らんそうがん
卵巣がん
卵巣にできた悪性腫瘍のこと。大きく3種類に分けられるが、上皮性卵巣がんというタイプが多い
10人の医師がチェック 124回の改訂 最終更新: 2024.05.29

卵巣がんとはどんな病気なのか

卵巣は女性にしかない臓器であり、生殖のために必要です。早期の卵巣がんは症状が出にくく、そのため進行した状態で発見されることは少なくありません。ここでは卵巣がんの概要として、症状や原因、検査、治療について説明します。

1. 卵巣がん(英語名:ovarian cancer)とはどんな病気なのか:年次ごとや年齢別の患者さんの数について

女性に特有の臓器である卵巣は、下腹部の左右に1つずつあり、卵子の成熟・排卵を行うとともに女性ホルモンを分泌しています。この大切な役割を果たしている卵巣にがんができることがあります。

どのくらいの人が卵巣がんになっているのか:卵巣がんの罹患者数

2019年に国内で新たに卵巣がんが見つかった人は13,388人、10万人あたりで約20人でした。決してありふれた病気とは言い難い卵巣がんですが、近年増加傾向にあることが知られています。下のグラフは年次ごとの卵巣がんにかかった人の数(10万人あたりの患者さんの数)を示したものです。

【卵巣がんの罹患率(全国推計値)年次推移】

卵巣がんの罹患率(全国推計値)年次推移

グラフから卵巣がんが年々増加していることが読み取れます。後述しますが、卵巣がんは、40歳以降の人に多く見つかることが多いです。このため、社会全体が高齢化すると卵巣がんが見つかる人が増加します。高齢化が進む日本では卵巣がんの増加は必然と考えられるかも知れません。卵巣がんになる人が以前と比べて増えているかどうかを知るために、高齢化の影響を可能な限り排除した年齢調整罹患率という方法を使って患者さんの数をグラフに示します(なお、年齢調整罹患率の求め方は煩雑なので、説明は省略します)。

【卵巣がんの年齢調整罹患率(全国推計値)年次推移】

卵巣がんの年齢調整罹患率(全国推計値)年次推移

年齢調整罹患率を使って高齢化の影響を除いみても、卵巣がんにかかる人が年々増ている傾向を読み取ることができます。なお、卵巣がんが近年増加しているはっきりとした原因はわかってはいません。

卵巣がんが見つかる年齢について:卵巣がんの好発年齢

卵巣がんが見つかる人は40歳代から急激に増加し、50歳代から60歳代の人に最も多いです。

【年齢階級別の卵巣がん罹患率(全国推計値・2014年)】

年齢階級別の卵巣がん罹患率(全国推計値・2014年)

40歳未満の人では卵巣がんが見つかる人はほとんどいないので、過度に心配する必要はありません。一方、40歳を超えた人に卵巣がんを疑う症状が現れた際には、原因の1つとして卵巣がんに重きをおいて考える必要があります。

2. 卵巣がんの症状について

卵巣がんは自覚症状をきっかけとして見つかることが多いです。

【卵巣がんの主な自覚症状】

  • 腹部膨満:腹部の膨らみ
  • 腹痛
  • 骨盤痛
  • 腰痛
  • 易疲労感:疲れやすさの自覚
  • 食思不振
  • 不正出血:月経(生理)や分娩、産褥期(出産直後)以外で起こる性器の出血

卵巣がんの自覚症状は卵巣がん特有のものではなく、他の病気でも見られます。このため、症状から卵巣がんと判断するのは簡単ではありません。疑わしい症状がある際には医療機関で原因を調べてもらってください。

なお、卵巣がんの症状について詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。

3. 卵巣がんの原因について

上で説明したように、40歳を超えた人に卵巣がんが多く見られる傾向があり、加齢は卵巣がんの原因の1つと考えられています。一方、加齢以外にも卵巣がんのリスクを上げるものがいくつか知られています。

【卵巣がんにかかるリスクを上げるもの】

  • 血縁者の病気
    • 卵巣がんにかかった人がいる
    • 乳がんにかかった人がいる
  • 身体の特徴
    • 初経の年齢が低い
    • 閉経の年齢が高い
    • 肥満である
  • 持病やその治療
    • ホルモン補充療法(エストロゲン単独)をしている
    • 子宮内膜症がある

