らんそうがん
卵巣がん
卵巣にできた悪性腫瘍のこと。大きく3種類に分けられるが、上皮性卵巣がんというタイプが多い
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最終更新: 2023.12.20
卵巣がんの基礎知識
POINT 卵巣がんとは
卵巣に発生する悪性腫瘍です。初期ではほとんどが無症状ですが、進行してくると卵巣が大きく腫れることやお腹に水が溜まることで、お腹の張りを感じます。また、検診で卵巣が腫れていることを指摘されて気づかれることもあります。遺伝や子宮内膜症、出産経験がないことなどが発病と関係していると考えられています。内診や超音波検査、血液検査を行い、必要に応じてMRI検査やCT検査などの画像検査も行われます。また、腹水や胸水が溜まっている場合は針をさして取り出して検査することもあります。全身の状態がよければ、まず手術を行います。手術や検査の結果から最終的な病気の進行度(ステージ)が定まり、その結果から抗がん剤治療が追加されることがあります。卵巣がんが心配な方は産婦人科で相談してみてください。
卵巣がんについて
卵巣 にできた悪性腫瘍 - 罹患者数13,388人(2019年)、死亡者数5081人(2021年)
がん が発生した場所から以下の3種類に分けられる- 上皮性卵巣がん:卵巣を覆う部分
- 胚細胞性卵巣がん:これから卵子になる細胞
- 性索間質性卵巣がん:
ホルモン をつくるところ
- 卵巣がんの90%が上皮性
- 50-60歳代に多い
- 胚細胞性はまれで、若年者にみられる
- 以下のような人が卵巣がんになるリスクが高い
- 家族に卵巣がんの人がいる
- 出産したことがない人
- 子宮内膜症のある人
- 卵巣がんの
ステージ は簡単には以下のように分けられる- 1期:がんが卵巣にとどまっている
- 2期:がんが周り(子宮、卵管、膀胱、直腸)に広がっている
- 3期:がんがお腹(腹膜)や
リンパ節 まで広がっている - 4期:がんが肝臓や、お腹以外の部分に
遠隔転移 している
- BRCA1、BRCA2という遺伝子が、乳がんと卵巣がんを高い確率で引きおこすことが知られており、遺伝性乳がん卵巣がん症候群とも呼ばれることがある
- BRCAとはBreast cancer(乳がんという意味)の略
卵巣がんの症状
- 卵巣がんは、初期ではほとんど症状がない
- 自覚症状がなく、気づいたら進行しているということが多い
- Silent Cancer(静かな
がん )と呼ばれこともある
- 進行すると以下の症状が起こる
- お腹全体が張る(
腹水 が溜まるため) - お腹にしこりを触れる
頻尿
- お腹全体が張る(
- さらに進行すると、
胸水 がたまり息切れが起こることがある - 性器からの異常な出血やおりものなどは出ないことが多い
卵巣がんの検査・診断
- 血液検査:
腫瘍マーカー などを調べる - 画像検査:
腫瘍 の大きさや位置などを調べる超音波検査 (経腹、経腟)腹部CT検査 MRI 検査
腹水 細胞診 :腹水を取り(腹部もしくは経腟から細い針を刺してとる)そこに含まれる細胞を調べるがん 細胞が含まれていれば顕微鏡で見つけることができる- ただし、がんがあっても必ずがん細胞が腹水に含まれているわけではないので、がんを否定するためには全身の
所見 と併せて判断する必要がある
組織診 :腫瘍や周囲の組織を一部切り取り、がんでないか調べる- 画像検査だけでがんの
ステージ を決定することは難しく、実際に手術をして組織診を行って初めてステージが確定する
卵巣がんの治療法
- 以下の治療は主に上皮性卵巣がんの治療
- 基本的には手術と
化学療法 を組み合わせる - 手術の基本は子宮全摘+両側の
卵巣 の切除+周りの組織(腹膜や大網、リンパ節 )の切除を行うがん の広がりに応じて、手術をして切り取る部分を広くする- 直腸や膀胱なども一緒に切除されることもある
- 3期や4期などのがんがお腹や全身に広がっている場合は、術前に化学療法を行って、がんを小さくしてから手術を行う場合も多い
- 卵巣がんの治療は手術だけで済むことはまれで、初期以外は化学療法を組み合わせる
- 卵巣がんの種類は多く、化学療法が効きやすいものとそうでないものがある
- 多くの場合で進行して周囲の組織に広がっていることが多い
- 再発しやすいため、化学療法で再発予防を行う
5年生存率 は、ステージ が1期であれば90%近いが、3期より進行している場合は50%以下になってしまう
卵巣がんに関連する治療薬
抗がん性抗生物質(アントラサイクリン系)
- 細胞の増殖に必要なDNAやRNAの合成を阻害することで抗腫瘍効果をあらわす薬
- がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
- 細胞の増殖には遺伝情報をもつDNAやRNAの合成が必要となる
- 本剤は細胞内のDNAに結合するなどしてDNAやRNAの合成を阻害するなどして抗腫瘍効果をあらわす
- 本剤は土壌などに含まれるカビなどの微生物由来の薬剤であり抗がん性抗生物質などと呼ばれる
白金製剤(プラチナ製剤)
- 細胞増殖に必要なDNAに結合することでDNA複製阻害やがん細胞の自滅を誘導し抗腫瘍効果をあらわす薬
- がん細胞は無秩序な増殖を繰り返したり転移を行うことで、正常な細胞を障害し組織を壊す
- 細胞の増殖には遺伝情報をもつDNAの複製が必要となる
- 本剤はがん細胞のDNAと結合し、DNAの複製とがん細胞の自滅を誘導することで抗腫瘍効果をあらわす
- 本剤は薬剤の構造中に白金(プラチナ:Pt)を含むため白金製剤と呼ばれる
NK1受容体拮抗薬
- 抗がん薬による嘔吐中枢への刺激を阻害し、悪心(吐き気)・嘔吐を抑える薬
- 抗がん薬投与による悪心・嘔吐は延髄に嘔吐中枢に刺激が伝わりおこる
- 脳のCTZや中枢神経に多く存在するNK1(ニューロキニン1)受容体が作用を受け嘔吐中枢に刺激が伝わる
- 本剤はNK1受容体を阻害することで嘔吐中枢への刺激を抑える
- 原則として、5-HT3受容体拮抗薬(吐き気止め)と併用する