ぜんりつせんえん
前立腺炎
前立腺が炎症を起こした状態のことで、陰部の痛みや排尿障害、発熱の原因となる
7人の医師がチェック 104回の改訂 最終更新: 2022.05.30

前立腺炎が疑われるときに行う検査

前立腺炎を診断するには身体診察に加えていくつかの検査を用います。検査では前立腺炎を診断すること以外に他の病気が隠れていないかを調べることも重要です。

1. 前立腺炎が疑われる時の検査の目的

前立腺を疑ったときの検査には二つの目的があります。一つは前立腺炎の診断を確定することで、もう一つは前立腺炎以外の病気が隠れていないかを調べることです。

【前立腺炎を疑った時に用いられる診察や検査】

  • 診察
    • 問診
    • 身体診察
  • 尿検査
    • 尿定性検査
    • 尿沈渣
  • 血液検査
  • 細菌学的検査
    • 尿の塗抹検査
    • 尿の培養検査
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • CT検査
    • MRI検査

前立腺炎は以上のように様々な検査を用いて調べていきます。たくさん検査がありますが、全ての検査がいつも診断に必要な訳ではなく適した検査を選びます。以下の章ではそれぞれの検査の特徴やどんなことがわかるのかなどを中心にして解説していきます。

2. 診察

前立腺炎の診察には問診と身体診察を用います。

問診

問診は自分が感じている症状を医師に伝えたり医師からの質問に対して答えることです。問診で症状などをチェックすることで、前立腺炎の疑わしさを調べます。例えば前立腺炎ではなく他の病気が考えられる場合には用いる検査の種類が変わります。このため問診は大切です。

【前立腺炎で用いられる問診の例】

  • どんな症状か
  • いつ症状に気づいたか
  • 身体のどこに症状が出ているか
  • 治療中の持病はあるか
  • 今までに治療した病気はあるか
  • 内服している薬はあるか
  • 性行為について

症状などは具体的なほど医師に多くの情報を伝えることができます。診察を受ける前に。気になる症状を書きとめたりしてまとめておくとよいでしょう。

持病や過去に治療した病気、内服している薬などの情報は検査を進めるうえで大切です。薬は「お薬手帳」などを利用するとスムーズにかつ正確に伝えることができます。

前立腺炎の原因の中には、淋菌クラミジアなど性行為で感染する病原体もあります。性行為についての質問は答えにくいこともあると思いますが、ありのままに正確に伝えてください。

身体診察

身体診察では、医師が触ったり聴診器を使ってお腹の音を聞いたりすることで問診から考えられる病気をさらに絞りこむことができます。身体診察では体の隅々まで調べます。前立腺炎の診断には、直腸診という診察の方法が特に大切なので、以下で詳しく解説します。

【直腸診】

直腸診は前立腺を直腸越しに触れて調べる検査です。直腸診を行う様子の例を説明します。

  1. 患者さんは仰向けになって足を抱え込むようにして医師が肛門を見やすいようにします
  2. 医師は痛み止めがまじったゼリーを指に塗り肛門から指を挿入します
  3. 医師は指の感触を頼りにして前立腺の様子を調べます

図:前立腺と周りの臓器の位置関係。

直腸診を行うと急性前立腺炎が起こっている人は痛みを感じます。

慢性前立腺炎を疑っている場合には直腸診とともに前立腺をマッサージして前立腺の分泌液を尿道から取り出して診断に使います。

3. 尿検査

尿検査は尿の内容を調べることができます。前立腺は尿の通り道である尿道とつながっているので前立腺炎が起こると尿に異常が起こります。このため尿検査は前立腺炎を調べるのに大切な検査の一つです。

尿検査には尿定性検査と尿沈渣(にょうちんさ)の2つの種類があります。2つでは調べられるものが異なります。尿検査だけでは前立腺炎と他の病気を区別するのに十分ではありませんが、尿検査から多くの情報を得ることができます。

尿定性検査

尿定性検査は短時間で結果が判明する点が優れていて、白血球赤血球、タンパク質の有無や程度をしることができます。尿の状態を素早く大まかに知ることができる尿定性検査ですが、尿の状態を詳しく調べることはできません。尿の状態を詳しく調べるには尿沈渣の方が向いています。

尿沈渣

尿沈渣は尿を機械で遠心分離して沈殿したものを顕微鏡で観察する検査です。尿を人の目で観察するので赤血球や白血球の数はもちろん、細菌なども観察することができます。

4. 血液検査

前立腺炎が疑われて発熱などをしている人に対して血液検査を行います。前立腺炎を疑った人の全員に血液検査をするわけではありません。血液検査では以下のポイントに医師は注目しています。

  • 炎症の程度
  • 臓器(腎臓・肝臓など)の機能
  • 脱水の有無

炎症の程度や臓器の機能、脱水の有無などは、全身の状態や病気の重症度の目安になり、治療方針を決めることに役立ちます。脱水や強い炎症反応が起きているときには入院治療するほうが望ましいなどの判断をすることができます。

5. 細菌学的検査

細菌感染は前立腺炎の原因の一つです。細菌感染による前立腺炎に対しては、抗菌薬による治療が効果的です。適切な抗菌薬を選ぶために細菌学的検査は重要です。細菌学的検査はいくつか種類があるのでそれぞれを解説します。

尿の塗抹検査(とまつけんさ)

塗抹検査は細菌がいると考えられる体液や尿などをスライドガラスに薄く塗って顕微鏡で観察する検査です。前立腺炎では尿を検査に用います。

塗抹検査で細菌の名前やどの抗菌薬が適しているかまでは知ることはできません。しかし、グラム染色という方法を使えば、色の染まり具合(陽性か陰性か)と細菌の形(丸いか細長いか)から大きく4つに分類したもののうちどれに該当するかを知ることができます。4つの分類は以下のようになります。