リスクの中には耳に馴染みのないものが含まれているので、個別に説明します。

血縁者のかかった病気について

卵巣がんの一部は遺伝によって起こると考えられています。

乳がんや卵巣がんになった人が血縁者にいる人では、そうでない人に比べて卵巣がんになりやすい可能性があります。具体的には、BRCA1、BRCA2という遺伝子のどちらか、あるいは両方に変異がある人には、卵巣がんと乳がんが起こりやすいことが知られています。遺伝子の異常を親から受け継いでいると、卵巣がんになやすいです。ただし、遺伝が関係してない卵巣がんもあります。遺伝が関係しているかどうかは、検査をして見てないとわからないので、心配な人は検査の必要性についてお医者さんと相談してください。

身体の特徴について

初経・閉経の時期や、肥満は卵巣がんの発生に関わっていることが知られています。

■初経や閉経の時期について

「初経の年齢が低い人」や「閉経の年齢が高い人」は、卵巣がんになりやすいことが知られています。一般的には初経年齢は10歳から15歳で、閉経年齢は50歳前後と言われています。初経が早かったり閉経が遅かったことによる心配がある人は、定期検査の必要性などを相談してみてください。

肥満について

肥満は卵巣がんのリスクになります。肥満かどうかの目安にBMIという数値が用いられ、次の計算式で求めることができます。

  • BMI=体重[kg]÷身長[m]÷[m]

日本人ではBMIが25を超えると肥満とされ、BMIが22の体重が理想的とされます。例えば、身長が160cmの人の適正な体重は次のように計算できます。

  • 22(BMI)×1.60m(身長)×1.60(身長)=56.32kg

肥満が心配な人はまず、自分の身長から適正な体重を知ってください。そして、運動療法や食事療法などを行い、体重を適正値に近づけるようにしてください。とはいえ、体重を落とすのは簡単ではありません。難しいと感じた人やなかなか体重が落ちない人は、上手に減量するために、お医者さんや周りの人に相談したり助けを借りることも考えてみてください。

持病や治療について

子宮内膜症がある人」や「ホルモン療法」を行っている人は卵巣がんになりやすいと考えられています。

子宮内膜症

子宮内膜(子宮を構成する膜の一部)が、子宮以外の部位にできることを子宮内膜症と言います。子宮内膜症がある人には卵巣がんができやすくなることが知られています。特に、チョコレート嚢胞(卵巣にできる子宮内膜症)がある人では卵巣がんのリスクが高いと言われています。また、チョコレート嚢胞が大きくなるほど、卵巣がんが見つかりやすくなることが分かっているので、大きなチョコレート嚢胞がある人には手術が勧められます。卵巣がんとチョコレート嚢胞の関係については「こちらのページ」も参考にしてください。

■ホルモン補充療法

女性ホルモンの不足によって起こる更年期障害の人は、治療として女性ホルモンを内服する(ホルモン補充療法)ことがあります。更年期障害の症状を和らげるのに有効なホルモン補充療法ですが、一方で服用していることによって、卵巣がんのリスクが上昇すると考えられています。とはいえ、ホルモン補充療法を行った人全員に卵巣がんが起こるわけではないので、過度な心配は不要です。

それでも心配な人は、「更年期障害の治療」と「卵巣がんになる危険性」のバランスがとれた治療法を考える必要があります。治療法によるメリット・デメリットを踏まえるために、お医者さんと相談してください。

4. 卵巣がんのステージについて

画像検査や手術の結果によって、卵巣がんの進行度合いを知ることができます。 進行度を表す方法としてステージ病期分類)があります。ステージは主にがんの広がり方で決まります。4段階(IからIV)に分かれ、数字が大きくなるほど、進行した状態を現しています。

それぞれのステージの具体的な状態は次のようになります。

【卵巣がんのステージとがんの状態】

  • ステージI
    • がんが卵巣内にとどまっている状態
  • ステージII
    • がんが卵巣にとどまらず、周り(骨盤の中)に広がった状態
  • ステージIII
    • がんが骨盤の外に広がり、「お腹の中にばら撒かれた状態」か、もしくは「大動静脈の周囲のリンパ節転移した状態」
  • ステージIV
    • 胸水(肺の周りにある水分)からがん細胞が見つかる」か、もしくは「肝臓や肺などにがんが転移した状態」

