急性虫垂炎(盲腸)の原因:年齢・性別・食べ物など
急性虫垂炎は、10代から20代の人が発症しやすい病気です。また一生のうちに虫垂炎になる人は男性で8.6%、女性で6.7%と身近な病気です。ここでは虫垂炎の原因などについて解説します。
目次
1. 急性虫垂炎になりやすい年齢
急性虫垂炎(きゅうせいちゅうすいえん)は10歳代から20歳代に最も多く、年齢を重ねるとともに急性虫垂炎を発症する人は減っていきます。また急性虫垂炎になる新生児は少なく、2-3歳頃から少しずつ急性虫垂炎になる子どもがでてきます。
参考文献:Am J Epiremiol.1990;132:910-25
2. 急性虫垂炎になる人の人数
急性垂炎はもっとも身近な病気の一つです。
では、どのくらいの人が虫垂炎になるのでしょうか。日本では大規模な調査が行われていないのですが、1990年に発表されたアメリカのデータがあります。報告によると生涯に急性虫垂炎を経験する人は男性では8.6%、女性では6.7%でした。11-15人に1人が急性虫垂炎になる計算です。
参考文献:Am J Epiremiol.1990;132:910-25
3. 急性虫垂炎になりやすい性別
原因は不明ですが男性の方が急性虫垂炎になることがやや多いようです。男性の方が女性に比べて1.4倍程度急性虫垂炎を発症するという報告があります。
参考文献:Am J Epiremiol.1990;132:910-25
4. 急性虫垂炎はうつらない
急性虫垂炎は人から人にうつる病気ではありません。周りの人が急性虫垂炎になっても普段通りに接して大丈夫です。
5. 急性虫垂炎の起こるメカニズム
急性虫垂炎が起きる原因はまだ完全にはわかっていません。急性虫垂炎が起きる仮説としては次のものが考えられています。
虫垂は盲腸(大腸の一部)から生え出たしっぽのような格好をしていてます。虫垂は大腸とつながっていますが、大腸と虫垂がつながっている部分が塞がれたり狭くなると急性虫垂炎が発症すると考えられています。
虫垂と大腸のつなぎ目を塞いだり狭くする原因は糞石(便のかたまり)・異物・腫瘍などです。虫垂と盲腸のつなぎ目が塞がれたり狭くなると虫垂の中に腸液が溜まり続けて虫垂の圧力が高まります。虫垂の中の圧力が高まると血流が悪くなって虫垂の粘膜から細菌の感染が起きると推測されています。しかし、全ての人に糞石などの原因があるわけではなく原因は不明なことのほうが多いです。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第2版, MEDSi, 2006
6. 家族に急性虫垂炎になった人がいるとかかりやすいか
家族が急性虫垂炎になったことがある場合、急性虫垂炎になりやすいかもしれません。急性虫垂炎になった人は急性虫垂炎ではなかった人に比べて家族に急性虫垂炎の手術を経験した人がいることが多かったという報告があります。
家族歴が関連する原因については遺伝なのか環境の問題なのかは現在のところ不明です。
参考文献:West J Emerg Med.2012;468-71
7. 急性虫垂炎の原因の一つ糞石(ふんせき)とは
急性虫垂炎の原因の一つとして糞石(ふんせき)が知られています。糞石は便が固まったものです。糞石は虫垂の中に留まることがあります。大腸に憩室(けいしつ)という飛び出た部分がある人では、憩室に糞石が入ることもあります。
虫垂は盲腸という大腸の一部から飛び出した細長い管状の臓器です。盲腸と虫垂のつなぎ目に糞石が詰まると虫垂の中の圧力が高まり虫垂炎の原因になります。
8. バリウム検査は急性虫垂炎の原因となるか
バリウム検査は学術用語としては上部消化管造影検査といいます。胃の壁などの形を観察する検査です。胃がんの発見などの目的で行われます。人間ドックや健康診断で経験したことがあるかもしれません。バリウムを飲んで放射線を使うことで胃の壁を観察できます。
バリウム検査が虫垂炎を増やすという報告がある
バリウム検査の後には急性虫垂炎が多くなるのではないかという意見があります。
台湾における全国調査の結果を紹介します。