  • グラム陽性球菌
  • グラム陽性桿菌
  • グラム陰性球菌
  • グラム陰性桿菌

球菌は丸い菌、桿菌(かんきん)は細長い菌という意味です。

前立腺炎を起こしている細菌がどのグループに属しているかは大切です。そのグループに属しているかを知ることで効果が期待できる抗菌薬を選べます。塗抹検査は10-30分程度で結果がわかるので治療を開始するにあたり役に立ちます。

尿の培養検査(ばいようけんさ)

培養検査は尿などの検体を細菌が育ちやすい環境に置いて細菌を増やして調べる検査です。前立腺炎を疑っている場合には尿を培養して調べます。

培養検査では細菌の数が増えるので細菌の名前や抗菌薬の効果まで調べることができます。培養検査は塗抹検査より多くの情報を得られるのですが、結果がわかるまでに時間を要します。

遺伝子検査

前立腺炎の原因となる細菌は大腸菌などが多いのですが、性病を起こす淋菌クラミジアも原因になります。特に性的な活動性が高いと考えられる年齢の人や性病が疑われるエピソードがある人の場合には淋菌クラミジアを積極的に原因として疑います。

淋菌クラミジアを調べる場合には、PCR法などの遺伝子検査を用いることが多いです。検査結果がでるのに数日を要します。

6. 画像検査

診察や尿検査などで前立腺炎と別の病気を見分けるのが難しいときには、画像検査を用います。画像検査にはいくつかありますが、患者さんの状況と検査の特徴などから適したものを選びます。

超音波検査

超音波検査は、超音波という人間の耳には聞こえない音波を利用した検査です。超音波検査はエコー検査と呼ばれることもあります。

超音波を体に当てると、超音波の跳ね返りから体の中の様子を画像で観察できます。超音波検査では前立腺の観察もでき他の場所に異常が起きていないかも調べることができます。

CT検査

CT検査は放射線を使った検査です。CT検査では超音波検査と同じように腹部を中心に様々な場所を観察することができ、超音波検査より多くの情報を得られます。

CT検査は放射線を使った検査なので、放射線の影響が出る恐れと、知ることができる情報の重みを鑑みて行うかどうかを判断します。

MRI検査

MRI検査は磁気を利用して身体の中を調べる検査です。放射線を使うことはありません。前立腺を調べるにはMRI検査が向いています。前立腺炎を起こしていて前立腺がんと区別が付かないときにはMRI検査を用いて区別します。MRI検査は強力な磁気を利用するため、金属製品(ペースメーカーなど)が体の中に入っている人は使えない場合があります。

7. 検査で急性前立腺炎と見分ける病気

急性前立腺炎は前立腺に細菌が感染して起こる病気です。急性前立腺と似た症状が現れる病気には膀胱炎(ぼうこうえん)と尿道炎があり、細菌感染が主な原因です。

図:尿路を構成する臓器。

参考文献
・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

膀胱炎

膀胱炎は、尿がたまる膀胱に炎症が起きる病気です。膀胱炎の原因は、ほとんどが細菌感染です。膀胱炎の症状は、頻尿や排尿時痛など前立腺炎と共通した症状が現れ、前立腺炎と膀胱炎は同時に起こることもあります。前立腺炎の身体診察で用いられる直腸診などが膀胱炎と前立腺炎とを区別するのに役立ちます。

尿道炎

尿道は膀胱の尿を体の外に運ぶための管です。尿道炎が起こると排尿時の痛みや尿道からが出るなどの症状が現れます。尿道炎の主な原因は淋菌クラミジアなどの性行為で感染する病原体です。前立腺炎と尿道炎は身体診察や症状などから見分けることができます。尿道炎では尿道から分泌物がみられるのに対して前立腺炎で分泌物がみられることは多くはないなどの特徴が診断に役立ちます。

8. 検査で慢性前立腺炎と見分ける病気

慢性前立腺炎の一部は細菌感染が原因で起こりますが、原因がわからないことも多いです。原因が見つからない場合を診断することは難しく、他の病気を全て除外した後に残った病気が診断になります。慢性前立腺炎では前立腺がん前立腺肥大症とは区別しておく必要があります。

参考文献
​​​​​​​・青木 眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015
​​​​​​​・赤座 英之/監修, 標準泌尿器科学第9版, 医学書院, 2014

前立腺がん

前立腺がんは中高年の男性に多い病気です。前立腺がんは主にPSAという血液検査項目を調べることをきっかけにして発見されます。前立腺がんは、無症状なことが多いのですが進行すると排尿時の痛みや排尿困難感などが現れることもあります。

慢性前立腺炎と前立腺がんを見分けるには血液検査項目のPSAやMRI検査、前立腺生検などを用います。

前立腺肥大症

前立腺肥大症は、尿道に接している前立腺の内腺という部分が大きくなる病気です。前立腺肥大症良性腫瘍です。つまりがんではありません。

前立腺の内腺は尿道の周りを取り囲んでいるので、前立腺の内腺が大きくなると、尿道が狭くなって尿が出にくくなったり頻尿になったりします。慢性前立腺炎と前立腺肥大症の症状は似ていますが治療法が異なるので見分ける必要があります。慢性前立腺炎は炎症を抑える薬などを用いて治療するのに対して、前立腺肥大症は狭くなった尿道を広げる薬や大きくなった前立腺を切り取る内視鏡手術などで治療を行います。