がんの治療はステージによって異なるので、最適な治療法を選ぶためにステージが調べられます。また、ステージは経過の見通すこと(生存率など)にも役立ちます。より詳しい説明については「こちらのページ」を参考にしてください。

5. 卵巣がんの治療について

卵巣がんの治療には次のものがあります。

【卵巣がんの治療】

  • 手術
  • 抗がん剤治療
  • 放射線治療
  • 緩和治療

卵巣がんは「手術」と「抗がん剤」を組み合わせて治療されますが、ステージによって手術や抗がん剤治療の内容が違います。次にステージごとの治療について説明していきます。 なお、それぞれの治療の詳しい内容については「こちらのページ」を参考にしてください。

ステージI

ステージIは最も早期の段階です。さらに細かくステージIA、IB、ICの3つに分けられ、それぞれで治療法が異なります。がんの悪性度が低い(グレード1)IA・IBの人は手術だけで治療を終えることができます。一方、がんの悪性度が高い(グレード2,3 )IA・IBの人とICの人には手術に加えて、再発予防を目的とした抗がん剤治療が手術後に行われます。

ステージII、III

ステージII、IIIはがんが卵巣にとどまらず周りに広がった状態です。ステージIの人と同様にまず手術が行われ、がんができる限り取り除かれます。手術後に「再発予防」や「残ったがん細胞の死滅」を目的とした抗がん剤治療が行われます。

ステージIV

ステージIVはがんが最も広がった状態です。手術でがんが取り除ける人にはステージII、IIIの人と同様にまず手術が行われ、その後抗がん剤で治療されます。一方で、手術でがんが取り切れない人がステージIVの人の中にはいます。がんを取り切るのが難しい人には、まず抗がん剤治療が行われ、がんをできるだけ小さくしておいてから手術が検討されます。

6. 卵巣がんの人に知っておいて欲しいこと

卵巣がんと診断されたら、完治するかどうかが気にかかる問題です。また、どのくらい命が残されているかも気にかかります。ここでは「完治」と「生存率」について説明します。

なお、その他のよくある質問や疑問は「こちらのページ」で説明しているので参考にしてください。

卵巣がんは完治するのか

手術によってがんを取り除くことができれば、卵巣がんは完治が見込めます。しかし、手術を行った全員が完治するわけではありません。手術をしたものの再発することがあり、再発すると完治が難しくなります。完治したかどうかはなるべく早く知りたいものですが、手術の時点で完治したかどうかを予想するのは簡単ではなく、しばらく時間が経過してみないと判断がつきません。治療後は完治したと言われるまでは、再発の不安がどうしてもつきまといます。不安がある人は定期的な受診などを利用して、担当のお医者さんに相談してみてください。

卵巣がんの生存率はどれくらいか

卵巣がんの生存率はステージによって異なります。「がんの統計’24」を基にして作成した5年生存率は次の通りです。

【卵巣がんのステージごとの5年生存率(実測生存率:2014年-2015年診断例)】

ステージ 5年生存率(%)
ステージI 88.7
ステージII 74.9
ステージIII 45.1
ステージIV 27.1

このステージごとの生存率は過去の治療結果に基づくものなので、現在の治療を反映したものではありません。つまり、目安にはなりますが、今の治療を受けている患者さんに当てはまるとは限らないということです。また、生存率には一人ひとりの身体の状態も加味されてはいません。このため、「自分はステージ◯だから5年後に生きている確率は◯◯%」と端的に当てはめることもできないものなのです。生存率は気になる数字ですが、とらわれすぎないようにしてください。生存率を気にする時間を、好きなことやリラックスできること、治療に前向きに取り組める環境を整えたりすることなどにあててみてください。

【参考文献】

・がん情報サービス「がんの統計’24
・「卵巣がん治療ガイドライン2020年版」(日本婦人科腫瘍学会/編)、金原出版
・「がん診療レジデントマニュアル(第7版)」(国立がん研究センター内科レジデント/編)、医学書院、2016年
・「産婦人科研修の必修知識2016-2018」、日本産科婦人科学会、2016年
NCCN ガイドライン 卵巣がん