顎(がく)関節症とはどんな病気?症状、検査、治療、注意点など
顎関節症はあごが痛い、口が開かない、あごを動かすと音がするという3つを代表的な症状とする病気です。顎関節症はあごの病気ですが耳の痛みや耳鳴り、頭痛、肩こりなどの症状を引き起こします。原因は、生活習慣などにより顎関節や周囲の筋肉に負担がかかり、顎関節の構造が変化することや、筋肉がこわばることだと考えられています。逆に言えば生活習慣の是正で改善することができます。ここでは顎関節の場所と働き、顎関節症の症状、検査、治療などを大まかに説明します。
目次
1. 顎関節の場所と働き
顎関節症は顎関節と周囲の筋肉に症状がでる病気です。顎関節がどの部分にあるのか、顎関節がどのように働いているのかを知ることで、顎関節症の病気の状態や、症状が出る仕組みについてわかりやすくなります。ここでは病気の理解に必要な顎関節の場所や構造、働きなどについてみていきましょう。
顎関節の場所
顎関節は顔の表面から触ると、耳の穴の前あたりにあります。耳の前あたりに指を当てて口を開けてみてください。その時に凹む場所が顎関節です。顎関節は頭蓋骨の一部である側頭骨(そくとうこつ)と下顎骨(かがくこつ)が接する部分です。
顎関節症の症状の一つに顎関節痛がありますが、指で触って凹む部分に一致して痛くなります。症状が悪化すると周囲へ痛みが広がります。
顎関節の構造
顎関節は頭蓋骨の一部である側頭骨と下顎骨の接する部分にある関節です。側頭骨には関節窩(かんせつか)という凹みと、その前方に関節突起という出っ張りがあります。下顎骨にある出っ張りである下顎頭は、側頭骨の関節窩にはまりこんで顎関節を作っています。
下顎頭の表面には
顎関節は顎関節包(がくかんせつほう)という組織で包まれています。顎関節包の内部は顎関節腔(がくかんせつくう)と呼ばれます。顎関節腔は滑液(かつえき)という液体で満たされており、滑液は顎関節腔にある関節円板や軟骨に栄養を補給しています。
顎関節症の症状である顎関節雑音や開口障害は関節円板の変形やずれでおこります。顎関節に負担がかかり続けることで関節円板は変形するとともに位置が関節窩の前方にずれます。正常な顎関節では関節円板の下を下顎頭がスムーズに通過するのですが、変形してずれた関節円板は下顎頭の動きを邪魔してしまい、関節円板を下顎頭が越える時に音がします。
開口障害は関節円板が更に変形すると起こります。大きく口を開けるには下顎頭が関節窩から前方の関節突起まで出ることが必要です。しかし、関節窩の前方に変形してずれた関節円板があることで、下顎頭が前にでることができず、大きく口を開けることができなくなります。
顎関節の働き
顎関節の働きは下顎を動かして口を開け閉めすることです。口を開け閉めして、歯を接触させて食べ物を咀嚼します。顎関節は左右同時に動いて下顎を動かします。上顎は頭蓋骨の一部なので動きません。顎の動きは全て下顎を動かすことで起きています。
耳の前のあたりに指を当てて口を開けてみてください。耳の前で凹む場所が顎関節です。試しに大きく口を開けてみてください。正常な顎関節の場合は、大きく口を開けると下顎の骨が、関節から外れるように前方に移動することがわかると思います。
口を大きくあけるとき、下顎頭は関節円板をクッションとして関節窩の中を回転しながら動きます。2cm以上口を開ける時は、下顎頭は回転しながら前方にずれることで大きく口をあけられる仕組みになっています。下顎頭は前方にずれた時には、関節窩から関節突起という出っ張りまで動きます。指で顎関節のあたりを触りながら口を開けてみると、関節が外れるように前方にずれるのはこの動きを感じています。
口を閉じると下顎頭は回転しながら後ろにずれて関節窩に戻ります。
顎関節を動かす筋肉:咀嚼筋
顎関節を動かす筋肉は主に咀嚼筋(そしゃくきん)と呼ばれる筋肉です。咀嚼に関係する筋肉なので咀嚼筋と呼ばれ、4種類あります。
