ていけっとう
低血糖
血液中の糖分(ブドウ糖)が少なくなりすぎて、意識を失ったり、手足が動かしにくくなったりする状態
14人の医師がチェック 148回の改訂 最終更新: 2020.11.16

低血糖の予防や知っておきたいことについて

低血糖を予防するために日常生活でいくつか気を配ってほしいことがあります。ここでは、特に低血糖になりやすい糖尿病の人が覚えておきたい予防法と、低血糖にまつわる知識を整理します。

1. 糖尿病の人の低血糖予防について

糖尿病の人では、食事や生活習慣が血糖値に与える影響が少なくありません。正しい知識や対処法を知っておくことで、低血糖を予防することができます。

食事の注意点について

低血糖を起こさないために、食事では次の3つが重要です。

  • 食事の内容
  • 食事の間隔
  • 食事がとれないときの対応

それぞれについて説明します。

■食事の内容について

食事の内容は偏りなく、なるべく毎日の食事が同じくらいのカロリーになるようにするのが好ましいです。例えば、血糖値が上がらないようにと糖質の多い炭水化物を極端に減らしたり、一日に必要なカロリーを下回るほどカロリー制限をするのは低血糖の原因になります。食習慣を変更する場合には、糖尿病治療薬の調整や、変更が適切かの判断が必要になります。お医者さんや管理栄養士に相談してから行うようにしてください。

■食事の間隔について

食事はできるだけ毎日同じ時間にとるのが良いです。糖尿病治療薬の量や、使用するタイミングは、食事の量とともにその間隔も参考にして決められています。食事の時間が不規則になると、その分血糖値も乱高下しやすくなります。食事がきちんと摂れない場合は、間食を行うなどして、少しでも口から糖分を摂るようにしてください。

■食事がとれないときの対応について:シックデイの対応について

風邪や体調不良で、食欲がないことがあります。この状態をシックデイと言います。シックデイの人の血糖値は乱高下しやすく高血糖にも低血糖にもなるので、血糖値の値を見ながら糖尿病治療薬の調整をしなければなりません。シックデイになった時の備えとして、あらかじめ、かかりつけのお医者さんと「食事量や血糖値に応じて、薬をどれくらい使うのか」や「医療機関にかかる目安」を相談しておいてください。

生活での注意点について

生活の中にも低血糖を起こす原因があり、食事とともに気を配ることで低血糖を避けることができます。生活の中で注意して欲しいことは次の3つです。

  • 多量の飲酒は避ける
  • 薬は量を守って使う
  • 空腹での運動は避ける

それぞれについて説明します。

■多量の飲酒は避ける

グルコースブドウ糖)はグリコーゲンという物質に変換されて肝臓に蓄えられています。血糖値が下がるとこのグリコーゲンを分解してグルコースを作り出し(糖新生)、血糖値が下がらないようにします。

一方、肝臓には体内に入ったアルコールを分解する役割もあります。アルコールの摂取量が多くなりすぎると、アルコールの分解が糖新生より優先されて、低血糖が起こりやすくなります。お酒を全く飲んではいけない訳ではありませんが、多量の飲酒は避けるようにしてください。

■薬は量を守って使う

血糖値を下げる糖尿病治療薬は決められた量を飲むようにしてください。決められた量より多く使いすぎたり、反対に少なかったりすると血糖値が乱高下してしまいます。体調不良などで食事が食べられなかった時などは、事前にお医者さんと相談した通りに薬の量を調整することはありますが、自分だけの判断で調整するのは避けてください。

■空腹での運動は避ける

運動は糖尿病の治療の中でも重要なものです。しかし、空腹時の運動は低血糖の原因になることがあるので、避けてください。運動の前後で糖分を補い(補食)低血糖の予防に努めてください。

2. 低血糖で知っておきたい知識

低血糖になった場合は、自分や周りの人が対応をしなければならないことが多いです。前もって知識を整理しておくと、いざという時にすばやく対応できます。ここでは低血糖を経験したことがある人からよく聞かれる質問をもとに、知識を整理します。

ブドウ糖は市販されているのか

血糖値を上げるにはブドウ糖を摂取するのが効果的です。ブドウ糖は市販薬としても入手することができるので、低血糖に備えて手元においておくとよいです。飴のタイプやゼリーのタイプ、タブレットのタイプなどがあるので、いろいろ試して使いやすいものを見つけてください。

ダイエットで低血糖になるのか

身体には血糖値を維持しようとするメカニズムがあるので、食事の量を少し減らしたくらいでは低血糖になることはまずありません。しかし、食事をしない、極端に偏った食品だけを食べるといったダイエットが行き過ぎると、低血糖を起こす可能性があります。ダイエットが原因で低血糖を起こしてしまった場合には、ダイエットのやり方を見直す必要があるので、お医者さんや管理栄養士の人に相談してください。

低血糖は病院に行くべきか、何科を受診するべきか

低血糖の程度によって対応が異なるので、軽症と重症の場合に分けて説明します。

■軽症の場合

意識があり、自分で対応できる段階を軽症とします(「低血糖の症状」の初期症状から進行した時の症状を目安にしてください)。この場合は、まず、自分で低血糖の対処をします。具体的には、ブドウ糖を口からとります。ブドウ糖は市販されているので、携帯しておくとよいです。ブドウ糖が手元にない場合はチョコレートや飴などのブドウ糖が含まれたものを摂取してください。

■重症の場合

低血糖が重症化した場合は、意識がなくなったり、痙攣を起こしたりします。意識の消失や痙攣が長時間続くと、後遺症が残ることが懸念されるので、すみやかに血糖値を上げなければなりません。意識がない人や痙攣している人が口から糖分を摂ることは難しいので、医療機関で点滴などの治療が必要です。周りの人は一刻も早く患者さんを医療機関に連れて行ってください。なお、意識の消失や痙攣は、脳卒中てんかん発作などが原因の可能性もあるので、幅広く対応できる救急救命科などを受診するのがよいです。

低血糖は入院が必要か

軽症な低血糖の場合に入院することはまれです。しかし、重症の場合(意識を失ったり、痙攣を起こしたり)は血糖値が回復して症状が改善したとしても、またすぐに低血糖になってしまうことがあるため、回復しても入院して様子が見られることがあります。

低血糖で死亡することはあるのか

低血糖になりそのまま治療が行われないと、脳がダメージを受けて死亡したり、後遺症が残ることがあります。生命を守り後遺症を残さないためにも、低血糖の治療はすみやかに行われなければなりません。そのためには早めに気づいて治療をすることが大切です。詳しくは「低血糖の症状」や「低血糖の治療」を参考にしてください。

低血糖は子どもでもなるのか

子どもでも低血糖を起こすことがありますが、主な原因が大人とは異なります。

大人はしばらく食事を摂らなくても、肝臓のグリコーゲンを分解してグルコース(糖の1種類)を作り出し、血糖を維持できます。そのため、めったなことでは低血糖は起こりません。

一方、子どもは大人に比べてグリコーゲンの蓄えが少ないので、体調不良などで食事摂取の不良が続くと、低血糖になりやすいです。このようなタイプの低血糖をケトン性低血糖と言います。大人の低血糖と同じく糖分を補うことによって改善します。ケトン性低血糖は成長とともに起こりにくくなると考えられているので、過度に心配する必要はありません。

【参考文献】

「ハリソン内科学 第5版」(福井次矢、 黒川 清 /監修)、MEDSi、2017
「ワシントンマニュアル 第13版」(髙久史麿、和田 攻/監訳)、MEDSi、2015