調査ではバリウム検査を受けた人と受けなかった人を追跡調査し、その後急性虫垂炎が発生したかどうかを調べました。バリウム検査を受けた24,885人、受けなかった98,384人が対象になりました。バリウム検査を受けなかった人は比較のため、検査を受けた人と似た集団になるように、年齢・性別・持病などが近い人々を選び出しました。
1000人年(1000人の中で1年)あたりで虫垂炎を発症した人数を比較すると、バリウム検査を受けた人々では1.19人、バリウム検査を受けなかった人々で0.80人でした。バリウム検査を受けた人々で虫垂炎を発症する危険性が高くなり、その差は偶然では説明がつかないものでした。
またバリウム検査からの間隔に注目すると、特に目立ったのがバリウム検査を受けて2ヶ月以内の虫垂炎の発症でした。バリウム検査を受けた人が2ヵ月以内に虫垂炎を発症する割合は1000人中5.96人で、バリウム検査を受けなかった人と比べるとその危険性は9.72倍になるという結果でした。
バリウム検査の必要性
バリウム検査と虫垂炎の発症には強い関係がありそうです。では、バリウム検査は必要ないのでしょうか。
そうとは言いきれないと思います。バリウム検査では胃がんを早期に発見できることがあります。胃がんは早期に発見して治療すれば命に影響を及ぼす可能性を小さくできます。
また、バリウムで急性虫垂炎になる人が増えるといっても数だけをみると決して多くはありません。検査の中には身体の負担をともなう検査もあります。害の恐れがあるとはいっても利益を得られる人もいます。
もしバリウム検査後の虫垂炎が心配なら胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)で代用することもできます。検査の特徴を理解して検査を受けることが大事です。
9. 食べ物と急性虫垂炎に関係はあるか
スイカなどの果物の種が急性虫垂炎の原因になるという意見があるようです。にわかには信じがたい話です。本当に果物の種は急性虫垂炎の原因になるのでしょうか?
まず急性虫垂炎の原因を考えてみます。
急性虫垂炎は虫垂に炎症がおきる病気です。虫垂に炎症が起きる原因の一つとして虫垂の圧が上がることが考えられています。虫垂は盲腸から飛び出した尻尾のような形をしています。虫垂と盲腸のつなぎ目が塞がれたり狭くなったりすると虫垂の圧力が上昇します。糞石などが虫垂炎の原因になるのは虫垂と盲腸のつなぎ目を塞ぐからだと考えられています。スイカなどの果物の種が未消化で虫垂にたどり着いて糞石と同じような働きをする可能性はあるかもしれません。このような推測から果物の種が急性虫垂炎の原因になるのではないかと考えられていたようです。
果物の種と急性虫垂炎の関係について調べた数少ない研究結果のひとつでは、果物の種が虫垂に見つかったのは急性虫垂炎を発症した人のうち0.05-0.07%とされています。
かなりまれですが果物の種が急性虫垂炎の原因になることはあるかもしれません。
しかし、果物の種が急性虫垂炎の原因になるとしてもその確率はかなり低いので、果物の種を飲み込んでしまったからといって急性虫垂炎になってしまうのではと心配することはないと思います。
参考文献:Asian Pac J Trop Biomed.2011;1:99-1101
10. 急性虫垂炎は予防できるか
急性虫垂炎は腸の一部である虫垂に炎症が起きる病気です。腸に起きる炎症であることを考えると腸への負担は普段からできるだけ避けたほうがいいと思います。暴飲暴食を避けてできるだけバランスのとれた食事をすることが急性虫垂炎の予防になるかもしれません。
急性虫垂炎の原因の一つに糞石があります。糞石は便が固まったものです。糞石の形成には便秘が関係していると考えられているので便秘の予防や解消も大事です。便秘を解消するには生活リズムを整えることと適度な運動が効果的です。また食生活では食物繊維の多い食べ物(野菜やイモ、豆など)を積極的にとるなどの工夫が効果的と考えられます。
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