- 咬筋(こうきん)
- 側頭筋(そくとうきん)
- 内側翼突筋(ないそくよくとつきん)
- 外側翼突筋(がいそくよくとつきん)
このうち咬筋と側頭筋は顎関節症の痛みにも関係する筋肉です。いずれも奥歯を噛みしめると頬とこめかみで触れることができます。顎関節症で起こる痛みはこの筋肉の部分に一致します。
咬筋は奥歯を噛みしめると頬で硬く触れる筋肉です。収縮すると下顎が挙がり口が閉じます。
側頭筋は奥歯を噛みしめるとこめかみに硬く触れる筋肉です。こめかみは「米」を「噛む」ときに動くのでこめかみと名付けられました。収縮すると下顎が挙がったり、下顎が後ろに動いたりします。
内側翼突筋は外から触れることはありません。収縮すると下顎を挙げる作用と、横に動かす作用があります。
外側翼突筋も外から触れることはありません。収縮すると下顎を前に出す作用と、横に動かす作用があります。
咀嚼筋のうち、咬筋、側頭筋、内側翼突筋は口を閉じる働きがあります。外側翼突筋は他の筋肉とともに働いて口を開ける働きがあります。口を閉じる筋肉の合計の強さに比べて、口を開ける筋肉の合計の強さは弱いです。そのため、口を開ける時には口を開ける筋肉が収縮するというより、咬筋、側頭筋、内側翼突筋が弛緩(しかん)することで口が開きます。
2. 顎関節症のよくある症状
あごの痛みを感じた時や、口が引っかかって開かない、口をあけると音がするなどの症状がある時に、顎関節症かもしれないと思う人が多いと思います。顎関節症はあごの症状と、その他の症状に分けられます。
- あごや口の症状
- あごが痛い
- 口が開かない
- あごを動かすと音がする
- その他の症状
- 耳が痛い
- 耳鳴りがする
- 耳がつまった感覚がする
- 頭が痛い、こめかみが痛い
- 肩がこる、首がこる
- ふわふわする、視界が回る
顎関節症の代表的な症状は、あごが痛い、口が開かない、あごを動かすと音がするという3つです。しかし、顎関節症ではあごの症状のみでなく、一見あごとは全く関係がなさそうな、耳の痛み、耳鳴り、耳が詰まった感覚などの耳の症状や、頭痛、肩こり、めまいなどの様々な症状も引き起こします。なぜそのような症状を起こすかについては「顎関節症の症状にはどんなものがあるか?」に詳しく書いてありますので、参考にしてください。
3. 顎関節症の原因は何がある
顎関節症の原因は1つではなく、いろいろな原因が合わさって起こると考えられています。以前はかみ合わせのみが原因だと考えられていましたが、現在はほかの原因も考えられています。同じ程度の原因が重なっても症状がでるかは個人差があります。一人ひとりの顎関節や筋肉の耐久性も異なるため、様々な要因が積み重なって、その人の持つ顎関節や筋肉の耐久性を越えると、顎関節症の症状がでると考えられています。
顎関節症の原因に関係する要因は下記のものがあります。
- 顎関節や筋肉の弱さ
- 歯並び、かみ合わせ
- 精神的ストレス
- ケガ
- 生活習慣
この中でも生活習慣が原因として強く関わっていると考えられています。上下の歯を接触させる癖や、悪い姿勢、片方の歯で食事を噛むことなどさまざまな生活習慣が原因と考えられています。
顎関節症の原因を知ることで日常生活の注意点がわかり、顎関節症の予防方法や症状を和らげる方法に役立てることができます。詳しい原因については「顎関節症の原因はどんなものがあるか?」を参考にしてください。
4. 顎関節症が疑われるときに行われる検査
顎関節症が疑われた場合には歯科や口腔外科を受診します。受診した医療機関では診断するために
問診では症状の様子や他の病気、生活背景などを聞かれます。身体診察では口の中の様子やあごの動きを調べます。口が開く範囲や痛みのある部位について診察を行います。顎関節症と似た症状が起こる他の病気と区別するために画像検査を行うこともあります。画像検査は
