 内服薬の有無について
  • 喫煙歴について
  • 血縁者の病気について
    • 卵巣がんや乳がんになった人はいるか

卵巣がんは腹囲の増加や腹部膨満感、強い下腹部痛などから見つかることが多いです(症状については「こちらのページ」を参考)。しかし、卵巣がんの症状は他の病気でも見られます。例えば、下腹部痛は月経でも見られる症状ですし、腹囲の増加は単なる体型の変化によるものかもしれません。症状を具体的に説明できれば、それだけ情報が増えてお医者さんの的確な診断につながります。この問診の例を参考にして、受診前に、自分で問診で予想される内容をまとめておくと、より確実に伝えることができるので、試してみてください。

2. 身体診察

お医者さんが患者さんの身体の状態を直接くまなく調べることを身体診察と言います。具体的には、「バイタルサイン(血圧・脈拍数・呼吸数・体温・意識レベル)の測定」や「触診(身体を触って痛みの有無や硬さなどを調べること)」「聴診(聴診器を使って身体の中を音を聞く)」などが身体診察に含まれます。

卵巣がんが疑われる人の身体診察では「内診」が重要です。内診とは、女性の性器(膣や子宮、卵巣)の診察のことで、膣の中から卵巣や子宮の状態が調べられます。また、卵巣がんは直腸の周りに広がることがあるので、直腸診(肛門から指を入れて調べる検査)という方法で、痛みや広がりの有無なども合わせて調べられます。

3. 血液検査:腫瘍マーカーなど

血液検査では「臓器の機能」や「腫瘍マーカー」を調べることができます。それぞれについて説明します。

臓器の機能:腎臓の機能や栄養状態

血液検査の役割の1つは、臓器の機能や栄養状態を調べることです。

卵巣がんが疑われた人には、画像検査や病理検査などさまざまな検査が行われます。中には腎臓に負担がかかる検査があり、機能が低下している人には行なえません。このため、腎臓の機能を血液検査によって前もって調べます。

また、卵巣がんが進行している人ではがんに栄養が奪われて、低栄養になっていることがあります。栄養状態の目安として、アルブミンなどの血液に含まれる物質の値が参考にされます。

腎臓の状態や栄養状態以外にもさまざまな項目が検査や治療に先立って網羅的に調べられます。血液検査で異常があった人には必要に応じて追加で検査が行われます。

腫瘍マーカー

がんになると血液中で増加する物質があります。そのうちいくつかは腫瘍マーカーとして用いられており、卵巣がんではCEAやCA125、C19-9が腫瘍マーカーとして知られています。

腫瘍マーカーは「病気の勢い」や「治療効果」を推し量る際に使われ、似た目的で使われる画像検査に比べて、検査を受ける時間が短い点が優れています。上手に使うとに役立つ腫瘍マーカーですが、注意しなければならないことがあります。

まず、腫瘍マーカーはがん以外の原因でも上昇することがあります。つまり、腫瘍マーカーが上昇したからといって、必ずしもがんが存在するという訳ではありません。反対にがんが発生していても腫瘍マーカーが上昇しないことがあります。腫瘍マーカーが正常範囲内だから、がんがないとも言いきれません。

腫瘍マーカーの結果をもとににがんの有無を判断して欲しいと考える人がいるかも知れませんが、それは難しいことです。卵巣がんが疑われる際には、腫瘍マーカーだけではなく、診察や画像検査、病理検査などの結果から総合的に判断されます。

4. 画像検査

卵巣がんが疑われた人には画像検査が行われます。主な画像検査には超音波検査CT検査、MRI検査があり、「がんの広がり」や「転移の有無」を調べることができます。中でも超音波検査は簡便に行える利点があり、まず最初に行われるものです。それぞれの特徴や概要について説明します。

超音波検査(エコー検査)

エコー検査は超音波を利用して、その反射の程度から体内を画像化します。下腹部にある卵巣は、お腹からでも膣からでも超音波を使って調べることができます。

■経膣超音波検査

親指くらいの太さの棒状の機械(プローブ)を膣から挿入して、検査が行われます。経膣超音波検査では、後述するお腹からの超音波検査より、子宮や卵巣、周りの臓器(膀胱や直腸)を詳しく観察することができます。診察(内診)の後に続けて行われることが多いです。膣からプローブを挿入する際には、潤滑剤を使ったりと痛みが少なく済むような配慮がされていますが、痛みがあるときには遠慮なく伝えてください。

■経腹超音波検査

プローブをお腹に当てて検査が行われます。経膣超音波検査に比べると、はっきりと卵巣が見えないことがありますが、経腹超音波検査にはお腹全体を見渡せるメリットがあります。経膣超音波検査では見るのが難しい肝臓や腎臓、血管の周りのリンパ節などを、経腹超音波検査では、比較的容易に観察することができます。

CT検査

CT検査は、放射線を利用して身体の断面を画像化します。「がんの広がり」や「転移の有無」を調べることができるので、ステージを調べる際に重要です(ステージについては「こちらのページ」を参考にしてください)。

また、より詳細に調べる必要がある場合には、造影剤という薬を注射して検査が行われます。CT検査で得られる画像はモノクロですが、造影剤を使うことによって、コントラストが明瞭になり、より詳しい情報を得られます。なお、造影剤は「腎臓の機能が低下している人」や「一部の糖尿病治療薬(メトホルミンなど)を内服中の人」には使うことができません。CT検査の前には、腎臓の機能や服用している薬が調べられてはいますが、当てはまる人は自分からもお医者さんに伝えてください。

CT検査の詳しい説明は「こちらのコラム」も参考にしてください。

MRI検査

MRI検査は、身体の断面を画像化する点はCT検査と同じですが、磁気を利用する点が異なります。CT検査とは異なり、放射線を利用しないので、被ばくの心配はありません。また、卵巣の中身を映し出すのに優れているので、がんかどうかを判断する際には、CT検査よりMRI検査の方が重要視されることがあります。

CT検査と同様により詳しく調べる必要があるときには、造影剤を注射して検査を行います。MRI検査で使う造影剤はCT検査で用いるものとは異なりますが、CT検査と同様に「腎臓の機能が低下している人」には使うことができません。腎臓の病気を治療中の人や機能が低下していると言われている人はその旨をお医者さんに伝えてください。 MRI検査の詳しい説明は「こちらのコラム」も参考にしてください。

5. 病理検査

病理検査では、尿や痰などに混じっている細胞や、病気が疑われる部分を切り出した組織を顕微鏡で詳しく観察します。細胞や組織を特殊な薬品で着色して観察することで、病気があるかどうかやその種類、進行度を見極めます。病理検査でがん細胞が指摘された場合には、がんの存在を疑う余地がなくなります。このため、一般的には、治療(手術や抗がん剤治療)を行う前に病理検査が行われることが多いです。

しかし、卵巣は手術以外の方法で、取り出すことは難しいです。このため、卵巣がんでは、手術の前ではなく、手術中または手術後に病理検査が行われます。病理検査から卵巣がんの、「組織型(漿液性、粘液性、類内膜、明細胞)」や「悪性度」などがわかり、手術後の治療を選ぶ際の判断材料とされます。

【参考文献】

・「卵巣がん治療ガイドライン2022年版」(日本婦人科腫瘍学会/編)、金原出版
・「がん診療レジデントマニュアル(第7版)」(国立がん研究センター内科レジデント/編)、医学書院、2016年
・「産婦人科研修の必修知識2016-2018」、日本産科婦人科学会、2016年
NCCN ガイドライン 卵巣がん