実際にどのような流れで診察や検査が行われるのかについては「顎関節症が疑われた時の検査や診断方法は?」に詳しく書いてありますので参考にしてください。
5. 顎関節症を改善するために行われる治療
顎関節症の治療には顎関節症の原因を取り除く方法と、顎関節症の症状を和らげて、顎関節や周囲の筋肉の機能を改善させる方法があります。
顎関節症にはさまざまな原因がありますが、日常生活の習慣が大きくかかわると考えられています。顎関節症の原因になることを取り除く治療は、病院にいかなくても日常生活の中で自分で心がけ、習慣を改善していくことで行うことができます。
顎関節症の症状を和らげて、顎関節や周囲の筋肉の機能を改善させる治療方法は病院で行う治療が主になります。筋肉や顎関節の機能を改善させるための
自分でできる治療法(治し方)
顎関節症に対して自分でできる治療は、顎関節症の原因になっている生活習慣やストレスなどを自分で改善することです。その他には、顎関節周囲の筋肉や顎関節の機能を改善させるための理学療法があります。
生活習慣の改善は自分で行うことができます。上下の歯を接触させる癖や、悪い姿勢、片方の歯で食事を噛むことなどの生活習慣を改善することで顎関節症の症状を緩和することができます。これらは自分で心がけて改善していくことが治療になります。
理学療法は顎関節症で硬くなった顎関節や周囲の筋肉の機能を改善させるために行います。顎関節症の病状に応じて行う運動が異なりますので、実際の方法は一度医療機関で指導してもらってから自分で行うほうが安全で効果的です。
詳しい治療方法は「顎関節症に対してどんな治療方法があるか?」に記載してありますので、参考にしてください。
病院でできる治療法(治し方)
顎関節症に対して病院でできる治療方法は、痛み止めを使った薬物治療や、マウスピースを使った治療などがあります。治らない場合には手術などの外科的治療も検討します。外科的治療には顎関節に液体を注入して洗浄する方法、顎関節を
病院で指導される重要な治療に理学療法があります。理学療法のうち身体を動かすことで機能を改善させる運動療法が重要です。顎関節症の理学療法は、こわばって痛みを生じる咬筋や側頭筋をほぐす治療です。筋肉がこわばることも顎関節症の原因になりますが、こわばった筋肉を動かすと痛みがでるため、動かさなくなり、更にこわばるという悪循環に陥ることがあります。この悪循環を断ち切る目的で運動療法を行います。はじめは正しい方法を病院で指導してもらい、自分でもできそうであれば自分のペースで行うことで、より効果的な治療を行うことができます。
詳しい治療方法は「顎関節症に対してどんな治療方法があるか?」に記載してありますので、参考にしてください。
6. 顎関節症の日常生活で注意すること
顎関節症になった人が日常生活で注意することは、顎関節に負担がかかる生活習慣を是正することです。片方の顎関節に負担がかかる習慣や、顎関節と周囲の筋肉に負担をかけるような習慣を改善します。片方の顎関節に負担がかかることとしては、片側のみで噛む偏咀嚼(へんそしゃく)、うつぶせ寝、頬杖などです。顎関節や周囲の筋肉に負担をかける習慣は、歯をくいしばることや、上下の歯を常に接触させる癖、猫背などの悪い姿勢、常にガムを噛む習慣などです。ストレスが多い生活をしていることも、歯のくいしばりや浅い睡眠、歯ぎしりにつながるため、多忙な仕事の是正や睡眠時間の確保、ストレスと上手く付き合うことも考えてください。
一度症状が緩和しても、顎関節に負担がかかる生活を続けていると、症状が再度悪化することがありますので、注意して生活することが重要です。
詳しくは「顎関節症の人が知っておきたいこと:日常生活の注意点など」に記載してありますので、参考にしてください。